カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

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第5話

A 状況把握

 

 

[00:00:00]

 

 さわさわ……………。

 さわさわさわ……。

「……。」

 さわさわさわさわ。

 尻に何か違和感を感じる。

 見ればシャルティアが僕の、…雪女郎(フロストヴァージン)の尻を撫でていた。

「…………。」

 モミモミ…。

 今度は前だった。

「………おかしい………。」

 何で感覚があるんだ?

 シャルティアが雪女郎(フロストヴァージン)の胸と尻を触っている。間違いなくBAN物の行為だ。こんな行為を突然NPCがするのもおかしい。

 それより何より僕は触られていることを感じている。

 何だ?感覚をデータ供給するのは刑法で禁じられているはずだ。

「………バグ?」

 さわさわモミモミ……。

「………あのちょっとやめて。考えに集中できないからちょっとやめて。」

 僕はシャルティアの腕をつかむ。しかしびくともしない。

「……くく…。」

「………え?」

「きゃははは………。」

 甲高い声で笑い始めるシャルティア。

「あっははははは………。」

「…表情が………。」

 いくらなんでもリアルすぎる。僕は思わず飛び退った。

「逃がさないえ。」

 速い。

 一時振りほどきはしたが、僕は再びシャルティアに抱き着かれる格好になった。

 

「良いではないか、良いではないか!」

 帯を解かれ、時代劇のように僕はクルクル回される。そして薄絹の下着姿にされる。

「おんしら雪女郎(フロストヴァージン)は趣味じゃないと思っていんしたが、なかなかどうして、そそられる…………。」

「ちょっと待って!」

「…あ、うん…………。」

 ちょっと待ったよ!シャルティア、ちょっと待ってくれたよ!!

「何でありんすか?何か聞きたいことでも?」

「僕の言ってることがわかるのか?」

「おや、ボク?女の身で僕とは、やまいこ様に影響されたでありんすか?」

 何で?何で会話が成り立ってるの?

「君の名は?」

「シャルティア・ブラッドフォールン。知らない訳無いでありんしょう?」

「コンソールが出ないんだけど、シャルティア、何か知らない?」

「こんそーる?何それ?」

 時折出る地の反応。それすらリアルさに拍車をかける。

「運営さんに連絡取りたいんだけど、君、繋げられる?」

「運営?………えーと……ああもう、知りんせん!いい加減時間稼ぎはやめなんし!」

 ぴいぃぃぃぃ…………。

 薄絹を引き裂く音が響いた。

 

 もう僕の身体を覆うものは腰巻一つになってしまった。

 何か、もう、いろいろやばい!なのに落ち着いて考える暇をこの目の前のイイ笑顔の娘は許してくれない。

 というかこの娘によって僕の仮の身体のピンチをビンビン感じる。

「大丈夫。わらわも雪女郎(フロストヴァージン)は初めてだから!」

「何が大丈夫なのか意味が分からない!」

「いい加減観念しなんし!」

「スキル・煙玉!」

「わぷっ!」

 煙幕を張って僕はバスルームへ飛び込んでドアを閉め、鍵を掛けた。

「スキル・ターゲットジャミング!転移遅延(ディレイテレポーテーション)転移門遅延(ディレイゲート)!」

 これでここに入るには2分は時間が稼げるだろう。

 とっさの事で考えが及ばなかったが、コンソールを出さないのにスキルと魔法が行使できた。これはどういうこと?

 それを手足と同じように使おうと思っただけで発動するのは便利なのだが……。

 

 しかし、どうする?

 今、この状況はまずい。自分より年下だろう娘に大人の階段を上らされそうだ。

 しかも女の身体で。

 ぶるぶる首を振り対抗措置を考える。

 

 僕はまず無限の背負い袋(インフィニティハヴァザック)を確認する。

「やった!無限の背負い袋(インフィニティハヴァザック)は使える。ってことは……。」

 僕は無限の背負い袋(インフィニティハヴァザック)の中から運上げのアイテム、ラビットフットと蹄鉄を取り出す。他にも忠治の墓石、鷹の羽、幸運の種を取り出して装備、服用する。すべてラックアップ用のアイテムだ。

 そして……。

三重魔法強化(トリプレットマキシマイズマジック)上位幸運(グレーター・ラック)。」

 これで、LV100のシャルティアにも憑依できる可能性がかなり高くなったはず。今まで見てきた感じ、彼女はどうも慎重さに欠ける性格のようだ。ならば油断している可能性は非常に高いと思う。

 問題はアンデッドの精神攻撃耐性の高さだが……。

 もうその時はその時、はじかれて敵認定されて大人しく殺されるしかないか。もうすぐユグドラシルは終了するはずだし。

 

「ちょっと待てよ………。」

 自分の手をつねってみた。

「……痛い。」

「じゃあ、殺されるって死ぬほど痛いってことだよね?」

 こんなことならあの時逃げないで大人しく茶釜さんに………。

 まあ、あとの祭りだ。

 あとは扉を破られた瞬間、完全憑依(パーフェクトポゼッション)強行だ。

「ほらぁ、開けなんし。痛くしんせんからぁ。」

「それって逆効果。」

「あら、そう。それじゃあ、…あ、開いた。」

閃光(フラッシュ)!」

「ファッ!…まぶしっ…。」

 ヴァンパイアの目に閃光はさすがにきつかろう。しかし攻撃性のある魔法ではない。ここまではまだ敵対行動とはみなされないはず。

完全憑依(パーフェクトポゼッション)!」

 意を決して行った憑依。

 吉と出るか凶と出るか………。

 

 

 

 成功した!

 頭の中に憑依成功と浮かんだのだが…………。

「……あれ?」

 目の前にシャルティアは居た。まだ眩しそうに眼をしぱしぱさせている。

「……え?」

 何で?憑依成功なら目の前に居るのは裸の雪女郎(フロストヴァージン)じゃないの?

 

「……………。」

「あの、ここはどこでしょう?なぜ私は裸にされているのでしょう?」

 後ろから聞こえてきた声に僕は振り返る。

 目の前に裸の雪女郎(フロストヴァージン)は居た。

 やはり彼女も意思を持っている。

「………んーー。」

「おやおや、何をわかりきったことをこの子猫ちゃんは…………。」

「あ、あの、シャルティア様……。」

 僕の目に映るのは裸の雪女郎(フロストヴァージン)に詰め寄るシャルティアの姿。

「全く手間をかけさせて。ようやく観念したかや?」

「あ、あの?何を観念?…んむっ!?」

 わーーー。

 わー、わー、わーーーーー。

 ペロロンチーノさんが見たら身を乗り出しそうな情景が広がり始める。

 

 10分以上、我を忘れてしまった。

「ね、ねぇ、たすけて……。」

 見れば雪女郎(フロストヴァージン)が僕の方を見て、助けを求めるように手を差し伸べている。

 息も絶え絶えで、時折ビクンと身体を跳ねさせる。

 えーと…彼女が今、いわゆる人権蹂躙されてるのって半分以上僕のせい?

 ていうか、うん、完全に僕のせいか?HPは多少回復しているだろうが、スキルもMPもほぼゼロだろう。もうなすすべ無しって感じ?

 さすがにいたたまれない。

「あの、そろそろ堪忍してあげない?」

「あぁ?!」

 突然暴風を受けたように僕は吹っ飛ばされ反対側の壁に叩きつけられた。

「…か、………は…。」

「てめぇ、下僕の分際でこの私に意見するか!しかもタメ口か?えらくなったもんだなおい!」

「ご、…ごめんなさい。」

 下僕って……。……そういえば。

 ここで僕はようやっと思い当たる。辺りに居る吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)の存在に。

 やっぱり一人減ってるよ。僕が今身に着けている服装も他の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)と同じ感じのものだ。

 やっちまったーーー!!

 閃光(フラッシュ)かましたとき、おそらく吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)の一人がシャルティアをかばったのだろう。僕は最初に触れた吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)に憑依してしまったんだ。

 やばい、確か吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)はLVが30前後しかない。戦う戦わないってレベルじゃねぇ!

 RPG中盤でいきなりラストダンジョンに放り込まれた感じだ。

 武器装備無し、MPスキルゼロLV100の方がまだ戦える。

 憑依解除しないと…………。

「………できない。」

 魔法………。

 げ、第六位階までしか使えない。

 スキル…。

 頭の中にある人形師のスキル半分以上が使えないようだ。

 逆に吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)の固有スキルが増えていた。

 そして、完全憑依(パーフェクトポゼッション)が使えない状態になっていた…………。

 もしかしてだから憑依解除できないってか?

 でもあれ?憑依解除ってLVに関係なくできるはずじゃなかったっけ?

 

 僕にかかずらわってる間に、既に雪女郎(フロストヴァージン)はバスタオルを掴んで走り去ってしまっていた。

 とりあえず何とか彼女を逃がすことはできたか……。

 

 

「何?さっき角で雪女郎(フロストヴァージン)が泣きながら走って行ったのを見たけど何があったの?」

 コンコンと開いている扉をノックして声をかけてきたのはアルベドであった。

 これは、もしかしたら救いの神か?

「なんでもありんせん。」

「裸にひんむいておいて何でもない、ね……。」

「ちょっとからかっていただけ。それより何でありんすか?わざわざこんなところまで。」

「モモンガ様がヴィクティム、ガルガンチュアを除く階層守護者に召集を掛けたの。貴女も直ぐに第六階層、円形闘技場に向かいなさい。」

「モモンガ様が!?」

 シャルティアの声のトーンが上がった。すごく嬉しそうだ。

 へえ、モモンガさん、慕われているんだな。

「直ぐに用意するわ。汗を流すから手伝いなんし。」

 隣にいた吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)が即座にシャルティアの衣装を脱がし始める。

「モモンガさん………。」

「ん?」

「あ、そうだ、モモンガさんがいるなら………。」

「「あ゛あ゛?!!」」

 ボソッと言ったのに何で二人とも聞こえてんの?!二人とも美女、美少女がしちゃいけない表情に……。

 って、何でそんな怒って……?今の会話で怒るポイント…。

「いえ、モモンガ様と申しました。」

「…あら、そ。」

 当たりか。

 しかしもうこいつらNPCと考えない方が身のためだ。今の状態ではいつでも殺されてしまう。

 

 まだ敵認識されていないようだし、ここはモモンガさんに拝み倒してでもここから出してもらった方が良いだろう。

 今はとにかく、モモンガさんに会えるようにしなければ……。

「シャルティア様、私もお供いたします。」

「ん?まあいいけど……。」

 シャルティアは心ここにあらずといった感じで服を脱いでいき……。

 ブラジャーを外した時、ぽろっとたくさんあるものが落ちてきた。

「……………。」

 ダメだ!ここで笑っちゃダメだ!!

 僕の人生がここで終わってしまう。

 と、肩に手を置かれた。

「な、何でしょう、アルベド様?」

「いいのよ。思ったまま行動しても。」

 神じゃねえ!こいつは救いの神なんかじゃ全然ねえ!

 僕はほっぺたをつねって明後日の方を見る。

「何してるでありんすか?早く手伝いなんし!」

 僕は下を向いてタオルを手にそのあとについていく。

「何を震えているでありんすか?えっと、アイ子。」

 アイ子?僕が憑依したこの子の名前か?

「いえ、モモンガ様に会える栄誉に今から打ち震えているのです。」

「うんうん。わらわも久しぶりでありんす。」

 と、アルベドは真面目な顔になり、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)に向き直って言う。

「今、モモンガ様は何か異変を嗅ぎ取ったようよ。あなた達にも直ぐに何らか命令が下るかもしれないわ。直ぐに対処できるよう準備を整えておきなさい。」

「「「はい。」」」

 異変……。

 そうか、さすがモモンガさん。右往左往する僕とは違って冷静に指示を出しているみたいだ。すごいな。

 僕の心の中にようやく一筋の光明が見えてきたのだった。

 

 

 

続く

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