とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第104話 海上での戦闘

「とうま、とうま!」

 

 女王艦隊の砲撃によって気を失っている当麻に、インデックスが心配そうに呼びかける。俺は親友の手を取ると、脈が正常であることを確かめた。

 

 すると、当麻が目を覚ます。

 

「起きたか。体の方はとりあえずは問題なさそうだ……ただ、肺に水がある程度入っちまっているかもしれないから、気をつけろよ」

 

 しかし当麻の様子を見る限り、その心配は必要なさそうなので、安心する。

 

「ああ。で、お前らの後ろにいるのは……」

 

 当麻の言葉を聞いた男が片手に大剣、フランベルジュを持ちながら俺の前に進み出る。

 

「おう、天草式十字凄教の教皇代理さんだ」

 

 建宮斉字だ。純粋な剣術と魔術を織り交ぜて使うという、天草式の特徴である『隠密』を生かした戦闘方法を用いるのが特徴である。

 

「今は“イギリス清教所属”ってのが付くけどよ」

「……あの。これ、どうぞ」

 

 その時、二重まぶたが特徴の、例の大人しい少女がおしぼりを渡して行った。俺たちはありがとう、と礼を言って受け取る。

 

「オルソラたちも含めて、天草式があの船にいた全員を拾ってくれたんだ。で、ここは天草式の……」

「潜伏機能の付いた木船。いわゆる上下艦ってやつなのよ」

 

 建宮の言葉に合わせて木でできた天井が2つに割れ、星空がそこから広がった。月光に照らされる。

 

 彼らが最も得意とするのは海戦であるらしい。

 

「紙は木で作られ、木は船をも作るってな」

 

 建宮はポケットから和紙の束を取り出して見せる。

 

 俺はそれに感心するが、当麻はそれよりも海上に目を走らせていた。正確には、そこに青白く輝いて浮かぶ『女王艦隊』を。

 

「アニェーゼ……」

 

 当麻がぽつり、と呟く。それ以外の言葉は口にしなかったが、こいつが何を心配しているのかは分かった。

 

 だが、その様子を見ていたインデックスは不機嫌なようだ。

 

「なんだよ?」

「別に。これから何をするにしても、とうまから(・・・・・)詳しい話を聞かないとね」

 

 とうまから、を強調して言うインデックス。

 

 しかしその当麻本人は鈍感ぶりを遺憾なく発揮する。

 

「だったら、駿斗もいるんだし。それにルチアやアンジェレネの方が」

 

 そこで当麻が言葉を止めたのは、インデックスの纏うオーラが一層黒くなっていくのを感じたからだ。

 

 はっきり言って起爆寸前の爆弾、みたいな。

 

 ここは一歩下がっておくべきか、などと俺が考えていると、ルチアとアンジェレネたちが歩み出た。だが、彼女たちの様子が少しおかしい。

 

「もう、そんなに恥ずかしがらなくてもよろしいのに」

 

 後ろにいるオルソラが声をかけるが、彼女たちは顔を赤く染めたままだ。

 

 俺は事情を知っているが、言うべきかどうか、と迷っていると、建宮が言った。

 

「この2人には拘束効果のある服を着ていたからな。お前さんが気を失っている間に右手を使わせてもらったって訳よ」

「ってことは」

 

 自身の右手を見つめる当麻に、建宮が苦笑いをした。

 

「そういうことなのよ」

 

 見ると、彼女たちは自分自身を抱きしめるようにして顔を赤くしている。

 

 その時、インデックスの爆弾が爆発した。

 

 俺は慌てて拘束に取り掛かる。

 

「あ、こんなことをしている場合では」

 

 突然アンジェレネが慌て始め、早口で説明を始める。だが、俺はそれよりも2人の争いの収拾をつけることに忙しい。

 

「あの、私たちにはまだ目的があって、まだシスターアニェーゼが……」

「いい加減にしろー!」

 

 俺はアンジェレネの言葉を遮って、水弾をつくると彼らに叩き付けた。

 

 

 

 

 

 岸辺に戻った俺たちは夕食をとることになった。

 

 ルチアはすぐにでもアニェーゼの所に行きたいようであったが、そんなに簡単に事が明日すむはずがない、と建宮が却下し、一度体制を整えることにしたのだ。

 

「私はコーヒーとか紅茶よりも、チョコラータ・コン・パンナがいいです」

「……何それ?」

 

 アンジェレネが言った言葉に、当麻が聞き返す。

 

 俺もそんな飲み物は初耳だ。

 

「チョコレートドリンクの上に、生クリームがたっぷ、わっ!?」

 

 説明を始めたアンジェレネの頭をルチアが叩く。

 

「十字教徒が食べ物に執着するんじゃありません!」

 

 彼女はかなり厳しいタイプのようだ。

 

「でも、シスターさんってそんな感じじゃねえの?」

「何を言っているのですか? 暴食は罪悪ですよ!」

 

 当麻の言葉にルチアは叫ぶ。

 

 その言葉を聞いた俺たちは、視線を一点に集めた。

 

 つまり、

 

「……とうまとはやとはどうしてわたしを見ているのかな?」

「暴食は罪悪だってよ、インデックス」

 

 俺の言葉にインデックスはギクリ、とした表情になった。

 

「わ、私はまだ修行中の身なんだよ」

「という訳で修行のために少しずつ食べる量を減らしてみようか」

「駿斗が今までになく厳しいかもー!」

 

 銀髪シスターの叫びが海辺に響き渡る。

 

 どうぞ、と例の少女が再びおしぼりを持ってきてくれたので、それで手をふくと食事を始めた。

 

「……またおしぼり作戦なのか、五和」

「ええい、まどろっこしい!」

「いや、こうなかなか進展しないのも五和の魅力なのでは?」

 

 また天草式の人たちが何か話し合っているが、もはやスルーで対処することに決めた。

 

「で、なんで『アドリア海の女王』が、術式の名前になっているんだ?」

 

 当麻が訊く。

 

「その昔、ヴェネツィアとローマ正教は、相当に仲が悪かったのでございますよ」

 

 オルソラの説明をインデックスが引き継ぐ。

 

「ローマ正教が一撃でヴェネツィアを葬れるように整えたのが、『アドリア海の女王』なんだよ」

 

 ヴェネツィア、及びそこより齎された文明を破壊する大規模な魔術。

 その発動は二段階。一段階目はソドムとゴモラを破壊したように炎の雨で都市を破壊、二段階目においては、どのような手段かは分からないが「対象となった場所によって齎された文明の全て」を破壊するという。

 

 だがそれは、反乱を恐れるためヴェネツィアにしか撃てないように作られた。

 

「シスターアニェーゼは、何も知らないと思います。知っていたら、何も黙っているはずがありません!」

 

 アニェーゼの言葉を聞いて、腕組みをしている建宮が言う。

 

「要はその魔術が発動するまでにアニェーゼ=サンクティスを連れもどせって言うんだろうけど。まあ、とんでもなく難問よな、それは」

「それでも行かなくてはならないのです」

 

 ルチアはいつもよりもいっそう真剣な目をして立ち上がった。

 

「このままではシスターアニェーゼは廃人になってしまいます。それを黙って見ているわけにはいかないのです!」

 

 アンジェレネも立ち上がった。

 

「私は! ……いつもシスターアニェーゼに助けてもらってばかりで、何も返せないままお別れなんて絶対に嫌なんです!」

「だが、敵は厄介だぜ」

 

 熱くなる彼らに対して建宮は逆に冷静だった。

 

「海底コースターを張り巡らせれば艦隊の動きを止められるかもしれません」

「動きを止めた程度で何とかなる相手とは思えんのよな!」

「それは……」

 

 反論しかけたアンジェレネだったが、建宮の言葉に俯いてしまう。

 

「なあ、建宮。もういいんじゃないのか」

 

 そんな中、当麻が静かに怒りに震えながら言う。

 

「俺たちにとって重要なのは、アニェーゼを助けたいのか助けたくないのかっていうことだけなんじゃねえのか!」

「自分自身のチャンスを棒に振ってまで仲間を助けようとしたあいつの思いを、利用されて破壊されるわけにはいかない。術式の核となるあいつを助ければすべてが覆る。だったら俺たちはやるぞ。例え2人だけになってもな」

 

 俺も続けて言った。

 

 するとその時、建宮が手にしていたフォークを力任せに木のテーブルに突き立てた。

 

「ったく、こっちとしてはそこは最初から用意してるんだ。策なんて最初からあるのよ。覚悟があるのかどうか、聞きたかっただけなんでな」

「建宮……」

 

 教皇代理の建宮はフランベルジュを取り出すと、他の天草式に呼びかける。

 

「いいか、我らが戦場に赴くからには、必ず全員で生きて帰る! 我らが女教皇(プリエステス)の教えは」

「「「救われぬものに救いの手を!」」」 

 

 

 

 

 

「ビショップビアージオ! 敵艦の尖鋭、30から40。本艦への接触まで、あと50秒弱!」

 

 女王艦隊の旗艦で舵を取っていたローマ正教のシスターは、魔術的なモニターを確認すると、通信術式で司教に連絡する。

 

『沈められるか?』

「了解!」

 

 女王艦隊に付けられている『(セント)バルバラの神砲』が発射される。だが、その様子を見たシスターは眉をひそめた後、焦って叫ぶ。

 

「一発も打ってこない……? まさか、総員防御姿勢!」

 

 自爆を前提とした無人艦隊だった。それらは女王艦隊に特攻すると、次々に爆発する。

 

 これが本命か、と思った時、モニターに新たなものを発見する。

 

「深度40メートルに巨大構造物有り! 上下艦です!」

 

 上下艦にむけて攻撃がされるが、その時別の部署から連絡が入った。

 

『第二十九番艦に敵勢力あり! 例の天草式です!』

 

 しまった、と彼女は思う。まさか、

 

「上下艦も囮!?」

 

 

 

 

 

 俺たちは女王艦隊の一隻に乗り込んだ。

 

「各艦の制圧は考えるな! 相手の戦力だけを考えればよいのよな! お前さんたちは『アドリア海の女王』へ」

「「おう!」」

 

 和紙が束となり橋がつくられ、船の帆が取り付けられている柱が割られて、それも足場となる。

 

 俺たちはその上を通って旗艦へと移動する。だが、着いたところでローマ正教の人間に囲まれた。俺は魔術の発動に取り掛かる。

 

 だがその時、1つの車輪が俺の頭上を通過すると、ローマ正教の軍勢の上で爆発した。ルチアの魔術だ。

 

 彼女の扱う術式は聖カテリナの『車輪伝説』をモチーフにしたもの。木製の車輪を爆発させ、数百の破片を散弾銃のように飛ばすことができる。爆発させた車輪の再生も、彼女の号令1つで可能だ。

 

「こちらへ!」

「分かった!」

 

 ルチアの声を聞いて俺たちは向きを変えるが、それを阻むようにローマ正教の人間が立ちふさがる。彼女はそれを見て、信じられないものを見たような表情をした。

 

「この、バカどもが……なぜシスターアニェーゼを助けるために動けないのです!」

 

 彼女は手を掲げると、車輪を再生する。

 

 その時、船全体に衝撃が走る。『聖バルバラの神砲』だ。

 

「撃ってきた!」

「まさか、我々ごと沈める気では!?」

 

 その時、大砲が向きを変える。

 

「こっちを狙っている……」

「そんな……」

 

 ローマ正教のシスター達にも動揺が走った。だが、1人の少女だけが動く。

 

 手に握られた4つの硬貨袋の口からそれぞれ鋭い翼が6枚ずつ飛び出した。同時に翼が袋ごとに赤、青、黄、緑に光り輝く。

 

きたれ(Viene)十二使徒の(Una persona)一つ(dodici)徴税吏にして魔術師を打ち滅(apostli Lo schiavo )ぼす卑賤なるしもべよ(bassocherovina un)。」

 

 悪竜を祈りと十字のみで倒した使徒マタイ。徴税吏(収税人)であった彼の十二使徒としての象徴である硬貨袋に天使の力(テレズマ)を通すことによって飛び道具型の武器とするのがアンジェレネの魔術である。

 

 彼女が狙ったのは砲弾ではない。彼女自身が今乗っている船の帆を支える柱を破壊し、それを盾とした。

 

 砲弾のいくつかが俺の防御術式で破壊され、そしていくつかが倒壊した柱に当たる。

 

 だが、破壊された柱の破片の1つがローマ正教のシスターの1人に降りかかろうとしていた。

 

「くそ!」

 

 俺は重力でそれをつかみ取ろうとし、アンジェレネは再び魔術を発動しようとする。

 

 だが、再び複数の砲弾が迫り、俺は防御術式を展開、当麻もそのうち1つを迎え撃つ。

 

「危ない!」

 

 焦って魔術に失敗したアンジェレネがシスターを押し飛ばす。

 

 そして彼女に氷の破片が降り落ちて、彼女は倒れた。

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