カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

13 / 35
第13話

A 最終スキル

 

 

 

 村周辺に一種異様な集団が包囲を狭める様に襲来しつつあった。

 今までの連中とは違う。それは連中が連れている召喚獣。

 この世界にきて初めて見る、ナザリックのでない、僕が呼んだものでもない召喚獣。

 そして相手は天使。今の僕、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)には相性最悪の天使だ。

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)をあれだけ用意するとなると、スレイン法国か。」

 ガゼフが建物の陰から敵らしき集団を見る。

「スレイン法国にまで俺は煙たがられるのか?」

「あのー、もしかして僕のせいとかないですか?人類の守護者を自称しているなら、吸血鬼退治は彼等の使命でしょう?だったら飛行(フライ)で逃げれば僕を追ってくるんじゃ……。」

「それはないな。いくら何でもここまで準備するには早すぎる。俺が原因と考えた方が自然だ。」

 ガゼフは床に胡坐をかいて座ると、少し考える。

「つかさ、俺に力を貸してくれないか?」

「……………。」

「なに、ここの村人を安全な場所に避難させてくれるだけでいいんだ。」

「……僕の力では奴等から守り切ることは出来ないでしょう。」

「そうか。君の目から見ても奴等には勝てないと思ったか……。」

「いえ、戦力があれだけであれば僕とガゼフさんで何とかなります。」

 ガゼフの戦力はちょっとだけ魔法で確認したが僕より強かった。

「何?では手を貸してくれるか??」

「はい。」

「ありがとう。本当にありがとう。これで無駄死にする可能性が少なくなってきた。」

「いえ、勘違いしないでください。これは僕のため、です。奴等は朝襲ってきた連中と無関係ではないでしょう。だとしたらここの村人もただで済むとは思えない。なら、ガゼフさんと協力して排除しておいた方が良いに決まってます。」

「……すまない。」

 言って頭を下げるガゼフ。

 僕一人ならそれこそ飛行(フライ)で逃げれば生存できることを彼は見抜いていたようだ。

「ところで話し合いの合間、貴方の部下、少し剣を振る姿とか見せてもらいましたが、あれでは足手まといになってしまうでしょう。」

 ……………。

 自分の部下を誇りに思っているのだろう、ガゼフは僕を睨み付けてくる。

「ですから、貴方の部下に村人を避難させるように指示してください。」

「全員をか?!」

「全員です。間違っても僕達の戦闘に入ってこないよう指示してください。」

「………。」

「それから連中が引き連れているのは天使です。僕には最高に相性が悪い。だから夜、せめて夕刻になるまで開戦を引き伸ばしたいのですが………。ただでさえ朝の戦闘で僕はMPとスキル、と言っても分かりませんか、えーと、戦闘手段のいくつかを既に使えなくなっています。」

「分かった。戦闘開始時間を極力引き伸ばせばいいんだな?」

「はい。最後に、もし、連中が何らかの切り札や増援を用意していたなら、僕達も一目散に逃げましょう。」

「ああ。それで良い。重ね重ね世話になるな。ありがとう。」

 言って僕より二回りも大きな両の手で僕の手を握る。

「生き延びたら、俺にできるだけの礼はさせてもらう。」

 

 

 ガゼフと僕は朝呼び出したアイアンゴーレムとガーデンノームを引き連れ、敵の隊長らしき男の前に進み出る。

「俺はガゼフ・ストロノーフ。王国戦士長だ!こちらは旅の魔法詠唱者(マジックキャスター)つかさ殿だ。そちらは?」

「ヴァンパイアとはな、ガゼフ・ストロノーフ。近隣諸国最強がそんなみすぼらしいヴァンパイアを味方に我々に張り合おうとか、お前も地に落ちたものだ。」

「どうだかな?お前らが近隣の罪もない村の人々を襲っていたことに比べ、それを助けてきたこの娘の事を知ればたとえヴァンパイアと言え世間の評判はどちらが上になると思う?」

 少し顔をゆがめる隊長。

「それよりお前らの名をまだ聞いてはいない。」

「スレイン法国、陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーイン。この名を聞いた意味が分かるか?」

「死の宣告でしょう?」

「ほう、ヴァンパイア。なかなかに洒落たことを言う。」

「それより、どうかお願いします。この村の人達だけは助けてください。」

 一瞬あっけにとられていたようだが、ニグンは大声で笑い始めた。

「そうかそうか。お前の非常食に手を付けて欲しくないか………。笑わせてもらったぞヴァンパイア!!近隣の村々を助けてきたというのもそれか?確かに狩場に人間が居なければお前ら人外は飢えと渇きに苦しむようだからな。」

 まあ、そうとらえられても仕方ないか……。

「全く、聖職者が聞いてあきれる。ここの村人、とりわけ10歳の女の子の方が余程良く“人間”というものを見ているぞ。」

「フン。」

「俺を狙う理由は何だ?俺には国を動かす力は無いぞ。」

「国を動かす力は無くとも国を護る力はある。現在の王国は…………。」

「隊長。それ以上は………。」

 ニグンの後ろから隊員が声をかける。どうやらニグン自身は結構口が軽いようだ。

「村々を襲ったのは俺を引っ張り出すためだけの陽動だったのか?帝国兵に偽装して村を襲っていたのは俺を引っ張り出し、同時に国力を削ぎ、帝国に罪を着せ戦争を蜂起させ、お前等の傀儡貴族達の立場を優位に立たせ、外から操るためのものなのだな?」

「ほう、存外、お前も脳筋ではないと見える。そんなだから………。」

「隊長!」

「あ、うん。」

「では、そろそろ………。」

 そろそろ切り上げさせるか!

「貴方の教義では犠牲者は仕方のないことなんですか?!」

「何だと?」

 しかし感情がよく顔に出る人だ。

「ガゼフさんが邪魔ならば、なぜ外交駆け引きとかでそう持っていこうとかしないんですか?村人を犠牲にするんなんてひどすぎます。貴方達は自分達と同じ神を崇拝していないと他の人は生きる資格が無いと言いたいんですか?!」

「そんなことは言っていない!」

「やってるじゃないですか!!」

「仕方ないんだ!!もう人類は待ったなしのところまで来てしまっているんだ!人類はもう国単位でどうこうしててはいけないんだ!!直ぐにでも………。」

「隊長!!」

「あ、ああ、すまん。何だかヴァンパイアと話しているような気分ではなくなってな……。」

「それはそうだろう。つかさは元は人間の修道女だ。」

「何だと?」

「ちょっと話を聞いただけだが彼女の宗教。色々面白いぞ。お前も話を聞けばもっとましな考えができるようになるかもしれんぞ。」

「他の宗教の話など………。」

 食いついた、食いついた!ちらちらこっちを見て何か聞きたそうにしている。

 ナイス!ガゼフ、ナイス!!

 さすが腐っても宗教家。普段は上の目もあるだろうし、他宗の話等聞けないだろう。彼の部下も少し興味を示している。

 

「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや。この意味が分かりますか?」

「………は、はは、やはり邪宗!そんな馬鹿な事、宗教以前の問題だ!さすがヴァンパイアの宗教というところか。善人より悪人の方が救われるなど…聞いて損した…。」

「これは僕の国のある聖人のお言葉です。この言葉には深い意味が込められているのです。」

 なかなか説明するのは難しいこの教義、だからこそ、僕らは座って2時間以上説教した。徐々に日も暮れてくる。

 初めは対面で座っていたが、端が徐々に僕の方へ近づいて来、Uの字型に。最後には車座になっていた。

 

 ニグンだけでなく、他の隊員達も首をひねり始めた。ガゼフも眉間にしわを寄せている。

「……お布施等には意味がないという事か?」

「いや、それは違うぞ、お布施に込められている気持ちをその神は最重要視するという事なのだ!」

「では、我々の神官長が発行する免罪符とは何なのだ?!」

「………彼女のいう宗教においてはまやかしという事だ。」

「それは不遜だ!」

「いや、だって、俺も思っていたんだ。免罪符を買えるのはしょせん金持ちだ。貧乏人は救われないって、宗教としてどうなんだ?」

「そもそもがその宗教では善人が存在しないことになるではないか!」

「いやだから、知らなければ善人でいられたという事なのではないか?」

「恐らく善人では居られても、そこに救いは無いと思うな。」

「動物は分かる。しかし植物も生きているというのであれば我々は命を奪わねば生きていけぬ業深き存在…。悪人という事になる。これはもっともな事ではないか?」

「植物には魂が無いではないか!」

「いや、ドリアード等の精霊もいればドルイド達は植物と話をするではないか。」

 さすがに宗教家達だ。この手の話になると議論が尽きない。

 そもそもが盲信者ではない彼等にはおかしい、矛盾していると考える教義は少なくなかった。

 

 

 何を思ったかニグンが突然立ち上がった。

「お前がヴァンパイアになる前にその話、聞きたかった。」

 パタパタと尻の砂を払う。

「隊長……。」

「残念ながら時間切れだ。もう日が暮れてしまう。」

「ニグンよ。」

「ガゼフ、あまり話し合ってしまうと殺しあえなくなってしまうだろう?」

 手のひらをガゼフに向けるニグン。

「……………。」

「つかさ、と言ったな。礼を言おう。………我等の宗教。考える必要があるみたいだ。だが、今の私の立場ではむしろそんな話をすれば教化施設に送られてしまうだろう。後は狂信者の出来上がりだ。だから、今はこれしかないんだ、許してくれ。」

「ニグンさん…。」

「お前達が素直に死んでくれるなら、安楽死を与えてやれるのだが……どうだ?」

 僕はガゼフと顔を合わせ、頷く。

「いえ。抵抗させて頂きますよ。」

「ニグンよ、せめて村人達だけでも………。」

「………許してくれ。我らが手を出さずとも本国から直ぐに別部隊が送られてくるだろう。だったら安らかに死なせてやるのがせめてもの情けだ。」

 …………。

「つかさよ、私は悪人だ。」

「そうですね。だとしたら貴方はもう救われています。」

 唇をかみしめるニグン。部下達の中には泣いている者もいる。

 

 ガゼフと僕は30mほど離れて対峙する。

 ニグンの部隊はそれぞれ天使を再召喚した。

「中位ゴーレム作成・アイアンゴーレム、中位人形作成・ミッドナイト・マッド・マネキン!」

 既に呼び出していたアイアンゴーレムとガーデンノームそれにもう一体のアイアンゴーレムと不気味なマネキン人形。

魔法効果集団化(マスターゲティング)鎧強化(リーンフォースアーマー)下級筋力増大(レッサーストレングス)下級敏捷増大(レッサーデクスタリティ)下級属性防御(レッサープロテクションエナジー)。」

「おお、これは、ラキュースばりの支援魔法だ。ありがたい!」

「でも僕もこれでネタ切れです。後は僕も、肉弾戦要員です。」

 ガゼフは大剣を抜くと、天使達に斬りかかって行った。

「スキル・マニピュレイテッドバイコッペリア!」

 これで、僕は大まかな方針を出すだけで、後はコッペリアのコアが僕の身体を動かすことになる。

 戦闘が始まった。

 ガゼフが二体の天使、アークエンジェルフレイムを切り捨てた。

 アイアンゴーレムはそれぞれ防御役(タンク)として、人形達も活躍してくれている。

 コッペリアの魔法やスキルは使えないが、動きや攻撃方法は慣れ親しんだものだ。コンボも繋げられる。やっぱり僕の攻撃はこれが一番しっくりくる。

「おお、その戦い方は何だ?初めて見る。」

 感嘆の声を上げるガゼフ。本来は戦いの動きじゃないんですけどね…。

「何と流麗で、魅せる戦い方だ。」

 本当ならスキルとか魔法とか合わせるともっとカッコよくなるんですけど。

「各員散発な攻撃は止めよ。三位一体となって掛かれ!」

 と、ニグンの指示。天使は夜になって幾分威力を失ってはいたが、何らかの支援魔法が掛かっているように強かった。

 あとで分かったことだがこれはニグンのタレントだそうだ。

 

 ニグンが細々指示を送ると僕等は徐々に追い詰められていった。

 もう何体天使を光に変えていっただろうか?しかしその度に隊員達は天使を補充してくる。

「武技!六光連斬!」

 ガゼフが叫ぶと天使四体が一気にチリになった。

「それは、一体?」

「奥の手だ。流水加速!」

 また動きに変化が起こった。続々とガゼフが天使を倒していく。

 ただ、ガゼフの息が上がっていくのが少々気になる。

「隊長、既に精神力を使い切った隊員が3名になりました。このままでは、圧しきられます。」

「クソ、これを使う羽目になるか………。」

 ニグンは懐から魔封じの水晶を取り出した。

「出でよ、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!」

 

 巨体。

 威容。

 存在感。

 今までの天使、アークエンジェルフレイムやプリンシパリティオブザベイションとは桁違いだ。

「………ああ。」

「どうした、つかさ?」

「あれはマズイ。あれは今までの天使の……軽く数倍の力。」

「……………。」

「ガゼフ、つかさ、褒めてやる。まさかここまでやるとはな。」

「ガゼフさん、逃げてください。ここは僕が何とかします。」

「馬鹿な!王国戦士長としてそんな無様なことができるか!」

「もはや村人を救うにはアレが消えるまで逃げ切るしかないんです!急いで!」

「しかし…。」

魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)睡眠(スリープ)!」

「な、何を……。」

 僕の最後の魔法でガゼフは気を失った。これで本当にすっからかんだ。

「眷属召喚・ピノッキオ!」

 僕は気を失ったガゼフをピノキオに渡す。

「いいかい?ピノキオ、彼を連れて出来るだけ遠くに逃げるんだ。分かったね?」

「聖霊様は?」

「早くいきなさい。鼻を伸ばしちゃうよ。」

「わ、分かったよ。」

 ピノキオは戦うことは不得手だが意外と力持ちで足が速い。

 ゴーレムでは走っても追いつかれてしまうが、彼なら逃げ切るだろう。

 

「させるか!善なる極撃(ホーリースマイト)を放て!」

「ゴーレム!させるな!」

 ゴーレムは近くに居たマネキン人形を掴むと、ドミニオンに向けて投げた。マネキン人形はドミニオンの顔の辺りで暴れ、魔法発動を僅かに遅らせた。

 僕は直ぐに一番近くに居たアークエンジェルフレイムを組み伏せると、仰向けにし、頭の上に抱え上げ、身を低くする。

 

 直後、目の前が真っ白になった。

 

 熱い!!

 痛い!!

 

 頭の上に傘にしたアークエンジェルフレイムの形が崩れ始める。

 

 早く、早く終われ!

 僕は一心に善なる極撃(ホーリースマイト)が終わるのを待った。

 

「おぉぉぉぉぉぉ……。」

 目の前に居たアイアンゴーレムとガーデンノームが蒸発していく。

 

 

「ごっ…ごほっ………。」

 目、片目が見えない。開いた目に映ったのは僕の白骨化した左手。

「苦しいか?」

「…………。」

「とどめが欲しいか?」

 苦しい。返事もできないほど苦しい。

 でも、僕は声を振り絞る。

「に、ぐん、さん。」

「何だ?」

「む…、らび、と……。」

「お前はっ!これ以上我々を苦しめないでくれ!!」

 彼の部下からもすすり泣きが聞こえる。

「何でだ?お前ほどの修道女なら高名な聖女であってもおかしくない。何でそんな姿で我々の前に現れたんだ?!我が国の聖女であれば私は喜んでお前に仕えただろうに……。」

「さ、よなら……みんな。」

 

「すきる、じばく、とっこう、かみかぜ、もくひょう、どみにおん…。」

 

 

 

続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。