B 謀反
工事中、立ち入り禁止の看板。
私達は先ず一晩の突貫で銀行らしきものを作った。
私にあてがわれた任務は金庫室の作成。地下に作るからスパイの目も届かないだろうから。
私は先ず穴掘り名人ジャイアントシェルを5体召喚して大きな地下空間を作った。
そして四方の壁と床、天井を錬金スキルで、物質変換。壁の一角をオリハルコンナイフで切り裂き、入り口を作る。後は鍵を取り付ければ完成だ。
「これ……。一晩で作ったの?」
「アンタ、ただの
「昨日の歌も凄かったですが、これは常軌を逸しています。人間業ではない。」
アルシェ達は突貫で作られた金庫室を見て度肝を抜かれたようだ。
「私的には歌の方を褒められる方が嬉しいんだけどなぁ。私のいた世界じゃ錬金術師と名がつけば大抵はこのくらいできるもんだったんだよ。」
でも皆信用してくれない。
「噓だろ?この壁何でできてるんだ?金属みたいだが……。」
コンコン壁を叩くヘッケラン。
「あー、それねー、コンクリートとセラミック、チタンの三重構造。」
「ちたん?せらみっく?」
「火事に強く、銀行強盗も受け付けない優れものだよ。」
「お前達、そろそろ出ないと窒息するぞ。ここは換気がされていない密閉空間なのだからな。」
レイナースが階上から顔を出す。
「おお、そうだったそうだった。」
金庫に入るのは結構命がけなのだった。
「これであらかた銀行の形にはなったな。」
「一日でこんなものを作ってしまうとは……。俺たち棚とか机とかカウンターとか椅子とか運んでただけなのに………。」
ヘッケランはさっきから驚きっぱなしだ。
「しかもビンカさんは隣で一晩中歌い通していたというのに………。」
はい。昨日もノリノリでした。楽しかったです!!
「ここまでくると化け物ね。」
「貴様、私のビンカの悪口は許さんぞ。」
レイナースが腰の剣に手をかける前にイミーナは両手を上げた。
「女神様と言いました。」
言ってねーだろ。
「む、そうか。」
だまされるな、レイナース。ほら見て見て、私に向かってベロ出してる!
「本当は、私に信用のおける人間がいればお前達にこのような事はさせなかった。」
「ロックブルズ閣下……。」
「ビンカの力、見たろう?本当に、神の御業と言われても誰も疑うまい。」
「私はうたがうまい。」
「私は今まで一人で守るつもりでいたのだが…。」
スルーした!!私の渾身のギャグがスルーされた!!凹む!!
「味方が欲しいんだ。」
「ロックブルズ閣下……。」
「これから私は皇帝と戦わなければならなくなるだろう。ただでさえ勝てるかわからんのに、その時後ろから撃たれる訳にはいかない。」
「大体、言わんとしてることはわかったわ。銀行を作るところを見せたのは私達を試す目的もあったってところね?」
「もし、閣下のお眼鏡に適わなかったら、殺されてたって?」
「そこまではせんよ。ビンカが怒るだろうからな。」
言ってレイナースは私の手の甲に頬を当てた。
「お前達は私の噂とかも調べたのだろう?」
「はい、この仕事を受ける時に…。」
「ひどいものだったろう?」
「いえ、そんな……。」
「そしてそれは真実だ。」
……………。
「家族の為、民の為、皆の為、一身に呪いを受けた私を、家族は捨てた。民は捨てた。婚約者は捨てた!16の小娘が世界に絶望するには充分過ぎた。」
吐き出すようなレイナースの声。
「絶望した私は人との関りを自ら断った。気づけば私の周りに居たのは金、権力、損得、そんなものに寄って来るものだけだった。」
「ビンカに出会う前まではそれでよかった。必要ともしていなかった。」
「だが、今、私は必要としている。金、損得、そんなものに縛られない味方が…。」
「金、損得を目当てに寄ってきた連中はビンカをどうするか………。想像しただけで震えがくる。」
私の腰辺りに抱き着いて実際子供の様に震えているレイナース。
「だから私はこの機会に飛びついた。お前達は友達の為なら我が身を掛けられる得難い人材だ。私を助けてくれとは言わない。ただ、お前達の友達を、ビンカを守ってやってほしい。この通りだ。」
言ってレイナースは膝まづいて皆に頭を下げた。
ヘッケランがレイナースの両肩を掴んで下げていた頭を上げさせる。
「これから俺らの妹を助けてもらうんだ。受けた恩は俺達は忘れねえ。」
「アタシにとっては友達ってよりカモだからね。誰かに食わせたりしないよ。」
「この街に来た時から、私達は唖然としっぱなしでしたよ。噂なんて当てにならないと。貴女は間違いなく、名君であり、慈愛にあふれた聖女です。」
「私はビンカさんの
やばい。
涙が………。
くそ、泣かすなよ、レイナース。
「おい、真珠………。」
その日以来、ワーカー、フォーサイトは耳に真珠のピアスがトレードマークになった。
帝国は先進的な国になってはいる。しかし未だ法律や思想が成熟してはいない。
よって、破産制度などは無いし、借金の救済等は無きに等しい。
「なら、戦争しか無いってね!」
「ちょっとヘッケラン、殺しに来たんじゃないからね。」
アルシェの屋敷に私達は侵入した。
というか、
「分かってるよ。」
「中の様子探るからちょっと静かにねー。
ぴょこん。
「ちょ、やだ、何コレ、超カワイイんですけど……。」
「え?そう?じゃ、オマケ。
ボン。
「ぴょん。」
ヘッケランとロバーデイクは鼻血をだした。
「何?その男に媚びた痴態は?」
「アレアレ?おかしいな。かわいいって言うから頑張ったのに。何で急転直下?」
「かわいいです。」
「いい子ね、アルシェは。」
「いいから中の会話を聞くんでしょ。」
ああ、そうでした。
もふもふ。
「気持ちイイ。」
アルシェが私の前足をもふもふしてる。イミーナもつられてもふもふしてきた。
ヘッケランがもふもふしようとしたらイミーナにぶっ飛ばされた。
「あ、どうやら例の悪徳商人がいるみたいよ。……何か、売りつけようとしてるみたい。」
「踏み込むよ!これ以上借金を作られてたまるもんですか!」
「おい、ちょっと待て、手順と違うだろうが!先ずビンカさんに土地建物の権利書と、フルト家代々の当主の証、それと家族………。」
「うっさい!そんなの後で何とでもなる!」
イミーナが商人と話し合ってる現場に踏み込む。
「ああ、もう、ビンカさん、家族の保護をお願いします。」
「うん。分かったよ。行くよ、アルシェ。」
「はい。」
「いくぞ、ロバーデイク。」
「ええ。」
「そこまでよ!」
窓を蹴破ってイミーナは乱入した。丁度借用書にサインする直前であった。
「あっぶな!また借金作るとこだったよこいつ!」
「な、何者だ!貴様ら!ここが大貴族フルト家の邸宅と知っての狼藉か!?」
「ああ、知ってる知ってる。それよりおっさん、コレいくらで買おうとした?」
「き、金貨20枚だが。」
「ぼるねえ、嫌みヒゲ。」
「嫌みヒゲ……。」
「こんなもん金貨2枚がせいぜいだぜ。それでも高いくらいだ。」
ズバリ相場を当てられ内心狼狽するが、そこは商人。ポーカーフェイスを貫く。
「盗人が何を言うのです?!」
「お前らが売るものなんて盗むだけ損するわ!おいフルトのおっさん、こういうの買うんだったら少しは目利き勉強しろ!」
「何を………。」
「アンタらのせいでアルシェがどれだけ苦労したと思ってんの!?」
「なるほど、そういう事ですか。あの小娘、金を返しきれなくなってとうとう踏み倒す算段に出たという事ですな。」
商人が指を鳴らすと、扉の向こうから5人の屈強そうな男が現れた。
ヘッケランは舌打ちする。
「ヘッケラン、彼等は我々よりランクが上のワーカー……。」
「分かってるよ。とりあえず時間を稼げ。」
「クー!ウーレ!」
「お、お嬢様?」
扉を開けて出てきたのは執事の男。
「ジャイムス、クーデリカとウレイリカは何処?」
「奥方様と、奥で……。」
「そう、ありがとう。ジャイムス。」
奥に行こうとしてアルシェは振り返った。
「今までありがとう。フルト家はもう終わるわ。」
「……は?」
「フルト家は終わる。終わってた。でも、今日で終える。私が畳む。」
「お嬢様。」
「ジャイムス。私に付いてくるなら、面倒を見るわ。私がここに戻って来るまでに決めて。猶予はあまりあげられない。ごめんなさい。」
あっけにとられてる。
………私の姿にじゃないよね?
扉を開けると夫人が本を読んでいた。
イミーナが嫌いそうなのほほんおっとり貴族だった。
「あら、お帰りなさい、アルシェ。そちらはお友達かしら?」
「はじめまして。私、カ・ラ・ビンカって言います。」
「あらあら、ご丁寧にどうも。わたくし……。」
「あー、うさぎさんー。」
「おねえちゃんがうさぎさん連れてきたー。」
「はい、こんにちはー。うさビンカちゃんだよー。」
私が子供達の相手をしている間にアルシェは夫人に説明を始める。
……………。
「えー?港町へ行けって?嫌よ、帝都でないと社交界の流行に後れるし、舞踏会にも行けなくなるじゃない。」
「お母さま!フルト家はもう皇帝からは見捨てられてます。そんなものに呼ばれることは今後一切ありません!それどころかもう帝国は貴族の支配する国ではないのです。」
「そんなことないわー。この国は貴族が動かしていかないと外交、経済は回らないものなのよ。農奴達だってどうやって生きていくの?」
「そんなカビの生えた制度……。」
ズウン!
「今の振動……。」
「始まっちゃったみたいだね。計画より随分早いねぇ。」
「イミーナが逸るから……。」
「一気にやっちゃうわよ。」
私は子供二人を小脇に抱えた。
「お願いします。」
「お母さま!」
「いやったら嫌なの!」
「説得は無理みたいね。」
「はい。」
「じゃ、計画第二弾にしちゃうよ?」
「お願いします。」
「じゃ、
一瞬だった。
びっくしりた。こんな魔法が効く人ユグドラシルにも出てこなかったぞ。
同じく母親も子供部屋に放り込む。
フォーサイトは頑張っていたが数も力も相手が上手。防御一辺倒で手詰まりであった。
「きゃあぁぁぁぁ………。」
とうとうイミーナが手傷を負わされた。
もともと弓兵の彼女に屋内の近接戦は分が悪すぎる。
「恨むなよ。死ね!」
イミーナは突き出された剣を手のひらで防ごうとした。
痛みを覚悟で歯を食いしばる。
ガキン!
「………は?」
剣を突き出した男、そしてイミーナは意味が分からなかった。
剣はイミーナの手のひらで止められていた。
「おっ待たせー。」
「ちょ、何コレ?!私の手のひらが剣を止めてんだけど!!」
「ただの
「うさぎ?」
敵の男が首を傾げる。
「うさぎだ。」
「バニーガールだよ!!」
何よ、この世界にはバニーガールはいないの?
全員があっけにとられている間に、フォーサイトは体制を立て直す。
「
「サンキュ。」
「イミーナはさ、ボウガンとか使える?」
「弓兵なめんな。そのくらい使えるよ。」
「じゃあ、これ使って。アイシクルボウガン。」
「こんな良いもん持ってんなら初めから貸してよ!!死ぬとこだったじゃない!!」
「いやだってどんな戦場か知らなかったから……。」
「おーい、お前等こっち、そろそろやばいっての!」
何気にイミーナはアイシクルボウガンをヘッケランの目の前に居る男に向けて撃った。
「が……。」
一瞬で男の上半身が凍り付いた。
「ちょ、何コレ!!?」
慌てるイミーナ。
「だからアイシクルボウガンだって。」
徐々にアイシクルボウガンの威力を理解してきたイミーナが悪い顔になっていく。
逆に青くなる敵。
その後は一瞬だった。
アイシクルボウガンの弾はイミーナのMPを消費して撃つものだから、装填に時間が掛からない。
足を狙って撃って、跳んだ所を狙い打って二人目。
盾で防いだその盾ごと、肩まで凍り付かせてロバーデイクの槌の一撃で三人目。
最後の一人は逃げる背中に三弾ほど当てられた。あれだけ圧倒されていた連中を一瞬でイミーナが一人でやっつけてしまった。
「……。ねえ、死んでないわよね?」
「さすがに殺しはやばいよな。」
「死んでないでしょ。直ぐに解凍すればだけど。」
との私の言葉に慌ててロバーデイクが解凍するのであった。
「さて、おとっつぁんよ、フルト家伝来の当主の証、出してもらおうか。」
「何だと?それをどうするつもりだ。」
「お父様、貴方にはもうフルト家は任せられません。今後は私がフルト家を差配します。」
フォーサイトの面々に隠れていたアルシェだったが意を決して前に出る。
「貴様!気でも狂ったか?」
「私が狂ったことをしているのは分かっています。でも白昼夢を見ている人にはもう任せておけないのです。貴方には隠居してもらいます。」
「ふざけたことを抜かすな!誰のおかげで貴様が今日までやって来られてたと思っているんだ?!」
「今日まで我慢したんです。今後はお父様方に我慢してもらいます。」
「お嬢様……。」
「説明する手間が省けたわ。ジャイムス、貴方はどうする?今日から私がフルト家当主よ。」
「わたくしはフルト家の執事でございます。お嬢様、当主アルシェ様の下で働きとうございます。」
その言葉に父親が怒りに顔を歪める。
「分かったわ。貴方の家族全員引っ越しの準備をさせなさい。ロックブルズ閣下の領地、その州都が新しい住居になるわ。街の中央にロックブルズホールがある、その隣のフルト銀行の一角が私達の新しい屋敷よ。当面の引っ越しの費用よ。足りなかったらまた言いなさい。」
言ってアルシェは革袋に金貨10枚を入れてジャイムスに渡した。
「はい。充分以上でございます。感謝いたします。」
「貴様………。」
「おとっつぁんは早くフルト家当主の証を出しな。」
「フン。誰が……。」
「あったよー。」
「はい。これで貴女が今日からフルト家、当主だよ。」
「お家騒動、これにて完結ってな。」
「おめでとう、アルシェ。」
「ふざけるな!フルト家は俺が……。」
「
わ、びっくりした。すり、位で寝た。さっきの夫人よりさらに魔法抵抗が低いよこの人。
私達は直ぐに銀行に取って返し、直ぐに土地建物を担保に入れた。
そしてアルシェは金庫から金貨2200枚を出してくる。
「ヘッケラン、土地建物の評価額は?」
「多く見積もっても1800枚だな。」
「分かった。じゃあ、私自身を担保で2200枚。」
「初の貸付客が頭取自身とはね。」
「しかも自身が担保入り。破たんさせないよう頑張りましょう。私も、この銀行で金を借りて自分の神殿と孤児院を建設する予定ですので。」
そんな事夢見てたのかロバーデイク。
アルシェはお金と真実の鐘を持って交渉に出かけた。真実の鐘は私が作った嘘を見分けるアイテムだ。
基本、交渉はアルシェのみで行った。
因業商人達はやはり一筋縄ではいかなかったが、あまり聞き分けのない連中は私が
全てが終わったころには陽が傾いていた。
「終わったな。」
「その代わり、銀行に借りたお金2200枚もあと金貨6枚です。」
「ちょうど私達の人数だね。」
「本当にね。」
「……………。」
………?
「アルシェ。」
「………うぐ。…うう。」
私とイミーナでアルシェを抱きしめる。
「うわああぁぁぁぁぁん………。」
張りつめていた緊張がようやく解けたのだろう、アルシェは大声で泣き始めた。
「
まだ帝都の賑やかな一角だ。周りの目もある。ヘッケランとロバーデイクが周りから見えないように、死角になるように立つ。
「……うぐ、ひっく、…ひっく、……。」
ようやく落ち着いてきた。
「皆、ありがとう。」
アルシェはゆっくり確かな足取りで立ち上がった。
泣きはらした目を隠しもしない。
「ビンカさん。」
「何?」
「この金貨、一枚づつ、今日の記念品に変えられませんか?」
「………へえ。粋だね。そういうの好きだよ。」
私は金貨をサファイアに物質変換すると、自分以外のサファイアに疲労無効の効果を付与させた。
このままだと誰かに盗まれるかもしれないことを学んでいた私はそれぞれ刻印を押して、彼ら以外が装備すると壊れる様に細工した。
ヘッケランとロバーデイクはそれを腕に埋め込んだ。ヘッケランは外側、ロバーデイクは内側に。
イミーナはピアスにした。エルフは耳が大きくて良いね。ハーフだけど。
レイナースは心臓の上に埋め込んだ。常に共に、という事らしい。
アルシェは何と、瞳の中に入れてくれというのでかなり慌てた。失明したらどうしようとドキドキしたが、何とか成功した。何て無茶する子だ………。信頼してくれるのは嬉しいけれど…。
ただ、左右の目の色がよく見ると微妙に違っているんだよね。ぱっと見一緒の色ではあるのだけど………。
まあ、それで何で目に同化させてくれって言ったのか分かったけどね。
ちなみに、あの時イミーナに貸したアイシクルボウガンは借りパクられた。
本人は私がカードで負けた分の担保だと言い張ってるけど…。
まあいいや。
続く