SKETDANCE BOSSUN the IF STORY   作:ぐぎゅる
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romantic&incinerator of the ghost

 

 

 

「ヒメコ、昨日はタオルサンキューな。まぁ、大して役に立たなかったけど」

「役に立たんかったんかい⁈」

「結構大降りだっからな。体拭いたりしたけどキチンと洗ったからな?」

 

 カバンからヒメコのタオルを出し差し出すボッスン。確かに洗ってあるようで、柔軟剤の仄かな香りがヒメコの嗅覚を擽る。

 だが、ヒメコはそれどころではなく。

 

「お前体拭いたんか⁈ 女に借りたタオルでかっ、かっ、体拭くなボケェ‼︎」

「いや…上半身だけだし。それにちゃんと洗ったから大丈夫だって」

「そういう問題ちゃうねん‼︎」

 

 気になる男子の体に触れたタオルという事でヒメコも戸惑っていた。

 これが普通のタオルな黙って家族にくれてやる事も出来るのだが、貸したタオルはペロキャンナス田楽味カラーのタオルだった。

 誰かにあげようにも景品の限定アイテムなので、おいそれと手放せないのだ。

 

「ホンマ、もうちょっと気ぃ使えや…」

「ワリィワリィ。…ちょっくらトイレ行ってくるわ」

 

 ボッスンが扉を開けて部室を出ようとしたところで、人にぶつかった。

 

「きゃっ…」

「おっと、ワリィなアンタ。大丈夫か?」

 

 ボッスンとぶつかったのは、ピンクのベレー帽を被った女子で、ぶつかった拍子に尻餅をついてしまったようだ。

 

「わ、私の方こそごめんなさいーーきゃっ、ヤダ‼︎ えへっ、ごめんなさい」

 

 手を差し伸べたボッスンだが、その女子は太ももまで捲れたスカートを手で押さえ、ドジな自分を諌めるように自分を軽く小突いた。

 最近は古臭い人間によく会うな。ボッスンは面倒くさそうなキャラの女子を見てそう思った。

 

  ▼

 

 取り敢えず、その女子はスケット団に依頼があるお客さんだったので部室に通した。

 ボッスンはトイレに行き、その間はヒメコに任せる事にした。

 トイレを済ませて部室に帰ると、部室へ妙な静けさに支配されていた。

 

「ヒメコ、話聞いてないのか?」

「あーうん。ボッスンが聞いた方がええかなって思てな」

「ふうん。じゃ改めて…お名前は?」

 

 〝私、早乙女浪漫〟

 

「待て待て。勝手にモノローグで自己紹介をするな。…つか何で聞こえるんだ?」

「てかスゴイなその表現。どうやってんの?」

「こういうのもあるわよ」

 

 〝17歳〟

 

「だから止めろ‼︎ そっちにはそっちの領分があんだよ‼︎」

「やりたい放題やなこの子…」

「全くだぜ…」

 

 ボッスンは軽く溜め息を吐きながら、彼女の依頼内容を聞く事にした。

 彼女ーー早乙女浪漫は昨日、雨の降る中一人の男と出会う。そして、一目惚れしてしまったのだ。

 今回の依頼はその男を探して欲しいとの事だった。

 

「取り敢えず、この学園の生徒なのは分かってるんだけど…」

「何だよそれを早く言えよ。で、そいつの名前は?」

「…坂の上の王子様」

 

 ーーーーーー。

 

「中大兄皇子様?」

「アホか。それやと歴史上の人物になってまうやんか」

「…つか、坂の上の王子様ってなんなんだよ」

「知らないの⁈ 坂の上の王子様」

「知らねーよ‼︎」

「うわぁ、何やイタい子来たんちゃう?」

『坂の上の王子様とは、少女漫画の古典「ギャランドゥギャランドゥ」に登場するキャラクターである。因みに彼女は隣の女子漫研所属、雑誌にも投稿している漫画家志望者だ』

「好きな漫画は一昔前の少女漫画よ。それも王道のやつ‼︎」

「どうりで…」

 

 因みにロマンは好きなアニメキャラに例外として長門有希がいたりする。

 

「んで、まとめると…見知らぬウチの生徒に雨の中一目惚れしたんやな」

「うん。…名前も学年も分からなくて…」

「しっかし…恋の仕方もベタだよな、アンタ」

「ベタを馬鹿にしないで‼︎」

 

 〝馬鹿にしないで‼︎〟

 

「だからモノローグ止めろって‼︎ 語り部さんに怒られるぞ⁈」

「つか、これ小説やから少女漫画の表現持ち出されても分からんのやけど」

「可愛いんだけどウザいな…」

 

 取り敢えず、話を進めよう。

 ロマンはベタな場面に出会うと少女漫画的視点で物事を見てしまう。ロマン曰く「乙女フィルター」と呼んでいる。

 今回もその乙女フィルターが発動したという事だった。

 名前も学年も分からないとなると、その王子様を探す手掛かりとして王子様の特徴を知る必要がある。ボッスンはそれをロマンから聞き出したのだが。

 

「全体的に細めな感じだったかな。繊細でシャープなんだけど、鋭すぎて危うくもある。そう‼︎ 例えるならゼビュロの丸ペンね‼︎ 同時に力強さも兼ね備えている筈よ。どちらかと言えばGペンね。ては大きく筋張っていてウニフラッシュぐらいならズバズバ描けそうーー」

「ちょーちょちょちょちょー待てや‼︎ さっきから何言うとんのかぜんっぜん分からへん‼︎」

「乙女フィルター越しだと、意味不明だ…」

「あ、ごめんなさい。下ろしたてのGペンは丸ペンより細い線が描けるのよ。分かりづらかったかしら?」

「俺ら、漫画描きじゃねーしな…」

「ツッコミがいのある子やな…」

 

 そんなこんなで、実はその男の絵を描いてきたというロマン。スイッチは乙女フィルター越しでは信憑性が薄いと苦言を呈すが、ヒメコは漫画家志望者がそんな事はしないと突っぱねる。で、みんなでロマンの絵を見てみたのだが。

 

「あー…うん」

「えーっと…」

『何とも言えないな』

 

 有り体に言えば、絵が下手だった。

 その後、ボッスンが昔の少女漫画のキャラクターや猫(スコティッシュフォールド)を描いたりして半端ない画力を見せた。

 

「アンタ、ここに来てキャラ立ちか?」

「んなわけねーだろ。つか、王子様はどうしたんだよ」

『しかし、こうも手掛かりが少ないとな』

「ごめんなさい。私もう諦めーー」

「よし、ならロマンが出会ったその場所に行ってみるか」

「せやな」

『現場百回とも言うしな』

「みんな…」

 

 こうして、ロマンが王子様と出会った現場に向かう事になった。

 

「ここで王子様と出会ったの」

『何の変哲も無い住宅街の通学路だな』

「ああ、ここなら昨日俺も通ったな」

「ほんで、どこで王子様と出会ったん?」

「そこの電柱よ。そこで雨に打たれる王子様に出会ったの」

「んー、見た感じ手掛かりは無さそうやな」

『そうだな。早乙女さん、その王子様はここで何をしていたんだ?』

「肩に掛けていたタオルで顔を拭いていたわ。紫のタオルで」

「む、紫の…」

『タオル…』

 

 ヒメコとスイッチの視線がボッスンに向く。そして、そのボッスンは苦笑いで頭を掻いていた。

 

「まぁ…確かにここで一旦止まって顔を拭いたな」

「しかも、ウチから借りたタオルで…」

「んー、でも何か違うような…」

「あーならこれちゃうん? ボッスン帰る前にこれ取ってたしな」

 

 ヒメコがボッスンの被っていたツノ付き帽子を取ると、ロマンの表情がみるみる変わっていく。

 その表情はまさに恋する乙女だった。

 

「あなたが…あなたが王子様だったのね‼︎」

「え、えーと……ヒメコ」

「何やボッスン、おーおー照れとんのか? おー?」

「スイッチ、どうにかしろ」

『ほっほっほ、何を言っとるのかねこの子は』

「何だそのキャラクター⁈」

 

 結局、坂の上の王子様だったボッスンはしばらくこの話でヒメコとスイッチに散々弄られまくる事になった。

 

  ▼

 

「…蜘蛛の会? 何やそれ」

『ああ。何でもこの界隈の女子学生たちを標的に様々な猥褻行為を働いている闇のグループがあるそうだ』

「そんなん、さっさと捕まえたらええのに」

『だが、被害者が名乗り出ない為犯行が明るみに出ないらしい。その存在もあくまで噂レベルらしい』

「…何や眉唾な話やな。ボッスンはどうおもうん?」

 

 これは、坂の上の王子様の一件からしばらく経ったある日の出来事。

 スケット団は何時ものように部室に集まり、不定期で発刊される「学園タイムス」をネタに話を咲かせていた。

 

「ああ、その蜘蛛の会ならもうすぐ捕まんだろ」

「はぁ? 存在自体が怪しいグループをどないして捕まえんねん?」

「取り敢えず蜘蛛の会のリーダー…草部直幸を生徒会に密告したからな」

『むっ、俺ですら分からなかった蜘蛛の会のリーダーを…さすがボッスン』

「つーか、何で生徒会なんかに任せんねん‼︎ スケット団で捕まえたらお手柄やん‼︎」

「いや…数的に生徒会の方がいいし。それに、下手にヒメコを傷付けたくねーしな」

「……はぁっ⁈ お、おお…お前は何を…」

 

 ボッスンが言った台詞でヒメコが真っ赤になって慌てふためく姿は、スケット団では恒例である。スイッチも慌てふためくヒメコを生暖かい目で見ている。

 因みに、何故ボッスンが蜘蛛の会リーダー、草部直幸を知っていたかといえば、過去に大事な仲間の一件で偶然知ったのだ。

 そして、これも偶然だがある女子生徒が万引きしていた。次に万引きをしたら止めさせるつもりで数日見張っていると、その女子生徒が廃倉庫に向かい、そこに草部直幸とその仲間がいたのだ。

 手口も蜘蛛の会と合致した為、生徒会に偽名で草部直幸が蜘蛛の会リーダーである事を密告したのだ。

 その時ボッスンが使った偽名は、アカツノチリゲムシである。

 

「ヒメコ、テンパり過ぎだろ」

「お前が平然としてんのがおかしいんやろが‼︎」

「……今日は水曜だ。ヒメコがゴミ当番だ、ちょっと行って落ち着いてこい」

「え……い、イヤや‼︎」

「……はぁっ?」

 

 スケット団ではゴミ当番が決められている。月曜はスイッチ、水曜はヒメコ、金曜はボッスン。

 余程の事が無い限り、この決まりは絶対である。

 その決まりを、ヒメコは破ろうとしているのだ。

 

「イヤって…何で?」

「だって…あそこには……あそこにはーー」

「幽霊がいるのよぉぉぉぉ‼︎」

「イヤァァァァァァァァ‼︎」

 

  ▼

 

 いきなり現れ、叫び、部室の窓から貞子ばりに入ってきた女子生徒。

 彼女の名前は結城澪呼。2-A所属。オカルト研究部部長。腰まである黒髪と不健康そうなまでに白く透き通った肌が特徴。霊的現象、超能力、呪術に深い造詣を持ち非科学的現象を強く信奉している。

 故に科学的事象しか信じないスイッチとはライバル的関係性である。因みに、好きなアニメキャラは朽木ルキア。

 因みに、お決まりの様に禍々しいオーラを放ち貞子ばりに部室の部屋からは入ってくるのは仕様である。

 普通に入れば、それはそれで驚かれるのだが。

 

「しかし、スイッチの知り合いとはな」

『彼女とは以前、幽霊はいるかいないかで摑み合いのケンカになりかけた事があってな』

「…何やっとんねん、お前」

「相変わらずよね、スイッチ君…。まだ科学の領域から抜け出せずに彷徨っているとは…。サタン様もお笑いになるわ‼︎」

 

 結城さんの雰囲気と相まって、ヒメコは完全に怯えてしまっていた。

 ボッスンは少し変わった人ぐらいにしか思ってないので、苦笑い程度で済んでいる。

 

『俺は再びここで言い争う気など無い。君が完膚無きまでに論破され、這い蹲る姿を見たく無いからだ』

「お黙りなさい‼︎ あなたその内天罰が下るわ…エロエロエッサイム……で、今日はこの件で話があって来たの」

 

 軽くスイッチとやり合ったところでボッスンとヒメコに向き直り、学園タイムスの一面を見せる。

 

「焼却炉の幽霊?」

『この学園の七不思議だな。学園タイムスにも一つずつ紹介するコラムがある』

「十年前‼︎ ある男子生徒が受験ノイローゼの為屋上から飛び降りたのよ…。でも彼は死に切れなかった……。朦朧とした意識のまま焼却炉に身を投じようと歩いた…けど、その日は鍵が閉まっていて入り口は開かなかった。結局中に入れず翌朝発見された時には…。以来、その現場では両足を揃えてすっ…と花壇を飛び越えようとする幽霊の姿が目撃される様になったそうよ。まさしくこんな感じにね…」

 

 ヒメコは体を震わせながら、ボッスンは腕を組んで結城さんの話を聞いていた。

 

「…あー、だからヒメコはゴミ当番を。そういえばヒメコお化け苦手だったっけ」

「せやねん…ホンマかなんわ…」

『馬鹿馬鹿しい。幽霊なぞこの世には存在しない。俺が信じるのはデータに裏付けされた真実のみ‼︎』

「ふふ…そうやって余裕ぶっていられるのも今の内よ。何故なら、この写真を撮ったのは他ならぬ私だから‼︎」

 

 結城さんの幽霊の写真を自身で撮ったと言う言葉に結城さん以外の全員が驚いた。

 結城さんが幽霊の写真を撮ったのは、先週の火曜日。学園タイムスのコラムにあった七不思議に興味を持ち、焼却炉の付近で張込みをしていた時だった。

 無我夢中で写真を撮り、そのままカメラを新聞部に持ち込んで今回の学園タイムス一面を飾ることになった。

 

「どう? これであなたも幽霊の存在を信じる気になった?」

『…実に下らん論争だ。だが仮にその目撃談を否定する証拠を持ってきたとしたら?』

「ほほほ…面白そうね。だけど出来るのかしら? あなたたちスケット団に」

「ア、アタシはイヤやで‼︎ そんなんようせんわ‼︎ ていうかお前らケンカすなや‼︎」

「ではスケット団に依頼するわ。焼却炉の幽霊について調査し、私の目撃したモノの真実を解き明かしなさい‼︎」

「いや、だからやらへんてーー」

『引き受けた‼︎』

「スイッチィィィィ‼︎」

 

 結局、結城さんの依頼を受ける事になった。

 

  ▼

 

『…ボッスン、別に俺は一人で出来るぞ』

「別に良いだろが。一応スケット団の依頼だ。ま、ヒメコは部室で留守番だけどな」

 

 結城さんと別れたスケット団は、ヒメコを部室で待機させボッスンとスイッチで調査をする事になった。

 

「ま、それに今回の幽霊は多分偽もんだろーしな」

『む、何故そんな事をーー』

「それは、依頼終了までのお楽しみだ」

 

  ▼

 

「ああ、結城澪呼嬢なら知ってるよ。メインフィールドこそ違えどそこはマニア同士相通ずる何かを感じていてね、ニュータイプだけに…ンフフフ」

 

 饒舌に語るこのオタクの名は小田倉拓夫。アニメ研究部、通称アニ研の部長である。

 角縁眼鏡に頭にバンダナという生粋オタクである。スイッチとは浅からぬ交流があり、フィギュアのトレードや時には共に秋葉原に行くなど、スイッチの良きオタク仲間である。

 

『その談義はまたいずれ。話を戻すぞ』

「ああ、新聞部ね。確かに結城嬢の友達がいるよ。島田さんて人」

『2-F、島田貴子。スクープに燃える熱血新聞部員』

「Yes、そうそれ。いやぁ、思うに彼女にはーー」

『分かった、ありがとう』

「んじゃまた」

 

 スイッチと小田倉の未知なる会話にボッスンは終始ついていけなかった。

 その後、小田倉と怪しい取引を行いボッスンを連れて新聞部に向かう。

 島田貴子は、眼鏡とそばかすが特徴の女子生徒。左耳に掛けられたシャーペンがトレードマークである。

 

「そう。学園七不思議を担当してるのは私よ。まぁ、小さい記事だし正直あんまり反響は無かったんだけど、澪呼だけは興味持ってくれてたのね」

「その結城さんがあの写真を新聞部に持ち込んだんだな?」

「ええ。澪呼って怪奇現象探してカメラ持ち歩いてるから、何かあったら持ってくる様に言ってあったんだけど…データ確認したらバッチリ映ってるじゃない? それより、笛吹君って私の周りでは結構評判なのよ? その、ハンサムで博識だし面白い人だって」

『ありがとう』

「今度、新聞部で取材させてーー」

『断る』

「えー? じゃぁいつなら良いのよー」

『一億と二千万年後』

「あはは、何それー。あ、そうそう私と同じクラスのヨッシーが幽霊を見たって噂が」

「同じクラスとなるとーー吉成くんか」

 

  ▼

 

「我は確かに見たナリ。あれは現世に留まる魂、即ち幽霊ナリ」

 

 吉成の話では、先週の水曜に焼却炉で幽霊が花壇を登る様子を発見、直後に夕闇を照らした眩しい光に怯えてその場を逃げたという。

 普通に考えれば、焼却炉の幽霊は存在する。

 

「いぃやぁぁ‼︎ やっぱり幽霊おるんやないかぁぁぁぁ‼︎」

『だが、見ただけだ。見ただけでは存在証明にはならない』

「やかましいんじゃボケ‼︎ ああ…下らん勝負せんとはよ除霊せなアタシがお前らをこの世から消し去るぞ‼︎」

「落ち着けよヒメコ」

「何や、ほんならボッスンはこんな風にふわっと浮けんのか⁈ ええ⁈」

 

 どこからか(おそらく新聞部)から持ってきた例の焼却炉の幽霊の写真を突きつけるヒメコ。花壇の前で浮き上がる幽霊と少し開いた焼却炉の門が写っている。

 ボッスンはしばらく写真を見つめーー違和感を感じた。

 更に見つめること十数秒。ボッスンはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「…なるほどね」

『どうしたボッスン?」

「焼却炉の幽霊の真実が見えた」

 

  ▼

 

 翌日。

 放課後になり、焼却炉から正面に少し離れた渡り廊下では結城さんがカメラを手にし張り込んでいた。

 そんな結城さんに近付く一人の影。それはスイッチだった。

 

『こんなところで何をしている?』

「な、何って…今日もここで待っていればまた幽霊が現れるかと…」

『…そうか。ならば一緒に待つとしよう。もう直ぐ現れる幽霊を』

 

 同じ頃、貴子は吉成に焼却炉の幽霊について再度取材を行っていた。

 そこに聞こえてきたのはヒメコの慌てた声だった。

 

「出おったで‼︎ 焼却炉の幽霊が出おったで‼︎」

 

 貴子がヒメコと慌てて駆けつけると、そこには焼却炉の幽霊と思しきモノがいた。

 結城さんと貴子が声を失う最中、その幽霊と思しきモノは花壇の直ぐそばでその体をふわりと宙に浮かせた。

 

「う、浮いた⁈」

「そ、そんな馬鹿な⁈」

「どないしたんや、島田さん。自分で記事を書いたのに信じてなかったんか?」

「え…?」

『学園の七不思議、焼却炉の幽霊は島田貴子。君だ』

「ええっ…⁈」

「貴子が…ってどういう事? じゃぁ、あの幽霊は…」

「ワリィな結城さん、俺だよ」

 

 驚く二人に振り返って笑みを浮かべるのは、トレードマークの赤ツノ帽子を外したボッスンであった。

 

「で、でも…今浮いて…」

「簡単な手品さ。ズボンのどっちかの裾の正面に切れ目を入れとくだけ。後は靴が脱げない様に細工すれば、宙に浮いて見えるって寸法さ」

「因みにこれ作ったんスイッチなんやって。一晩で作るんやからすごいわ」

「や、ヤダなぁ…私は知らないよ? それに手品に気付いたからって私がやったとはーー」

「もちろんそれだけじゃない。この写真実は結城さんが撮った写真じゃない」

 

 そう言ってボッスンが見せたのは、ヒメコが借りていたがくえタイムスの一面を飾った幽霊の写真だった。

 

「そ、そんな馬鹿な…」

「結城さんが写真を撮ったのは、先週の火曜日。たが、この写真の焼却炉の門は開いている。少なくとも火木土日以外の日に撮られたものだ。ま、言わずもがなだけど幽霊の下に小さい影もあるしな」

「一応、結城さんのカメラを新聞部から拝借してきたで。先週の火曜日の写真はー…と、これや」

 

 結城さんのカメラに写っていたのは、焼却炉の幽霊どころか何が写っているかも分からないぶれた写真だった。

 余程慌てて撮ったのが、よく分かる写真だった。

 

『これに気付いた島田さんは、翌日結城さんが写真を撮った同じ時間にセルフタイマーで写真を撮った。吉成君が見た幽霊は島田さん。光はおそらくフラッシュだ』

「島田貴子、何か反論はあるか?」

「……貴子、あなた」

 

 静寂の中、結城さんの言葉に俯いて黙っていた貴子だったが、しばらくして事件の顛末を話し始めた。

 

「…私、いつか一面を飾るスクープを書きたくて…だけど、私の記事はいつも隅っこの話題にならないものばかり。でも、澪呼はあの七不思議のコラムに注目してくれた。それにオカルト好きだし、つい試したくなって…」

 

 最初は本気で騙すつもりは無かったのだ。しかし、結城さんの様子を見て後に引けなくなり、今回の事件を起こしてしまった。

 結城さんの写真が使えず、改めて撮り直したのが仇となった結果だった。

 

「…ごめんね澪呼、本当に、本当にーー」

「許さないぃぃぃぃーーと…言いたいところだけれど、いいわ。水に流す事にしましょう」

「澪呼…ありがとう‼︎ 今度こそちゃんと自分の力でスクープをモノにしてみせるね‼︎」

「まぁ、熱心さ故に行き過ぎた行動に走るのは私も同じ様だし。…スイッチ君。今回は負けを認めるとするわ。あなたの情報力、スケット団のチームワークにね。でもいずれ認めさせあげる…引きずり込んであげる…オカルトの世界に…‼︎」

『望むところだ。ならば俺はそれを否定する情報を集めるだけ…‼︎』

「ホンマ仲ええなぁ」

「ライバル同士だけあるわ」

 

 こうして「焼却炉の幽霊事件」は両者の和解で静かに幕を閉じた。

 

  ▼

 

「そういえば、昨日蜘蛛の会が捕まったらしいで。何でも生徒会が捕まえて警察に引き渡したみたいや。今日の学園タイムスに載ってたで」

「そいつはよかった。悪い奴が捕まって島田さんのスクープにもなる。一石二鳥じゃねーか」

『島田さんで思い出したが、ボッスンは何故情報を集める前から今回の幽霊が偽物だとわかっていたのか、教えて欲しい』

「またえらい早うに分かっとったんやな」

「焼却炉の幽霊の話になるけど、実は飛び降り自殺はあったらしい。理由も受験ノイローゼ。でも当時は雪が積もってて運良く助かったみてーだけどな。まぁそれでも重傷だ。で、校務員の吉村さんはその生徒と仲が良かったらしい。救えなかった事を悔やみ、そして生徒に危険な事をさせない様に学園七不思議を作ったんだとさ」

『なるほど、同じ過ちを繰り返さない為か』

「そういう事だ。まぁ、ヒメコがもう怖がらなくなるのはちょっと残念だけどな」

「ほー、ボッスンよ。おもろいこと言うやんけ」

「……そういえば、この部室にも曰く付きの話がーー」

 

 その後、スケット団の部室からヒメコの叫び声が聞こえ、校舎内でボッスンがヒメコに追っかけられる姿が多数目撃されたという。

 

  ▼

 

「そういや、草部の事をウチに密告した生徒って誰なんだろう?」

「確か、名前はアカツノチリゲムシさんでしたわね」

「まるでクソ虫みたいな名前だな」

 

 開盟学園生徒会執行部。学園の秩序維持、トラブルの調停などを主な目的とする生徒の代表組織である。

 

 庶務は三年、榛葉道流。愛称はミチル。ロン毛の容姿端麗な優男。ナンパで自分の魅力に絶対の自信を持つナルシストである。

 会計は二年、丹生美森。愛称はミモリン。実家は大財閥「丹生グループ」で、彼女は社長令嬢。おっとりとした性格で世間知らずで言動や感覚が常人よりズレているお嬢様である。

 書記は二年、浅雛菊乃。愛称はデージー。ポニーテールに眼鏡姿の美少女。しかし性格はとんでもないサディスティックなクール系女子。言葉遣いは極めて過激であり、アルファベットで単語や言葉を省略する「ギャル語」を愛用している。

 

「アカツノ、ね……なるほど」

 

 会長は三年、安形惣司郎。主に安形や会長と呼ばれている。「かっかっかっ」という特徴的な笑い方をする長身の男でIQ160を誇る天才。開盟学園をトップの成績で合格しているが、基本的に面倒臭がりだったりする。

 この四人に今はいない副会長を加えた五人が今期生徒会執行部のメンバーである。

 

「安形、そのアカツノなんたらの正体が分かったのかい?」

「まぁな。多分、今頃椿が向かってる場所にいるだろうぜ」

「確か椿ちゃんは今ーーああ、なるほど」

「どういう事ですの?」

「この学園に赤いツノを持った奴は一人しかいない」

「ああ。藤崎佑助だ」

 

  ▼

 

「…あのさ、何で俺はトランプタワー作ってんだっけ?」

「トランプタワー作ってみんなで写真撮る言うたやん。もう忘れたんか?」

「ああ、そうだったか。……よし、完成だ」

 

 ボッスンとヒメコの追いかけっこから少し経ち、現在はボッスンがトランプタワーを建設。それをヒメコとスイッチ、モモカとその舎弟の六人で見学。今しがたトランプタワーの完成を目にしていた。

 

「ボッスンホンマ凄いわ‼︎」

『トランプ総枚数108枚の大作だな』

「やるじゃないかボス男‼︎」

「ボス男って何だよ…。じゃ、写真撮るぜ。位置はベンチのここ……で、セルフタイマーは10秒っと。準備完了だ」

「ボッスンはよ座り。スイッチも」

 

 残り5秒でトランプタワーの後ろにスケット団、さらに後ろにモモカたちが入りシャッターが切られようとしたその瞬間、部室の扉が勢いよく開かれた。

 そしてトランプタワーがその衝撃で崩れ、皆が驚く中静かにシャッターが切られた。

 

「生徒会執行部だ。スケット団というのは君たちだな?」

 

 扉を開いたのは生徒会執行部最後のメンバー、副会長の椿佐介であった。






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