A 医療と保険
「おはようございます!つかささん!起きてください!」
「……………。」
世間一般の常識からして吸血鬼は夜型だ。この時間は吸血鬼には睡魔が最も活性化する時間帯……。
アルバイトから帰って風呂入って布団に入ってウトウトし始めた時こんな事態になった。
「あけますよ!開けますからね!!?」
「ちょっと、ンフィーレアさん!失礼ですよ。」
誰だろう。一人は分かったけど……。
とうとうンフィーレアともう一人は僕の家に踏み込んできた。
何だろう?
「ちょっとンフィーレアさん、女性の家に勝手に………。」
「はーーいー?」
「つかささんも!何てカッコしてるんですか!!」
「えー…?」
怒られた…。
「僕の家なのに……。」
僕は―ニニャさんといったかな?―前回も来た冒険者の少年にガウンを着せられた。
「僕、寝入ったばかりだったんだけど……。」
「朝っぱらから何を言ってるんですか?!」
吸血鬼に何を言ってるんですかと言い返したい……。
「そんな事より!エンリを戦争に連れてったって本当ですか!!?」
「…あー………。」
「あー、じゃありません!」
「いや、僕の方が引きずられて行ったんだけど……。」
白木の棺桶に積み込まれて……。
「貴女がエンリを隊長に推挙したって!」
「まあ、すごい指揮能力だからね。指揮官やらせないなんてもったいないでしょ。」
「彼女はただの女の子、村娘なんですよ!」
「でも、結果は出したでしょ?カッツェ会戦もいつもの負け戦じゃなくて、引き分け……。」
王都では大勝利と喧伝しているみたいだけど……。
「エンリが引き分けに持ち込んだと言っても過言じゃないと思うな。それに833の戦果に対して被害者0ってすっごくない?!」
「そんなの僕にはわかりません!」
分からないか……。
「逆に、王都やエ・ランテルでは血濡れのエンリだとか、爆裂破壊狂エンリだとか、モンスターテイマーエンリだとか、ものすごい噂になってるんですよ!!」
まあ、能無し貴族達が言いふらしたんだろうな…。そういう手際は良さそうだ。自分達の手柄にはできないから、手柄を上げた部隊をこき下ろすのは無能者の常套手段だ。
でもそこに真実が含まれてるからたちが悪い。
血濡れは手当の時の返り血だろうし、
爆裂破壊狂はあの高地奪還作戦のだろうし、
モンスターテイマーはまんまだ。ゴブリン達を一糸乱さず操っている。
「んー、それはかわいそうだね。お嫁の貰い手が無くなりそうだ。」
「そ、その時は……。僕が、……。」
何かむにゃむにゃ言い出した。
その間にニニャ君が僕等にお茶を淹れてくれた。
男の子にしては気の利く子だ。
「そう言えば僕、つかささんにお礼を言いたかったんです。ありがとうございました。貴女のくれたアラームドールのおかげで一命を救われました。」
「………ん?」
「前回来た時、ンフィーレアさんに犬のヌイグルミのアラームドールをあげたでしょ?」
「ああ。」
「ンフィーレアさんの家に帰った時、女の狂人に襲われましてね、その時、犬のヌイグルミが物凄い勢いで吠えたんです。」
「敵に
「何でもそのヌイグルミが見た映像音声がモモンさんに送られるからくりになってたとか……。」
「本当にありがとうございました。」
「いやいや、それはモモンさんのお手柄でしょう。お礼はモモンさんに……。」
「モモンさんにお礼を言ったんですがそしたら礼はつかささんに言ってやってくれって。」
いやまあ、なんてーか、……渋いぜ、アインズさん。
「もしモモンさんが現れなかったら僕等は死んでたし、ンフィーレアさんは虜に、そしてエ・ランテルは死都になっていたでしょう。」
「死都?なんで?」
「どうやらズーラーノーンが裏で絡んでいたらしくて、
「へえ。」
第7位階を使える奴がいるんだ……………。
「詳しいいきさつはお偉方が話してくれなかったんですけど、モモンさんの活躍は一躍エ・ランテルで英雄譚になりましてね、スケリトルドラゴンをたった二人で倒したとか………。」
まあ、簡単に倒すでしょうね、あの二人なら。
「そんな事より!」
あ、ンフィーレアが復活した。ああ面倒な………。
「もうエンリを戦争には連れ出さないで下さい!」
「んー、じゃあンフィーレア君は他の人に死ねと?」
「そ、それは………。」
急に声のトーンが落ちる。
「確かに、戦争に駆り出せばいずれは死ぬかもしれない。でもさ、エンリは確実に犠牲者を減らしてくれるんだよ。」
「でも…女の子を……。」
「戦争で死ぬのも大変だけどさ、飢えに苦しんで死ぬのも、ここで農作業中に襲ってこられて死ぬのも、大変だよ。」
「あうう………。」
視線でニニャに助けを求めるが、ニニャはすましてお茶を飲んでる。
何かかわいいなあ、この子。
「たぶん君はさ、エンリが戦争に出てるとき、自分が何もできないのが歯がゆいんじゃないかな?」
「……それは、…僕には戦う力はありませんから……。」
「戦争ってさ、戦うだけじゃないよ。むしろ戦争が終わってから戦いが始まる人達だっているんだよ。」
「ヒーラーと薬師ですか?」
「外交官とか政治家もそうだね。君にも何かできることはあるんじゃないかい?」
「……………。」
考え込むンフィーレア。
「つかちゃん!大変大変!!」
ネムが息を切らして飛び込んできた。
「隣村でがけ崩れがあって、けが人がたくさんなんだって!!」
「すぐ行くよ。」
僕はガウンを脱ぎ、作業着と白衣に着替える。
ニニャはすかさずンフィーレアの目を塞いでいた。
「君達も来る?人手は多くあった方がよさそうだ。」
「ええ。ダインを連れて行けば治療ができます。」
「ダイン?」
「ドルイドです。回復魔法が使えます。」
「それはありがたいね。じゃ、先ずはエンリ村長の家に行こうか。」
僕はネムを肩車すると、早足でエンリの家へ向かった。
「お父さん、近隣回ってシャベルもっとかき集めてきて。お母さんはロープと綺麗な布。」
いつも通りの光景だ。
最近エンリのご両親が僕の所へ愚痴をこぼしに来る。もう娘に扶養される側になってしまった…、と。
まあ、農作業からして今までの様ではなく、柵や塀を作って牛だの羊だのを飼い始め、それまでの農業ノウハウが10%くらいしか役立たなくなっているし…。……僕のせいで。
「つかさ、直ぐに出れる?」
「いつでも良いよ。」
「ペテル、ルクルット、ダイン、僕等も行きましょう。」
「「「おお。」」」
「お父さん、お母さん、私達、先に行くから、あとの事はお願い。」
「じゃ、先遣隊行くよ。
「うお、何だこりゃ……。飛んでる?」
「こんなたくさん
ニニャとンフィーレアが純粋に驚いている。
ただ、さすがにあまりMPを多く消費するわけにはいかない。よって定員は5人にしたので、僕はエンリを背中に負ぶって、ぺテルは捜索、手当には戦力不足と考え、後発組に入れることにした。
…ぺテル、ちょっと残念そうにしていた。帰りは連れてってあげるから、そんな残念そうな顔しない。
現場は背中のエンリが誘導してくれた。
時速100km位で飛ぶと、5分位で現場に付いた。
「やっべ、むっちゃ速ぇ!!」
興奮したようなルクルット。
「すごいであるな……。ニニャも
「無茶言わないでください!第三位階なうえ、5人も一遍になんて膨大な魔力が……。」
「って、何で皆さん平気なんですか!?これって拷問じゃないんですか?」
ンフィーレア君、顔の涙と鼻水を拭きなさい。エンリがドン引きしてますよー。
「さて、ニニャさんとルクルットさんは直ぐに遭難者の捜索をお願いします。」
「おう。」
「ハイ。」
「エンリはダインさんと軽症者の応急手当へ。」
「はい。」
「わかったである。」
「ンフィーレア君は僕と来てくれるかな。」
「は、はい。」
僕達が向かったのは神殿。大怪我を負った人達が集められているらしい。
「ンフィーレア君、見ておきなさい。」
「え?」
僕は重傷者から容態を診る。
そして以前、戦争の時に備えてナザリックの大図書館で読んで覚えた処置を行う。
「魔法で治すこともできるんだけど、MPがなくなったら
「はい。」
「それに
「はい。」
「だから、僕はたくさんの人に医術を学んで貰いたいんだ。」
「医術。」
「医者は
「教えてくれるんですか?!」
「君が望むなら。でも僕だってさわりを知ってる程度だ。」
僕はソロプレイヤーだったから、回復系は真っ先に色々覚えた。
けど、
こうなると分かっていたら……。
「君なら半年もする前に僕を抜いていくよ。」
まあ、僕も戦争の前に必要だろうと思って大図書館で調べた程度しか知らないんだけどね………。
一人目のけが人。足の骨が折れて突き出ていた。
気を失っているようだ。
思わず目をしかめてンフィーレアはポーションを服用させようとする。
僕はその手を止めた。
「全員にいきわたるポーションを持ってきたかい?」
「それは……、ないですけど。」
「じゃあ、大切に効率よく使わなくちゃね。」
「でも……。」
「そうだ、ンフィーレア君、麻酔薬、持ってきた?」
「は、はい、幾つか……。」
「作り方は分かる?」
「はい。大麻を採ってきて練成すればすぐです。」
「練成魔法を使わないやり方は?」
「おばあちゃんが知ってます。」
「僕も麻酔の全てを知っているわけじゃないから、全身麻酔から局部麻酔とか、魔法とか組み合わせても良い、それを君達が開発してほしい。」
「はい。」
「
「これは?」
「注射器。薬品や栄養剤のようなものを筋肉や血管に注入させることができる。ただし、血液中に空気を入れてしまうと良くないから、こうやって空気を抜いてやらないといけない。」
医者がよくやる空気抜きの手順を見せてやる。
僕は先ず、火にかけた状態の熱湯の中にナイフや注射器を入れる。
「これは?」
「煮沸消毒。これで雑菌バイ菌を死滅させるんだ。」
「菌?」
「微生物だ。人の傷を膿ませたり、酷い時には破傷風だとか、コレラだとか、死の病にしたりする。」
ンフィーレアは自分のエプロンにメモを取り始める。
うん、いい傾向だ。元々勉強熱心な子なのだろう。
「僕等の手にも大量についてる。時折お腹を壊したり、病気になったりするのもこういう病原菌とかが原因になってるんだよ。だから他人の患部に触るときは絶対、確実に滅菌するようにね。」
「はい。」
「この菌とか、滅菌、抗菌する手段とか魔法も君達に開発して欲しい。かなり有用になるはずだよ。」
「はい!頑張ります。」
注射器でンフィーレアからもらった麻酔薬を少し吸引する。そして、患者の足に注入。
「
注射した範囲から、効果範囲が色で分かってくる。
「これは、効果が局部的になって、強力になっているんですか?」
「これは個人差がある。医者になったなら、カルテを作りなさい。」
「カルテ?」
「一人一人の治療記録、みたいなものかな。それをデータとして集めると副作用とかも分かるようになるよ。」
「はい。」
熱湯の中からナイフを取り出すと、僕は麻酔の掛かった足を切開する。
「うっ……。」
「慣れてね。」
初めて見る人体の中身。ンフィーレアは口を押える。まあ普通の人間の反応だ。
ただ、僕の目には美味しそうなご馳走に見えるんだな、これが。血の匂いもかぐわしく感じる。ちょっとかぶりつきたくなるんですけど……。
傷口を湯冷ましで洗い流し、アルコールで殺菌し、さらに生理食塩水で洗い流す。何か料理をしている感覚だ。
もう何か、僕、終わってたりする?
「骨をつなぐには、チタンという金属が良いんだけど、ステンレスとか、とにかく錆びない金属を使う事。」
「ちたんですか?聞いたことない金属なんですが……。作れるんですか?」
「いや、今の僕には作れない。」
「それじゃ、現実的に誰も作れないじゃないですか…。」
「いずれ、作れるようになる。それまでは…。」
ポーションを掛け、骨をつないでいく。それだけでも大分ポーションを節約できた。
「これでOK。後は、感染症に気を付けて縫合だ。絹糸を使って、傷口の中を糸が外に出ないよう縫合する。特に女性には傷跡が残らないように気を付けて。」
けが人は重軽傷者含めて34人いた。
最後の方ではンフィーレアは一人でけが人の手当をしていた。
手先が器用なのだろう、縫合など直ぐにてきぱきとこなすようになってくれた。
家が潰れた被害者はカルネ村が引き取ることになった。
カルネ村はこれから交易も始まり、人手がかなり足りなくなっている。人形とゴーレムで仮設住宅を作れば後は自分達で増改築していくだろう。
「死者が居なくてよかったですが……、それにしても被害に遭った方々は不憫ですね。」
ンフィーレアとエンリが一緒に治療しているのを見ながら、僕はニニャと仮設テントで休憩している。
「そうだね。保険会社とかがあればよかったんだけど……。」
「ほけん、かいしゃ、ですか?」
「うん。平時に皆から少しずつお金を預かって、いざというときに被害に対して治療費やら修理費やら補償してくれる企業。」
「そういうのがあったら、便利ですね……。」
「興味ある?君が起業しない?大歓迎だよ。」
「それは……でも僕、漆黒の剣の活動もありますし……。姉さんも……。」
ハッとした表情で口を押えるニニャ。
「姉さん?」
「何でもないです。忘れてください。」
「そう。何かあったら頼ってくれて良いよ。」
「ありがとうございます。」
「まあ、問題が解決した後でも良い。僕等は先ず村営の健康保険制度から始めようと思っているから。企業はいくつもあって、品質価格競争してくれた方が民には良いからね。」
まだあせる必要は無いしね。
遭難者の捜索と、治療、そして倒壊した家の修理があらかた終わると、僕等は帰途に着いた。
被災した村も大変だが、カルネ村だって何日も畑や家畜を放って置けない。
現在カルネ村は1000を超える人口になってきたが、人手は足りなくなっていく一方だった。
それに最近、どうやら行商人等に扮したスパイが多数紛れ込んでくるようになっていた。送り元は皇帝からのものが多そうだ。ただし、王国や、法国からも少なからず送り込まれてる…。
だから僕は一層森の奥から出られなくなってきている。
いずれ森が切り開かれていき、僕の家まで来ることになったら引越しも考えなくてはいけないか?
引越しが先か、コッペリアに戻れる方が先か、………まあ、前者だろうな。…そっちの方が遥かに簡単でもあるし。
「アレ?貴方は、ニグンさん?」
家に帰ったら、入り口の石畳に陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインが座っていた。
ここを知ってるのは一部の人だけなんだけど……。
「聖女様!!お久しぶりでございます!」
跪いて祈りを奉げるように挨拶するニグン。
「ちょ、止めてください。僕はそんな人物?ではありませんから……。」
「いえ、聖人、聖女、と呼ばれる方々は皆、そうおっしゃるのです。」
何処のどういう宗教であっても、敬虔な信者と言うのはちょっと扱いづらい。ヘタすると狂信的になるし…。
「とにかく入ってください。お茶を淹れましょう。」
「おお、聖女様にそのような事をさせるわけには参りません!私が…。」
めんどくさっ……。
お茶を淹れてもらいながら、ニグンが話し始めた。
「実は、本国からようやく正式にアインズ・ウール・ゴウン様に拝謁する準備をせよと命が下ったのです。」
「えー……。」
持ってきた話も超めんどくさっ!
「本国は我々が何度神と、その使徒が参ってると説得しても懐疑的の一点張りでして…。中には無礼にも連れて来いなど言ってくる者もいる始末。」
「んー、多分行ってくれるとは思うけど……。そんな態度で接見したら、アインズさ、様は気にしないだろうけど、御付の方々がね…。」
「はい。あの時、聖女様の直属の上司と仰られる方がほんの一握り見せたその力で………。今でも震えが来ます。」
「あー、シャ、ム様ね…。あの人の気の短さも大概だけど、事、アインズ様が関わったらもう一人いた人の方が怖いよ。」
多分国が崩壊する。いや、あの人、ってか悪魔?この世界すらゴミクズくらいにしか思ってないかも……。
「はい。ですから私が先ず事前準備に取り掛かろうとやってきた次第です。」
「なるほどね…。賢明な判断だ。」
「お褒めに預かり恐縮です。」
「ねえ、僕ももう口調崩してるんだし、もう少しフランクにしてよ。」
「は、はい。しかし私、もともとこういう喋り方ですし。」
「まあ、おいおい、ネ…。」
「ありがたき温情…。」
だからさ……。
「ところで法国にはアインズさ、様が攻勢防壁とか使ってたみたいだけど、被害は大丈夫だった?」
「……それが、巫女姫含め、侍従が数名爆死しました……。重軽傷者も多数……。」
「……………そりゃまた……。」
「巫女姫だけは何とか蘇生できましたが…。」
やはり法国は蘇生魔法が使えるのか…。
「アインズ様、恨まれたりしてない?」
「こちらが悪いのですから……、とは言ってはいるのですが……。」
「はぁ……、話、こじれそうだね。」
「そうなのです。ですから直ぐに引き合わせる訳にもいかないと判断しました。」
直情的であるけど、理性を取り戻した時のニグンは隊長さんらしい。
「そうだなー、そうしたら誰に連絡を取れば良いかな?ちょっと待ってて。今、シャム様と話してみる…。メッセージ……。」
アレ?つながらない……。
「じゃ、パンサーさんかな?」
僕はパンドラズアクターにメッセージを送る。
「あ、繋がった。パンサーさん?僕。…つかさ。」
「おや、つかさ、メッセージとは珍しい。パンサー…?んー、その辺りに誰かいる為、私への暗号ですか。んー、素晴らしい!」
ああ、向こうで刑事ドラマの主人公が視聴者に話しかけるような仕草をしてるのが目に浮かぶ…。
「あはは、まあ、そういう事で…。」
「ところで、メッセージとは何です?急ぎの用ですか?」
「実はこちらに法国から使者が送られて来てるんだけど…。」
「法国……。んーーー…。」
「アインズ様にあわせて欲しいって。」
「……それは…ちょっと都合が…。今はこちらちょっと立て込んでましてね……。」
「え?そうなの?」
「まあ、一昨日の晩頃からですな………。」
「そうなんだ……。」
「内容は、ひ・み・つ。」
「鼻声で色っぽく言うな!…そしたら、どうしようかな…。ニグンさん、どれだけ待てる?」
「待ちますとも!如何程でも。」
意気込んで言うニグン。
「ではとりあえず3日程時間が経ったらまた連絡入れるね。」
「わかりました。私はとりあえず、セバス殿…、は出張中でしたね、ユリ殿に伝言を頼んでおきましょう。もしかしたら先にそちらから連絡が入るかもしれません。」
「ありがとう。僕、あの人苦手で…。」
怖いから。
「えぇ?あんな優しい方はナザリックでは珍しいですよ?」
「そうなんでしょうけど……。」
ユリ先生、小学生時代を思い出して怖い。ムチ振り回されると、すくみ上がる。
プレアデスならシズちゃんかルプスレギナ先輩が良い。あとは怖い。
「と言うわけで、3日後に再度連絡入れることになったけど、その間どうする?」
「そうですな、とりあえず村の皆さんに手習い等させていただきますよ。」
「それはありがたい。ただ、無理な改宗は……。」
「はは、しませんとも。どころか私は聖女様にもっと教導して頂きたいと思っているのです。」
「教導……?」
「はい。是非是非!」
「教えることなんて何も無いと思うけどなー。」
「宿泊は村長に言って神殿の詰め所を使わせて頂きましょう。」
他宗であっても、神殿に入らなければ大丈夫なのかな?
「そうだね。…あ、村の皆に、ニグンさんがここに来てる事は……。」
「ああ、秘密なのですね?村人もかなり増えましたし、ほとんどの方がここを、と言うか貴女の存在すら知らないというので、ああ、あの理由で、そうなのかな、と理解しました。」
「ニグンさん、優しいね。ありがとう。」
オブラートに包んでくれて。
「とりあえず、今日はこれにて。色々準備も必要でしょうしね。」
「うん。じゃあ村人の事は色々、お願いします。」
「頭をお下げになるなど、お止めください。」
ニグンは優しい笑顔で言った。
彼はどうやら色々救われているようだ。以前のような張り詰めた感が全く感じられない。
彼はきっと良い聖職者になるだろう。いや、それこそ聖人か…。
もしかしたら歴史に名を残すような……。
続く