B アインズ・ウール・ゴウン
「はぁ???!!!!!」
突然大声を上げてしまった。
ネムがびっくりしている。
「あ、……ご、ご、ごめんなさい。」
胸がドキドキする。
既に通商が始まって今の時期は野菜と果物が入ってくるようになった。
今回ネムが使者として来てくれたのだが、その時、話で驚きの名前が出てきた……。
「えっと、ごめんね、ネムちゃん。その、
がくがく揺さぶるから頷いているようにしか見えない。
「えっと、えっと何、今、え、?すると、カルネ村に、その、え、アインズ・ウール・ゴウンが居るの?」
「居ないよ。帰っちゃった。」
「帰ったんかい!??!!って、何処へ??!!」
「さあ?多分つかちゃんなら知ってると思うけど……。」
「待って待って、ちょっとまって、ちょっと待って…………。」
うっわー、ぐるぐる回るよ……、え、何?え?考えがマトマラナイ。……マクマナマン。
「ちなみにレイナースはアインズ・ウール・ゴウンて、聞いたことある?」
レイナースは首を振る。
アルシェを見る。首を振る。
「ビンカの知り合いなの?」
「いや、えと、なんだ、あの……、私の知ってるアインズ・ウール・ゴウンは人の名前とかじゃないんだ。私の居た組織の名前。」
レイナースとアルシェは顔を見合わせる。
「だから、意味が分からない。何々?誰かが組織名を名乗ってるの?リスペクトとか?」
落ち着かない。
「組織の内の誰かが名乗ってるとか?」
「辞めてった人も居るけど、40人も居るんだよ!誰が名乗るっての?ギルド長のモモンガさん?まあ彼なら誰も反対しないだろうけど……。るし★ふぁーさんとかだったらぶっ飛ばすわよ!!」
「ネムちゃん、その、アインズ・ウール・ゴウンて名乗ってた人、どんな感じだったかな?」
アルシェのその言葉にネムは人差し指を頬に当て考える。
「大きな人だったよ。空に浮かんでた。すっごいキレイなお洋服着てた。」
そうなんだ。……まったく分からない。
「もしかして、その人、骸骨じゃなかった?」
「え?骸骨なの?仮面を被ってたから分からないよ。」
仮面を被るワケ……、厨ニ病?いやいやいやいや普通に考えたら何処の誰かを判別させないため……。
「ねえ、ネムちゃん、お絵かきできるかな?」
レイナースはクレヨンを持ってきて、羊皮紙に絵を描かせ始めた。
「分からない……。」
まあ、10歳の子の絵だった。ただ、黒っぽいローブらしきものを羽織ってるだろう事は分かった。
ただ、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーであるならあの人が強烈にイメージされるんだけど……。
「ビンカ、貴女の気持ちも分かるけれど、罠の可能性も棄てないで。」
「罠?」
「ビンカ本人か、貴女の仲間の誰かをおびき寄せるため……。」
「そうですね。仲間だけを呼び寄せたいならもっと、こう、暗号めいた何か合言葉みたいなのがあると思います。」
「貴女と同等の力を持っているなら、誰かに似せている可能性もあるでしょ?」
「幻術と言う可能性もあるかも……。」
「すると、アインズ・ウール・ゴウンを知っている人間からの挑戦状?」
「だったら私が直ぐに行ってぶっ飛ばす…って無理か、私本当ガチバトル弱いし……。アインズ・ウール・ゴウン知ってる人で攻めてくるなら確実に私より強い自身がある。」
かわいそうな者を見る目で私を見てくる……ネムまで……。
「結構嫌われてたからなあ、私等…。のこのこ出て行って捕まってさらし首は嫌だなぁ。」
「その、つかちゃんに仲介を頼むわけにはいかないの?」
「「それだ!!」」
アルシェの言葉に私とレイナースが指差して言う。
もう相当私達もテンパッてるね。
「ねえ、ネムちゃん、そのつかちゃんにアインズ・ウール・ゴウンさんと私が話したがってるって伝えてくれるかな?」
「いいよ。」
「ほ、ホントに?!あ、ありがとー!アリガトありがとありがとー!!」
ネムのほっぺにちゅっちゅ、ちゅっちゅ。
「じゃあ、早速
「失礼します。」
唐突に会議室に入ってきたのは18歳位の青年だった。腰の下まで届く黒髪が印象的だ。
「誰だ?」
レイナースが剣の柄に手を掛ける。
「こちらにカ・ラ・ビンカ様と仰るぷれいやー様がいらっしゃると聞き、まかりこしました。」
「だから誰、アンタ?私達はそれど……、って、プレイヤーって言った?アンタ!!」
「やはりそうですか。法国よりお迎えにあがりました。御同行願えますね。」
「冗談じゃないがちゃ…。私は今それどこでじゃ………。」
噛んだ…。
「これは帝国正規軍数万でもとめられない連中のようだ……。厄介な奴らが……。」
「失礼ですが、ロックブルズ殿も、フルト嬢も、エモット嬢、そして…。」
ガァン!!
爆音と共に、クレマンティーヌが会議場に吹っ飛ばされてきた。
「こやつも共に御招待しましょう。」
「ま、参ったね、こりゃ…。まさか漆黒聖典全員で私等ひっとらえに来るたぁ、聞いてねぇよ……。」
口から流れる血を吹きながら立ち上がるクレマンティーヌ。現れたのは真ん中から白と黒に分かれた髪が特徴の女性。
「…ねえアンタ、ぷれいやーなら強い?」
「弱いよ。」
「……そう。」
それで興味を失ったか、白黒の女性はクレマンティーヌの方へ向かった。
何時の間に入ってきたか、アルシェ、レイナース、ネムの後ろにそれぞれ屈強そうなあるいは曲者そうな男がそれぞれ得物を突きつけていた。
「分かったから、行くから、皆に手は出さないで。」
「「ビンカ!」」
「大丈夫だから。」
「そう、言っていただけると思っていました。しかし、それだけではぷれいやー様にどんな切り札があるか分かりませんので、このような手段をとらせていただきます。」
「おい、何を、ビンカはついて行くと言ってるだろう!!」
「カイレ様。」
「ぶ、ぶあーはははは………。」
「……………。」
「ちょ、その歳でチャイナ……、チャイナドレスは反則じゃない?!きょ、強烈……。」
私はそれきり何が起こったか、何も分からなくなった。
ああ、もう、何だか色々ありすぎて訳が分からない。
今日はまったく、なんて日だ!!?
幕間
ビンカがカイレと呼ばれた老婆に何かをされた。
恐らく
「クソ、まさか漆黒聖典がこんな早く、しかも人目を気にもせず乗り込んで来るなんて……。」
「ちょっと待ってください!私、…せめて副頭取に連絡をさせて下さい。銀行が空転したり、業務停止したら損害賠償を法国に請求しますよ!」
アルシェの言葉に漆黒聖典隊長は頷く。
「ヘッケランと言う方に知らせればいいのですね?数日間、頭取は法国に出張すると…。我々がここを発った後、お知らせしておきます。」
眉をしかめるアルシェ。やはりこれは一筋縄ではいかない。自分達の情報が丸裸だ。
「おい、ネムちゃんは解放してやれ!特使とは言え、単なる寒村の農民の幼女だぞ。」
「カルネ村は既に寒村ではないでしょう?むしろカルネ市、では無いですか?」
「チッ。」
「それに、ここの事情を目にした者を解放するわけには参りません。申し訳ありませんが、彼女は法国の招待に応じてもらいます。」
「せめて縄は解け!お前ら法国は血も涙も無いのか?!」
「おや?重爆と恐れられた冷血な騎士がずいぶんお優しい事を仰るようになって……。」
「はぁ、話にならんか……。ネムちゃん、こんなことになってすまない。必ずお家に帰れるように頑張るから、少しの間、我慢して欲しい。」
涙目になりながらも声を上げて泣かず、我慢しているネムにアルシェは安心させるかのように身体を寄せる。
押し込められた馬車の中、アルシェが口火を開いた。
「貴方達は何でビンカさんをこんな風にっ!」
ビンカは老婆となにやら話している。だがそこに意思は見えない。
「そんな大きな声を出さなくても聞こえます。逆に
「そんな事分かってます!私だって
「実は当方で手違いがありましてね。とある神を怒らせてしまったようなのです。その神への交渉として、こちらも神を立てて交渉しないといけなくなったのです。」
「だったら、…そんな
「こちらには神に比肩し得る戦力がこれだけある。この方の力の本質は戦力の底上げ、支援、それと、創造。我等が総力を挙げて準備を行えば、神とて無視できない戦力が手に入るのです。」
「このっ…ばちあたり共が!」
「貴方達は、法国は神を信奉する国ではなかったのですか?!」
「我々のためになる事をしてくれる方なら神です。」
「そうでなければ魔神と言うことですか?!」
「遺憾ながら。」
「そんな狭い視野で交渉するから神を怒らせたのではないのか!!?」
「そもそも先にこちらの巫女姫を攻撃してきたのは神の方からなのです。」
「巫女姫?奴らは自分の意思など持っていないだろう?」
「良く知っていますね。さすがは帝国騎士。」
「その巫女姫に何をされたと言うのだ?」
「陽光聖典に渡しておいた魔封じの水晶。それが発動されたので、確認しようとしました。とたんに巫女姫は爆死、侍従他大量に重軽傷を負う事態になりました。帰ってきた陽光聖典隊長によれば不躾に巫女姫が覗き見ようとしていたので、神が不快に思った、と。」
「自業自得ではないか!」
「だって、われわれはガゼフを葬るために陽光聖典を送ったのに、何故神が陽光聖典と戦っているなど思いつくでしょうか?」
「ガゼフを葬る………?」
「分かった…、分かったよ!!ガゼフ領主様を殺そうとカルネ村に帝国兵に偽装した兵士を送ってきたのは貴方達だったんだね!?」
「何?!」
「貴方達のせいでカルネ村の近隣の村々がたくさん被害にあってるんだよ!!」
「そうか、民想いで有名なガゼフさんを村民を犠牲にしておびき寄せ、暗殺しようとしたんですね?!」
「何処まで汚い事をするんだお前らは!神が怒って当然だ!!」
「そうでしょうか?元陽光聖典隊長の話では神は村民より友人を攻撃されたことに激怒したとありました。」
「友人?」
「つかちゃん、つかさちゃんの事だよ。」
「良く話に出てくる賢者か。そうか、今、カルネ村が急速に発展を続けているのは神の使徒の恩賜と言うことなのか?」
「そうだね。そう思うよ。つかちゃんが言う事は必ず的中してきたもん。上下水道の完備で伝染病とか無くなってるし。」
「今、元、陽光聖典隊長に、その神との交渉をその使徒を通じて行おうとしています。」
「だったら!それでいいではないか!こんな回りくどい事はやめろ!本当に神の怒りを買うぞ。」
「交渉材料は多い方が良い。元陽光聖典隊長も時間が掛かるだろうと言っていましたし、成功するとも限らない。」
「時間を掛けてでも、話し合った方が誤解も解けるだろうが!」
「実はそこなのです。神官長の中には元陽光聖典隊長に任せて後は座して待てという意見が一人しか居なかった。だから我々がとりあえずその神の所在地だけでも割り出そうと調査に向かった……。」
「読めてきたぞ。その調査の途中、神、もしくは他の使徒と出会い、手違いが起こった、と言うところではないか?」
「……………。」
「図星のようだな。愚かな!触らぬ神に崇りなしと言うではないか!お前らは神の御座所の近くをうろついて、竜の尻尾を踏んでしまったようなものでは無いか!」
「そう、既に竜の尻尾を踏んでしまったのです。後戻りはできません。立場の弱い者が交渉しようとすると、確実に足元を見られてしまいます。」
「だから神と同等の力を持とうと?バカなマネは止せ!ミスしたのならば仕方ないではないか。充分説明して謝り倒す以外無いだろう!?」
「神が我々の言うことを聞いてくれると思いますか?」
「思います。私達は少なくとも、神であるビンカさんと友達のように仲良くできていました。」
「甘い!甘すぎます。普通の神は我々人間のことなどゴミクズくらいにしか思っていません!」
「そんな事はない!少なくともビンカは民をたとえ犯罪者であれ、感情移入し、同情し、いたわっている!クレマンティーヌが良い例では無いか!」
「そうですね。我々の間諜からも報告があがってます。あの方、ずいぶんとできた神の様ですね。」
「ああ。私の呪いを解いてくれ、荒んでいた私に、人として生きる大切さを教えてくれた。」
「私もたくさん助けてもらいました。ともすれば奴隷商人に売り飛ばされる所を助けてもらいました。レイナースさんと共に一家離散の危機を救ってもらいました。」
でも、と、二人はフフフ…と楽しげに笑う。
「ビンカはどんな偉業を成し遂げても偉ぶる事も無く、神と崇めようとすると目を三角にしてかわいく怒る。」
「アルシェはマブダチ!て、いつも言ってくれる。とにかく歌うことが大好きで。わがままを言って。かわいく笑って。」
「「でもそこに何の裏もてらいも無い、何の思惑も無い。」」
「そうですか。本当に良い神の様ですね。この交渉が終わったなら、法国の新たな神になってもらいましょう。貴女方はその巫女にでもなってもらいましょう。」
「お前等のその上から目線は気に入らんな。多分、ビンカも気に入るまい。」
「多分貴方達の元ではビンカさんはいつもの笑顔を見せてくれるとは思えません。」
「あのー、ねえ、ちょっと待って…。」
ネムが首を傾げて言う。
「えっと、その、つかちゃん、陽光聖典と戦って、その友達の、神様が怒って、その友達の神様がアインズ様で、そして、アインズ様って、ビンカさんの仲間かもって………。」
…………。
!!!!!
ちょっと言葉足らずだが、…繋がった。レイナースもアルシェも、もやもやしていた事だった。
「……そうだ!そうだ!!おい、辞めろ!絶対やめておけ!お前等の言う神がもしアインズ・ウール・ゴウン様であるなら、ビンカは彼の仲間だ!仲間を支配して人質に取ればどういうことになるか、考えてみろ!!」
「………本国に……相談してみましょう。」
「相談じゃねーだろバカ!」
アルシェの口調がヘッケラン、イミーナのようになってしまう。
「ビンカさんはいつも自分のこと弱い弱いって言ってた。けど、それでも私等に与える影響は想像を絶するほどで、だから、とすると、アインズ・ウール・ゴウン様はとてつもない力を持ったビンカさんを遥かに上回る神って事でしょうが!激怒した神がどんな神罰を下すか、あんた達以外にも被害が及ぶ可能性を考えてんの??!!」
「ビンカなら謝れば許してくれる。ビンカに頼み込んで、アインズ・ウール・ゴウン様に許してもらえるように口添えしてもらえ!そうすれば必ず事態は好転する!!」
「そうだよ、つかちゃんも一緒になって謝れば、アインズ様はきっと許してくれるよ。アインズ様は話の分かる、少なくともつかちゃんには甘いくらいの神様だったよ!」
そして、彼らの下した判断は。
「つまり、集めた情報から、アインズ・ウール・ゴウン様は多くとも味方は3~5人しか居ないと。であれば、漆黒聖典の戦力ならビンカさんの第10位階の支援魔法プラス、巫女姫の力で調伏することができると?」
「最悪だ……。大方、政治がらみの決断なのだろうが……。」
「第10位階って、どんな魔法なんでしょうね?」
「さあね。天地でもひっくり返るかもね。」
「無駄話は終わりましたか?では貴女方も
目の前に現れたのは
「最後の頼みだ。ネムちゃんだけはせめて法国で保護してくれ。決して戦場、交渉の場には出さんでくれ。頼む。この通りだ。」
大きく頭を下げるレイナース。
「いいでしょう。もとより、そんなにたくさん交渉の場に連れて行くつもりはありません。それに女神様に対する人質はロックブルズ嬢とフルト嬢だけで充分でしょうから。」
「では、女神様、お願いします。」
「ごめんね、クー、ウーレ、後の事はお願いね。」
「
「はは…、まさか、ビンカを守るつもりが…。」
「はい。私達が足かせになってしまうなんて。」
「
「「ごめんね、ビンカ。」」
「
そして二人は自我を失った。
後には3粒の真珠だけが残っていた……。
続く