A お世継ぎ
復興支援。
法国の傷跡は深かった。
ニグンが臨時政府の代表に推され、復興に当たっている。
カルネ義勇軍はエンリとネム、ゴブリン達が復興支援に参加している。
ロックブルズ救助隊改め、帝国救助隊はクレマンティーヌが率いているが、彼女はほとんど副官に丸投げして遊んでいる。
ナザリックからは物資やゴーレム等の救援がなされていた。
今だガレキの中からは遺体が見つかる。僕は慎重にゴーレムを動かしてガレキを撤去させる。
「あ!珍しいものあった。」
神殿跡から僕が見つけたのは普通の人にはただの布に見えただろう。
ゴーレムにガレキを支えさせると、その下敷きになっていた布を丁寧に取り出した。
「何々ー?何見つけた?」
僕の背中に乗ってきたのはクレマンティーヌだ。
彼女、何故か僕を気に入ったらしくて、復興支援の5日間、ずっと僕にまとわりついている。
「うん。これ。」
「やだー、つかちゃんお下品ー。」
…は?……ああ。
「君は低学年の小学生か?!」
「………絹?」
「絹は絹でも、上位の絹。クレーンシルクだよ。」
「へえ。……貰い!」
クレマンティーヌはいつの間にか僕の手からクレーンシルクを奪っていた。
速っ………。
この子、いつの間にかLV60近くになっていた。しかもウェイダーって何だか見たことない職種になってるし。
「ちょ、待ってよ!それ、コッペリアの素材になるんだから!」
「…コッペパン?」
「コッペリア!僕の本来の姿だよ。」
クレマンティーヌからクレーンシルクを奪い返すと、それを
ただやはり後で目録は作っておこうと思っている。
「本来ね…つかちゃんってさ、ママの世界から来たんでしょ?」
「そうだよ。」
「教えてよ。その世界の事。」
この時、僕はクレマンティーヌが日記を書く子であるとは思っていなかった。そして、まさかこの話が後世に伝わっていくことになるなんて………。
「そうだねー。ろくでもない世界だったよ。」
あの日本と終わった世界。
そして僕はカルネ州を良い時代の日本とヨーロッパをモデルにした国づくりをしていることを語りながらゴーレムを動かし続ける。
「でもさー、それってつかちゃんのやっていることを繰り返すとやっぱり世界は終わるって事になるんじゃないの?」
「……………。」
それは思わないでもなかった。このまま剣と魔法の世界の方が良いのかも知れない。
しかし……。
「この世界の人が、僕の世界の人達と同じようにエゴで突き進めば、そうなる。……でしょうね。」
「フフ。」
「怒らないの?」
「何で?」
「僕はこの世界で試そうとしているんだよ。」
「理想郷ができるかどうかでしょ?だったら作ってみせてよ。もしいずれ破滅の運命をたどるとしても、つかちゃんが創ろうとしてる世界なんだから、私らが知らないような夢みたいな世界が実現できるってことでしょ?それを知らないで死ぬよりずっといいからねー。」
僕は復興支援の手を止めてまじまじとこの悪い噂しか聞いてないこの子を見る。
「……何ー?その意味深な目は?私にそのケは無いよ。エロスケベー。」
ただでさえ扇情的なコスチュームを隠すようにくねくね動くとそれがより強調される。
ああ、この子はこういうコなのか………。そりゃ誤解もされるか。ビンカさんは芸術家特有のセンスで、それを初めから見抜いていたってところか。
「君は10歳前後の時に酷い目に遭わされたんだったね?」
「んー何?突然?」
彼女の時間はあの人に会って、ようやく動き出したのか…。子供特有の残酷性、そしてそれはどんな物に対しても同じ。
それで居て切れる頭脳を持っているからの、このちぐはぐさ………。
…だからアルシェは彼女を妹と言うのか………。
「………いや。理想郷、できると、いいな。」
今、カルネ州境付近の都市では野戦病院が設営されている。それも今後の布石だ。一つの目的は復興支援だけれど、カルネ州他、色々な人と仲良くするきっかけとすること。モラルや人間らしさを思い出させるため。そして元法国の人間が亜人を受け入れる事が出来る様に。
「君にも色々、学んで欲しいな。」
「あ、私、勉強は苦手。」
「勉強ね……、しなくていいよ。知っていればいい。僕が話すことを聞いていれば、それで良いよ。」
クレマンティーヌは首を傾げた。
この後、僕は復興支援作業の間中話していた事を時にクラッカーをかじりながら、時にトンボを追いながら、時に僕の背中で聞いていた。
復興支援が10日も経った頃、一人の女性が僕を訪ねてきた。
僕はクレマンティーヌにゴーレムを任せ、待っていると言われた教会に向かった。
ナザリックの腕章をしたアルベドが教会の談話室で座っていた。この腕章をしていると法国の人々はどんな異形種であろうが無条件にひれ伏すようになっていた。
僕が頭を下げると、アルベドも立ち上がって軽く会釈する。
「……………。」
こんなところに何の用だろう?
彼女は僕にいい印象を抱いていないと思っていたが……。僕もナザリックにアルバイトに行っていた頃も極力彼女と出会うのを避けていた。
「知恵を貸してください。」
アルベドは僕に頭を下げた。
「………え?」
いやいやいや、……アルベドに貸す知恵なんて僕にあるはずがない。
「ちょっと、頭を上げてください。」
このプライドの塊みたいな女性に頭を下げさせておいて何もできませんなんて言ったら殺される……。
「お願いを聞いてくれるというまでこの頭、上げるつもりはありません。」
「それって脅迫!お願いだから頭を上げて。」
「……………。」
「僕に出来ることは何だってするから!」
ようやくアルベドは頭を上げてくれた。
「アインズ様に……。」
まあ、アルベドが頭を下げる理由なんてそれしかないよね。
「このままではアインズ様がナザリックを顧みる時間が半減してしまうの。」
話が飛んだ。
僕は首を傾げる。
「貴女は国を興すつもりなのでしょう?」
「そうだよ。」
「そうなれば、その国にナザリックも関係を持たせるつもりでしょう?」
「いいえ。無理強いはしないよ。」
「でもアインズ様は関わるおつもりなの。」
「それは力添えしてくれるのならこれほど心強い方はいないけど……。」
「今の流れでは、貴女の国造りは無茶なことをしない限り、止められない。」
………どんな無茶?怖いんですけど……。
「本来、私達ナザリックに所属するものには人間の世界がどうなろうが全く興味はないわ。」
「でしょうね。」
「しかし、アインズ様は徐々に人間に関わろうとお思いになられてる。それが貴女やカ・ラ・ビンカ様の関わる国ならなおさら…。カ・ラ・ビンカ様もナザリックには滅多に戻られず、毎日ロックブルズホールで歌唱の毎日。それどころか階層守護者達も自らの任務を最低限に、ロックブルズホール通いが続いてるわ。ノルマは達しているから文句も言えない…。」
そんなに…。
「でも、このままではナザリックが内部崩壊を始めてしまう!」
「それは無いって。」
彼女の頭の中ではどんな未来絵図が描かれているんだろう?
「このままでは皆ダメになってしまう。貴女達を殺すことも考えたけれど……。」
「こわっ!!」
え?…達って、もしかしてあの人も含まれてたりする?アルベドは平気なの?
………いや、わざわざ表明したのは…脅し、みたいなものだろう。
「私の計算では崩壊が進むだけだった……。私が処刑された後、恐らく責任感のお強いアインズ様が貴女のやろうとしたことを引き継ぐでしょうし……。」
なるほど…、それはあるかも…。
「だから、どうしたら良いか、教えて欲しいの。」
「教えるって……。そうなる可能性の方が低いのに……。」
「可能性があるなら、私は考えないといけない立場なの!」
噛みついてくるアルベド。
「分かったから……。でも、デミウルゴスやパンドラズアクターに聞いたの?特にこういう話、僕に話すのはデミウルゴスとかとても嫌がりそうだけど……。」
「もう聞いたわ。二人ともそんな事にはならないと……。なるとしても、ある程度事態が進まないと、むしろ対処してしまう方が悪手だと。」
彼等が言うならそうなのだろう。
「私は貴女の事は嫌いだけど、信用できるとは思っている。そして、貴女が提案してきた様々な事がほぼ事態を好転させてきたことも見てきた。だから……。」
「まあ、話は分かったけど……。」
力になれるとは思えないなー。
そんなこんなで、僕とアルベドは色々な案を出し合った。
1時間ほど話しあったがどうしてもアルベドの頭の中ではナザリック衰退に向かってしまう。僕の考えでは極論過ぎると思うのだが……。
「……そうだねー。昔の王家だったら、お世継ぎが居れば……。」
僕が不用意にポツリと言った発言。
ゾクッ。
「………………く・わ・し・く。」
やばい!言葉を選ばないと殺される。
「えっと、………アインズさんでも、
「それだと数に限りがあるわ。何人お世継ぎを得られるかしら?」
一人じゃダメなんですか?
「ビ、ビンカさんなら………。」
「あの三人娘をどうするの?カ・ラ・ビンカ様は恐らく、実子がお生まれになっても、長子はあの何だったか言う女騎士にするおつもりでしょう?そんなのは我等は認める事はできない!むしろそれがいさかいの種になる。」
畳み掛けられるから、余裕が無くなってくる……。
「あ、じゃあ、遺伝子的にはどうなるか分からないけど、僕の作る人形にヒルコってのがあって…、それに憑依することで何にでもなれるってもので……。アインズさん、悪霊系はコンプしているはずで憑依は出来ると……、それこそ洲とか、神、はナザリック的にまずいか、魔神にも魔王にもなれる………。」
「クフフ…。」
「って、……え?」
「ヒルコ……。クフゥ…。」
……………あ、これってもしかして、誘導された?
「創ってもらえる?何でもするって言ってたわね?」
確定だ。誘導された。はめられた。
「そ、素材が…………。」
「ナザリックにほとんどそろってると思うけど。」
はい。絶対そろってる。
「僕、まだ創れるレベルじゃないんだけど……。」
「強欲と無欲にはまだ経験値が余ってるわ。それで足りると思うけど。」
いや、多分、思うじゃないよね。全部下調べしてきたよね……。
ビンカさんも遠慮しないでLVカンストさせれば良かったのに!
「貴女もアレの作成に経験値が必要でしょう?これはウィンウィンの関係ではなくて?」
「……えっと、ヒルコって特殊で、LV1からやらないといけなくて……。」
「強欲と無欲で…。貴女のLVを上げて、それの残りを全部ヒルコに注げばLV40にはなる。それだけあれば法国の連中をチンした今、油断ならないのは評議国の竜達か未知の敵。その間は我々が守りきるわ。」
チンて……。多分僕に気を遣ってくれたんだろうけど……。
しかも、もうそこまで下調べ済んでるって事……。
「……………。」
「何か他に問題でも?」
「アインズさんのお気持ちは?」
てかそれが一番重要でしょう。
「そうね。でもお認めになってくださると思うわ。」
何を根拠に?てか、貴女、目がぐるぐる回ってるんですけど…。
「だって私達はアインズ様に無理強いできる立場では無いのだから。」
「……えっと、じゃあ、ナザリックの皆様で話し合ってください。僕は創るだけですので、後の責任は全て…………。」
冷や汗が噴き出す。
「良いでしょう。」
とてもいい笑顔で席を立つアルベド。
「ちゃんと、アインズさんを説得してくださいよ!僕の所に怒鳴り込んでこられると………。」
「大丈夫。…クフッ!」
「全然大丈夫に思えないんですけど!!」
「じゃあ、準備、お願いね♡」
やっべ、さすがサキュバス。……魅了される。
後に、アルベドの真意が分かるのだが、彼女が恐れていたのは再びアインズさんとビンカさんが争いあうことになる事。
今はまだビンカさんが圧倒的に不利で問題は無いのだが、三人娘達はどんどん強くなっているし、彼女はアンデッドではないので他にも子供を作れる。そしてさらに三人娘の子供達はどうなるか?
これは予測されると言うだけの事で、さすがにそれ以上は不敬であるのでアルベドも口にはできなかったという事だ。
翌朝。アインズさんが怒鳴り込んできました……。
復興支援隊が駐屯する教会の一室。アインズさんの前で土下座している僕。
「私を除く満場一致でお世継ぎ問題が可決されてしまったぞ。」
さすがアルベド。あの後全てを根回ししたようだ。完璧な政治屋だ。
どこぞの国の大統領を任せれば良いも悪いも凄まじい手腕を発揮するだろう。
「ビンカさんは?至高の御方二人で反対すれば……。」
「『私お腹痛めて産んだことないんだよねー。』とか思わせぶりに言ってたな。アルベドとシャルティアがすっげえ顔してたよ!他の守護者達はめっちゃ期待のまなざしだったし……。」
「…あー。」
「あー、じゃねぇよ!どうしてくれんだよ!!?」
アインズさん、ロールプレイ、ロールプレイ……。
「……モテモテですね。」
「さて……。」
「嘘ですごめんなさい!
僕の心臓がアインズさんの手の中にある……。
ザ・土下座!!
「まあ、仕方ない。こうなった以上、お前にも協力してもらうぞ。」
「何なりと。」
「うむ。では詳細を説明しておこう。先ず、誰かにナザリックを託す、これは俺としても考えたことが無いわけではない。」
ちょっと、僕の心臓にぎにぎしないで……。ストレス発散ボールじゃないです………。
「そういう意味では嫡子を儲けるのはいずれ考えねばならんことだ。いや、嫡子に全てを託し、自分は隠居と言うのは俺としても良いかもな、とか思ってはいるんだ。」
「水戸黄門?いや、黄門様強すぎるでしょ。助さん格さんを守っちゃうよ。」
「世直しの旅か!良いな!!こう、ナザリックの印籠見せて『控え居ろう!!』って。」
「何か、あれ?ノってきちゃいました?あと、僕の心臓、興奮して、にぎにぎしないで…。息が…切れ…。」
おっと、と言う感じで心臓にぎにぎを止めてくれる。
「それにせっかくLV1からビルドを始めるなら、強欲と無欲は使わずに地道にやってみたい。ゲームでもチートプレイは面白くないからな!」
「ちょ、え?だってそれ、下手したら数年掛かりますよ!」
「良いじゃないか、待たせれば。」
「アルベドが絶対に許さないでしょう?危険だからと……。」
「だったらこの話は無しだと言えばいい。俺も譲歩するんだ。多少のわがまま位言っても良いだろう?」
「意見をごり押しするならビンカさんに根回ししておかないとまたアルベドにやり込められますよ。」
僕みたいに………。
「そうだな。彼女も海周辺の冒険に連れていくと言えば喜んで賛成してくれるだろう。
また僕の心臓をにぎにぎ……。
「でも、それも良いなとか思ってたり?」
「おう!当たり前だ!冒険の醍醐味じゃないか!」
「その間のナザリックはどうするんです?そもそもそのためにアルベドが動いているんでしょ?」
「まあこれもアルベドの計画を遂行するための仕事だろ。確かにナザリックの仕事は疎かにできんが、生産部のビンカさんが居るから大分楽になる。そして大方の事は夜の休憩中に指示を出せば良い。」
「そして、いざと言うときはシャルティア様に迎えに来てもらうと。」
「まあな。安全ロープ付きの冒険はちょっと味気ないんだが……。」
「そうですね。でも、まだ未開の地への冒険とかありそうですね。」
「ああ!何だかワクワクしてきたぞ。俺はモモンとして冒険する方が面白いな。姿形をそんな風にアレンジしてやれば…。で、お前は冒険者登録はどうするんだ?」
「考えてないですけど。」
「冒険者はギルドに牛耳られるから窮屈ではあるが、ワーカーとかもそれなりにしがらみがありそうで面倒だぞ。国境越えも面倒だろうし。…そこで、どうだ?」
「僕も漆黒に入れと言う事ですか?」
確かにそれが一番簡単確実だろう。
「まあそれでも良いが、お前はお前で別パーティを組むというのもありだ。ギルドには俺から推薦してやるぞ。」
「共同作戦ですか。それも面白いですね。大所帯になれば連日連夜宴会が出来そうです。」
「今度はフルヘルムも外せるし、食事も酒もありだ。おおう!今から楽しみで寝られんぞ。」
そもそも寝られない人でしょアナタ………。てかやめて、心臓にぎにぎホントに止めて!
この後、しばらく取らぬ狸の皮算用が始まった。でもこういう話、楽しいし、盛り上がるんだよね。
……ただ、あまりに心臓をにぎにぎされた僕は鼻血を出してぶっ倒れた。
そこに『大丈夫ですか!』と慌てた様子で現れたニグンとラキュースとネム。
僕は鼻血を出し、気を失って倒れている。
アインズさんは慌てて僕を抱き上げて、血が付いたハンカチを手にちょうど腰の辺りで支えていた状況。
それを見た三人は……。
「お、お取り込み中でありましたか、大変失礼しました!」
と、言う結論に達したニグン。ラキュースも盛大な勘違いをしたまま顔を背ける。
「あの、私達、苦しそうな声と、悲鳴と言うか……聞こえて…。ご、ごめんなさい!」
「ねえ、スキュラ、つかちゃん達、喧嘩してたの?」
素朴な瞳でネムは自分の肩にとまっていたスキュラに尋ねる。
「………え?……えーと、
「…え?エートネ……。その、喧嘩じゃないのよ。男と女の情事……。」
「阿呆!何幼女に説明しようとしてるんだお前は!?」
ラキュースの後頭部を叩くニグン。そのままラキュースの首根っことネムの手を引いて退室していった……。
「………………。」
アインズさんはただずっと、三人の方へ手を伸ばしたまま鎮静を繰り返していた。
翌日からの噂には尾ひれがついて………。もみ消すのが大変でした。
「時にお前、この仕事が終わったらコッペリアに戻るつもりでいるんだろ?」
話が一段落すると、ふと我に返ったように言うアインズさん。
「お気付きでした?でも、今度のコッペリアは人形じゃなくて、バイオロイドにしようと決めてるんです。これはユグドラシル時代からの悲願なんです。」
「ハッピーエンド編のコッペリアか。奇しくも状況が同じだな。人形コッペリアが壊され、人間コッペリアになる。」
「はい。」
よくご存じで。
「そう言えば憑依の危険性はどうなっている?」
「実践はしてませんが僕も憑依スキルが使えるようになっているので、多分大丈夫だと思います。」
またうかつに憑依して一般ピープルになってしまったら、もう笑うしかない。今度は念を入れて……。
「ちょうどいい。お前の憑依状態を見せてもらおう。俺の場合は解除できなくなったらつまらんが強欲と無欲を使うほか無くなってしまうだろうしな………。」
「そうですね。僕はいずれにせよ戻る形ですから、解除できなくてもまったく問題ないですし。」
「しかし、国造りは中断してしまうことにはならないか?今はまだ叩き台が出来たところだろう?突然風体の知らん女が現れて我こそが……とか言っても誰も信用してくれんぞ。」
「まあ、その時はその時。それに例えそうなっても、ラナー王女辺りと話せば色々上手くいくだろうとは思っています。ここまで来たら、後は惰性でも独立に向かって動いていきますよ。
「なるほどな。カルネ州、ロックブルズ州、スレイン法国、それにナザリックを入れて連邦か……。」
「そうです。でも、アルベドの計画通り事が進むなら……。アインズ・ウール・ゴウン王家を作り、絶対王政を敷く。となると、ナザリックを首都とは出来ないんですけど……。」
「構わん。」
「守護者達が納得しますか?」
むう、と唸るアインズさん。
「そこで、どうでしょう?昔のヴァチカンに倣って……。まあ立国の意味は違いますけれど。」
「フム。ナザリック市国か………。」
「はい。僕は、一般人には手の届かない、頑張った人間だけが到達できるユートピアがあって欲しいと思っていました。」
「……目の前にニンジンをぶら下げるということか?」
クレマンティーヌが言っていた事は僕も常に引っかかっていた。もし、それを矯正出来る存在があるなら、それが相互に矯正できるのであれば、あの世界と同じ轍を踏む可能性は激減するだろう。
「言い方は悪いけれど、そうです。それに今のままだとナザリックの強さが桁違いです。バランスを考えるならせめて10分の1位の生産、経済力になるまで待ってみるのもいいかも。それに……。」
「それに?」
「アインズさんは今の民衆を支配するには完璧すぎる。」
「あまり買いかぶってもらっては困るんだが……。」
「アインズさんの造る国は恐らく理想郷になるでしょう。でも、完璧すぎる指導者は民衆をダメにする。この王について行けば間違いない、そう思って考える事をやめると、人は家畜になります。それがどんなに安らげる世界であっても、そこに未来はありません。」
ちょっと失礼な事を言っている自覚はある。けれど、アインズさんにはそれを理解しておいて欲しい。
「ナザリックのシモベ達は常に至高の方々の御為と、全力を尽くせる。けれど普通の人間はニンジンが無いと動かないものです。せめて、人間が知識を持って、夢を持って、モラルを知って、仁愛を知ってくれるまでは。」
「では待とうか。」
「は?」
「お前が造る国は……、形ではない。そんな民衆の中に育つ物なのだろう。それには人を根本から変えていかないといけない。親の考え方を変え、子供の考え方を育み、孫は自分の考え方を作り出す。国家100年の大計だな。それはどんな宝やカネ、力より尊いモノだ。」
…………。
「貴方は教育学を勉強した事がおありで?」
「無いが。」
………。
僕はいつも自分が凡人だと思う。
こういう人を見ると、思い知らされる。
知っている僕と、たどり着くことの出来る人。
願わくば、今後、この世界に、この境地に到達できる人材が健全に育まれますように。
次回最終話