B 参加
オーディションに参加した。
小さい頃から特技は歌だった。どさ回りのように居酒屋で歌って小銭を稼いで生活してきた。
しかし大きくなっていくに従って、歌では食べていけなくなってきた。
私の見栄えが良くなかったから。
最後に挑戦したオーディション。
技術も声量も練度も熱意も私より劣る子達が合格していった。
「だったら初めから、第一条件、容姿かコネってしておいてよ。」
悔しくはなかった。実力で負けたのではないとわかっていたから。しかし惨めだった。
現実世界はつまらない。
だから私は楽器製造業に就職し、そのかたわらゲームを始めた。
DMMO-RPGユグドラシル。5年前から有名だったゲームだ。
「種族はやっぱり歌のうまいセイレーンかな…。
しょっぱなからつまずいた。こういう超有名ネトゲは後参加組にはとにかくきつい。それがセイレーンという異形種だとレベルを上げるどころではない。しょっちゅうPKにあって集めたアイテムも装備もことごとく奪われた。
その日も拠点近くの廃舟のマストに乗って歌っていただけだったのに弓で射落とされた。
「ふざけんなローレライ!お前のせいで舟が座礁すんだよ!」
「LV26だってよ。経験値にもなりゃしねえ。」
勝手なことばっかり言う。
もうやだ。やめようかな………このゲームも面白くない。
「大丈夫ですか?」
やにわにポーションを飲まされ、矢が抜かれた。
骸骨だった。
「何だてめえら!」
「よせ!あいつ、ワールドチャンピオンのたっち・みーだ。ちゃんと戦略立てないとPKKされるぞ!」
みれば私を襲ってきた4人組を相手に、一人で白銀の騎士が立ち向かっていた。
「たっ、て、アインズ・ウール・ゴウンか…じゃ、一緒にいるオーバーロードはモモンガか?うおっ!」
声の主に矢が3本突き立ち、炎上した。
「何だ?!太陽のほうから射撃された?ペロロンチーノか?」
「あんだって?とんでもねぇ。アタシャ、ペロロンチーノだよ。」
光の中から楽しそうな声が聞こえてきた。
「包囲されているぞ!逃げろ!」
「遅い!
どうやら即死魔法をレジストはしたが行動阻害を受けたようだ。そしてそれは目の前のワールドチャンピオンにはかっこうの餌食だった。
一瞬で十連撃を浴びた名もないPKプレイヤーは光になって消えた。そのあとに
残り三人もあっさりと骸骨チームに倒されていった。
呆然としていた私が落ち着いてきた頃、再び骸骨が話しかけてくる。
「俺はアインズ・ウール・ゴウンのモモンガって言います。」
聞いたことある。超有名人だ。ネットとかではむしろ悪評のほうが高いのだが……。
「………カ・ラ・ビンカ。ソロです。」
「カ・ラ・ビンカさんですか…大変でしたね。失礼、私はたっち・みーと言います。」
白銀の騎士が優しい声で慰めてくれる。
「何で、………一体、あの…。」
「誰かが困っていたら助けるのは当たり前!」
白騎士の背中に“正義降臨”の課金エフェクト。
「…………。」
声、出ない。こんな優しく声かけられたことないから……。
「君、女の子だよね?その声、綺麗だね。セルフボイス?あ、俺ペロロンチーノね。」
両手に戦利品を抱えたバードマンがフレンドリーな声をかけてくる。
「いえ、私、セイレーンなので綺麗な声に加工してます。」
本当はセルフボイスだけど。褒められてちょっと…かなりうれしい。
「あ、セイレーンだったんだ。てっきり俺と同じバードマンかと思ってた。」
「性別は不明ってことで。遅ればせながら、助けていただいて本当にありがとうございました。」
こののち、私はギルド、アインズ・ウール・ゴウンに招待された。その日ギルドに詰めていたのは十三人で、いずれの人も私を歓迎してくれた。
どうやらここに来た多くの人が私と同じような経験をしてきたらしい。
楽しかった。
ゲーム初心者の私は戦力としては全然貢献できなかった。おそらく41人の中で最下位を争う程弱いだろう。ましてや種族がセイレーンとマーメイドでは水辺でなければ何の追加効果も期待できない。どころかマーメイドに至ってはパッシブスキル“魔女の秘薬”を封じられると陸で溺れるペナルティ付きだ。
それでもぷにっと萌えさんやタブラ・スマラグディナさん、モモンガさん達の知恵で私にも役に立つことができた。
生産職を主にレベリングし、戦闘は歌と魔法による後方支援と回復。他にも通常の人達では思いもつかないような支援方法、機会を彼等は私に与えてくれた。
いろいろな冒険ができた。毎日ギルドに顔を出すことが生きる糧であった。
マーメイドの上位種ニクシーにランクアップするためにクエストやら希少アイテムを取りに行くなど色々手伝ってもらった。
逆に水中でのクエストや探索は私の独壇場だった。私のスキルでパーティメンバーに水中行動能力を与えることができた。頼られるのは本当に嬉しかった。
冒険に行かなくても円形劇場があり、そこで歌うのが楽しかった。声の天才、茶釜さんとは顔を会わせれば毎日のように張り合った。
しかし声質が良くて容姿もよくて弁もたち、歌までうまいってどんな神様に愛されてるんだあの人?やっぱ弁天様?
人生で最も楽しい日々であった。
5年なんてあっという間に過ぎた。
そして……。
ある日、私の勤めていた工場で事故が起こった。
深刻な大惨事となった。
ある意味即死できた人の方が幸せだったかもしれない。
救急車で運び込まれたが私の資産ではろくな治療は受けられなかった。
このままでは余命4日。
でもどうしようもない。無い袖は振れない。
痛む全身を引きずって退院。私はタクシーで家に帰った。
包帯だらけの手でPCをやっとの思いで操作する。
ログイン。
「おや、ビンカさんじゃないですか。こんにちわ。」
「モモンガさん。いつもご苦労様です。」
「今日も一緒に行きますか?今、新しい
「…………。」
「て、あれ?どうしました?いつもだったら水中探索なら矢も楯もたまらずって感じなのに。」
「ごめんなさい。」
「は?」
「私、もう死にます。」
「………は?誰かに呪いを受けたとか死の宣告とかですか?」
「いえ、リアルで。今も結構苦しくて。」
「ちょ…、え?!!」
「〇マイ楽器事故、知ってます?」
「ええ、おとといニュースで工場が爆発炎上、強アルカリが沸騰爆散してえらいことになってるって……………。」
「…………。」
「今、どこにいるんです?」
「自宅です。」
「すぐにお見舞いに…。いや、寄付金集め……。」
「来ないで。ごめんなさい。」
「……。」
「私の身体、もう滅茶苦茶で、顔も炭化しちゃってて……。腕も足も…。」
「……。」
「こんな姿、誰にも見せられない。」
「………。」
「…………。」
「死にたくない。やっと楽しい生活を手に入れたのに……。」
「………。」
「だからここに来ました。最期は私がこの世で一番充実した場所で迎えたいから。」
「………。」
「ごめんなさい、会話ももう続かなくなってきました。」
「……どこへ行くんです?」
「ナザリックの、私の部屋へ。たぶん、一週間後には強制ログアウト処理されると思います。」
「…………。」
「モモンガさん。」
「……はい?」
「こんな形でお別れになってごめんなさい。本当は来るべきじゃないとわかっていました。優しいモモンガさんを苦しめることになるって分かっていたのに……本当に、ごめんなさい。」
「………。」
「モモンガさん。」
「………。」
「本当にありがとうございました。私、この世に生まれてきて本当に良かった。」
しばらくの後、長い、重い、慟哭が聞こえてきた。
本当、ごめんなさい。
続く