とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第105話 十二使徒

 アンジェレネが倒れた。

 

「ったく、心の底からつまんねえもんを見せつけんじゃねえのよ!」

 

 建宮がフランベルジュを振るい、衝撃波を生み出してローマ正教のシスターを吹き飛ばす。それを確認した彼は、ルチアに紙束を投げ渡した。

 

「……これは?」

「脱出用の上下艦ってやつよ。ま、敵地の真ん中寄りはマシだろう」

 

 それを握りしめたルチアはアンジェレネの下に駆けつけ、彼女の手を取る。

 

「シスタールチア、手が震えてますよ……?」

「当り前でしょう……!」

 

 アンジェレネの声が聞こえ、彼女に意識があることを知った俺はルチアにアンジェレネを任せることにした。

 

「皆で帰るんですよね。シスターアニェーゼも、あそこで戦っている人たちも、本当の意味でみんな一緒に……。だったら、私は死にません。だから、シスタールチアもみんなを守るために一緒に戦ってくれませんか?」

 

 その時、『聖バルバラの神砲』がルチアたちに迫る。だが、当麻がそれを右手でつかんだ。

 

「断言しろよ、ルチア。その手伝いができるなら、俺はこんなクソつまらない幻想なんていくらでもぶち壊してやる。だから断言しろよ! こいつが今ここにいて良かったと思えるような一言を。体を張ったことを誇りに思えるような一言を!」

 

 当麻の言葉を聞いたルチアはその手を強く握りしめた。

 

「……はい」

 

 ルチアは短く返事をすると、アンジェレネの顔を見つめた。

 

「私は必ず皆を守って見せます。だから、今はあなた自身と戦ってください!」

 

 その言葉を聞いたアンジェレネは、安心したように目を閉じた。

 

 天草式の魔術によって、和紙の束が旗艦へとつながる橋となる。

 

「行け! 何が何でもあの子を連れもどしてこい!」

「ああ。行くぞ、オルソラ!」

 

 俺と当麻、そしてインデックスとアニェーゼの蓮の杖(ロータスワンド)を抱えたオルソラがその橋の上を渡る。

 

「当麻、面倒だから扉をぶち壊せ。この船は全体に魔術的な意味がこめられているから、お前の右手でぶち壊せるはずだ!」

「いいな。俺もそろそろ、色々と考えるのが面倒になってきたところだ!」

 

 当麻が右拳を氷の扉に叩き付ける。すると、船全体ではなくその扉だけが消え失せた。

 

「……何だこりゃ?」

「ブロック構造だね。魔術的な機構を分割しているからとうまの右手でも一撃で沈まなかったのかも」

「そりゃあ良い。むしろ、この船を沈める心配なく思う存分にぶち壊せそうだな」

 

 インデックスの解説を聞いて、俺は笑みを浮かべる。

 

 その時、俺たちの後ろに氷の傭兵が大量に発生した。

 

「くそ!」

 

 俺は火、風、土の元素を組み合わせた魔術で爆発を起こそうとしたが、その手をインデックスに握られた。

 

「こっち!」

「あ、おい!」

 

 俺はインデックスに手を引かれるままオルソラ、当麻とともに船の中を走る。

 

 だが、次第に追いつかれる。

 

「「チッ! お前らは先に行け!」」

「とうま、はやと!」

 

 インデックスに止められるが、俺たちは彼女らを置き去りにして前に飛び出した。

 

 当麻が壁を右手で破壊し、俺たちはそこに飛び込む。

 

 俺の魔力感知を頼りにそうやって何回か曲がりながら逃げると、ようやく氷の傭兵の追跡が収まった。

 

「ここは……?」

 

 広い部屋で、氷の椅子が1か所を向くように並べられている。公演用のホール、といったところだろうか。それとも、ここに労働者を集めて指示を下す場なのかもしれない。

 

 その時、再び氷の傭兵が現れた。

 

「当麻、頼む!」

 

 俺はそいつを重力で強引に引き寄せる。

 

「おう!」

 

 当麻が右手をそれに叩き付けると、傭兵は砕け散った。

 

 その時、当麻の携帯電話が軽快な音を立てる。

 

『つながったのでございますよ』

「オルソラか?」

 

 俺は当麻に、俺にも音が聞こえるように携帯電話を操作させた。

 

『とうま、「アドリア海の女王」の発動条件に「刻限のロザリオ」っていう別の術式が必要ってのは本当?』

「そうらしいけど……」

 

 電話の声がインデックスの物に変わり、俺たちはその部屋から出ながら話す。

 

『でも、私の10万3000冊にそんな記述はないんだよ! 「刻限のロザリオ」っていうのは、多分ローマ正教内部に伝わる計画名かなんかだと思う!』

 

 そこまで聞いた時、俺たちの歩いている場所の真上の天井が音を立てて崩れてきた。俺は念動鎧(フォースアーマー)を展開し、当麻は右手で迎え撃つ。

 

「その右手……」

 

 氷が煙のようになって立ち込める中、その向こう側から話しかけてきたやつがいた。

 

「羨ましいか?」

 

 当麻は挑発するように笑って言う。

 

「承服できないね。主の恵みを拒絶する、その性質もさることながら、それを武器として振り回すのは何よりも。一度でも御言葉を耳にしたのならば、即座に右腕を引きちぎってでも、恵みを得ようと努力するのが筋だというのに。所詮は異教の猿に、人の言葉など通じはしないか。ならばこのビアージオ=ブゾーニが、主の敵に引導を渡す」

 

 長身で白髪の男、ビアージオはそう言った。その男の言った内容のおぞましさに、俺たちは何かぞっとするものを感じる。

 

 この男は十字教を崇拝するあまり、その行動が何を意味するのかを理解できなくなってしまっている。インデックスやルチアたちが信じているその教えの本質を見失ってしまっている。

 

 それは、ある種の精神汚染にも感じた。

 

「テメエがビアージオか。ならアニェーゼの居場所も知っているんだな?」

 

 当麻も一瞬気持ち悪いものを感じたような顔をしたがすぐにそれを直し、厳しい表情でビアージオに尋ねる。

 

「知っているのと教えるのとは、全く別物だがね」

 

 ビアージオはそう言って、メノラーから十字架を左右の右手に1つずつ取り出した。

 

「十字架は悪性の拒絶を示す」

 

 彼が投げた十字架が2メートルほどの大きさにまで巨大化する。当麻はその片方を右手で迎え撃つが、もう片方には対処できない。俺は防御術式でそれを弾く。

 

 だが、回避のために思わず床に手をついた当麻は、消えた床の下に落ちた。

 

「当麻!」

「外敵を排し、内部に安全地帯を作るための役割を十字架は持つ。このようにな」

 

 ビアージオが再び十字架を放ると、それは再び大きくなった。下の階にいる当麻はそれを避ける。

 

 そして、俺はビアージオを重力操作(グラビティ)で天井に叩き付けると、

 

「俺を忘れてんじゃねえぞ、この野郎!」

 

 当麻が開けた床の穴から、ビアージオを地に叩き付けた。さらに俺はそこに飛び降り、ドロップキックを喰らわせる。

 

「くっ……十字架はその重きをもって驕りを正す!」

 

 複数の十字架が矢のように俺に向かって降りかかる。だが、俺はそれを風のブースターによって回避し、距離を取った。

 

 さらに、そこに当麻が迫る。

 

「おおおっ!」

 

 だが、その攻撃は第三者の手によって妨げられた。

 

 当麻はとっさに体をひねり、俺は防御術式を発動し、それぞれ後ろから来た攻撃を防ぐ。

 

「誰だ。見たところ、ローマ正教の人間で間違いなさそうだな」

 

 俺の言葉に、その2人のうち前方にいる男は言った。

 

「はい。私は『十二使徒』の1人。レビ、と名乗っておきましょう。後ろにいるのはシメオンです」

 

 

 

 

 

 『十二使徒』。彼らは確かにそう名乗った。

 

「何の用だ。私はそんなものを聞いた覚えはないぞ」

 

 『神の子』にかつて弟子入りしていた者たちの通称を冠する彼らに、ビアージオは眉を顰めながら言う。

 

「ええ、もちろんそうでしょうとも。たかが司教程度(・・・・・・・)の人間が知ることのできる情報ではありませんからね。ですが、我々はローマ正教においては高い権力を持っています。それこそ、ローマ教皇、そして『神の右席』の方々に次ぐ権力なのですから」

 

 『神の右席』? と、警戒しながらも頭に疑問符を浮かべる俺たちであったが、レビの言葉を聞いたビアージオの表情が変わる。

 

「『神の右席』に次ぐ権力だと……」

「お分かりいただけましたでしょうか」

「な、何の目的で現れた!」

 

 ビアージオは明らかに焦っている。

 

「いえ、この『アドリア海の女王』に幻想殺し(イマジンブレイカー)幻想創造(イマジンクリエイト)と呼ばれる学園都市の人間が侵入してきている、との情報を得ましてので。この『アドリア海の女王』において保管していました別の『聖霊十式』を回収するのが主な目的です」

「既に回収は完了しましたが、このままでは彼が何もできずにイギリス清教に拘束されてしまいそうなので。こちらとしても、簡単にあなたが倒されてしまっては困るのですよ。せめて、時間稼ぎくらいにはなっていただかなければ」

 

 レビの後に続いて、シメオンが話す。

 

 要するに彼らはこう言っているのだ。

 

 ビアージオ=ブゾーニとその部下たちは、ローマ正教が何かしらの準備を整えるための捨て駒に過ぎない、と。

 

「まさか、司教である私を裁判にでもかけるとでも?」

「いえ。単に、この先イギリス清教に拘束されるであろうあなたを助けるようなまねはしない、ということ。それだけです」

 

 そう言ったシメオンは、鋸を取り出した。同じように、レビが硬貨袋を取り出す。

 

「そんな訳で、時間稼ぎに移りましょうか。あの『聖霊十式』がバチカンまで転送されるまで引き延ばせば良いだけですからね。お手並み拝見と行きましょう、幻想創造」

 

 彼らの交戦の意志を確認した俺は、当麻に言う。

 

「当麻、ビアージオの方を任せられるか。あいつの持っている十字架を破壊すれば、『刻限のロザリオ』も止まるみたいだ。そうすれば、アニェーゼを助けることができる」

 

 俺の言葉を聞いた当麻は、頷いた。

 

「おう。あいつらの相手を任せていいか? 駿斗」

「当然だ」

 

 俺たちは互いに背中を向けると、前に飛び出した。

 

 先に攻撃を仕掛けたのはシメオンであった。彼は何かの術式を使用したままの状態で、俺に向かったまっすぐに鋸を振るう。

 

 それに対し、俺は上半身を振ってそれを避けると、その脇腹に拳を突き出した。

 

 だが、

 

「があっ!?」

 

 逆に俺が放った拳に衝撃がかかる。

 

「甘いですよ」

 

 さらに後ろから硬貨袋が飛んでくるのを感じた俺は、防御術式を複数展開して守りに徹する。

 

 通常の倍近い量の魔力を込めた防御術式と、天使の力(テレズマ)が込められた硬貨袋が衝突する。どうやら、アンジェレネと似たような術式を構築しているらしい。だが、彼女の物よりもスピード、威力などがはるかに上回っている。

 

 さらにシメオンが鋸を振るい、俺はそれを避けるがその刃が氷の壁に当たった瞬間、そこを中心に衝撃波がまき散らされた。俺は腕を交差して自分をかばうが、そのまま吹き飛ばされる。

 

「なめ……るなっ!」

 

 俺はさらに水弾を生み出して放つと、レビの硬貨袋が光を放ち空中に魔方陣を展開する。そして、その水弾が簡単に相殺された。

 

 俺は一度爆発を起こすと、風のブースターで再び距離を取る。

 

 強い。今までの魔術師とは比べ物にならない。

 

 だが、

 

「親友が歯を食いしばって、アニェーゼたちを助けようとしてんだ! 俺だって負けていられねえ!」

 

 俺が負けたら親友が1人で3人を相手にしなければならなくなる。そんなことはさせない。俺は、あいつと肩を並べて共に戦う……『親友』なのだから。

 

 俺は結晶のトンファーを創り出すと、周囲に魔方陣が描かれた結晶を展開しつつ相手に飛び込んでいった。

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