M 身代わり
殺せ殺せ殺せ……………。
殺してやる殺してやる殺してやる………。
そんな言葉がずっと頭の中を駆け巡っている。
ある程度の憤怒が鬱積すると再びやり直しになる。
そんな心情が続いていた。
ここに来る前にパンドラに言われていたが、…判っているのだ。激情に駆られ過ぎているだろうことは……。しかし抑えきれぬのだ!__抑えたくないという気持ちの方が!勝ってしまうのだ!!
ビンカさん……。
出会った頃は警戒の強い弱々しい小鳥のようだった。何もかにもに脅えていた。
ナザリックに招待し、皆に歓待されると、楽しげに親の後に付いていく無邪気な小鳥に変わっていった。
かわいかった。
滅多に会うことが無い、年の離れた従妹が懐いてきた…というとわかりやすいかな?
驚いた。
人は歌に心を動かされるのだと知った。
そんな彼女を声優であるぶくぶく茶釜さんが放って置くはずがない。
茶釜さんも声を操るプロなのだ
歌い手のビンカさんに同調し、声優から歌い手に変貌していく。
二人が並び歌いだすと、そこは
楽しそうに。とても楽しそうに。
__本当に、楽しかったんだ__
だけど、最後は突然に訪れた。
時間を作り、時間の許す限り、彼女の下へ足を運んだ。
彼女のいるであろう部屋からくぐもった声が漏れてくる。
…早く楽になってくれ、……これ以上苦しまないでくれよ!
扉を開けることができない自分に気付くのか、彼女が声を抑えるのが分かった。
別れは寂しい。
少しずついなくなるギルメンは現実の生活の為……。
それは我慢できるし、納得もできる。
だけど、彼女は違う。
彼女は
……死別なのだ。
納得などできるはずもないではないか。
そして法国の連中の行ったシャルティアへの愚行を思い出す。
精神支配については許せるものではないが、ある程度殺してやれば気も済むだろう。
しかし、彼女はダメだ。俺の中の一番触れてはいけない物を連中は土足で踏み荒らしたのだから!
「……さま、……様?」
「……どうした?アルベド。」
「連中、散開しました。」
「……そうか。」
敵の姿が見えない……。
「探査魔法を……。」
ん?声が…歌が、聞こえる…。
ビンカさんの声…。
…しかし。
アレはビンカさんの歌ではない…。
歌に心を込めた、聴く者の心を動かした『あの声』ではない!アレは単なる『音』に過ぎない!!
おのれおのれおのれおのれ……。何処まで俺の美しい思い出を穢してくれるんだっ!!
「何てカンに障る歌だ!?探し出して殺せ!!」
ビンカさんの声で……っ!!
ただでは済まさんぞ!クソがっ!!
「人間!…来ました!」
後ろのマーレが声を上げる。
殺せ・殺せ・殺せ……。
マーレの声に、張り詰めていた感情が瞬時に爆発し__
「
「ひゃあっ!」
効果範囲に居たマーレが慌てて頭を伏せた。
「…すまん。」
「い、いえ!アインズ様は何も悪くありません!ボ、ボクがボーっとしてたから……。」
「む?」
三人くらい居た漆黒聖典の戦士は砂の山に消えた。
「オオオオ!!」
コキュートスの雄たけびに目をやると、断頭牙を振り下ろしているところだった。
「不落要塞ッ!!」
クレマンティーヌの武技がコキュートスの体勢を崩す。
コキュートスは3人に囲まれてけん制されていた。よく……訓練されている。息がピッタリだ。今、俺が間違ってマーレを攻撃してしまったのとは大違いだ。
冷静な部分の俺は思わず舌打ちをするのだが、……殺せ・殺せ・……、と殺意がその冷静さを飲み込んでしまう。
クレマンティーヌのスティレットがコキュートスの断頭牙を持った巨大な腕に僅かに刺さる。
「ククッ!」
ニヤリとクレマンティーヌが笑った。
わずかに刺さったスティレットから突然炎が噴出し、凄まじい爆音と共にコキュートスの腕を包み込む!
「ウオォォ!」
「あれは、
「スキル・氷結!」
コキュートスは直ぐに消火するが、彼に炎系最強の魔法はノーダメージと言うわけにも行くまい。
クレマンティーヌの攻撃がある程度の効果を上げると、直ぐに漆黒聖典の連中は反撃を受ける前に姿をくらませてしまう。
ここでニグレドから
「分かりました!そこかしこに情報遮断のクリスタルやら仕掛けが埋め込まれたり浮かんでいるそうです!」
「ちっ嫌らしい戦術を……。」
何だろう?……この戦術は……あの人の…。
「空からフェニックスです!」
と、アルベドの声。
また微妙な召喚獣を……。
『私、この子嫌いなんだよね……、確かに強いし、不死身なんだけど、…使わないからアインズさんにあげる。……え?いらない?じゃ、他の人にあげちゃうよ。』
ビンカさんの言葉を思い出す。結局貰い手は無かったみたいだが……。
これを召喚するなんて彼女の性格ならありえないこと。
「全く、ことごとく後手後手にされる……。とにかく、連中の居場所を探り当てるのが先決だ。アルベド!ギンヌンガガプでここら一体を焼き払え!それで全てのジャミングが消滅するはずだ!」
「は、はっ!」
突然、陽炎の中から要注意とされていた一人が姿を現した。
「フフ。待ってたよ?」
速い!他の連中とはダンチだ。
アルベドはギンヌンガガプを左手に持ち替え、右手のバルディッシュを振るう。
「こっち。」
この女、絶死絶命とか言ったか?こいつがプレイヤーなのか?
「これ、ギンヌンガガプって言うんだ?」
「…っ!!!」
そういうことか……これを誘い出すための罠でもあったのか…。
絶死絶命の手にギンヌンガガプが握られている。
「そーれっ!」
「うおっ!」
キュ…ゴォ……ゴオオオォォォォ………。
半径20メートルくらい。目の前が真っ白になった。
しかし全員にワールドアイテムを所持させている。手傷を負ったものは居ないはずだ……。
「あは、使えた。あんた達のお仲間、結構すごいじゃない。普通じゃこんな戦略、組み立てられないでしょ。」
アルベドがギンヌンガガプに手を伸ばす。しかし絶死絶命のスピードはアルベドを凌駕していた。
「も、申し訳……。」
「よい。直ぐに取り戻せば良いだけだ。」
連中、はじめからこの展開を予想して作戦を練っていたのか?だとしたらそれなりの戦略を組み立てるプレイヤーだ。
ビンカさんだったらこんな戦略は組み立てられないはず。あの子は我々の作戦会議をいつものほほんと微笑んで聞いていただけだった。
「アルベドはとにかく、傾城傾国の精神攻撃を受けないよう、気をつけておけ。私はとりあえずあのうるさいフェニックスを倒してくる!」
「はい…。」
打ちのめされている。本当ならもっと優しい声を掛けてやりたいのだが、…クソ、殺せ殺せと……。頭の中で…。
幕間
今回は貴女も、アルベド殿らしくありませんよ。
分かっていた。焦っていた。
シャルティアは成功と失敗を繰り返し、本来差し引きゼロのはずなのに、何故かたくさんのご褒美を貰った。
あのクソ
本来なら正妻、最有力候補は私、アルベドだったはず。
なのに、何故かナザリック内ではシャルティア一歩リードのウワサ。
そして今回の失態……。
ちっくしょう!!
「アルベド!アルベド!頭を上げなさい!今の貴女はワールドアイテムの加護を失って最も無防備の状態よ!」
頭にニグレドの叱咤が響いてきた。
「姉さん…。」
震える足に活を入れて立つ。
「そう、それでこそアルベド。私の最愛のいもうと。」
「敵が、敵はたいしたこと無いのに、苦戦させられてる!後手後手にまわされてるのも全てジャミングのせい。お願い何とかこの情報戦を制して!」
「分かっているわ。でもその前にギンヌンガガプを取り戻さなくちゃね。」
「で、出来るの!?」
「姉さんに任せておきなさい。いもうとのお尻くらい綺麗にふいてあげる。」
「ちょ、やめてよ!」
「アインズ様、失礼します。」
「ん?どうした?ニグレド。」
フェニックスに既に氷雪系攻撃を重ね、半ば消しているときにニグレドからメッセージが入る。
「ギンヌンガガプ奪還作戦をデミウルゴス様が発案しました。作戦実行の許可を頂きたく。」
「聞かせてもらおうか。」
「はい。」
………………………。
「なるほど、良かろう。見事成し遂げて見せよ。」
「はい、その、今回の作戦が成功した暁には1つお願いが……。」
「言ってみよ。」
「はい、皆の手柄にて、いもうと、アルベドのミスを軽減していただきたく…。」
「良かろう。であればアルベドには私が直にお尻ぺんぺんで許してやる。」
「ありがたき幸せ。」
その報を聞いたアルベドは……。
「お尻を、アインズ様が、私のお尻を……!」
……。
「やってやるぜぇ!!お前ら、覚悟しろ!!支配できるならしてみろやぁ!!」
アルベドはマーレにたかっている5人に向けてバルディッシュを投げつけた。
もし支配されることになりそうだったら、今度は自分で自分の首を撥ねてみせる!そう覚悟を決めて。
______________________________
「全く、詰まらん時間稼ぎを……。」
フェニックスは消滅した。
しかし、クソ、敵の思惑通りなのだろう、少し、流れを変えんとな。
「アインズ様、奪還作戦、万事、抜かりなく。」
「よし。」
ニグレドから合図を受けた。
ダメージを受けさせんように、加減して、しかし、派手に、難しいな……。
「
「きゃぁぁぁぁぁぁ………。」
「ちょ、何で女神様がそこに?!いつの間にそんな危険な場所に移動したの?!」
よし、計画通り。
最も近くに居た絶死絶命が慌ててビンカに駆け寄る。
「大丈夫?」
「はい。大丈夫です。」
「……え?」
「絶死!罠じゃ!」
何処からとも無く老婆の声。シャルティアの言っていた傾城傾国を着た老婆か?
「はい、罠です。
パンドラズアクターは絶死絶命の腰に刺さっているギンヌンガガプを奪還しながらビンカから弐式炎雷に姿を変える。
「
「なっ!?」
気付いた絶死絶命が、慌ててパンドラズアクターの後を追う。
しかし、弐式炎雷さんの80%のスピードとは言え、追いつけまい。
思ったとおり、絶死絶命は直ぐに追跡をあきらめる。
「ちっ……、敵にも策士が居て当たり前か……。っつ!」
「
絶死絶命に向けて放った魔法はしかし、空振りだった。いや、手をかすめたか?
帰ってきたパンドラズアクターがアルベドの前に立ち止まり、ギンヌンガガプを渡す。
「あ、ありがとう。」
兜を脱いで、潤んだ瞳で頭を下げるアルベド。我が子のようにギンヌンガガプを胸に抱きしめる。
………。
「いえいえ。しかし、普段からそういうかわいい対応をしてくれればアインズ様もメロメロですよ。ね?」
ね?じゃねえよ。弐式炎雷さんの姿でウィンクするな!
……確かに新鮮だよ。…メロメロになるよ。
「余計なお世話よ…。」
うわ、唇を尖らせるアルベド、むっちゃカワエェ……。
しかし、クソ、直ぐにその雰囲気も殺せ殺せと頭の中で……。
「それでは私はワールドアイテムの精神攻撃が来ないうちに、退散するとしますね。」
「ああ、大儀であった。」
「さて、では反撃に出るとするか。今度は……む?」
突然コキュートスから背を向けて走り始めた奴は……、クレマンティーヌか?
「んなっ!!」
クレマンティーヌが襲ったのは潜んでいたカ・ラ・ビンカもどきであった。
何で?と言うよりも、殺意の方が上回ってしまう。
殺してやる……。
模写した姿であっても、ビンカの胸にスティレットが刺される瞬間は……くるものがある。
どんな殺し方が良いだろう?
「お、きさっ……、きっさまぁぁぁ……!!」
あれは確か、帝国4騎士の一人、レイナース・ロックブルズ、だったか?
ん?何でこんなところに帝国騎士が?奴らもグルなのか?もしそうなら……。
「び、ビンカさん!!!」
その名を呼ぶな!!小娘!!誰だお前は!!
殺してやる!!
「がはっ!!」
ん?
「お前っ!!」
「レイナース、アルシェ、今度こそ、びんちゃん、守ってやれ。」
は?何を言ってるんだ?自分で殺しておいて意味が分からん!?
殺ス殺ス!!
「これは……。」
「でも、もうビンカさん、息してない……。」
「スティレットを抜け。それに、込められて、いる、魔法は
スティレットを抜くと、ビンカもどきは再び呼吸を始めた……。
幕間
巨大な蟲の怪物を相手に互角に戦えてる。
確かにダメージを与えられるのは私のスティレットから発される魔法だけなんだけど……。
ただ、これもジュエルが尽きる前に隊長と絶死の奴が二人、倒さないと、こっちは完全に負ける。
「まったく、普段あんなのほほんとしてる割にはびんちゃん結構やる奴じゃん。」
「ん?」
びんちゃんの足元には大量の真珠が転がっていた。
ぽとぽとと、今も真珠が零れ落ちてきている……。
「……そうか、辛いか…。仲間と戦うってのは……。私には分からん心情だ………。」
……………。
「ね、レイナース、かわいそうだよね。」
………。
「ね、許してあげよ?」
………。
だから、…わかんね。
私が今こんな心情で居るのも!!
たださ、一番楽しかったんだよね…びんちゃんといた時が一番……。
「チッ!法国なんて滅んじまえ。」
気が付いたら私は、びんちゃんの心臓にスティレットを突き立てていた……。
これで全てが終わる。そう、全て、アイツも多分道連れに……。
____________________
ああ、まったく、手間を掛けさせてくれた。
いつの間にか、法国の連中は逃げ帰ったようだ。まったく逃げ足の速い。
まあいい。奴らの逃げ先は分かっている。
それよりも………。
「さあ、覚悟は済んでいるか?」
既に、一人は事切れている。残念だ、俺の手で殺してやれなくて……。
さぁ、どんな殺し方をしてやろう?
「お願いします、神様、私はどうなってもかまいません。ビンカを……。」
「その名は口にするな……。といっても遅かったか。」
参ったな、簡単に殺してしまった。首と分かれた胴が血を吹き上げる。
次の娘は少しでも長く……。
「何のつもりだ?」
アルシェとか言ったか……震える足で、しかし両手を広げて俺の前に立ちはだかっている。
「………ビンカさん、お願い、早く逃げて!!」
「だからその名を口にするなと……。」
………。
まさか絶望のオーラだけで死ぬなんて……。
クソ!消化不良だ!!最後の奴は、奴だけはもう、簡単には死なせん!
「何て、何てひどいこと……。」
「ひどい事をしてくれたのはお前のほうだ……。」
殺してやる・殺してやる……。
「ねぇ、冗談でしょ、レイナース、アルシェ、クレマンティーヌ……。目を覚まして……。」
無様に死体にすがるビンカもどき。まったく、その姿であまり無様をさらしてくれるな!
「
あれ?何て簡単に死ぬんだ?
「レジストしなかったのか?出来なかったのか?
「……ねえ、お願い、この子達だけは助けてあげて。」
「は?何を言ってるんだ?聞いたか、お前たち?」
いや、この言い方は不味かったか?
皆の笑い声もなんとなく強要されたものに感じてしまう。
「お前は他人の心配をしている場合か?それに、そろそろその姿は止めたらどうだ?」
「そう、分かった、あなたはもう、人間じゃなくなっちゃったんだね。」
モドキの身体が吹き飛んだ。
アルベドが蹴り飛ばしていた。
「御方をあんな下賎な物と一緒にするとは不敬きわまる!!」
「ごほっごほっ……。」
大量の血を吐くモドキ。恐らく内臓が破裂しているのだろう。
「だったら、分かった。私は貴方と戦う!」
「ほう、戦うか。ならば早く変身を解け。全力のビンカさんであっても俺には100%敵わないのだからな。」
「それは、どうかな?」
「
「スキル発動・
そのスキルは………。
「フフ。」
真っ二つにされながらもモドキは笑顔で息絶えた。
何だ?何か……おかしい?
「……様?…アインズ様?」
「あ、ああ、何だ?アルベド?」
「今のは?」
「ああ、今のは自らをイケニエにしたスキルだ。やられた。見ろ。」
クレマンティーヌ、レイナース、アルシェの身体が光に包まれて消えていく。
「経験値を大量に消費し、こやつ等を自らの子として転生させるスキルだ。」
「このスキルでターゲティングされた我々は、今後あの3人に対してかなりの不利な戦いを強いられることになる。殺せば殺しただけ、その技、スキル、魔法に対して耐性を持たせてしまう。粘着的な敵であれば天敵になってしまう最悪のスキルだ。」
「ぷにっと萌えさんが直接戦闘が苦手なビンカさんに持たせた切り札の1つだった。今まで発動したのは見たことが無かったが……。まさかこんな形でお目にかかることになるとはな…。」
しかし、何かがおかしい……。
……殺せ殺せ惨殺だ!
「ソレニシテモ変身ヲ解キマセヌナ……。」
「あるいは、つかさのように憑依したは良いが解除できなくなったとか、そういう間抜けな話なのでは?」
コキュートスの言葉にシャルティアが推測を返す。
「そうだな。そんなところなんだろう。」
生き返らせたビンカのLVは既に40を下回っていた。
殺せ殺せ殺せ……。
怒りが全て殺意に変換されていく。
もう何回も殺しまくると既に心も麻痺していた。
本当なら本来の姿に戻して生き地獄を味わせてやりたいところだが……。
まあ変身を解かないというのはそういうことなんだろう、彼女の姿のものを俺が無下に出来ないと分かっているのだろう。
忌々しい!!
「遺言はあるか?」
面白い遺言を言ってくれれば絶望を味あわせることも可能かもしれない…。
「もう、殺されてる間に言ってきちゃったよ。レイナースにも、アルシェにも、クレマンティーヌにも。皆、いい子になってくれるって約束してくれた。」
「そうか。」
何だ、つまらん。
「ああ、そうそう、貴方にも遺言しておかなくちゃね。」
「何だ?」
既に
「私の部屋のレターケースの二番目。」
「何だそれは。」
「やっぱりね。」
「それが遺言か?」
何を言っているんだ?……何かおかしい。
殺せ…。
「そうだよ。」
「では死ね!」
落ち着け!何かおかしい、何かおかしいんだ!!
殺してやる!!
「
続く