カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

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第17話

A 出勤

 

 

 

 ナザリックでバイトの初日。

 僕はリクルートスーツに身を固めドレッサーの前に立つ。

 何故か、初級道具創造(エレメンタリークリエイトアイテム)では男物が作れなかった。

 特にパンツは全部女物になってしまうので、トランクスならどうだと作ったらスパッツになってしまう有様。

 そして作ったフォーマルスーツ。藍色のブレザーに、タイトスカートだった。

「なんて歩きにくい………。」

 歩きにくいと言えば、靴は黒のパンプス。今日、5回は転ぶだろう自信がある。

 

 僕はカルネ村に隣接する形である森の中へちょっと入ったところへ、モモンガさん、じゃなくてアインズさんにもらったグリーンシークレットハウスを建てた。

 いくら村で過ごすことを許されても、吸血鬼のいる村という悪評は困るだろう。

 この辺りの事は村人全員に周知徹底した。

 僕の事は誰に聞かれても絶対話さないこと。

 

 

 昨日、3体のガーデンノームを呼び出し、水飲み鳥の示した水脈のある場所を掘らせた。水脈に直ぐ当たり、ポンプを取り付けて、上水道は完備できた。

 今日、アルバイトから帰ったら下水道工事をするつもりだ。

 ライフラインはまだ上水道のみという安住の地としてはまだまだの状態だ。

 

 

 転移人形に魔力を吹き込むと、視界が暗転し、ナザリックのメイド控室の一角に設置された転移部屋に送られた。

 さて、向こうの部屋には誰が?

 プレアデスにはいて欲しくない。たぶんシズとユリ以外、毛虫を見るような目で見られるだろう。

 ノックをする。

「しつれーしまーす。」

「お、つかさくんっすね!」

 控室の畳の部分で寝っ転がっていたのは確か……。

「おはようございます。ベータ先輩。」

 とりあえず敬礼。

 きょとんとしているのは恐らくプレアデスのルプスレギナ・ベータ。

「先輩っすかー。いいっすねー。」

 ルプスレギナが肩を組んできた。

「おい、つかさくん!コーラ買って来い、10秒で!!」

「はい!自販機どこですか?!」

「はっはっは、ノリ良いっすね。結構、結構。」

 ルプスレギナは僕の肩をバンバン叩いてくる。

「じゃ、サーバーのある場所を教えておこうか。」

「よろしくお願いします、先輩!」

「ルプー、アインズ様に命令された事と、違う。」

 いつの間にか背後に揺らめく怒気をまとったシズが立っていた。

「あ、シズちゃん。おはよう。」

「おはよう。つかさ、ルプーはほっといて良い。」

 言ってシズは僕の肩を抱いているルプスレギナの手を払う。

「つかさが来たら、連れてくるよう、アインズ様に言われている。」

 よかった。この娘なら間違いない。

 シズは僕の手を握る。

「ついてくる。」

「うん。よろしく。」

「つかさくん、またね~。」

 結構辛辣にシズにあしらわれたのにルプスレギナは全くこたえない。

 

「あら、シズちゃん、今日はご機嫌みたいね。」

 目の前から普通の女性に見えるメイドが3人現れた。

「………。」

「やっぱりご機嫌だわ。」

 え?今の反応のどこにそんな要素が?何の表情の変化も動作の変化もないというのに。

「もしかしてその娘が?」

「シズちゃんの想い人?」

 キャーーー。

「……………。」

 何だろう?普通の女の子達みたいだ。

 あ、いや、人形師(エンチャンター)のセンサーに引っ掛かる。この子達は、ホムンクルスか…。

 

 程なくしてシズが大きな扉の前に立つと、ノッカーを鳴らす。

 大きな扉が音もなく開いた。

「………。」

 現れたのはがっちりした体格の老人だった。

「つかさ、来た。」

「…少々お待ちください。」

 あの人苦手なんだよなー。目つき鋭すぎ。うかつなこと言っただけでぶっ飛ばされそう。冗談も通じなそうだ。

 

 しばらくして、両開きの扉が開かれた。

「よく来たな、つかさ。」

 アインズさんが声を掛けたところで僕はお辞儀をする。

「過日は危ないところを助けていただいたそうで、本当にありがとうございました。」

「礼には及ばん。アルバイト採用して初日を迎える前に死なれてはかなわんからな。」

 しかし、

 と、ずいっと僕の方へ骸骨の顔を近づけてくるアインズさん。

「二度と自爆など使うなよ!」

「あ、はは……。」

「後でニグレドにも礼を言っておけ。」

 はい、落ち着いた後、ニグレドさんにお礼に行きました。

 ものすごくびっくりしました。誰も何も教えてくれないんですもん。

 あんなギミックがあったなんて…。

 たぶん遠視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)で見ていたアインズさん、大爆笑していただろうな…。

 

「さて、では君に任せたい仕事なのだが、場所を移動しよう。」

 言って席を立つアインズさん。

「セバス、アルベド、これよりはつかさと二人きりで大丈夫だ。」

「し、しかし…。」

「お供は一人はお付け下さるよう…。」

「今から行く場所は宝物殿だ。あそこには私が作ったNPCパンドラズアクターが居る。強さもお前達に引けは取らん。」

「ではせめて宝物殿の入り口まで……。」

「良いだろう。とは言え、アインズ・ウール・ゴウンのリングで転移するだけだがな。」

 アインズさんは僕の手を取ると、指輪の力で転移した。

 

 アルベドが次の瞬間同じ場所に転移してくる。

 宝物殿。

 というより僕の目には金貨の山にしか見えない。しかもこれで全部ではないという…。圧巻だ。

「アルベド、お前はもう戻ってよいぞ。」

「いえ、アインズ様、ここで待機することをお許しください。」

「まあ、良かろう。」

 アインズさんの後を僕はついていく。

「え?あ、あれ?」

 部屋に入ると、そこに座っていたのはアインズさんであった。

 横にもアインズさん。

「パンドラズアクター。お前に助っ人を連れてきたぞ。」

「パンドラズアクター?」

 見れば、座っていたアインズさんの姿が変わっていく。

 

 軍服を着たゆでたまご。

 それがグレータードッペルゲンガー、パンドラズアクターの第一印象であった。

 

「ああ、我が創造主よ、ありがたきご厚情痛み入ります。」

「つかさの事は以前メッセージで伝えた通りだ。」

「ああ、助っ人とはそのかたでしたか。」

 ん?ナザリック所属のほとんどは僕の話を聞くと殺気だとかものすごいものなのに…。

「あの、僕を殺したいとか思われないんですか?」

「は、興味ありませんな。」

 言い切ったよ、この人。しかも顔を明後日の方へ向けてる。

「アインズ様のご様子では随分楽しまれたご様子。であればむしろ喜ばしいことではないですか。」

「はー、ここにも色んな考えの人がいるんですね。」

その通り(ゲナオ)!」

 ゲナウ?

 

もしかしなくても、(シュプレッヒェンズィ)ドイツ語ですか?(ヴァシャインリヒドイチュ)

おや?(ヴァス) 分かるのですか?(ファシュテエンズィ)

まあ、大学で選択してましたから。(ナヤイヒシュテュディァテドイチュウニ)

おお…、おお、さすがはアインズ様(ヴィヴンダフォルマインヘル)同僚は(マインカンマラーディンハット)私の切望するドイツ語の(ディフェーイヒカイトデスドイチェス)能力がおありだ。(ディイヒゼアヴンシェ)

「………ちょ、お前ら……。」

 何故かうろたえて居るアインズさん。

ホントさすがアインズさん!(ヤヴォールトールヘアアインズ)この世界にきて(イッヒデンケダス)ドイツ語話せるなんて(イッヒインデアヴェルトカイネ)思ってもいませんでしたよ!(シャンセドイチュツーシュプレッヒェン)

つかさ殿、この後(ツカサゲエンヴィアナーハデムアルバイト)飲みにでもどうです?(ツザンメンツトリンケン)

いいですね!行きましょう!!(ヴァルームニヒト)

 はっはっはっはっは……。

 

 僕とパンドラズアクターは拳骨を食らった。

 えぇ?何でぇ?

「お前等、俺のいる前でドイツ語禁止!分かったか!?」

「「えぇぇぇぇ………。」」

「分かったか?」

 骸骨が迫ってきた。

「は、はい。」

ハイ!(ヤヴォル)

 パンドラズアクターはもう一発食らった。

 

「全くもう、お前達にやってもらうのは早い話、資産管理だ。」

「資産管理……。」

「この世界にきて色々情報を手に入れたが、どうやらユグドラシル金貨は流通していないようだ。」

「そしてここにある金貨はトラップやらナザリックNPCの運営費用で日々減り続けている。今現在、どのように減り続けているのか、そして増やしていくことが可能なのか、お前達に管理してほしいのだ。」

「なるほど。」

「そして、これも重要なのだが、ユグドラシル金貨とこちらの世界、とりあえずは王国の金貨でいいな、これの為替制度を確立してくれ。」

「さすがはアインズさん。微に入り細を穿つ智謀です。」

 何気にパンドラズアクターが誇らしげだ。

「さて、一応資金を管理するのであるから、名義やら職権というものが必要になってくるだろう。ともすればアルベドやデミウルゴスの活動資金の凍結とかもお前等の権限に入ってくる。」

「ちゃんと立場を与えて置かんとあの二人はまだしも他の連中は“力で押し切ってしまえ”と考える連中も少なくないだろうからな。」

「恐らく、シャルティア様は僕に相当無理を言ってきそうです…。」

「シャルティア様って…まあいいけど、まあそんなわけで、現在ナザリックに役職等は無いのだが、暫定、パンドラズアクターは財務長官、つかさを事務次官に任命する。」

「事務次官?アルバイトでですか?」

「そもそもが大統領付きの事務次官などアルバイトみたいなものだ。給料も相応に出す。」

「あ、では給料は王国金貨でもらっていいですか?」

「構わない。では直ぐに為替を確立してくれ。」

「承知しました。改めてよろしくお願いします。長官。」

「こちらこそ。」

 僕等はがっちり握手するのだった。

 何だかナザリックで初めて気の合う人に会った気分だ。

 

「何だろう?つかさ、パンドラズアクターを見てどう思った?素直に言ってくれて構わない……。」

「え?そりゃ、初めて見た時アインズさん二人になってびっくりしましたよ。」

「いや、その後。」

「その後……軍服かっこいいな、とか…。」

「おおう…。他には?」

「そりゃゆでたまごみたいな頭は初めはちょっと引きましたけど、慣れてみるとなかなか味がありますし………。」

「おお、さすがつかさ殿。その境地にもうたどり着くとは…。」

 一回転して手をシャンデリアに向けるパンドラズアクター。

「いや、例えば……そう、こういう、仕草とかは?」

「?……ああ、そういう事ですか。だって、彼、役者(アクター)なのでしょう?僕、元はバレリーナですよ。」

「あ………、ああ、コッペリア、………ああ、ああ、なるほど。類友、は違うか……。同じ穴のムジナ……も違うか……。そんな感じなのか………ちょっと心配してたけど………。」

 笑い出した。

 何がツボだったんだろう?

 

 

 ともかく、僕の仕事は決まった。

 財務次官。アルバイトのはずが結構な重職だ。

 さて、まずは経理関係から始めなければ。

 

 僕が考えていた経理とパンドラズアクターが考えていた経理の相違点が結構あったので先ずすり合わせの為に僕等は大図書館へ向かった。

 パンドラズアクターは今日初めて宝物殿から外へ出たそうだ。

 宝物殿には留守番浄瑠璃人形、左衛門尉、右衛門佐を置いておいた。異変があったら直ぐに連絡が入る仕組みだ。

 

 

 大図書館で大体4時間ほど話し合った後、我々はナザリックにあるバーへ向かった。

「なかなか、充実した時間だったね。」

 とりあえず、二人ともビールで乾杯する。

 口調もフランクで良いと言うので崩させてもらった。

「ところでつかさ殿、アインズ様の話とか聞かせていただきたいのですが。」

「アインズさん?」

「我々には神であるアインズ様でありますが、外での噂は聞いたことがありません。その話を聞きたいのですよ。」

 

「そうだね、簡単に言えば、ユグドラシルの曹操かな。」

「曹操?おお、三国志演義の曹操ですか?」

「ここにはナザリックの孔明って呼ばれる人、いたじゃない。」

「ぷにっと萌え様ですね。」

「ほとんどあの人の罠で僕はここに縛り付けられてしまった……、ってうわあ。」

「続ける。」

 

 いつ忍び寄ったのか、シズが僕の膝の上に乗ってきた。

「え?」

「話、続ける。」

「ああ、うん。」

「マスター、いつもの。」

「はい。」

 マイコニドのマスターが何やらピンク色のドリンクをシズの前に置く。

「ぷにっと萌えさんは本当に孔明みたいに的確な罠を仕掛けてくるから、力や魔法で恐れられていたたっちみーさんやウルベルトさんとは別の意味で恐れられていたね。」

「それで、アインズ様は?」

 どうやらパンドラズアクターにはその一点が重要なようだ。

「今までアインズさんと話したけど、やっぱり曹操みたいだって思うよ。ちょっと違うのは暴君的、独裁者的では無いことかな。」

「冷静に、最も合理的な方針を素早く決める判断力。」

「ええ、ええ。」

「カリスマ性、求心力にあふれる魅力。」

「おお、なんと、なんと、素晴らしい!」

「そして何といってもあれだけの曲者ぞろいのナザリックをまとめてた統率力。」

素晴らしい!(プリーマ)

 とうとうパンドラズアクターは立ち上がって叫んだ。

「おっと。」

 パンドラズアクターが抱き着いてきた。持っていたカクテルがこぼれてシズにかかってしまう。

 ごめんね、とアイコンタクトを送ると。

 構わない。

 とアイコンタクトを返してきた。

 そして、

「ぶほっ!」

 パンドラズアクターにボディブローをかましていた。

「おおお………。」

「少し、落ち着く。それで、他の方の話は?」

 

「そうだね、元々僕はぶくぶく茶釜さんのファンだったんだ。だからここに攻め込むってより僕はぶくぶく茶釜さんに会いに来たってのが実際のところなんだ。」

 のしっ!

 何者かが僕の両肩に乗っかってきた。

「今の話、詳しく!!」

 ダークエルフの子供だった。

 男の子と女の子だ。

 あ、この子達…。確か階層守護者の子達だ。

「え?」

「え?じゃないわよ!今、ぶくぶく茶釜様って言ったわよね?!」

「え?女の子?……おぶっ!」

 殴られた。

「女の子よ!」

「ちなみに僕、男だからね。」

「えー……。」

 見た目が正反対のご姉弟だった。

「早く早く!!早くしないと殺すわよ!!」

「えー……。」

「そうだなー、何といってもあのロリ声かなー。」

「ロリ声って何よ!!?分かりやすく言いなさいよ!」

「えー……。」

 こういう話はやっぱりファン同士で熱く語り合うからこそなのに……。

 こういうのは逆に拷問だ。

「まあまあ、おねえちゃん、こ…、お声が素晴らしいって褒めてるんだから…。」

 

 とは言え、まあ、語り始めるとやっぱり止まらなくなるんだよね。ぶくぶく茶釜さんの話は。

 そして、

 僕はこのご姉弟にことさら気に入られることになるのでありました。

 

 にしても、何が事態を好転させるか分からないもんだね。

 

 

 

 

続く

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