A 降臨
ドッ…ズ…ズゥゥゥン…………
「何だ?今のは?」
「
「自らの命と、引き換えに……。」
「自爆とか、言ってましたが……。」
「そんな魔法があるのか?」
…………。
「………帰ろう。」
「……神官長様には何と?」
「この村を守っていた聖女の献身により、全ての攻撃手段を奪われてしまった。ガゼフは取り逃がしてしまった。全て私の責任だ。」
「…ニグン隊長。」
「おい、何か………。」
爆煙が晴れてきた。
「あれは、死の神、スルシャーナ…様?」
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異世界へ転移してきて以来、モモンガは1日のほぼすべてを執務室で過ごしている。
後ろに控えているのは今はセバスだ。放っておくと常に後ろに侍っているので、4時間ごとに交代させるようにしておいた。
「モモンガ様。ニグレドでございます。」
ニグレドからメッセージが入ってきた。
「何だ?」
「つかさが何者かと戦闘を始めそうです。今まで小競り合い程度はありましたが、今回は相手に天使を召喚したものが居ます。」
「天使?」
モモンガは
「何だ?交渉しているのか?」
しばらく見ていると、彼等は座り込んで話し始めてしまった。
「さすがつかさだな。」
「いえ、この程度の敵であれば先ず力の差を見せつけて有利な条件を引き出させるモモンガ様のやり方の方が合理的かつ効率的かと。」
「フフ、しかし、私のやり方は敵を作るぞ。いくら力で服従させても、その力が衰えれば裏切る。あのような迂遠なやり方が実は最も効率的なのかもしれんぞ。」
「…………。」
「つかさのカルマは極善、400位…だったか?実はお前と気が合っているのではないか?」
「……かのお方が敵として我々を襲撃してきた事実は変わりません。モモンガ様が望まれるのであれば、直ぐにでもそっ首落としてごらんに入れましょう。」
心の中でため息をつくモモンガ。
カルマが善であると真面目過ぎるきらいがある。これはある意味、極悪な連中より説得が難しいかもしれない。
「それよりニグレドよ、こうなった経緯を説明してもらえないか?」
「はい。」
……………。
「ほう、すると大体の相場やら、人の考え方、強さ、文明程度等は把握できたということだな?」
「左様にございます。」
「すばらしい成果だぞ、ニグレド。」
「も、もったいなきお言葉。」
「よくやった。ニグレドは引き続き監視を続行してくれ。」
しばし、
「直ぐにどうこうはなさそうだな。」
仕事に戻るか………。
モモンガは
………………………。
「む。……突然声を上げ、失礼しました。」
2時間ほど経過した頃、突然セバスが沈黙を破った。
思わず
「何故
「いかん、セバス、私は直ぐにここへ向かう。直ぐにシャルティアとアルベドを来させるように。この程度の敵なら完全武装でなくてよい。とにかくスピード最優先だ!」
「はっ!」
セバスが一礼して部屋を辞する。
直後、ニグレドから悲鳴のようなメッセージが入った。
「つかさが自爆スキルを使いました。」
「愚かな!!」
モモンガは
「
つかさの身体が空中に浮きあがる瞬間だった。
その場全ての時間が氷付いていた。
「ま、間に合った…。」
「ふざけんなよ、お前!!」
時間をとめられて何の反応も無いつかさを見て、しかし言わずにいられないモモンガ。
「どうする?こんな時……。」
しばし考えてモモンガはひらめいた。そして直ぐに行動に移る。
「
モモンガは一瞬だけ時間を進め、つかさを支配し、つかさの
「どこにあるんだ?無いのか?いや、絶対持っているはずだ…。」
このコはどうやら整理整頓をしないタイプらしい。整理整頓をきっちりするタイプのモモンガにはこういう状態から目的のものを探し出すのは時間が掛かる。
「ニグレド!ニグレド!聞えているか?」
「はい。」
「つかさとこやつ等が何を話していたか、聞いていたか?」
「はい。」
「かいつまんで説明してくれ。」
つかさの
ニグレドは2時間何を話していたかを分かりやすく説明する。
「何をなさってるんですか!!モモンガ様!!」
「アルベド、シャルティア……。いいからお前達も早く手伝え。」
「は、はあ、わかりんした。」
※以下シリアス展開にギャグを挟むのを嫌う方は色反転しないでください。※
言ってシャルティアはつかさの胸をもみしだき始めた。
「な、……何をやっている?」
モモンガは思わずアゴの骨をがぱっと開けてしまう。
「(*´Д`)ハァハァ、胸をもむのを手伝うんでありんしょう?しかもわざわざこんなボロボロにして、な、なかなか燃えるシチュエーションでありんす。さ、さすがはモモンガ様。」
「ち、違うわ!!」
ゴイン!
思いっきりシャルティアの頭に拳骨を落とすモモンガ。
「違うのですか?特殊プレイとかではないのですか?」
「アルベド、お前もか?!」
「だってつかさを後ろから羽交い絞めにして胸元をまさぐってはあはあ言っておられれば……。」
「お前達、もう少し空気を読んで!!今シリアス!とってもシリアス!!」
「いいか、身代わり人形を探せ!
「身代わり人形?なぜそんなものを?」
「つかさは今、自爆スキルを使ってしまっている。それを身代わり人形に代行させる。」
「自爆!!?」
シャルティアが悲鳴のような声を上げる。
「こやつ等のせいでありんすか?」
「そろそろ
「ハイ。
「良し、………アルベド!」
「ありました!身代わり人形です。」
「よくやった!」
とろけるような幸せそうな表情になるアルベド。
「
「ついでだ。
「お前達は姿を判別できないよう、何か着るか、カムフラージュしておけ。」
「「はい。」」
二人はそれぞれ白い貫頭衣を被って口元まで隠す。見えるのは目のみだ。
「では我等は隠れるぞ。アルベド、お前は自爆時の爆炎からつかさを守れ。」
「はい。スキル・オーロラ、
「良し。」
ズ……ズウウゥゥゥゥ………
落下してくるつかさをシャルティアが受け止めた。
「
つかさの身体が一瞬で全回復した。
ついでその首に牙を立てる。
「わらわのMPを少し、送りんした。直ぐに気を取り戻すでありんしょう。」
「よくやった。シャルティア。」
徐々に煙が晴れてくる。そしてようやくニグン達は空中に浮かんでいるモモンガ達に気づいた。
「あれは、死の神、スルシャーナ…様?」
「スルシャーナ様だ。」
くずおれるニグン。
「………。」
「そうだったのですか……。全て、合点がいきました。つかさはスルシャーナ様の聖女だったのですね。」
怒り狂っていたモモンガであったが、急速に覚めていく。そしてニグンのその言葉に怒りが疑問に置き換わっていく。
スルシャーナって誰?
パリン!
中空にヒビが入ったような音がした。
「ん?攻勢防壁が作動したな…。」
「攻勢…?」
「我々、いえ、お前達なのでしょうね、下品に覗き見しようとしたのを我が君が防いだのよ。」
「覗き見?…巫女か?」
「今頃その
信用されていなかった。あれだけ尽くしてきたのに…。
つかさは少ししゃべっただけなのに全てを赦してくれた。この差は何なんだ?
ニグンの中の疑惑はこの時、決定的になった。
「……………。」
「我々は何とおろかなのか……。なぜ直ぐにこの可能性に気づかなかったのか………。本国の神官長は何も教えてくれなかった。もしや我々は本国から捨て駒にされてしまったのでしょうか…?」
「……………。」
独白始めちゃったよ。いや、便利だけどさ。
「あろう事か死の神、スルシャーナ様の聖女をそのような目に合わせるとは……。何千何万の謝罪も虚しく空に消え入るばかりでございます。」
「……そなた、名をニグンと言ったな?」
全員がモモンガの言葉に圧迫を受けたように平伏した。
「ははぁ。」
「殺してやりたい。今にでも飛び掛って喉元を食いちぎってやりたい。」
ひれ伏す全員の目に涙があふれてくる。そうされてさえ赦されない事も分かっている。
「しかし、つかさはそれを望むまい。」
ニグン含め、全員が顔を上げる。
「モモ…。」
と、シャルティアが声を上げようとしたところをアルベドが抑えた。
アルベドの意図を酌んだシャルティアは頷いて言い直す。
「我が君!つかさはわらわの直属の配下!わらわにはこやつ等を許すことはできんせん!!」
シャルティアが暴風のような殺気を放つ。
シャルティアの恐ろしさを肌で感じられるのだろう。ニグン他、30人全てが刈り取られそうな魂を必死に留める。
「許すのではない、シャ、……シャムよ。」
シャム?と、首を傾げるシャルティア。
「そうだな、こやつらを罰することができるのは直接被害を受けたつかさだけだ。我等が先走って奴らを潰す事はできん。」
「しかし…。」
「お前がつかさを大切に思っていることは分かっている。」
たぶん感覚的には自分が大切にしているおもちゃを誰かがめちゃめちゃに扱っているのを見て激怒している子供の心境なのだろうな、と理解している。
ここでモモンガはシャルティアを抱きしめ、彼女の耳元で彼女にしか聞こえないように言う。
「ニグレドを通して、今日はつかさにたくさんの情報を教えてもらえた。武技であったり、国のいさかいであったり、ものの価値やら人の考え方、そう、色々だ。」
それだけでシャルティアの殺気が幸福感に置き換えられていく。対してアルベドがハンカチを噛み千切らん勢いだ。
「その情報をもたらしたつかさの成果に私はとても満足している。しかしつかさには褒美を与えられぬから、その権利は全て上司である、お前のものだ。その権利をお前は自ら棄てるというのか。」
「あ、あの、その、……いいえ。」
「いい子だ。」
モモンガがシャルティアの頭を撫でると、これ異常ないくらい頬が緩んでしまう。
対してアルベドの顔芸が面白いことになってはいるが………。
「よろしい。では、お前達の処分であるが、その前に……。」
「
「……何とも下等な…。お前達、この呪いの事は知っているのか?」
拘束、もしくはそれに順ずる形で質問をされ、3回以上その問いに答えると発動する死の呪い。
ニグン以外誰も知らなかったようだ。隊員に動揺が広がる。
「まったく…。シャム、解呪してやれ。」
………。
「貴女の事よ。」
「あ?ああ、はい。
隊員にはその存在さえ知らされていなかった呪い。目の前の死の神は一瞬でそれを見破っただけでなく、あっさり解かせてしまった。
「さて、では改めてお前達に処分を言い渡そう。」
「生きて、お前達が殺してきたむこの民の数々、それ以上の命を救え!」
「スルシャーナ様……。」
「誰がこう言うか、もうお前達なら分かるな?私はそのものの意志を尊重しよう。」
「…はい、……はい。」
ニグン達は頭を地に押し付ける。
「行け。これからどう生きるか…、見ているぞ。もし、つかさの心を踏みにじるような事をしたとき、その時こそ我は貴様等を……。」
「スルシャーナ様……。」
「それから、私はスルシャーナとやらではない。」
「我が名を聞くが良い。我が名は
アインズ・ウール・ゴウン。
アインズと呼ぶが良い。」
ニグン達はモモンガ改め、アインズの方を何度も振り返りお辞儀をしながら去って行った。
「つかさ!!」
振り返るとガゼフが息を切らしてアインズの方へ駆けてきていた。つかさが瀕死になったことでピノキオは消えてしまったようだ。
「お前は……。」
「無礼者!!」
「やめよ。」
アルベドのバルディッシュはガゼフの首の皮一枚を切っただけに止まった。
一礼して下がるアルベド。
ガゼフは冷や汗をかく。王国戦士長たる自分が全く反応できなかった。
「ガゼフ・ストロノーフだな。」
「貴方は、唯のエルダーリッチではなさそうだが……。」
「無礼な!このお方をあんな下賎なものとなぞらえるとは!!」
シャルティアが手を振るだけでカマイタチが発生し、ガゼフの足元をえぐった。一瞬で頭に血が上り、言葉遣いも廓言葉ではなくなってしまった。
「つかさ、無事なのか?!」
「ガゼフ。私はお前もぶん殴ってやりたいと思っている。」
「うぐ、すまない。」
「とにかく、まずつかさをカルネ村へ連れて行こう。」
「待ってくれ、貴殿のその姿はまずい。村人がおびえる。つかさの立場が悪くなる。」
「そうなのか?」
ならばと、アインズは骨の部分を仮面とガントレットで隠す。
村へ着くと、村人がつかさの周りに集まる。
ネムとビッキーそしてエンリが泣き付いてくる。
「つかさお姉ちゃん、死んじゃったの?」
「いや。気を失っているだけだ。」
「我が村の恩人をありがとうございます、えっと、あの……。」
「アインズ・ウール・ゴウン。アインズでよい。」
「ありがとうございます、アインズ様!」
エンリが何度もお礼を言うその肩をつかんで止める。
「元々つかさは私の友人なのだ。助けるのは当たり前。」
アインズはつかさのために涙するエンリに好感を覚えていた。
「さて、村人の皆さん、もうしばらくこの村を襲ってくる連中はいなくなる事だろう。」
「おお。」
「そこで頼みがあるのだが、村民の皆さん、つかさをこの村に置いてはくれないだろうか?確かに吸血鬼ではあるが、人となりは今まで皆さんが見てきたとおりだ。」
村人達に反対する声は全く無かった。
「よかった。では私はそろそろ帰ろうと思う。」
シャルティアは今朝の神殿につかさを連れて行った。
「えっと、君は…。」
「エンリです。」
「うむ、ではエンリ、これをつかさに渡してやってくれ。」
「……?これは?」
「グリーンシークレットハウス。使い方はつかさが知っている。」
「はい。確かに受け取りました。」
「ありがとう。ではそのお礼というわけではないが……、これを君にやろう。」
「これは?」
「ゴブリン将軍の角笛と言う。吹けばゴブリンの群れが現れ、君の命令を聞いてくれるだろう。次に何かあったとき、それで身を守るがよい。」
「ありがとうございます。」
「最後にゴウン殿、一つ聞かせてもらえないだろうか?」
ガゼフは村に着く前に少し話をしてたが、謎ばかりで何も分からなかった。
そして付き従う二人の女戦士は自分よりはるかに強いとわかる。これはただ事ではない。
「何かな?」
「つかさをヴァンパイアにした
「知ってはいる。しかし、私には彼女は倒せない。できたとしても我々もただではすまない。」
「貴方達でも倒せない、そんな強いヴァンパイアがいるのか?」
「つかさはこんな状態になる以前はもっと強かった。そのつかさが手も足も出なく、逃げるしかなかった…。そういうことだ…。」
「ありがとう、教えてくれて。ゴウン殿、もし王都に来ることがあったら私の家を訪ねてくれ。心から歓待させていただく。」
用意しておいたのか、住所が書かれた布切れが手渡された。
「言っておくが、私はまだお前の事を許していないのだぞ。」
「そこで謝罪も合わせてさせてくれ。」
「………縁があればな。では皆の衆、さらばだ。」
二人の従者を連れ、アインズは暗闇の中へ消えていった。
続く