とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第102話 運河での襲撃

 食事を終えると、全員で引っ越しの手伝いをした。

 

 基本的には男性達で荷物を運び出し、女性達がその後に掃除をするという役割分担である。

 

 広い家なので荷物も多かったが、天草式の人達と協力し、辺りが暗くなってからではあったがその日のうちに終えることができた。

 

「では、よろしくお願いいたしますね」

 

 オルソラが頭を下げると、天草式の人達が荷物を積んだトラックを運転していった。

 

 俺たちはそれを見届けると、運河の側に残される。歴史有る街並みにふさわしく、街中の家につけられたランプが暖かな光を灯していた。

 

 これで、今日は荷物を持って宿に行って、夕食を食べて寝るだけ……なのは寂しいので、少し旅館の周辺でも散歩しようか、などと俺は考える。

 

「お2人とも、お疲れ様でございました。長い間引き留めてしまって、申し訳ありません」

 

 オルソラが言った。

 

「オルソラはこれからどうするんだ? 俺たちと一緒に、これからどこか見て回るか? な、駿斗もいいだろ?」

「ああ。せっかくなんだし、一緒にどうだ?」

 

 当麻の言葉に、俺も同意した。

 

「いえ、これからキオッジアにお別れを告げたいと思っていますし。長く住んでいた街ですから……」

 

 だが、オルソラはそう言って断った。その言葉には、少し寂しさが感じられるように見える。

 

「それはあんまり、あなた様たちにお見せしたくないのでございますよ。少々みっともないところをお見せすることになると思うので……」

 

 やはり長く住んでいた場所には愛着というものがあるだろう。俺も生まれ育った施設には1年に何回か訪ねているのだから。

 

 そう考えると、無理に連れて行きたくもなく、

 

「そうか……また、いつか会おうぜ」

「ロンドンでの生活に慣れたら、またお部屋に招待させていただくのでございますよ」

 

 オルソラはそう言って地面に下ろしていた荷物を取る。その時、俺は当麻に小声で自分が感じ取ったことを伝えた。

 

 去って行った天草式の人たち以外に魔力が感じられる、と。

 

狙いを右へ(AATR)

 

 インデックスの強制詠唱(スペルインターセプト)によって狙撃の軌道が曲げられ、オルソラのカバンが打ち落とされる。

 

 あら……? と呆けているオルソラに対し、俺は素早く防御術式を展開した。

 

「当麻、川の中だ!」

 

 次にはザブリ、と川から音を立てて男が数人上がってくるが、その前に俺が気づいたため、当麻の足首をつかもうとしていたその手は空を切る。

 

 他の男達は手にした武器を構え、何かの魔術を発動しようとするが、

 

刃の切れ味は己へ向かう(ISICBI)

 

 先頭にいた男の槍が、粉々に砕ける。他の人間がそれに驚いている間に、当麻の拳がその男をなぎ倒し、横方向に発生した重力によって次々と川の中に落ちていく。

 

「こっちはOKだ! インデックス、狙撃手は?」

「大丈夫、こっちも終わったよ」

 

 インデックスは対岸にある家の屋根を見る。そこには、うめき声を上げる黒服の人間がいた。

 

「遠くからこちらを狙っているって事は、こちらの様子は逐一敵に伝わっているって事。なら、相手がどこにいようが私が放つ強制詠唱(スペルインターセプト)を受け取る筈だよ」

 

 強制詠唱。

 

 禁書目録(インデックス)の十万三千冊の知識を駆使して、ノタリコンと言う特殊な発声により、敵の魔法詠唱に割り込みその発動を妨害し、乗っ取る。

 

 それによって狙撃手を自滅に追い込んだのだ。

 

 うめき声を上げていた狙撃手であろう男だったが、それが収まるとイタリア語で何かを後ろに向けて叫んでいた。

 

 奇襲が失敗したので撤退するのだろうか、と甘いことを俺は考えたが、すぐにそれが間違いであったことに気がつく。

 

「注意しろ! デカイ魔力がある……これは、霊装か!?」

 

 俺が叫ぶと同時、俺たちは地面ごと揺さぶられた。

 

 川の水が大きくうねる。

 

 そこから現れたのは……氷でできた巨大な帆船だった。

 

 インデックスだけが外に取り残され、俺と当麻、そしてオルソラの3人が浮かび上がってきた船の上にいる。

 

「こんなものがあの小さな運河から飛び出してくるなんて、ばかげてるだろ!」

 

 船の甲板の手すりにぶら下がったまま、当麻が叫ぶ。

 

 俺はすぐに甲板の上に上がると、オルソラの手を取って引き上げた。

 

「これ、ガラスじゃなくて氷だよな」

 

 足下の床を左手で触りながら、当麻が俺に聞く。

 

「ああ。氷で作られた一級品の霊装だ。つまり、今更言うことでもないが、魔術的な道具だな」

 

 この船は青い氷でできていた。そして、当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)を受けても破壊される様子がない。 

 

「霊装って……この間の使徒十字(クローチェディピエトロ)みたいな魔術で使う道具のことだろ。こんなばかでかいものまであるのかよ!?」

「インデックスの話だと、1つの建物が霊装として機能しているものもあるらしいからな……特に不自然なことではない。さて、この船だが、どうやら魔術で直接に氷を作って形を整えているのではなく、水の融点を一時的に変更させて氷をつくっているようだ」

 

 当麻の幻想殺しで破壊されないのは、恐らく魔術の効果は『水の融点の変更』のみであり、『氷の生成』ではないからだろう。

 

 その時、俺は強い揺れを感じた。氷の船が動き出したようだ。

 

「そうだ、インデックス!」

 

 まだインデックスが船の上に乗っていない。

 

「「インデックス!」」

 

 俺たちはインデックスに向かって叫ぶが、彼女ではこの船に乗り込む手段を持ち合わせていない。しかし、俺がインデックスの元に行ってしまうと、この船がどこに行ってしまい、何をするつもりなのか分からない。

 

 迷ったが、これだけ大きなことが起こればさっきの天草式の人達が動くはず。だから、心苦しいがインデックスが彼らと合流することを願おう、と思う俺たちだった。

 

 その時、俺は大量の魔力を感じる。

 

「まずい、隠れるぞ2人とも!」

 

 俺は小さな声で叫ぶと、2人を連れて安全な場所まで甲板の上を移動する。すると、俺たちが身を隠した直後に船内から黒服の男達が出てきた。

 

 男達は何かを叫んでいる。

 

「どうやら、私達を探しているようでございますわね」

 

 連中のイタリア語を理解したオルソラが報告してくれる。

 

「やっぱりそうか……海の上を移動するのはあいつらの格好の的になるだけだ。一度、船内に隠れよう」

「分かった」

 

 俺の提案に当麻が乗っかり、俺たち3人は移動する。

 

 

 

 

 

「オルソラ以外の魔力は感じられない……大丈夫だ。行くぞ」

 

 氷で作られた船内を、俺たちは移動していた。船内はまるで青い照明に照らされているかのように光っている。

 

 おそらく氷、つまり『水』でつくられていることから属性が対応している『神の力(ガブリエル)』、そしてその月を加護する者というつながりから、月光を取り込むことで力を増しているのだろう。そのために船全体が青白く光るのだ。

 

「とりあえず、ここに隠れようぜ」

 

 当麻が船内の扉の1つを開けると、そこには机からベッドまで氷で作られた部屋であった。

 

「本当に氷だけで作られた霊装なんだな……」

 

 ここまでくると、驚きを通り越して感心する。

 

「どうしてこんな大それた物を使ってまで、私たちを襲いに来たのでございましょう?」

「あいつらが着ていた服、オルソラが着ている奴に似ていたよな?」

 

 当麻の言う通り、彼らは十字の入った黒服を着ていた。それはつまり、

 

「ええ。ローマ正教の手の物ととらえるのが妥当でございましょう」

 

 以前オルソラが所属していたローマ正教の人達であるということだ。

 

「ってことはやっぱり、『法の書』がらみなのか? でも、それはもう理由としては通用しないはずだが」

 

 俺は呟く。

 

 オルソラは『法の書』の解読法を見つけたことで、ローマ正教から追われることになった。

 

「あの一件は、私がイギリス清教に移ったことで決着したはずですけれど……」

 

 結局オルソラの解読法は間違っており、オルソラはイギリス清教に保護に近い形で移籍、一件落着となったはずだ。

 

 だが状況は待ってはくれず、俺たちを再び震動が襲った。

 

「デカい魔力……これと同じ霊装だ! それも何十隻もあるぞ!」

 

 俺が言うと、2人は窓に突進した。

 

 夜の地中海。そこから、何十隻もの氷の船が飛び出していた。俺たちが住んでいる学生寮よりも大きな船が何十隻も並び、全体ではちょっとした都市といえる規模の物を持っている。

 

「この船は敵の本拠地ではなく、その一部に過ぎなかったということでございますか」

 

 オルソラの言う通りのようだ。

 

「とにかくインデックスに連絡してみるか……って、あいつ携帯の電源を切っちまっているみたいだ」

 

 携帯電話からは呼び出し音すら鳴らない。

 

 その時、魔力を感じるととともに足音がする。

 

「まずい、オルソラ。どこかに……」

「いや、その必要はない、当麻」

 

 俺は当麻を制し、ドアへと向かう。

 

 そしてドアが開くとともに、俺は彼女に声をかけた。

 

「やあ。半月ぶりだな、アニェーゼ」

 

 その言葉に彼女は一瞬虚を突かれたような表情をしたが、すぐに顔を硬くすると俺に向かって拳をつきだしてくる。

 

「ったく、危ねえっての」

 

 俺は彼女の左拳を避けると、一歩下がって間を取る。

 

 その時、オルソラが慌てたように前へ出た。

 

「ま、待ってほしいのでございますよ」

「……どうしてあなたたちが『アドリア海の女王』に?」

 

 オルソラを見た彼女は眉をひそめ、警戒をしながら質問する。

 

「『アドリア海の女王』とは、この氷の艦隊の名称でございましょうか」

「艦隊名は『女王艦隊』、この船は護衛艦の一隻。どうやら、本当に何も知らないようですね」

 

 質問を質問で返すオルソラに、アニェーゼは答えながらも情報を取っていく。

 

「やっぱりローマ正教が動かしている霊装ってことで正しそうだな。で、お前は侵入者である俺たちを捜索しに来たってところか? その割には、前みたいに武器である蓮の杖(ロータスワンド)も持っていないようだが」

 

 彼女は以前とは違い、蓮の杖を持っていないばかりか着ている服もただの修道服ではなく、霊装としての効果もある服を着ていた。

 

「だいたい合っていますよ。ですが、侵入者があなたたちだったとはね。……これは少し利用できそうです」

 

 彼女は俺たちを見るとそう言った。

 

「利用? 取引でも持ちかけるって言うのか」

「ええ。お察しの通りですよ」

 

 彼女は笑みを深めた。

 

「おい、どういうことなんだ!?」

「ぐだぐだ言っているならここで大声を出しちまいますよ。ここから逃げたいのなら大声を出さない方が良いと思いますけどね」

 

 当麻は叫ぶが、アニェーゼは余裕を見せながらそう言う。

 

「……私たちを逃がして、あなたたちに何のメリットがあるというのでございましょう?」

「報酬、と。そう捉えていただければ結構です」

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