B 友達
アルシェと会った次の日、彼女に興味を持った私は街中を散歩がてら彼女を探し歩いた。
「おはよう、ビンカちゃん!昨日も良かったよ!」
街を歩くと沢山の人々が挨拶してくる。
「ありがとー!今晩も来てね!」
「もちろん行くさ!仕事がはかどるよ。」
「俺は手につかねーよ!」
「じゃあいつも通りってこった。」
周りから笑いが上がった。
初めてこの港に来て以来、レイナースによると、毎日百人単位で人口が増え始めているそうだ。
仕事口は今までは貿易関係だけだったのだが、新しい住居、インフラ設備の建設を始めとして、とにかく人手が足りない。
引っ越してきた住人は貿易、建設、役所、小売り、製造、農業、飲食店ほぼ何をどうしても儲かるようになってきた。
だが今現在、レイナースの懐事情は大赤字だ。試算では3か月後には全てペイしてしまうとの計算結果が出てはいるのだが………。
私には商売なんて全然わからない。だから……。
「ガンバレ、レイナース。今日も歌ってあげるからね。」
としか言えない。でもこう言ってあげると彼女は幸せそうに笑うのだ。
かわいいのだ。
ただ、
「私がゴーレム出してあげようか?」
と言うと怒るのだ。やれ皇帝の目とかやれフールーダがとか…。
気にしすぎじゃないかな?皇帝ってそんな怖い人?噂じゃ名君なのに……。
これからも膨れ続ける人口、取引、消費に対処すべく、インフラを高ピッチで建設、敷設、増改築し続けている。それも全て借金から賄わなければならない。
しかし皇帝には頼りたくないレイナースは取引商人や両替商等から出来るだけの金を借りながら、人口増加に適切に対応していた。
ただ、財務関係の役人の話によればこれがひと段落つけば、おそらく帝国で5本指に入ってくるくらいの大都市に変わるだろうとの事だった。
朝もまだ早いのに、既に商店は沢山の食料雑貨を店先に並べ、大声を張り上げている。
あ、猫が魚くわえてった。
あ、おばちゃんが追いかけてった。
うんうん。みんな元気だねー。
良いことだ。
と、アルシェを探して宿屋やら、カフェやらを見回ってたら、カフェテラスの屋外テーブルに居る4人組の男女が目についた。
「あ、いたいた、おーい。」
「だれよ、アンタ?!」
突っ伏してるアルシェに声を掛けようとしたらエルフのおねーさんに鋭くにらまれた。
「私、カ・ラ・ビンカって言います。」
「ビンカ様!!?」
アルシェはがばっと頭を上げる。
「やっと見つけたよー。」
「だから、何なのよ、アンタは?」
「ちょ、イミーナ……。」
「すっげえ美人……。」
ダン!
「イッテェェェ!!」
悲鳴を上げた男はイミーナにつま先を思いっきり踏み抜かれていた。
「カ・ラ・ビンカさんと言いますと、昨日アルシェが会っていたという方ですね?あ、失礼、私はロバーデイク・ゴルトロンと申します。こちらでうめいているのがヘッケラン・ターマイト、私達ワーカー、フォーサイトのリーダーです。」
「イミーナよ。」
ぶすっと吐き捨てる様に言うイミーナ。
「昨日はさ、私が席外してる間に居なくなっちゃうんだもん、もうちょっと貴女と話したくて……。」
「そんな事より、アンタのせいでこのコ、今朝からひどい目にあってるんだけど!」
「ちょ、違うのイミーナ!」
「ひどい目?ごめんね、私何か変な事しちゃった?」
「あ、違います。その、このリングで……。」
「リング?」
全員にリングは見えていない。事情を知らない私以外は皆“?”になってる。
「あ、えと、ちょっとこちらへ。」
言って店の端へ連れていかれる。
「昨日このリングで気配を入れ替える様にしたじゃないですか?」
「うん。したね。」
「でも、今朝、起きて鏡見て……。」
「あーー。」
「ビンカ様、第9位階も使えるんですね?」
「あーー。」
「で、そこまで覗いてしまって…。朝から酷い吐き気に見舞われてしまったってことです。」
「あーー。」
「……………。」
「うん、ごめんね。」
「存在するかどうかも疑問であった神話の領域のさらに上。貴女様は本当にどういうお方なのですか?」
「ただの
「あの、金貨10枚払いますから、この気配を隠蔽するマジックアイテムとか、作ってもらえませんか?これでは鏡に映る自分を見るたびに吐いてしまいます。自分の顔見て吐くってどんな面白拷問ですかそれ?」
「あはははは……。」
「笑い事じゃありません!!今朝も髪をセットできなかったんですから!」
言って自分の財布を出してくる。昨日の金貨100枚はどうやら既に等分しているようだ。
うん、あの仕事状況で皆と分け合える。
私の思った通り、この子はいい子だ。
「あ、お金はいらない。」
昨日捨てようとしたリングが確かポケットに…。
「あ、それは……。」
「これをねー、こうするの。
「第7位階、第5位階をこんな人目のあるところでそんなポンポン……。またロックブルズ閣下に怒られますよ。」
「平気平気。で、指出して。」
アルシェの指を触って昨日あげたリングを触りあてると、新しく作ったマジックアイテムをそのリングに乗せる。
「
「物質変換で一瞬見えましたけどあの赤い宝石って……。」
「ルビーだね。」
「そんな超高級ジュエルを簡単に……常識が削られていきます。」
「ほら、鏡見て。」
「はい、何も見えなくなりました。ありがとうございます。でも、あの、ホントに、その、お金は………。」
「いらないいらない。あ、でも心苦しいって言うなら…。身体で払ってもらおうかな………。」
もみもみさわさわもみもみ………。
「ちょ、び、ビンカ様!!」
「び、びんかんなの?」
スパーン!!
「あ痛っ!」
イミーナにスリッパで叩かれた。
「どこのエロオヤジだお前!!」
私達はカードで遊び始めた。
魔法を使えばこんな連中、一発なのに………。
「ハイ、ビンカちゃん100連敗ーー。まいど。」
私は持っていた金貨銀貨全てを4人、特にイミーナに巻き上げられてしまった。
「うそでしょ?」
ヘッケランとロバーデイクは少し苦笑気味に、アルシェはすごく申し訳なさそうに…。そしてイミーナは“ざまあ”みたいな顔で私を見ている。
「私って、カード弱かったんだぁ………。」
「まあ、イミーナがかなり強いのは知っていましたが………。」
「ああ、容赦ねえな。」
「あの、イミーナ、いくら何でも…やりすぎじゃないかと……。」
「まあ、帰りの馬車代位貸してやるわよ。」
「あげるじゃないんだ……。」
「ねぇ、何でよーー!」
「え?あんな効果音が出てくるみたいに表情変化させてたらそりゃ勝てるわけないじゃないのよ。」
「私の表情、変わってた?」
アルシェがうんうん頷く。
「あはは、顔洗って出直して来なさーい。」
「うう…。このペタン
全員が“ギョ”とした顔になる。
「テメエ、今なんつった!!?」
どうやら地雷だったようだ…。
思いっきり踏み抜いちゃった。
「アルシェ助けて。」
「爆弾こっちによこさないで!ロバーデイク!」
「ここは、ほら、恋仲のヘッケランに。」
「何でぇ!!?」
いいーーーーやあーーーー……………。
「もう、なんか……ギャンブル止めよ。」
昼食をイミーナにおごってもらってから、私は今日の本題を切り出した。
「ねえアルシェ、昨日私、少し疑問に思ってたんだ。」
「何ですか、ビンカさん?」
アルシェもようやく様付けは止めてくれた。
「貴女なんでそんなみすぼらしいカッコしてんの?」
今まで明るかったその場が一瞬で氷水を浴びせられたようになった。
「ちょっとビンカ!人の繊細な領域に土足で……。」
「いいよ、イミーナ。音楽家だけあってビンカさんの第六感って言うか超感覚がすごいことはわかってた。」
また人をよいしょするんが上手いんだからこの子は。
「昨日会っただけなのでしょう?何でそう思うのです?」
ロバーデイクが首をかしげる。
「実は今更ごめんなさいなんだけど、昨日ビンカさんの楽屋で、何気においてあった花瓶をほんのちょっと動かしたんです。後ろ向いてたからわかんないだろうなって思ってたら、振り返った時、直ぐにその花瓶に気付いて…。偶然かなって思って色々見てないところで動かすとことごとく一度はそっちに視線を向けたんです。」
「へえぇ………。」
「って、何で当の本人が感心してんですか?!」
やっぱり思った通り、猜疑心の強い子だ。レイナースはワーカーというのはそんなものだと言ってたけど…。
「ちょっと、話がそれてるわよ。」
「あ、これだけ感覚が鋭いなら、私の事とか、少し見抜いてるのかなって。」
「って言ってるけど、どう?」
「えー、全然わかんないよー。」
「例えば私の出自とか気付いているんじゃないですか?だからそんな質問をしてきたんだと私は理解しているんですけど。」
「出自?没落貴族、とか?」
全員が言葉を失った。
「ほら、ね。」
「いや、大したことじゃないよ。仕草に気品があるなー、とか、言葉遣いとか、…初めて会った時のあの挨拶とか、ドラマでしか見たことなかったよ。」
「どらま?」
「それにたとえ安っぽい装備であってもコーディネイトは決まってるなーとか……。」
「ありがとうございます。」
「ただねー、見た感じとその外装があまりにチグハグだったから……。深いワケでもあるならさ、友達として助けてあげたいじゃん?」
「……………友達。」
「アンタ、見かけによらず良いとこあるんだね。」
「見かけって、私の見かけどういう評価なの?」
「んー、のほほんおっとり貴族?」
「凹む!」
「そんな他人の機微とか意識の外ですよー、的な。私等のカッコとか見てあざ笑うんだぜ。ふざけんな!あいつら、誰が稼いだおかげで食ってけると思ってんだ!!」
「まあまあ、話がそれてますよ。それに今やそんな貴族も大分減ってきました。」
ああ、皇帝のおかげで……。
「ビンカさん、お気持ちはありがたいのですが、私の問題は……。」
「お金でしょ?」
「単刀直入に言ってしまうと、そうです。」
「いくら?」
「……………発展し続けるのでいくらとは、これを払いきったら終わりという事はありません。」
「え?利子とか?」
うわぁ、何かサラ金って単語が目に浮かぶよ。
「利子ならどれだけ楽になるか……。」
テーブルに肘を付き、手を組んで頭を置くアルシェ。
「………これはフォーサイトの皆にも話した事、なかったのですが………。」
「いいよ。」
イミーナが優しくアルシェの肩を抱く。
「分かってたよ。親父さんなんだろ……。」
ヘッケランが沈痛に言った通り、イミーナの父親は皇帝により貴族の地位を追われ、領地も召し上げられたのに、以前と変わらない生活をしているらしい。
「………そうか、借金を返しても直ぐにそのお父さんが借金を繰り返しちゃうんだね…。」
お金を貸せば終わりって単純な話でもないか……。
それに彼女の性格からして単に貸すと言っても、はいそうですかと受け取るとは思えない。
うーん、レイナースに相談しようにも、彼女は今、この街の事で手一杯だろうし…。あ……。
「その金貸しはいつまで返済を待ってくれるって言ってるの?」
首を振るアルシェ。
「もう、いつどこでいくら借りたかもわからなくて、利子も正当なものなのかも全く判別がつかなくて……、返済もいきなり明日とか言われてみたり、2か月待つとか言われたり……。」
はうー、相当な悪徳業者に食いつかれてるねー。
フォーサイトの3人も眉間にしわを寄せている。
「なあ、アルシェ、実際今、返済を求められてるのはいくらだ?」
「……。」
ボソッと言ったその言葉に3人が驚いて席を立ったほどだ。
そして力なく座り込んでしまう。
…………。
「お父さんを見限ることは出来ない、かな?…私だったら何とか貴女と妹二人の面倒位は見れるけど……。」
「そこまで甘えるわけには………。」
「ちょっと、アルシェ!このままじゃホントに貴女奴隷として売り飛ばされるわよ。貴女だけでなく、妹たちも……。こいつ、結構稼いでるんでしょ?だったら妹達だけでも…かくまってもらいなさいよ!」
「……………。」
「だとしたらこういうのはどうだ?」
全員が驚いて声の方を見る。
レイナースだった。
私は一応馬が店の前に止まったところで気付いていたが…。大体借金の話辺りから聞いていると思うから、説明は不要だろう。
「その前に!ビンカ!!」
「はい?」
「出歩くときは私に声を掛けてくださいってあれだけ……。」
「声、掛けたよ。」
「え?」
「遠くから。……心の声で…。」
「今、心の声とか言ったか。」
うわ、聞こえてた。声低っ、怖っ!
「心からの声でって言いました。」
すう、と息を大きく吸い込むレイナース。次は雷が落ちる、その前に……
「お願い、怒らないで。レイナース、大好き。」
膝まづいて言う私の上目遣いにへにょへにょになるレイナース。
「あのー、ロックブルズ閣下、先程、アルシェの件で何か妙案があるらしいと…。」
ヘッケランの言葉に、レイナースは表情をキリッとさせ、アルシェの向かい側に座る。
「お前達にこの件を依頼する前に私がフォーサイトの事を調べさせていたのは知っていたか?」
「あ、情報屋から数件上がってたんで、それは知ってました。」
だから、レイナースはアルシェの家の状況を知っている。
「先ず現状把握からだ……。アルシェ、フルト家に限らず、貴族の家はそんな状態になっているのは少なくない。」
「はい。知っています。」
うつむいて答えるアルシェ。
「大貴族が一家離散まで追い込まれた例は枚挙にいとまがない。その状態で、私が誰かを助けたという前例を作ってしまうと、他の貴族達も私を頼って来られて迷惑千万だ。だから、私はビンカが関わろうとしなければ一切の手出しはしないつもりだった。」
「はい。」
「そして下手にお前が金を返すものだから、因業商人が搾り取ろうとしているのも理解しているな?」
「はい。」
「第一の手順として、先ずお前が大切にしている家族と使用人を私が密かに保護しよう。」
「……。」
希望に満ちた目でレイナースを見るアルシェ。
「手順、第二だ。家を乗っ取れ!どんな手段を用いても構わん。フォーサイトの面々も助けてくれるだろう。」
3人が大きく頷く。
「お前がフルト家当主になるんだ。」
「私が…………。」
「そして、両親を幽閉しろ。」
息をのむアルシェ。
「その覚悟が持てないというのであれば、この話は初めから無しだ。」
全員が続くアルシェの言葉を待つ。
「分かりました、やります!」
「ヘッケランとやら。」
「あ、はい。」
「アルシェはこう言っているが恐らく、いざとなると仏心を出してしまうだろう。お前達が冷徹に事を運ぶことは出来るか?万事うまくいけば私が報酬を出してやる。」
「お任せください!!」
信用されなかったアルシェは少し憮然としたが、他の3人は頷きあっている。
「第三。今、私は金貸しや両替、手形、金の預け引き出し、そんな貨幣流通関係をまとめた民間企業を作ろうと考えている。」
「ああ、銀行だね。」
「…銀行?」
ようやく私の発言の機会がきた。私は銀行システムを分かりやすく説明してやる。
「さすがはビンカ。その銀行を作れば私が今色々苦労している状況を一気に解決できます。」
「えへん!!」
と言っても、日本にあったシステムの受け売りなんだよねー。
「……という事だ。」
全員が首をかしげる。
「アルシェ、お前にその、銀行?の頭取?をやってもらうんだ。」
「ど、どういうことですか?」
「つまり、だ。先ずロックブルズホールの裏にある倉庫を改装して銀行というものを作る。これは発案であるビンカに手伝っていただきます。」
「うん、やるよ!」
「次いで、お前はフルト家全ての借金を先ず銀行にある資金を使って返済する。資金は自分が銀行に借金するという形でもいい。とにかく、お前が全ての借金を返済した、という形にしておかなければならない。」
「あとは、その銀行をお前が運営していくんだ。いずれ私もお前のところに借金に出向くことになるだろう。そう、こう、頭を下げてな。」
「何だか、銀行ってシステムがいまいち、よくわかんないんだけど……。」
「借金するのに金があるとか、意味分かんね。」
「でも、ビンカ様はこの銀行、上手くいくと思っておられるのですよね?」
「きっと上手くいくよ!ただ計算の確かな行員を集める必要があるし、簿記とか商業に明るい人を何人も雇わなくちゃいけないかなーー。」
「それも手伝うぜ!俺も商人の小せがれだ。計算位はお手の物だ。」
「私も神殿で読み書き計算は子供達に教えていました。」
「私は、無理かなー。」
「貴女も大丈夫。窓口にキレイどころは必要だからね。」
全員の顔に笑顔が戻ってきた。
「では計画を詰めていくぞ。これがうまく軌道に乗れば、お前達だけではない、私も、この街の市民も、商売相手の全てが喜ぶことになるだろう。」
「ごめんね、レイナース。」
全ての計画を練った後、帰り道で私はもう一度レイナースに謝った。
「いえ。人助けはガラではありませんが……、悪くありません。あの子は私もできれば助けたいとは思っていましたし。」
「ありがとう。大好きだよ。レイナース。」
ちゅ。
……………。
私が走ってロックブルズホールに帰っていくと後ろから絶叫が聞こえてきた。
「いいいいよっししゃゃぁぁぁぁーーーーーーー!!!」
続く