カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

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第18話

B カッツェ会戦

 

 

 

 レイナースの元へ勅令が下った。直ちに軍を編成し、カッツェ平野へ向かえ、とのこと。

 布陣編成会議を途中、途中の森の中にあるポイントロメオで行うとの事だ。

 

「レイナース戦争行っちゃうの?」

「戦争だけ、って言うならこんな深刻な問題ではないの。」

 レイナースは徐々にではあるが、ようやく敬語を控えるようになって来てくれた。

 まだ時々敬語になっちゃうんだけど…。

「いい、ビンカ。これは王国に戦争を吹っかけたと見せかけた、私への宣戦みたいなものなの。」

「……え?意味わかんない。何で配下であるレイナースを……。」

「私は元から公言しているけど、皇帝への忠誠心は給料分、と言ってきた。皇帝もそれは熟知しているわ。」

「皇帝は私の持つ戦力に期待する。私は皇帝の権力による呪いの解呪を期待する。そんなバランスを持っていた。」

 

「ところがそんなバランスを崩す出来事があった。」

「誰?!そんなことしたのは?まったくもう。」

 ぷんぷんだよ全くもう。

「貴女ですって!」

「あ、私なんだ…。」

「私を縛り付けておく材料である呪いは解呪されてしまった。おそらく一週間のうちにそのことが皇帝の耳には届いたのでしょう。直ぐにスパイが送り込まれたみたい。」

「だから私が今、内政に力を入れて国力を増している、それは離反するための準備なのではと、考えているはずなの。」

「んー…、だったらレイナースを呼び出したらいいんじゃない?」

「そう。私もそうなると思って身構えていたのだけれど……。しかし、さすがは皇帝、そんなふうに呼び出して、私から情報を搾り出そうにも、真意を質そうにも、限度がある事を理解しているのでしょう。」

「そして、皇帝が最も恐れているのは恐らく、ビンカが法国からの回し者という線。」

「法国の?」

 

「私の呪いはフールーダ曰く、第5位階以上の信仰系魔法の効果が必要との事だったわ。普通に考えれば、そんな魔法を使える人材は世界中を探しても王国のラキュース・アルベイン・デイル・アインドラか法国以外ありえない。」

「皇帝はだからフールーダを通して法国に打診させていたの。解呪の魔法が実際見つかればフールーダが喜ぶ。立ち合わせてもらう事も考えていたでしょう。無いなら私は永遠に皇帝に鎖を握られる。…私を使い潰すつもりで。そんな意図が見え見えだったわ。」

「ところがどういうわけか、私の呪いは解かれてしまった。私が法国に内々に内通して呪いを解いてもらったと考えるのが普通でしょう。そしてその見返りとして法国に鞍替えする。皇帝はそう読んでいる筈。」

「それで、どうして王国との戦争になるの?」

「まず皇帝の耳にはもうビンカの情報が入っているでしょうね。最近私は帝都には行かずにほとんどしたことの無い内政に力を入れている事も、皇帝の耳には届いていると思う。」

「………うん。」

「皇帝は一連の私の行動が関連性がある事は大体見抜いたでしょう。だから今回、一石二鳥の策として、王国に戦争を仕掛けることにしたんだと思う。」

「……うん。」

「そもそもが、王国とは事あるごとに戦争が繰り返されていて……、けれど冗長的に戦争をしていてもよくない。何か副次的な理由が欲しい。だから今回はビンカなの。」

「戦争を仕掛けておいて、私の留守に、チャンスがあればビンカに接触、拉致。あるいは…。」

 首を掻っ切るしぐさをするレイナース。

 やだなぁ…。

「仮に戦争にビンカを連れてきたなら皇帝直々に会いに来て、真意を確かめる、あるいは引き抜こうということ。」

「なるほどねー。」

 

「今、私を動かしているのは法国からの回し者であるビンカである。そう皇帝はにらんでいると私は思っているわ。」

「えー?歌、うたってるだけなのに?」

吟遊詩人(バード)の回し者と言うのは、存外少なくない。流れ者だし、特殊技能が必要な分、多忙なスパイと疑われるのもカムフラージュできる。ちょっと…、かーなーり、目立ち過ぎではあるけれどね……。」

「えー、歌…、歌えなくなるのは嫌だよ。」

「そんな事は言わない。だから私は考えた。今回は皇帝の策に乗って、ビンカにもカッツェ平野に来て欲しいの。」

「わ、私も戦争行くの?」

「いえ、兵士の慰問と言う形で歌ってもらえる?自然にね。ただし、フールーダが何処で見ているか知れたものではないから、使う魔法位階は第3位階まで。これを厳守して。」

「お菓子は300円までって事だね?」

「はい、はい。」

 スルーされた!凹む!!

「それでビンカのボディガードとしてワーカー、フォーサイトを雇おうと思う。アルシェは現在銀行業務が立て込んでいて、来てくれるかどうかは怪しいのだけど、他の3人にはもう了解を得てるわ。」

 フルト銀行は現在赤字経営のおおわらわ。アルシェは毎日泣きそうな顔で町工場やら個人商店を走り回っている。この間街で会ったときはイミーナに肩を抱かれてべそ掻いてた。

 フォーサイトの面々も、ジャイムスや妹達も一生懸命手伝ってはいるけれど、収益が健全化するには時間が掛かろう。

 

 でも…。

 ヘッケラン達と一緒か…。

「わあ、何か楽しそうになってきた。」

「戦争に行くのよ!!」

「分かってる、分かってる。」

「分かってナーイ!!良い?!敵味方、人が死ぬのよ!私達のせいで!!」

「そうでした。ごめんなさい。」

「まったくもう。」

「レイナース、怒っちゃ嫌。」

 レイナースの胸に抱きつくと、ほにゃほにゃな顔になる。

 しかもレイナースの胸、とっても柔らかい。こっちもほにゃほにゃになっちゃう。

 まさにウィンウィン。

 

「ともかく、私が今回、皇帝からの勅令から読み取ったのはそこまで。まだどういう隠しダマを用意しているやら分かったものではないから。この点、ヘッケランには十分周知徹底しておくけど、ビンカもあまりハメは外さないでね。」

「うん。分かったよ。」

 

「ところでさ、王国って強いの?」

「そうですね、弱くはありませ、弱くはないわ。ただ…。」

 それって強くもないってことだよね。

「ただ?」

「化け物を一匹飼ってる。」

「化け物?」

「ええ。以前一回だけ私も槍をあわせたけれど、あれは化け物だったわ。体力気力を削る武技を無限に繰り出し、ダメージを与えても速効回復。そして盾や鎧をまるでバターを斬る様にすっぱり切断していくあの剣。今回奴に当たれば私の命も危うく……。」

「嫌だ!!」

「ビンカ…。」

「戦争行かないで!!」

 抱きついた私の頭を撫でてくるレイナース。

「無茶言わないで。戦争に行かなければ、帝国軍はそのまま私の領に雪崩れ込んでくるでしょう。」

「…むうー。………だったら。」

魔法付与(エンチャントマジック)浮遊する盾(フローティングシールド)看破阻害(ディテクトインヒビション)。」

 私はレイナースの真珠のピアスに魔法を付与する。

「合言葉を覚えておいて。アクティベイト・ピアス。」

「アクティベイト・ピアス?」

 レイナースが復唱すると、両耳のピアスが反応、二枚の浮遊する半透明の盾に変わった。

「…これは?」

「見てて。」

 私はレイナースに向けて手近にあったコップを投げる。

 思わずレイナースは手をコップの前にかざした。

 パシャーン!

 コップは盾が自動的に動いて、はじいて砕けた。

「起動回数は1日3回まで。起動時間は1時間。でも魔法でも物理攻撃でも、大抵の攻撃は防いでくれるはずだから。使いどころは間違えないで。それから相当強烈な攻撃が来たら、いくらその盾でも砕ける事はあるから。でも、砕けてもその破片が敵に向かって飛ぶし、一回は確実に攻撃を防いでくれるよ。」

「ありがとう、ビンカ。これで千人力よ。」

「武器は…。」

「今回は遠慮しておくわ。」

「えー?」

「呪いを解いてもらった上、疲労無効、そしてこの盾。老化無効はバレて無いとは思うけど、そんな国宝級のアイテムを私がいくつも所持してたら、いよいよ持って皇帝も私達の関係を怪しむからね。」

 今更のような気もするけど、と独り言のように言うレイナース。

「化け物にはなるべく関わらないようにするわ。」

「そうして。」

「多分、無理だとは思うけど……。皇帝は首輪の切れた私をアイツとぶつけて相打ちを狙ってるでしょうね。あるいは後ろから一緒に撃たれるかも。」

「そんなこと、絶対させない!」

「お願いだから、目立つ事はしないでね。少なくとも、第3位階を超える魔法は絶対禁止よ。」

 

 頷いたけど、絶対、守って見せるから。

 

 

幕間

 

 レイナースは口上をあげて皇帝の前に膝まづいた。

「久しいな、重爆。呪いも無事解けて、余も嬉しいぞ。」

「痛み入ります。」

「どうやって解呪したか、聞いても良いか?」

「王国に潜入して、エ・ランテルにいる薬師、リィジー・バレアレ、ンフィーレア・バレアレに頼み込み、薬を調合してもらいました。」

「ほう、連中はそこまでの薬を調合できたのか?王国を併呑したら彼等にはアーウィンタールに店を出してもらおう。」

「左様にございますね。」

「しかし余が何とかしてやろうと奮闘していたのだがな、無駄骨だった様だ。」

「無駄などと…。とても感謝しております。」

「そう言って貰えると嬉しいぞ。」

「さて、レイナースも到着した。これで全員そろったし、作戦会議を始めよう。」

 レイナースはもっともな理由をもっと用意してきたというのに、皇帝はさっさとその話題を切り上げ、作戦会議に移ると言う。

 顔に出すな、顔に出すなと自分に言い聞かせ、レイナースは自分の席へ着く。

 

「今回の布陣であるが…。」

 言って皇帝はカッツェ平野の地図を出す。

 駒を偵察兵の情報から並べていく。

 全員がそれを見ていてある一点を見て唸りをあげた。

 

「この陣地を守っているのは何処の軍だ?!」

「…この陣地は………カルネ義勇軍だそうです。」

 偵察担当の将軍が羊皮紙をめくりながら言う。

「カルネ義勇軍?!聞いたことが無いぞ。」

「しかし、この高地を押さえられたのはまずいですぞ。」

「王国にも少しは頭の回る奴が出てきたということか?」

「この地を押さえた将の名は分かるか?」

「は、エンリ・エモット将軍です。」

「エンリ?女か?!」

「エモット卿?聞いたこと無いな…。」

「は、何故か彼女にはゴブリンが付き従っているそうですが、その他は未知数です。」

「直ぐにカルネ義勇軍について、探りを入れろ!」

 慌しく偵察兵が飛び出していく。

「ガゼフとかではなくて良かったのだが……。」

「ならば陛下!私がこの高地を押さえに参りとうございます。」

 言ったのはレイナース。

「こんな場所に陣地を置かれては喉元に剣を突きつけられるようなもの。放っては置けません。相手は聞いた事も無いような隊。私にお任せくだされば直ぐに蹴散らして見せましょう。」

「いや、ここは激風に任せよう。ここは押さえた後、陣を張りなおす必要がある。重爆の攻撃力はやはり中央突破の為に残しておきたい。」

「はっ。1時間で奪って見せましょう。」

 あまり悔しそうな顔を見せずに引き下がるレイナース。

 中央突破と見せかけて、やはりガゼフに当てる算段か…。

 中央には確実にガゼフがいる。

 覚悟を決めねばならぬか……。

 

 

 開戦の合図はカルネ義勇軍に攻めかかる激風の突撃からだった。

 この高地の奪取は壮絶を極めた。

 高台から何処にそんなモノがあったのだという疑問があるが、大量の巨石が落ちて来、まとまった軍が100人規模で吹き飛ばされていく。

 直後に、ゴブリンメイジの魔法、そして弓矢での攻撃。

 相当な錬度があるのか、的確に激風の兵が刈り取られていく。

 徐々に相手は100人にも満たない中隊規模と言うのが分かった。というのに、1500人からなる激風軍が手玉に取られる。

 周りを取り囲もうとすると、左端にいるガゼフの軍が、右側にいるレエブン軍がそれぞれけん制して来るので、正面突破しか抑えられない。

 逆に、ここを奪えば、ガゼフの軍もレエブン軍も戦線を下げざるを得ない状況になる。

 

 開戦から3時間後、犠牲者450人を出し、ようやく10人の帝国兵が高地奪取に成功した。

 とたんにカルネ義勇軍は壊走を始めた……。

 様に見えた。

 激風軍全員が高地奪取した、やれ勝ちどきを!と思った瞬間、地中に埋めてあった何かが爆発した。

 生き残ったのは650人だった。

 しかも突撃してきたカルネ義勇軍に、激風軍は追い散らされてしまった。

 

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「あそこに攻撃しなくて良かったねー。」

 双眼鏡から見えるのは追い散らかされる激風の兵達。

「ええ。まさかあんなに戦上手とは思っても見なかったわ。王国にまだあんな将がいたなんて……。あるいは誰かの隠居か死亡での代替わりかしら?」

 

「壊走に見せかけるって、実は結構錬度とか必要なんじゃない?」

「ええ。演技と言うのはばれたらまったく意味が無い。それを低脳なゴブリンにやらせてしまうというのはあの将、かなりのやり手と見たほうが良いでしょうね。うかつに突付くのは危険だわ。」

 私から受け取った双眼鏡を覗くレイナース。

「しかしこれは便利なアイテムね。そう複雑な機構でも無いようだし、量産できないかしら?」

「そんなマイナーアイテム、私が……。」

「いいえ。隊に一つづつ位は持たせるようにしたい。だからビンカにそんな煩雑な事をさせるわけにはいかないわ。」

 

「にしても、ひどい有様ね。あれ、皇帝に怒られるんじゃない?」

 言ったのは私の護衛、イミーナだ。背中にはちゃっかりアイシクルボウガンが掛けられている。

「まあ、ご愁傷様としか言えんな。直ぐに策を練り直す必要があったのに闇雲に正面突撃とは……。王国のやり方をマネでもしたのかと言いたくなる。」

「でもよ、このままじゃ左翼は突撃できないんだろ?膠着状態になってしまうんじゃないか?」

 ひるがえるカルネ義勇軍の旗を双眼鏡で見ながら言うのはヘッケラン。

「そうだな。私に突撃命令でも下らん限りな。」

「その命が下る可能性は?」

「直ぐには無いだろう。そこまで露骨に私に死ねとは皇帝も言ってはくるまい。」

「じゃあ……。」

「ああ。恐らく今日はこのまま夜営だな。」

 レイナースは副官に野営準備を始めさせる。

 

 その晩、酔わない程度の酒が配給された。

 仮設ステージが作られ、

 

 さあ、私の出番だ!!

 

 

 

 日を経つごとに、王国軍は士気が下がってくる。これはいつもの事だ。

 

 逆に帝国軍は、特にレイナース軍の士気は毎日の私のコンサートで士気も腹具合もばっちりだ。

 最近は他の隊からも私のコンサートを覗きに来るのも出てきたようだ。

 ヘッケランとイミーナにいたっては毎晩ふざけんなと言いたくなるほどドコゾでイチャコラしてくるらしい。イミーナは毎日ツヤッツヤなお肌。対してヘッケランは体重が5キロ位減ったんじゃないか?

 何やってんのお前ら?!

 私の護衛だぞ。

 ロバーデイクがかわいそうとか思わんのか?!

 

「いつもだったら、そろそろ潮時なのだがな……。」

 6日目の朝、膠着状態のまま敵陣を双眼鏡で見るレイナース。

「ロックブルズ閣下。」

 なにやら副官が耳打ちをしてきた。

「……とうとう来たか。撤兵する前にビンカの品定めに来たようだ。」

 

 

 レイナースは副官と補佐官を数名連れて慰問に来た皇帝に謁見する。

「この様なむさくるしい場所にまで足をお運びいただき、恐悦至極。」

「なに、そろそろ潮時かと思ってな。ただ今回は作戦上このまま帰るわけに行かんからな、お前に一当たりしてきて欲しいと思っているのだ。見たところ兵の意気も日にちが経過したとは思えないくらい軒昂であるし、まことに天晴れな士気維持能力だ。」

「過分なお言葉、痛み入ります。」

「で、その士気維持の為に吟遊詩人(バード)を連れてきたと聞いたが?」

「は。我が街に偶然立ち寄った吟遊詩人(バード)を見て、これは士気維持にもってこいと考え、囲っております。」

「ふむ。昨日たまたま見たのだが、アレは良いな。余にくれんか?」

 ここまで露骨に来たか…。

「お戯れを。彼女は私の愛妾(ネコ)でもあります。」

 おいおい…。

「ほ…、ほう、重爆はそんな趣味が…。」

「目覚めました。」

 目覚めちゃったの!?

「そ、そうか…。それでは周囲の目もあるし、強引に奪い取るわけにもいかんか…。」

「それだけは御容赦の程を。もしそんな御無体をなさるようであれば私は全てを棄てでも彼女を連れて逃避行させていただきます。」

「な、ならばせめて一曲、所望するくらいは良かろう?」

「はい。では、仮設ステージへ御足労ください。」

 おっと、盗み聞きしてる場合じゃなくなった…。

 

 私は見た目に分かる厚化粧を昨日以上に施し、ステージに上がる。

「近くで見るとまた、稀に見る美形だな。」

「それは、私の審美眼に適った娘ですから。」

「しかしアレなら呪いの解けたお前の方が美形ではあるな。」

「お世辞でも嬉しゅうございます。」

 

「皇帝陛下、本日は私なぞが陛下の御前にて歌う栄誉に預かり恐悦至極に存じます。」

「うむ。」

「お耳汚しかとは存じますが、なにとぞ御容赦の程を。」

 

 私はオペラ、ニーベルンゲンリートの1節を披露した。

 本来は相方が必要だが、第3位階でできる事は限られてくる。だからそれはアドリブやら口上、即興の間奏などで済ませた。

 演奏は以前オーケストラに演奏させたのを記録の水晶に閉じ込め再生させる。あとは第2位階魔法で音を増幅させれば何とか形にはなった。

 そして歌詞は全部覚えた事は無かったはずだが、何故か頭の中にカンペがあるかのように分かった。

 

 兵士達も皇帝から10m以上離れた位置で鑑賞している。

 

 時が止まる。

 

 私の歌声だけが響く。

 観衆は身動き一つしない。

 

 私の歌声が全員を身体ごと揺さぶる。

 全員息をするのも忘れている。

 

 心臓の音を私の歌声が掻き消す。

 

 そして、

 演奏が終了した。

 

 全員が一斉にため息をつく。

 私は右手を胸に大きく頭を下げた。

 

 満場から拍手の嵐になった。

 皇帝も含めたスタンディングオベーションだ。

 オペラはめったに披露しない…というか機会が無かったけれど、これはこれで良いな!

 息を呑む音も聞こえてくるほど静まり返った中で響く私の歌。癖になりそうだ…。

 そして最後のこのスタンディングオベーション。ぞくぞくして……。もう…。

 

「素晴らしいな、やはり欲しくなったぞ。」

「次回の戦いでも彼女は連れてきましょう。ですから、お取り上げなさらぬよう。」

「分かった。次もきっと連れてきてくれ。約束だ。」

 どうやらあきらめてくれたようだ。

 そして皇帝は興奮冷めやらぬ調子で帰って行った。

 

 

 兵は全員が尻餅をついて、言葉を失っていた。

 私も仮設の楽屋に戻ると大きく息を吐いた。

「つっかれたー。偉い人の前ってやっぱ緊張するねぇ。」

「私はむしろ歌のほうに驚かされたわ。私、今もまだ、ドキドキしてる。」

 イミーナは私の衣装からアクセサリー類を取り外しながら言う。かんざしが外されると、髪がするんとこぼれる様に流れた。

「えー?ホントにー?」

「はい。アルシェにも聞かせてやりたかったですね。」

「あ、俺、記録の水晶に録音した。」

「ファインプレイですよ、ヘッケラン!」

「あ、てか、これ、俺のコレクション。売れば金貨100枚位にはなるんじゃね?」

 ヘッケランは無言のイミーナにぶっ飛ばされた。取りこぼした水晶はイミーナの手に。

「これは、アルシェにあげるから。」

「ぶんばーー。」

 鼻を押さえながら水晶に手を伸ばすヘッケランであった。

 

 

 

続く

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