カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

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第3話

A シャルティア

 

 

 千五百の大軍でナザリック大墳墓へ攻め込んだ次の日、大学のゼミで教授から論文発表の提案があった。

 2年生で論文なんて始めはナイナイと思っていたし、何より何か月も缶詰になるなんて冗談じゃないと思っていたのだが…………。

「企業献金127万円?!」

 アルバイトをするより遥かに割の良い額だ。しかも後々の為にもなるし、卒論に繋げる事もできる。

「やります!」

 その日から連日、卒業まで僕は実験と論文の執筆と、とんでもない荷物を背負うことになった。

 そして卒業を待たずして……。

「大学院ですか?」

 もう嫌。そもそも僕はぐうたらなんだよ。企業協同の論文も楽をして儲けるつもりだったんだよ。

「え?研究員待遇で?稼ぎながら?」

 確かに社畜として働くよりは自由もあるし融通も利くだろうし…。

「やります。」

 

 

 そんなこんなで何年経っただろうか?

 研究がひと段落してようやく僕は解放された。一応通帳にはまとまった額が入っている。

 しばらくニートでもして引き籠ろう。

 久しぶりのログインだ。忘れていたワクワクがもうどうにも止まらない。

「ん?………最重要メール?」

 “ユグドラシル配信終了のお知らせ。”

「ふざけんなぁぁぁ………。」

 人生唯一の楽しみが………。僕がユグドラシルから離れてて、何があった?

 ともあれ、残り数日……。

「今日で終わりって、……なんの奇跡?」

「ああ、そういえばモモンガさんに言われたなぁ、奇跡を当てにするかねとかなんとか。」

 モノマネ、似てねー。

 

 まあともかく、まずアップデートしなくちゃ。

 アップデートのかたわら過去ログやらメールを片付けていく。

「さて、前回の終わりは………。」

 そうだった。ナザリック大墳墓に攻め込んでボコボコにされた挙句、雪女郎(フロストヴァージン)に憑依して安全地帯に逃げ込んだところで終わってた。

「おお、久しぶりすぎる………。」

 相変わらずの凝った造り。

 でも何だろう、なんだか寂しいような。

「まあ、プレイヤー全員で打ち上げでもしてるんだろうな。」

 さて、かって知ったる他人の家。うん、意外と何年も前のデータが頭に残っている。

 にしてもNPCもかなり少なくなっている。以前はエンカウント率半端なかったのに……。

 第2階層死蝋玄室。今まで何事もなくここまで来てしまった。

 ……もう孔明の罠は嫌よ。

 ここには確かシャルティアって真祖(トゥルーヴァンパイア)が居るはず。ナザリックNPCの中ではルベドを別格にして最強。今の僕じゃ瞬殺だろうな。ぶくぶく茶釜さんに削られまくってMPもスキルの残りもわずかしかないし。

 あ、なんだかあれを思い出しただけで幸せな気分に……。

 

「まあ、君子危うきに近寄らずってね。」

 ともあれ、こんなところでシャルティアに出会いでもして敵と判断されれば目も当てられない。僕は急いでその場を離れ………。

 目の前にいつの間にかシャルティアが立っていた。

『最悪だ…。』

 逃げ出しかけたが、慌てて僕はひざまづきその進路を開ける。

 …………。

『何だよー。何でここのNPCはこう無駄にリアルなんだよ?こちらを不思議そうな顔で見てるんですけど!』

 ただあの時のアルベドよりは怖さが無い。美人というより美少女だからか?

 シャルティアは座ってこちらに目線を合わせてきた。

『何?何なの?このリアルさ?アルベドと別の意味で怖いんですけど!』

 と、シャルティアの後ろから吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)が3名現れる。

 囲まれた!

 敵と認識されたか?

 一歩を後退すると4人は一歩詰めてくる。前に行こうとも隙間は無く、どんどん後ろへと押しやられていく。

『何で?ドット絵時代のPRGじゃないんだから身動き取れなくなるバグなんてどんなムリゲーよ?』

 やがて誘導されるように死蝋玄室の扉へと押しやられる。

 この中はやばい。僕の勘ではここに入ったら確実にえらい目に遭わされる。

 左に空いていた隙間に慌てて逃げようとしたら―

上位転移(グレーター・テレポーテーション)。」

 ―シャルティアが瞬間移動魔法を唱えた。

「うわ、なんつー綺麗な声だ!ペロロンチーノさん、神!」

 思わず声が出た。それだけシャルティアの設定ボイスは神がってた。ぶくぶく茶釜さんのロリ声とは違った高い透明系の、こんな声優いたら間違いなくファンクラブに入る系だ!

「しかも、何で嬉しそうにするんだよこの子。何なのこのリアルさ?」

「てか、どいてください!」

「……………。」

「ど・い・て・く・だ・さぁーいー!」

 押しても引いても4人は後ろへ動こうとしなかった。

 てか、いつの間にか、どこかの部屋の中に居た。いつの間にも何もあの上位転移(グレーター・テレポーテーション)の時だろうな、たぶん。

 そしてここはやっぱあの死蝋玄室の中なんだろうな。

 

 扇情的。この部屋を一言で表すと他に見当たらなかった。

 ペロロンチーノさんの趣味なんだろうな。

 ………思えばあの時のバードマンがペロロンチーノさんなんだろう。何と言うか、遠くで見てる分には面白い人だった。

 扉は一つ二つ…三つある。ただ一つの扉は二人の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)が立ちふさがっていて、ここを通ることはできない。おそらく押しても引いても動かないだろう。

 後ろの二つの扉………。

 ここに入っては絶対いけない気がする。

 

 と、後ろの扉の一つが開いて、二人の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)が入室してきた。どうやら扉の一つはバスルームだったようだ。現実世界では会社経営者レベルでないと入れないような超豪華な入浴設備が目に飛び込んできた。

 なんて言うか入ってみたい気はする………。

 と、シャルティアが指をくわえてこちらを見ている。

 だから何でそんなリアルなのこのコ?

 こだわりってレベルじゃねぇ!

 

 逃げると追ってくる。ヒヨコやアヒルのヒナとかだったらかわいいけど………かわいい…けど……。……かわいい……。

 やばいかわいい!

 上目遣いがかわいい!

 指をくわえてるしぐさがかわいい!

 何コレ!お持ち帰りしたい!

「ペロロンチーノさん神!」

「ペロロンチーノ様神様でありんす!」

 うおっ!笑顔のシャルティアが僕の言葉をリピートしてくれた!!

 ナニコレ、ナニコレ、ナニコレ珍百景!!

 廓言葉とかもナニコレ!声もカワイイ!

 もうおそらく僕の目はぐるぐる回っていることだろう。

 あー、完全に魅了(チャーム)されてるわー。

 思わず抱きしめたら抱きしめ返してくれた。

 もう、何なのこのコ!チュッチュしたくなる!したらたぶんBANされるから絶対にしないけど。

 

 既にこの時、僕は忘れ去っていた。

 そろそろ今日という日が終わるのだということを………。

 

 

 

続く

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