とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
俺とレビ、シメオンは拮抗した戦いを繰り広げていた。
俺がレビへの対策として、科学と魔術を複雑に混ぜた戦いへと変更することにした。これは、以前戦った天草式の人たちの、『偽装』に特化した戦い方が参考になった。
結晶のトンファーから魔術の炎が発生し、魔術の風に混ぜられた塵が、水の中に人工ダイヤの粉末を混ぜて超高圧で射出し鋼板を切断する工作機械のように、周囲を切り裂く。
シメオンはその術式の特性上、遠距離からの攻撃には大した意味が生まれない。だから、常に距離を保ったままで戦闘を行えば良い。
レビが威力の調整ができるのは魔術のみ。だから、科学的な方法で攻撃を加えれば良い。
科学と魔術。
現実とオカルト。
俺の攻撃はその両者を行き来する。
その攻撃に対し、レビは科学と魔術の攻撃を素早く判断し『同等の立場』の術式を使用して俺の魔術攻撃を相殺、そして隙あらば硬貨袋を中心とした魔術で攻撃を加えようと迫る。
シメオンは俺との間合いを詰めるために素早く移動して近接戦を迫り、また俺との間合いを少しでも詰めて展開を有利にすべく、武器による戦闘と並行して風や水を繰り出す。
両者の戦いは次第に激しさを増していく。
その戦いに割り込む者はいない。
天草式や他のローマ正教の人々は、この旗艦ではなく他の護衛船で戦っている。
この船の防御機構である氷の傭兵たちは、割り込もうにも戦闘の流れ弾や余波だけで破壊される。
「はっ!」
俺が両手から1つずつ投げつけた四角錐の結晶。四面にそれぞれ火、水、風、土を表す記号や文字で描かれた魔方陣が記入され、
再び俺とレビ、シメオンの3人は膠着状態に入った。
互いに警戒しあいながらそれぞれが相手の情報を整理し、自分の戦い方を見つめ直す。
俺はさらに身体強化術式と身体制御術式を重ね、トンファーの形状を変化させる。
いや、厳密にはそれはもはやトンファーなどとは呼べない武器になっていた。それはむしろ、両腕の外側に沿うように取り付けられた大鎌だ。
その大鎌の先端が氷の船の床に突き立てられると、そこを中心にゴバッ! と不自然すぎるほど大きな裂け目ができる。
フランスの聖剣デュランダルなどの伝説を参考にして生み出された、『切断威力』だけを徹底的に強化した一撃。予想外の威力で放たれたその衝撃を受け、レビとシメオンが一瞬硬直する。
俺はその隙を見逃さない。大鎌の横に魔方陣が生み出され、そこから水が発生する。それに対し、彼らは慌てることなく防御の姿勢に入った。
しかし、その水は2人を襲うことはなく彼らを取り囲むように動く。
そう。これは攻撃ではなく拘束用の術式だ。
「一瞬隙ができれば、一気に決めさせてもらう!」
そして、新たな魔法陣によって弱い防御術式が彼らの前に出現する。これからの攻撃は、彼らの命を奪いかねないからだ。
俺は先ほどの切断によって生み出された氷のかけらを投げつけ、そして防御術式を詠唱する。
使った能力は、
シメオンの魔術があっても、彼の意識さえ奪ってしまえばその術式は効果を発揮しない。
俺たち3人とともに、周囲が強烈な光と熱に包まれる。
「……何の真似だ?」
オルソラめがけて投げつけられた十字架がアニェーゼが手にした
しかし、アニェーゼはその言葉を無視して蓮の杖を構える。
「
彼女の詠唱が終わると、蓮の杖の先に取り付けられている天使像の翼が大きく開かれる。
「シスターアニェーゼ、何の真似だと訊いているのだ!」
ビアージオが声を荒げて言う。その様子を見たアニェーゼはハッ、と笑うと言った。
「あなたの疑問通りですよ。間違っているでしょうね。こんな私が、まだシスタールチアやシスターアンジェレネの面倒を見たいなどと思っちまうのは。あなたのクソみたいな命令で戦わされているシスターたちを思って、憤ったりするのも!」
彼女は幼い頃に、親に捨てられた。そのころからずっと一緒にいたのがルチアとアンジェレネだった。アニェーゼは3人のリーダー格として、彼女たちの面倒をずっと見てきたのだ。
だから、こんな人間に、3人を引き裂くような真似はさせない。まだ3人一緒にいたい。
その思いが、アニェーゼを動かした。
「なめた口をきいてるんじゃねえぞ、罪人が! シモンは神の子の十字架を背負う!」
だが、その言葉に、ビアージオは憤った。
その直後、アニェーゼに不可視の重圧が圧し掛かり、彼女は蓮の杖を手放して床に倒れてしまう。
後ろを見ると、オルソラも同じように床に伏せている。それを見たアニェーゼは、彼の魔術を理解した。
そのアニェーゼを、ビアージオが蹴り飛ばす。
「確か、神の子は……処刑場の丘まで十字架を背負って歩く体力は残されていなかった。彼の代わりに、十二使徒の一人であるシモンが、十字架を処刑場の丘まで運んだ」
つまり、これは荷物の重さを肩代わりさせる術式。
この船で働いている人々の装備品の重量を集めて、それを彼女たちに乗せている。
アニェーゼは蓮の杖を構えようとするが、重圧に耐えきれず再び杖が彼女の手から零れ落ちた。
「そんな軟弱な手ではダメだな。私に刃向おうとするなら、もっと頑丈な腕を用意しろ」
その時、その言葉に答える者がいた。
だがそれは、アニェーゼでもオルソラでもない。
「そうかよ。じゃあ、
突如としてこの場に現れた少年は、右手を高く掲げる。乾いた音が響き、彼女たちに圧し掛かっていた重圧が消え失せた。
アニェーゼも、オルソラも、ビアージオも、その声の主を見る。2人は驚きの表情で。1人は忌々しそうな表情で。
「貴様、異教の猿が!」
「死体くらいは確認しとけよ間抜け。お前が思っているよりも俺の右手は、甘くなんかねえんだよ!」
当麻はその言葉と共に、ビアージオへ向かって一直線に駆け出す。ビアージオは慌てて十字架を掲げるが、
「同じ手を食うか!」
当麻は真っ先に右手を伸ばしてそれを打ち消すと、一度その手を引いて拳を握る。
その拳はビアージオの頬に叩き付けられ、彼を床へ叩き付けた。
「アニェーゼ」
「は、はいっ」
突如として現れた少年の行動に呆けていたアニェーゼだったが、声をかけられ慌てて返事をする。
「ありがとな。お前がオルソラを守ってくれなかったら、きっと大変なことになっていた」
その言葉にアニェーゼは戸惑い、顔を赤くしたまま横を向いて黙り込んでしまう。その様子を見た当麻とオルソラは、微笑んだ。
「で、『アドリア海の女王』を破壊するにはどうしたらいいんだ?」
当麻の質問に、アニェーゼが答えた。
「この部屋だけは替えがきかねえそうで、ここの機能を完璧に破壊できれば、もう二度と……あっ!」
アニェーゼが言っている途中に、突然彼女が床に倒れた。
単に倒れただけではない。うめき声を漏らし、何か体に強力な負担がかかっているようである。
「アニェーゼ、どうした!?」
当麻は叫ぶが、その時気が付いた。
床に倒れていたビアージオが起き上がり、怪しく光る十字架を手に持っていることを。
「『刻限のロザリオ』……霊装を介して、アニェーゼさんに何かしたのでございますか!」
アニェーゼを抱き起したオリアナが叫ぶ。
「使えんよ、未調整のままではな。だが、エネルギーだけならここにある。ローマ正教はこの霊装を奪われた時のことを恐れたがゆえに、様々な手を加えてあるのだ」
敵にこの霊装が奪われるような事態に陥ったとき、ローマ正教はどうするか。
つまり、
「自爆するつもりなのか……!」
当麻がそこに気がついた時、部屋の様子が変貌した。
部屋が暗くなると部屋の壁から柱が伸び、そして天井が光ると周囲が青白く光る。
「こいつはこの艦隊の罪人どもが、錬金的な方法で補給した大規模魔術装置だ。壁や床を砕いた程度で、留まるなどとは思うなよ」
ビアージオは告げる。当麻の幻想殺しでは自爆を防ぐことはできない、と。
「術式が暴発すれば、爆発だけでも半径10キロは下らないはずです。そうすれば、湾岸にも被害が!」
オルソラが厳しい表情で告げた。その時、アニェーゼがさらに苦しげにうめき声を上げる。
「オルソラ、アニェーゼを連れて先に行け。天草式の連中も引き揚げさせるんだ!」
「でも、それではあなた様は!」
オルソラが心配するが、当麻はビアージオの方へ向き直る。
「あいつを止めるしかねえ。後で必ず合流するから、今は行け、オルソラ!」
彼女は自分が腕に抱えている少女の顔と、当麻の顔を1回ずつ見ると、彼女を抱えて立ち上がった。
「絶対、でございますよ」
彼女は部屋から出て行った。そこに残されたのは当麻とビアージオの2人。
「あの野郎……何が歴史に残る大義だ。だから私は早すぎると言っていたのに。……私はもうおしまいだ」
ビアージオは何かを諦めたような表情で呟く。
「だから全てを巻き込むのか。結局、お前がやっていることはただの慰めじゃねえか!」
「これだけの状況に危機感を覚えぬ者などいない。もはや今日の世界の状況そのものが、ローマ正教の脅威と化している。貴様らもそうだ。貴様らは個人だけでも十分な脅威であるのに、その人脈はもはや1つの巨大な勢力と化している」
当麻は険しい顔でビアージオを睨みつける。
「その顔だ。その不屈こそが我々の脅威なのだよ。だからこそ、どんな犠牲を払ってでもここで貴様らを終わらせる。それこそが、私がローマ正教に捧げる最後の一撃だ!」
「ビアージオォォォ!」
当麻は叫んで駆け出す。
「十字架は悪性の拒絶を示す」
巨大化した十字架が次々と当麻へ襲い掛かる。
だが、当麻は右手でそれを弾きながら、止まることなく走り続ける。
「十字架はその重きをもって驕りを正す」
光る十字架が矢のように当麻に降りかかる。
だが、当麻はそれを右手で払い、あるいはよけながら駆ける。
上条当麻の進撃は止まらない。
「十字架は悪性の拒絶を示す」
ビアージオが両手に持った十字架が膨張する。
だがその時、船に衝撃が走りビアージオはバランスを崩した。当麻へと向けられていた十字架の先が天上へと向かう。
それを見た当麻は左拳を伸ばした。
「左手、だとっ!」
そう。幻想殺しの宿っていない左手。その拳が十字架を握っていたビアージオの右手に当たる。
そして膨張した十字架がビアージオの視界を遮った。
(こいつ、私の攻撃を利用して……っ!)
当麻の右拳がメノラーに叩き付けられ、はじけ飛ぶ十字架と共にビアージオが床に倒れた。
「……戦ってやるよ。テメエらがまたアニェーゼたちに何かするって言うのだったら、俺はいくらでも戦ってやる」
『アドリア海の女王』に亀裂が走り、船が崩壊していく。
決着がついた。