カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

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第19話

A カッツェ会戦 前夜

 

 

 アルバイトを何とかこなして2週間。

 上下水道、光と冷暖房と、ようやく人家的な形になった。

 

 今日は土日に当たる日。つまり、朝から寝て過ごせる日だ。もっとも吸血鬼に朝は寝て過ごす時間か?

 

 と、朝もはよからノックの音。ネムかビッキーか、最近はエンリもよく訪れてくれるようになっている。

「はーい。あいてますよー。」

「失礼するぞ。」

 て、この渋い声は……。

「アインズさん!」

「やあ。」

「って、魔法詠唱者(マジックキャスター)がなんてカッコ…。」

 アインズさんは全身真っ黒の全身鎧(フルプレート)を着込んでいた。

「この格好の時はモモンと呼んでくれるか。」

「モモンさんですか…。」

「この時間から布団の中とは良い御身分ですね。」

「貴女は、えっと、ガンマさん。」

「彼女はナーベだ。」

「ナーベさん?」

 うーわっ、虫けら見る目だ。ノーマルな僕にはエライダメージ。

 

 とりあえず僕は直ぐに布団を畳んで押入れに押し込む。

「今日はどうしたんです?」

「ああ、私が今、冒険者として情報収集にあたってる事は聞いているか?」

 言ってフルヘルムを脱ぐアインズさん。骸骨の顔があらわになる。

「はい。」

「実は息抜きを兼ねてるんだよ。」

 僕にだけ聞こえるように耳に近づけてこそっと言うアインズさん。

「みんなの忠誠はありがたいし、嬉しいのだが、ずっとあの調子だと息が詰まってさ。」

「なるほど。」

「それで、今日は実はンフィーレア・バレアレと言う薬師の護衛依頼を受けてね、これから森へ薬草採集に行くんだ。」

「ああ、それでわざわざ足を運んでくれたのですか。ありがとうございます。」

 

「……それより、あのゴブリン達は?」

「ああ、ジュゲム達の事ですか。」

「ジュゲムというのか。」

「エンリがアインズさんにゴブリン将軍の角笛を貰った翌々日位ですかね?ネムが大変大変って大騒ぎして、また誰かが攻めてきたのかと勘違いしたエンリがゴブリン将軍の角笛を吹いたら現れたそうです。」

「そうか。ただ連中は少し私の知っているゴブリンとは少し違うと感じたのだが…。」

「さすがですね。もう気づきましたか。恥ずかしながら僕はつい最近まで気づかなかったのですが、彼等は僕達と同じく、レベルアップしているんです。」

「ほう、興味深いな。」

「初めは普通のゴブリンより弱かった程なんです。でもエンリが指揮した時のジュゲム達は結構すごいですよ。ここ数日で森の中を狩に出たりして、獲物と精悍さを手に入れて帰ってきます。」

「そうなのか。」

「あ、そういえばゴブリンとしては知能が高くて、普通の人間と同じくらいのIQはあると思いますよ。中には魔法を使えるのも何人か居ます。」

「ほう、すると彼らの中にレッドキャップになる奴も現れる可能性があると言うことか?」

「その可能性は高いと僕は思っています。」

「ふむ。」

 何事か考え始めるアインズさん。

 

「モモン様、何者かの足音が…。」

 ナーベがラビッツイヤーを発動して警告する。

 直ぐにアインズさんはフルヘルムを装着した。

「ご、ごめんください!ここに、つかささんはいらっしゃいますか?!」

「はい、どうぞ、開いてますよ。」

 おずおずと言った感じで扉が開いてくる。

「あの、僕、ンフィーレア・バレアレって言います。」

「はい、いらっしゃい。僕がつかさです。」

「あれ?モモンさんはつかささんとお知り合いだったのですか?」

「ああ。以前、ちょっと縁があってね。友達だ。」

「そうだったのですか。それでつかささんもガゼフ戦士長と同じくらい強いのですか?」

「え?」

「エンリから聞きました。」

「あ、エンリの友達?」

「はい。あの、ありがとうございました、この村を、エンリを助けてくれて。」

「僕は何もしてないよ。」

「でもエンリの話だと、お父さんを助けるのに死者蘇生(レイズデッド)を使ったって…。」

「おまっ!!」

「あっちゃー。」

「こっちがあっちゃーだよ!ふざけんな、お前!!」

 ポム!と愉快な音を僕の頭が発生させた。

「まあ、ほら、知らなかったんですよ、ここに来て直ぐでしたし、こっちの常識なんて…。」

 

「あの……。」

「ああ、ンフィーレア君、君以外僕が死者蘇生(レイズデッド)を使った事は知られてないんだよね。」

「ええ。言いませんよ、誰にも。もしここに来れば死者蘇生(レイズデッド)をタダでしてもらえるなんて知れたら、毎日長蛇の列ですよ。挙句、神殿やら宗教組織に命を狙われる事にもなるでしょう。」

 おや、賢い子だ。話が早い。

「ありがとう。」

 目の前の出来事であれば仕方も無いのかもしれないけれど、いろんな所から死者を連れてこられても……。MPが無くなって死体だけがたまりにたまっていったら、いよいよアンデッドの巣窟になってしまう。

「こちらこそありがとうございます。皆の笑顔を守ってくれて。」

 ンフィーレアは深々とお辞儀をすると笑顔で帰って行った。

 

「いい子ですね。」

「まあ、私には興味ないな。むしろ彼のタレントに興味がある。」

「タレント?」

「彼のタレントは全てのマジックアイテムを使用可能、ペナルティをも無視して使えるらしい。」

「………え?」

「じゃ、経験値消費の必要なアイテムを使うのに、経験値消費を無視できると?!」

「その通り。」

「確率で壊れるアイテムなのに何度使っても壊れないと?」

「それはどうだろう?」

「ワールドチャンピオン専用の装備を装着できると?」

「試してみたいところだな。」

「貴重な人材ですね。」

「ああ。拉致監禁して良いかな?」

「僕の知らないところでやってくださいね。」

「その笑顔、怒っているよね?」

 

「でも、冗談じゃなくそう考える人間がいてもおかしくないですよね。」

「そうだな。誰かに盗られるくらいならその前に。」

「聞かなかったことにしますね。」

「冗談冗談。だからその笑顔は怖いって…。」

「でも、…そうですね…、誰かにさらわれて、支配(ドミネート)されて敵対でもされたら……。」

「ああ。王国を少し調べたがあまりいい状況とは言えんな。そういう事は多分にありえるだろう。」

「そうなんですか?村人の話では貴族達の評判はあまりよくなさそうですが……。」

「貴族もそうだが、その裏に八本指とか言う組織があるらしい。それ……。」

 

「モモン様。今度は4人の足音が…。ガガンボと、ナメクジの集団かと…。」

「…ガガンボ?ナメクジ?」

 アインズさんは眉間を押さえていた。

「ナーベ、2日目にもなるのだから、誰か一人でいい、名前を覚えてくれ。」

「は、申し訳ありません。」

「モモンさーん、行きますよー。」

「さて、出発のようだ。」

 立ち上がったアインズさんの手に僕は犬のぬいぐるみを一体、渡す。

「これ、アラームドールの一種です。ンフィーレア君に持たせてやって下さい。持ち主の異変を感じ取ったら、アインズさんにその場景が伝わるようにセッティングしました。有効半径は5kmあります。」

「んー…。」

「どうしました?」

「女の姿の君からこんなかわいいヌイグルミをプレゼントされたら彼、勘違いしないだろうか?」

 ああ、考えてなかった。

「だったら、そうですね、エンリからお守りを預かってるって言えば。」

「それはそれでまずいんじゃないか?」

 すると何を思ったか、ナーベが僕の手からヌイグルミを受け取ると外へ出た。

「おい、お前、これを家の、いつもお前がいる場所に飾って置け。」

 ナーベからぶっきらぼうにヌイグルミを渡されたンフィーレアはキョトンとする。

「お前に何かあったらモモンさ、んが困るからな。お守りみたいなものだ。」

「あー、ナーベちゃーん、俺にはくれないのー?」

 軽薄そうな男が声を掛けてくるがガン無視するナーベ。

「………まあ、結果オーライと。」

 

「そうだ、君は森の賢王についてどれだけ知っている?」

「ほとんどまったく。ある程度いくと、看板がいくつか立っていまして、それ以上踏み込めば現れると聞いています。」

「そうか。」

「情報収集ですか?」

「そういうことだ。」

 

「ではな。」

「はい。お気をつけて。」

 

 

 アインズさん達の姿が見えなくなると、僕は屋内に戻ろうとして…。

「つかさの姐さん!」

 ゴブリンの序列4番目位だったかな?

「と、君は、カイジャリだっけ?」

「あっしの名を覚えて頂けたたぁ、光栄でさ。」

「ああ、うん、で、何?」

「エンリの姐さんがお呼びでさ。御足労頂けんでしょうか?」

「分かった直ぐ行くよ。」

 いつもは彼女の方から来るのだが、呼び出したと言う事は何かあったと言うことだろう。

 

 エンリの家に行くと、ゴブリンだけでなく、沢山の人が集まっていた。

「あ、つかささん、わざわざ来てもらってごめんね。」

「どうしたの?」

「それが、帝国との戦争が始まるみたいで、この地方の領主様から100人の徴兵命令が来てるの。」

「……100人。」

「今まではこの近辺20村位から100人だったから一村あたり、5人位ですんだんだけど……。」

「ああ、15からの村が法国に襲われて半減、あるいは廃村になってるから人が出せないんだね?」

「うん。それに他の村々も出せて10人迄だって……。それに今まで筆頭村だった村が廃村になって、カルネ村が筆頭村になってしまったの。」

「だから他の村々がウチが何とかしろって…。でもカルネ村って、人口が増えたのって孤児達と生存した老人とかで、それでも50人も増えてないのに……。」

「じゃあ、カルネ村だけで50人用意しろってことになるのか。」

 村人全員が暗い顔になる。

 

「ちょっと待ってて。……メッセージ。」

 ………………。

「あ、ガゼフさんですか?今、会話しても大丈夫ですか?」

 以前渡しておいたメッセージドールにようやく気づいてくれたようだ。これで魔法を使えないガゼフさんとも話ができる。

「実は、………。」

 ……………。

「カルネ村には無理ですって。…はい、……領主権限…、はい、……越権行為になってしまうと……。」

 村民が絶望的な顔になる。

「だとしたらせめてゴブリン達、ゴーレムと人形達を民兵として認めさせてください。」

 村民に少し希望が戻ってきた。

 ~~!!!、~~~~~~~~~!!

「こっちとしても無理なんです。けど、ゴブリン軍団なら下手な人間より強いですよ。」

 ~~~~!!~~~~~~~~?

「そんな便利な魔法はありません。あ、あるにはありますけど、使えるのはアインズさんだけです。」

 ~~~。~~~~~?

「そんなこと頼めません!!無理ったら無理です。とにかくカルネ地方から出すのは混成軍100名です。」

 ~~~~~~!~~~。

「ですから、その検兵するとき、ガゼフさんの軍にお願いしたいんです。こっちは鎧と編み笠とかで極力分からないよう変装させますから。」

 ……………。~~~。

「はい。それから、カルネ地方から出す軍は独立軍として認めて欲しいんです。」

 ~~~~~~~~~!!!~~~??!!

「はっはっは。エンリ将軍です。」

「は?……ええええ~~~~!!?」

 ~~~~~~~~!!!??

「大丈夫、彼女はひとかどの…いや、もしかすると統率力なら王国一かもしれませんよ。」

「うそでしょ、ねえ、ちょっと、つかささん!!」

 ~~~~~?……。~~~。

「おー、演習ですか。良いですね。でも相手はガゼフさんじゃ無い方が良いですよ。」

「待って待って待って待って!!」

 ~~~~~?!

「いえ、そこまでは言いません。だけど本当にもしエンリが勝っちゃったら最強の軍が負けたことになって、士気がた落ちでしょ?だったらガゼフさんの政敵に喧嘩を吹っかける形にして、話を持っていけばエンリも心置きなく叩き潰すでしょう。」

「いやーーー!無茶言わないでーーー!!」

 …………。~~~~~~。

「ラナー王女を頼れば良いじゃないですか。あの人賢いんでしょ?」

「ちょ、つかさ…、何言っちゃってんの?!」

 ………。~~。~~~。~~~。

「はい。ではまた。連絡待ってます。」

 ……………。

 

「………あは。やっちゃった♡」

 

「やっちゃった♡じゃなーいぃ!!」

「大丈夫、大丈夫。君なら絶対、100%上手くやれる!」

「無茶です!!私は戦争なんて経験したことも見たことすら無いんです!」

「でもさ、ジュゲム達、人間の言うことなんて聞くかな?」

「聞いてくれるよね?」

 エンリの質問に全員が首を横に振った。

「うそでしょーーーー!!」

 

 

幕間

 

 その日の内にガゼフから連絡が来て、エンリ対リットン伯の5番隊の演習が開催されることになった。

 ルールは時間無制限の一回こっきり。前準備あり、騎乗あり、緩衝器つき剣、槍、矢の使用等取り決められた。

 

「では、ガゼフよ。私の軍が勝ったあかつきには、今回の戦争では我が配下として動いてもらうぞ。そしてお前は副戦士長に格下げだ。」

「分かっております。もし、カルネ地方軍が勝ったら、カルネ義勇軍を独立軍として認め、カルネ地方は我が領土とさせてもらいます。」

「フン、あんな寒村を自分の地位を賭けても欲しがるとはな。」

 カルネ地方はその程度の価値しかこの貴族は見出せなかったようだ。

「………。」

 

 エンリを侮ったリットン伯隊は騎馬の突撃だけを考えて布陣。

 対してエンリは大量の馬防柵をこしらえ、いたるところに落とし穴を作った。

 編成は槍兵6の弓兵14と言う変則の布陣。

 

「では、演習開始!」

 リットン伯隊が突撃してくる。

 10騎横並びで2列で突撃を開始する。

 通常の人間であれば震え上がる光景なのだが、何故かエンリには恐怖のキの字も感じない。

 周りの村人達もそんな余裕しゃくしゃくのエンリの姿に勇気を鼓舞される。

「今よ!皆!!」

 3人づつロープを引っ張って土中に隠しておいた馬防柵を引き上げる。

 馬が急停止すると、放り出された騎兵を3人の槍兵が腹や背中を突いて終わり。

 続いて落とし穴にはまる馬が続出した。それだけで、5人くらいを戦闘不能にした。

「撤退、てったーい!!」

 エンリ軍は逃げ出した。

 逃げるにしても何かあるぞと言う演技をしながら走るので、馬で突撃するのは覚悟が必要だ。

 

 そして草むらを走っていくと、突然馬がばたばたと倒れ始める。

 そこかしこに草を編んでいたり、ロープの罠が張ってあった。

「弓兵、撃ってー!」

 落馬した兵士に矢がぺとぺと突き当たる。4人程が脱落となった。

 

 ガゼフは唖然と見ていた。

 本当のところ、やはりエンリ能力に半信半疑だった様だ。

「あのエンリという少女………。」

 ゴクリと喉を鳴らす。本当に王国一の将軍になるかも知れん……。

 

「撤退!」

 今度はさすがに迂闊に追っては来ないようだ。

 エンリはその間に最終防衛地点と定めた高台の場所まで避難してしまった。

 そこには補給の矢が隠されていた。その様子を見て舌を巻くガゼフ。

 

 エンリ軍にまだ脱落者は一人もいない。

 対して相手は11人だ。

 今まで村人達は全速力で走っていた。ここでようやく一息がつける。

「全員水を飲んでおいて!」

 そうだった、と全員腰にかけていた水を飲む。

 

 持久戦が始まった。

 エンリ軍は時折水やらビスケットをほおばって士気を維持している。

 

「あれだ、王国軍はいつもああいう準備不足によって自滅していく。あの少女は補給の重要性を良くわきまえている。なあ、副長!」

 ガゼフは隣にいた副長の肩を興奮して乱暴に叩く。

「戦士長、あの娘、次の戦でも何か手柄を上げるかもしれません。そして、いずれ彼女が本当に将軍ということになったら。」

「ああ。ああいう将軍の下でなら、我々は無駄死にはせんだろう。どころか、本当に帝国を負かすかも知れんぞ。」

 太陽が沈み始める。

 暗くなれば弓など恐れるに足りん。そう、騎兵隊長は思っていたのだが…。

「奇襲です!!」

 何時の間に部隊を分けたのか、背後から弓兵5人槍兵6人が襲いかかってきた。

「突撃!!」

 太陽を背に、突撃を敢行するエンリ。5人が槍に持ち替えていた。

 部隊を分けたのも、太陽の光で見づらくなっている事を計算していた。

 そして両脇からミノの様な物を被って草むらに溶け込んだ弓兵の狙撃。

 泥にまみれる事をいとわない農民平民の見事な伏兵であった。

 

「騎兵である以上、その機動力が阻害されるブッシュに入る訳には行かん。そうなると待機する場所は必然、あの位置。」

「この時間、こういう状況になる。まさかあの娘、そこまで考えていたのでしょうか?」

「偶然とは思えん。」

 そして口には出さなかったが、つかさの言うとおり、本当に自分達が演習に当たらなくて良かったと思う。

 ここまで無様はさらさないであろうが、侮っていなかったと言えば嘘になる。あの娘はそこを計算してくるだろう。

 冷や汗が頬を伝った。

 

「え、演習…、終了。リットン伯軍、残存ゼロ、カルネ軍、残存16。よって……、しょ、勝者……か、カルネ…。」

「納得できん!!何だアレは!?卑怯な罠ばかり!!正面から戦う事を一度もせんかったではないか!」

「ええ、これでは正々堂々とは言えません!!」

 リットン伯側が猛抗議を始める。

「あら、リットン伯は帝国の戦争ででも同じ事を仰るのかしら?」

 ガゼフの後ろから若い従僕を引きつれ現れたのはラナー王女だった。

「帝国……。」

「あの鮮血帝は卑怯卑劣な手を使ってくるとリットン伯は仰られてたのでは?」

「そうですが……、しかし相手が卑怯だから、こちらもとは蛮行が過ぎます。」

「はい。では蛮行を行ったから奪われた、エルヌー地方を返せと例えば法国あたりを通して頼んで見ましょうか?」

 多分、両国から鼻で笑われる。

「ぐぐ…。しかし、これは演習。」

「ええ。演習ですわね。ルールから勘案すれば実際の戦争に近いルールですわ。本当の戦争でなくてよろしかったですわね?」

「戦争であれば油断はしません!」

 

「見苦しいな。そもそも前準備あり、とされた時点で普通の兵なら罠くらいは予想するのではないか?」

 ボソッと言ったのはどちらの派閥にも属していない、中立と見られているレエブン候爵であった。

 貴族派閥の連中もあまり好意的な意見を出してはくれないようだ。

 

「今回は本当に何から何までお世話になりました。」

 頭を下げるガゼフ。

「いいえ。それでは、約束どおり、彼女をわたくしに紹介してくださいな。」

「は、はぁ。しかし、下々の娘に直接お声をお掛けになるのは……。」

「かまいませんとも。クライム。」

「かしこまりました。」

 ラナーは従僕、クライムにエンリを呼んで来させる。

「貴女がカルネ村のエンリですか?」

「はい、えと、あの、お初に、お目にかかって、キョーエツです。」

 ラナーはしばしジッとエンリを見る。

「貴女に戦い方を教えたのはガゼフ戦士長ですか?」

「えっと、いいえ、村にレンジャーの方が居て、聞きかじり程度で、狩とかでやったことの応用をここでしただけです。」

「なるほどなるほど。貴族の方が狐狩りをして戦いを学ぶのと同じ理論ですわね。見事でしたわよ。」

 輝くような美しい笑顔を見せるラナー王女。

「ありがとうございます。」

 ホッと息を吐くエンリ。今までジッとにらまれて縮こまっていた体が弛緩する。

 

「そうそう、貴女が帝国兵から戦士長を助けてくれたのですね?」

「あ、いいえ。私ではありません。」

「おや、すると、貴女のような人がカルネ村にはまだ隠れていると?」

 ……………。

「え、えっと…。」

「そ、…あ、ラナー王女、あの!」

 無邪気に首を傾げるラナー。

「これだけの人物であれば、帝国兵に偽装した法国兵から戦士長を救ったと言う話ならば分かります。しかし、そうではないと仰る。ならば彼女以上の人材がもしかしたらカルネ村にはまだいるのではないですか?」

 ガゼフとエンリ、クライム以外には聞こえないよう声を潜めて聞くラナー王女。

 地獄の底から響いてくるような恐怖感があおられる。

「い、…そんな人は、いません。」

「人ではない、と?」

 ゾッとするガゼフ。

「い、いや、その、…ですな……。」

「分かりました。」

 何が?と言う言葉を飲み込むガゼフ。

 ラナーの目にハイライトが戻ってきた。

「よろしいでしょう、エンリ。約束は守らせましょう。よろしいですね、皆様?」

 ラナーが見回すが誰からも異論は上がらなかった。

 

「ではガゼフ戦士長、宣言を。」

「は。今後、カルネ地方は我が領土とし、繁栄を築く事をお約束いたします。そしてカルネ地方からはエンリを隊長とした義勇兵を100名、招集いたします。」

「リットン伯。」

「全て、宣言どおりに。」

「はい。では王陛下言上し、正式な王命と致す様。」

「は。」

 ラナーは満足そうに頷くと、機嫌良さそうに去っていった。

 ガゼフは顔をしかめ、無精ヒゲの残るあごをさする。

「エンリ。」

「はい?」

「すまんと、つかさ殿に伝えて置いてくれ。」

「そんなぁ……。」

 

______________________________

 

 

 僕等は現在カッツェ平野へ向けて進軍中だ。

 僕はアンデッドの気配の消せる白木の木で棺桶を作ってその中に潜んでいる。

 これで神官等の信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)に見破られることも無いだろう。

 アインズさんにはアルバイトを夜中のシフトに変えてもらって、昼間この棺桶で寝ている。

 アインズさんは戦争に興味津々らしく、観戦させて貰うって鼻息荒くしてた。

 

 しかしこれ、乗り心地最悪。

 ストーンゴーレム2体に運んでもらっているのだが、やたら揺れて……。吐きそう。

 

「へえー。そんなことが、ね。」

 ちょっと王女様と甘く見ていたかな?

「でもまだ誰か居る、程度なんでしょ?」

「うん、……まあ。」

「実際居るよ。あの村にはまだ隠しダマがね。」

「え?」

「君の妹だよ。」

「ネム?」

「ああ。あの娘、今勉強教えているけど、すごいよ。君が将星だとしたらあの子は王佐の才を持った子だ。」

「いつも思うんだけど、つかさってかいかぶりがすぎるよね。」

「そう?でも実際君は貴族の兵を退けただろう。」

「あれはあの人が油断してたから…。」

「油断させる。それも作戦だよ。」

 そんな話をしながら行軍すること3日目、一向はカッツェ平野に着いた。

 

「さて、エンリ、既にほとんどの軍が陣を張り終えてるみたいだけど、君は何処に布陣する?」

 僕は白木の棺桶に作った覗き窓から見ながらたずねる。

「えー、ここじゃ何も見えないよ。あ、あそこに高地があるわ、とりあえずあそこに登って見ましょう。」

 エンリ将軍は200m位の高さの高地に登ると、周りを見渡す。

「ちゃんと鶴翼の陣になってるじゃないか。」

「鶴翼って?」

「鶴が翼を広げたように布陣すること。野戦の基本だよ。」

「ふーん、そうなんだ…。」

「あれ?エンリ将軍はこの陣を崩す自身がおありで?」

「将軍は止めてよ。何だろう…、あそこが弱点かな?」

 いって指差したのはちょっと凹んだ土地に布陣した軍。

 

「もう、今日は疲れたしここで良いか。」

「そうだね。じゃあ陣を張らせようか。」

 僕は人形とゴーレムを使って簡単な掘っ立て小屋の様な物を作った。

 ゴブリン達も次々とそれぞれ簡単なテントを立てて食事の用意を始める。

 次ぐ日から帝国兵が現れるまで、エンリは作戦会議へ、僕等は砦作りを請け負う。

 

「はー、もう疲れた。」

 会議から帰ってくるなりエンリは机上に突っ伏した。

「どうしたの?」

「そんな突出したところに陣を張って何を考えてるって怒られた。最後は勝手に死ねって…。」

「そう?いい所に布陣したと思うけど。」

「そうなの?私はただここなら敵の動きが良く見えるかなーって、逃げるのもこれなら簡単かなーって思っただけで。」

「ガゼフさんは何て?」

「ここでいいって言ってくれた。むしろ誰が何と言おうとそこを動くなって。じゃなきゃ私、直ぐに折れて陣退いてたよ。」

「正面は急斜面、後ろはなだらか、うん、理想的な立地だと思うよ。むしろちょっと前に突き出てる位のほうが良いんじゃない?」

 

 仕上げに砦の下にここに来るまでに低位道具創造(エレメンタリークリエイトアイテム)でつくり続けた火薬を酸素石と混ざらないようクッションを敷き、一緒に土中に油紙に包んで埋めていった。そしてゴーレムには巨石を集めてきてもらって100個くらいを正面に石垣状に積み上げた。

 周りを見てみると他にこのような準備をしている隊はガゼフ隊以外無かった。

「帝国ってそんな強くないのかね?」

「王国とほぼ毎年引き分けって位だから弱くは無いと思うんだけど…。」

「にしてはのん気じゃない?皆昼寝しかしてないよ。」

「私達ももう寝ておこう。戦う前に疲れちゃったよ。」

 エンリは見張りを3人交代にして陣の中で寝るように指示する。

 

 そして次の日、ようやく帝国軍が姿を現した。

 

 

 

続く

 

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