美しいものを見た。
『お前を殺すくらいなら、世界を殺したほうがいい』
『だったら世界こそが僕の敵だ』
『レスト・イン・ピース!』
『敗者の悪足掻きは、潔くあるまいよ』
王冠へと至る救済の祈りが紡いだ
『時よ止まれ、君は誰よりも美しいから』
『私は総てを愛している』
『では、今宵の
『すべての想いに巡り来る祝福を』
歌劇が魅せる最高の
『俺の女神に捧ぐ愛だ』
『おれは誓おう、もう逃げない』
『私たちみんなで、■■を斃そう!』
『『勝負しようかァッ!』』
黄昏を下した木乃伊を引き裂く曙光の
『世の行く末を憂うなら、自分の力でどうにかしてみろォォッ!』
『人類賛歌を謳わせてくれ、喉が枯れ果てるほどにッ!』
戦の真と千の信、試練の魔王が目指した
『頼む、力を貸して私の英雄ーー!』
『僕の真は、彼女を守りたいというただそれだけだ』
『これからも、私のために生きなさいよ。ずっと、ずっと一番に利用してあげるから……ねえッ』
『おまえの世界はおまえの形に閉じている。ならば己が真のみを求めて痴れろよ、悦楽の詩を紡いでくれ』
夢の悦楽の中で、愛しい
『私は──その運命を受託する!』
『この身には成したい夢と理想があるから!!』
『『我らの紡ぐ英雄譚は、あくまで我らのものなのだから』』
『『ゆえに邪悪なるもの、一切よ。ただ安らかに息絶えろ』』
その中で、愛さえ轢殺する光を見たけれど、
『全てに、意味があったのだ……!』
『俺はやっと、人間の弱さを愛することができたぞッ!』
『俺たちの
『是非も無し──共に生きよう、優しい渚。おまえの
それさえ越えた
他にも、他にも──数多の光と
ああ、素晴らしきかな。喉が枯れ果てる程、いや、魂が擦り切れるまで讃えさせてくれ。
彼らは常に本気だった。
あれこそ道標。目指すべき基本にして到達点。
遥か彼方に燦然と輝く光輝を目指して全人類が飛翔した時、今の世は必ず変わる。
人々の幼年期は終わりを告げ、黄金期とも言える時代はやってくる。
何故言い切れるか?
決まっている。現実にそれを果たしたそういう実例があるのだ。
悪辣な蛇の呪いを脱却した者がいた。
自己愛の宇宙に亀裂を刻み込んだ者がいた。
彼らは諦めなかった筈だ。求め続けた筈だ。
魂の底から、無い物を渇く程に願った筈だ。
ならば、此方もそうすべきだ。見習わねばなるまい。あの姿勢こそ、基準とせねば幼年期の終わりはあり得ない。
だが────
曰く、楽をしたい。
曰く、自分より下の者を眺めていたい。
曰く、曰く曰く……そんな願いばかり。
人類の黄金期は遥か彼方、其処に一欠片程の光輝はない。あるのは膨れ上がり、積もり積もった塵芥。
巫山戯るな、巫山戯るなよ。貴様ら、それで生きているつもりか?
それで真の意味で人だと胸を張って言えるのか?
本音を殺して、不本意を甘受して、求めた未来へ必死にならずわざわざ我慢し続けるのが利口だと貴様らは言うのか。
世界征服、人類滅亡、理想郷、英雄志願etc……
楽な方、楽な方、見下して、見下して、見くだし抜いて……そうして自分の醜悪さを認め、思い描いた未来を求めず邁進しないからこそ貴様らは人擬き。
もしも、これが何の異能もない一般人ならば、認めたくもないがそういうものだと理解はしたかもしれない。
だが、そうではなかった。
軟弱者達は《伐刀者》にも存在していた。
一般人には無い、超常の力を持っているというのに、それに伴うべき欲を持たぬ人擬きが多過ぎる。
そも、《伐刀者》とは己が魔力でその存在を運命に刻み込み、切り裂く者。
そしてその魔力の総量は運命の重さに比例するのだろう?
ならば何故、困難を前に切り開かないのだ?
より魔力の多い者はそれに比して困難が訪れる。
例えば、国家の転覆なのが良い例では無いだろうか。
そして、その運命とやらについて二極化するのが、困難を打ち破った者と負けた者。歴史で例えるなら織田信長や豊臣秀吉などといった著名な偉人達や神話の中の住人達が特に顕著だろう。
織田信長は本能寺で没し、豊臣秀吉はそれを切っ掛けに栄光への道を手にした。
油断、慢心からの裏切りは天下を前にした男にとって、最大の困難だった筈。その運命を前に彼は死んだ。
更に、忠臣であった男には精神面での困難が待ち受けていた。
期待していた、夢だった──この男こそ天下を統べる器であると信じていた。
そんな敬愛していた王を失った喪失感は計り知れない。
しかし、彼は乗り越えた。喪失感を振り切り、王の野望を引き継ぎ、男は天下を取った。
さて……此処で問題だ。何故、男は運命に負けたのか。
個人的には渇望の深度だと言いたいが、この世の常識では、これこそ魔力と運命の比例らしい。
歴史に名を残した者は、高確率で高位の《伐刀者》であり英雄だった。
故に、織田信長も高位の実力者であった可能性が伺えるが、彼は負けた。
星を廻る運命に己を刻み込む事が出来ずに無残に負けた。
だが、前例として同じ様な困難を超えた者とて史実や神話では存在している筈なのに。
此処で、一つ仮説を立ててみよう。曰く、神とやらは超えられぬ試練を与えないらしい。
この言葉に従うならば、彼は己の運命に負けた敗残者。
己と己の運命に諦めてしまったのだが──理解できない。
いや、真に超えられる試練ならば本気でやればやれるだろ常識的に考えて。
本気でやっていた?
普通は無理?
そうやってすぐ諦めるのが人擬きの証拠だ。
故、進む意思がないのなら、疾く光で浄滅するが良い。
これこそ、人類の、星に■■者の……畜■■■■■天の理にして願いである。
されど未だ、■■の■は開かれない。
王は微睡みの中、来る日まで──
さあ、夢から醒めてくれ我らが王。否、愚かしく、醜く、美しい、■よ。
疾く、俺達の縛鎖を解き放て。
☆★☆★☆
私には好きな人が二人います。
一人は、とても逞しい益荒男、私の実兄。
一人は、とても美しい紅蓮の女、兄の恋人。
兄はとても強い人でした。父から、母から、親戚から、世界から、運命から嫌われていると言っても過言ではない程……彼は迫害されている。
名家に生まれ、才能を持たぬ落ちこぼれという烙印。それを口実に彼らは兄を傷つける。
幼い私は──そんな事に気付かずに、ただ憧れを抱くだけだった。
──珠雫は、間違っているよ。
一言、その一言で自分の世界はガラリと一変したのだ。
力を前に正しさを曲げる子供。
間違いを正さぬ大人。
今まで見てきたどの人間とも違った、雄々しくも優しい光。
そんな光が置かれた苛烈な現状を知った時、私は私を恨んだ、蔑んだ。
愛しいの男が苦しんでいる間、自分は一体何をしていた!
愛しい、愛しいと何もせず、あの表情の裏にある心の闇を理解する事もなく、ただ甘えていただけ。
誰も彼もが兄を助けない。
故に私は決意した。
私が母になろう、姉になろう、妹であろう、友であろう──恋人になろう。
愛されぬ彼に、私の最高の愛を、与えられなかった全ての愛を注ごう。
彼の味方がいないのなら、私がなれば良い。運命の荒波、なんのその。恋する乙女は逆境なんかに屈しない。
だから、この四年間。彼には寂しい想いをさせてしまった。再会は最も情熱的のものにしたが……其処で出会ったのが首席で入学した彼女、ステラ・ヴァーミリオンだ。
彼女とのファーストコンタクトは、常識的に言えば最悪だ。
兄と妹との再会の逢瀬に水を差された挙句、いきなりの下僕宣言。
兄にそんな趣味もあったのか、やはり虐げられてきた境遇の反動か、などと頭を過ぎる程には私も外面しか取り繕う事しか出来なかったのは今も苦々しく思う。
趣味嗜好、性癖諸々知っていたのに、そんな事決してあり得ないのに。
其処からだ、彼女との関係が始まったのは。
端から見たら嫁姑の争い、事実彼女はどう思っているかは知らないが、私もそう感じてしまったのだ。
人間嫌いを自称してきたが、彼女もまた憎めない。
何故なら、彼女もまた初めての人だから。
初めて、兄の容姿などいった外見からではなく、生き様やその姿勢を見てくれたのだ。
素直に嬉しいし、共感してくれる女性でもあった。そう思っていた私に友人はこう言うのだ。
──珠雫はステラちゃんも大好きよね。
あの柔和な笑みを浮かべてそう言ってのけた友人に否定の言葉を内心、赤面しながら言うがその通りだ。
黒鉄珠雫はステラ・ヴァーミリオンも大好きだ。
何度も言うが、彼女は私にとって初めて共感を示せる初めての人。
恥ずかしくて恥ずかしくて……大好きだなんて人前ではまず言えないけど否定はできない。
ああ、こういう所は前と変わらないのか。相変わらず自分で言うのも何だが、人見知りなのかもしれない。
ステラは女性としても魅力的で、騎士としても最優で……何処か抜けてて、思わず悪口が出てしまうほどに純で、一緒に居て楽しいと素直に思う。
そして彼女になら、兄を任せても構わないとも。
実際、彼女と兄の中は良好だ。隠してはいるがバレバレな程、二人は幸せそうだった。
何故そう思うか?
決まっている。あの兄の幸せそうな顔を見たら一目で分かってしまう。
それを見て笑みを浮かべる中、唇から滴る赤い雫。手で拭いながら自嘲する事も多々ある。
──嫉妬、ああ醜い。私はなんて馬鹿なんだろう。兄の幸せを壊すつもりか?
兄は紛れもなく幸せを掴んだ。ならば私は身を引くべきだ。二人の赤い糸は断ち切れないほど硬く結ばれてるのだから。
ならば私に出来るのは
それが正しい筈だった。
『だって、貴女。彼が幸せなら、それで良いのでしょう?』
あの一言が自身の根幹を揺さぶる。
同族であった女に告げられた一言は否定することは出来なかった。
事実、そうだった。諦めきれなかったけど、兄が幸せならと身を引こうとしたけど、そんなこと無理だった。
でも、もう……そんなことは気にしない。
最早、過去のことだ。気持ちを切り替えて、自分に出来ることをするのみ。
全力で、今まで通り──兄へと愛を注ぐのみ。
全ては兄の為に────その時だった。
『いいや、お前には無理だ』
何かが囁く、何かが蠢く。
嬲るように、蔑むように……奈落の如き闇が珠雫を覗き込む様に現れた。
『お前には不可能だ、お前では力不足だ、お前では振り切れない』
その声は聞き覚えがある様な、ない様な曖昧さを孕んでいる。
声は低音で、高音で。男で女で、二人に聞こえるけど一人しかいない。
だが、ハッキリと言えるのは、アレは自分が最も嫌いなモノだという事だけ。
『お前の因果はそういうもので、お前がそれを望んでいるのだから、その運命は変えられない』
アレの気配には覚えがある。
初対面は最悪で、関係も最悪。兄への害悪としかならないだろう忌むべき光。人ならざる、真に人を名乗る
『お前は決して自身の望んだ結末を手にすることはない』
櫻井嶺二の、黒鉄珠雫の、獣の嘲笑は永遠に続く。
彼女が自身にかけた呪いに気づくまで、答えを見つけるまで。
☆★☆★☆
夢を、見ている。
あの時に見た、地獄の様な世界ではない。
紅蓮とは程遠い純白と漆黒が織りなす己の原風景。
吹雪が荒れ狂い、暗闇に閉ざされた雪原。
此処こそ、黒鉄一輝という個が証明された思い出の場所。
『悔しいか小僧、自分が最弱だって事が。なら、その悔しさを忘れるな』
あの時、黒鉄龍馬と出会って居なければ黒鉄一輝は死んでいた。肉体的にではなく精神的に。
あの出会いがなければ、彼がこの夢を抱く事はなかった。あの言葉がなければ、一歩踏み出す事は出来なかった。
その言葉は正しく不退転の決意を抱かせるのに十分だった。
其処からは正しく求道の旅路だった。
自分に出来る最善を尽くし、最高を目指しもがき続けた。
その過程で、何度も自分を上回る最強と戦った。
最強の魔力を持った皇女。
最優の隠密を振るう狩人。
最速の反応を有する剣客。
他にも、他にも────幾度となく戦い続けた。
そして、きっとこれはこれからも変わらない。彼の求道は未だ果てなく続いている。
そして夢を叶えるために進み続けることだろう。
夢を見ている。
あの日見た、楽土の様な世界ではない。
紅蓮とは程遠い、純白と漆黒が織りなす己の原風景。
吹雪が荒れ狂い、暗闇に閉ざされた雪原。
此処こそ、■■■■という個が赫怒を抱き続けると誓った決意の聖域。
『悔しいか小僧、自分が最弱だって事が。なら、その悔しさを忘れるな』
一体、貴様は誰に口を聞いているのだ。
悔しさを忘れるな?
言われるまでもない。
貴様には分かるまい。己より明らかに格下の者達に踏み躙られ、戦うことさえ許されぬ
本来なら、ただ一つの勝利さえ格別の味だというのに……そのたった一つの勝利、いや剣を交える事さえ許さぬとはどういう事だ。
理屈が分からん、道理が通らぬ。
魔力の大小でしか力を語れぬ我が愚兄よ。貴様は知らぬ、お前の存在そのものが我が踏み台でしかない事に。
運命に恵まれ、無類の人間嫌いたる我が愚妹よ。貴様は知らぬ、その運命とやら、その愛なぞ塵と変わらぬ事に。
愚父よ、愚母よ、そして愚親族ども。総じて塵芥だ。役に立て、
天下の道理だ、弁えろ。
そして我が■■よ。貴様は邪魔だ、疾く消え失せよ。お前では決して勝利を手にすることはできない。僕と変われ、その為のお前だろうが。
彼の色は黒一色。世界から見放されて尚、男は足掻く。
そう、全てが敵で、全ては轍だ。其処には愛も情も何もない。
あるのはただ一つ──飽くなき
今までの闘争とて全てが茶番だ。
最強の魔力?
最優の隠密?
最速の反射?
それがどうした。世の総ては己の為だけ存在しているのだから、負ける道理など一欠片程もない。
■■■■はそう信じて疑わないし、揺るがない。
故にさあ、芥ども。疾く我が飛翔の為の轍となれよ。お前らには頂点への階段になる権利を与えてやる。
──勝利を手にしたいと思う事に、善も悪もある筈ないのだから。
お前らは、
原作で珠雫が雷切、凶運に敗北した二つの戦いに共通していたものなーんだ。
ただ、雷切戦は少しこじつけが過ぎるかも
一輝くん、■■が■■■化待ったなし。
感想、アドバイス等お待ちしてます!