カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

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第7話

A モモンガ

 

 

 シャルティアが手早く支度を済ませると、転移門(ゲート)を開き、第六階層円形闘技場へ向かった。

 転移門(ゲート)をくぐると僕は辺りを見回す。

「……暑い。」

 まるでヤカンのないストーブの上のような焼け付くような暑さ。

 見ればダークエルフの双子と、オーバーロードの姿。

 やった!直ぐに保護を願い出……。

「モモンガ様!我が愛しの君!」

 シャルティアが表情を輝かせ、オーバーロードに飛びついた。

 ううっ!

 突然、オーバーロードから絶望のオーラがあふれ出す。

 アンデッドにはむしろブーストや回復になる絶望のオーラ。事実、シャルティアはそのオーラを受け、歓喜に表情を蕩かせる。

 しかし僕の体にはむしろダークエルフの双子と同じような圧迫感を受ける。

 そもそものLVの差か、平然としているダークエルフに比べ、僕は立っているだけで精一杯だ。

 

「騒ガシイナ。」

 現れたのはコキュートスだ。

「コキュートス、良く来てくれた。」

「オ呼ビトアレバ、即座ニ。」

「うむ。」

「参ジテソウソウ不躾デハゴザイマショウガ、モモンガ様ニ一ツ願イ出タキ、儀ガゴザイマス。」

「ウム、申してみよ。」

「我ガ部下、雪女郎(フロストヴァージン)ヨリ、シャルティアカラ辱メヲ受ケタトノ報告ガアガリマシタ。ココデ私ガ誅罰ヲクダシタイト存ジマス。」

「何?それは本当なのか?シャルティア?」

 ………あー。それ、僕の責任。

「はて?」

「ハテ、デハナイ!」

「申し上げます、コキュートス様!」

 僕はコキュートスの前にひざまづく。

「すべて僕の責任でございます。シャルティア様のせいではございません。」

「何?ソウナノカ?」

 コキュートスは後ろに控えていた雪女郎(フロストヴァージン)に尋ねる。

「いいえ、むしろアイ子さんは私を救って下さった方です。」

 いや、だからそれは誤解……。

「辱められている私をかばう為、彼女はシャルティア様のヘイトを一身に集めるようにしてくださいました。彼女の献身に対し、恥ずかしくも私は彼女を見捨てて逃げ出してしまいました。」

 私の両手を握って涙をこぼす雪女郎(フロストヴァージン)

「アイ子さん、本当にごめんなさい。」

 雪女郎(フロストヴァージン)さん、ホントやめて。僕の良心がグサグサ言ってるんですけど。

「違います、コキュートス様、どうか罰するなら僕に…。」

 でも、まさか殺されるなんて事ないよね?

「と、言ってありんすが?コキュートス?」

「キサマ!部下ガキサマヲ庇ッテ、コノ様ニ殊勝ナ事言ッテイルソノ目ノ前デ、ヨクモソノヨウナ…。」

「モモンガ様!どうか二人きりで事の詳細をお聞きいただきたく願います。」

 直接話しかけるには絶望のオーラが厳しすぎて僕には一歩も近づけない。ならばこのごたごたを利用しない手はない。

「いいだろう。」

「それはいけませんわ、モモンガ様。」

 現れたのはアルベド。後ろにデミウルゴスも居た。

「私もアルベドの意見に賛同しますね。理由はどうあれこのような事でお忙しいモモンガ様を煩わすのはいただけない。」

 二人とも余計なことを。

 だったらどうすれば二人きりで会えるようにしてもらえるか…………。

 ここであの時の千五百人の生き残りです、なんて言えば確実に殺されちゃうよね。

 今、モモンガさんが一番望んでいる事を……。僕の情報を教えれられれば…一か八か……。

「ではせめてモモンガ様!ログアウトの仕方を教えてください!これって孔明の罠なんですよね?」

 ……………。

「何だと?!!」

 やめて、絶望のオーラ、止めて!絶望のオーラLVあげるの止めて!!

「…ろぐあうと?」

「そう言えばウルベルト様が以前ろぐあうとがどうのと言っていた事が……。」

「お前、何者?!」

 僕の首筋にバルディッシュが突き付けられた。

「止めんか!!」

 モモンガさんの一喝で全員が平伏する。なんて……威圧………。

「聞こう。君の本職は?」

「昨日まで大学院生でした。今は一介のニートです。」

「ほう。ではなぜこの場に?」

「それを釈明したく存じます。」

「差し支えなければ君のリアルの名は?」

「つかさ。」

「わかった。ひと段落ついたら君と二人きりで会う場を設けよう。」

 即断とは判断力だけでなく度胸もすごいよこの人。

「いけません!モモンガ様!」

 まあ、そうなるよね。

「アルベド、私は彼女と話し合いたいのだ。」

「承服いたしかねます。」

「ではアルベドよ、お前にGMコールの意味がわかるのか?」

「そ、それは…しかし………。」

「つかさ、君にはGMコールが何か分かるか?」

「ハイ。ゲーム・マスターへの連絡です。トラブルが発生したときの連絡先です。」

「そうだ。どうだ、アルベド?」

「ック、いいえ、モモンガ様、先程とは意味が変わって二人きりで会うというのは承服できかねます。彼女はもしかしてどこぞの敵性勢力からの回し者という可能性が出てきましたから。」

「彼女はLV30前後の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)だぞ。私が負けるとでも思うか?」

「………それは。しかし、それこそがフェイクという可能性も…。」

 モモンガさんはこめかみを押さえる。

「わかった、ではアルベドだけ、同席を許そう。皆もそれで良いな。」

 全員が了承の意を込めて頭を下げた。

 

 

 階層守護者への通達を一通り終えると、モモンガさんは僕に向き直る。

「ではつかさ。君は私について来るように。」

 モモンガさんが転移門(ゲート)を開くと僕を先に通し、その後にアルベドが続く。最後にモモンガさん。

 着いた先はおそらくモモンガさんの執務室。

「掛けたまえ。」

「失礼します。」

 勧められたソファーに掛ける僕。腰が半分以上沈み込むようなふかふかなソファーだった。

 アルベドはモモンガさんの後ろに控えた。

「さてと、ではまず、勝手にリアル名を呼んでしまっているが、かまわないかな?」

「はい。もうユグドラシルも終わるでしょうし、まったく問題ありません。」

「……もしかして、君はもうユグドラシル配信の時間が過ぎているのを気づいていないのか?」

「…………え゛?」

「そこからか。」

「恥ずかしながら僕には何がどうなってるのかさっぱり。身体の五感はあるし、NPCは意思を持っているし……。意味が分からない。」

「そうか。なるほど。」

「え?もしかしてモモンガさんは………。」

 ギン!!

 射殺すようなアルベドの視線。

「モモンガ様はこの事態を把握しているのですか?」

「残念ながら。君が望むログアウトのしかたも分からない。」

 一縷の希望が音を立てて崩れていく。

 

 5分ほど沈黙の後、再び声を発したのはモモンガさんだった。

「落ち込んでいるところ悪いが、君は何でここに?」

「僕は、……、ここに攻め込んだ千五百人の一人です。」

「ほう。」

「なんですってぇ!!?」

 ギシッとモモンガさんの座っているソファが音をたてる。

「落ち着け、アルベド!」

「しかし、モモンガ様!!」

 手を上げてアルベドを静止すると、落ち着いた声で続けるモモンガさん。

「さて、君がここに攻め込んだとき、どのような行動をとっていたか覚えているかな?」

「はい。」

 僕はまずナザリックに攻め込む連絡を受けたときから参加するまでの経緯を説明する。

「ああ、あの時茶釜さんと戦った…、フフ、あれは傑作だった。」

「ぶくぶく茶釜さまを襲っったですってぇぇぇぇ!!」

 ミシィ!

「いや、襲ったのではない。そうだな、ありていに言えば魅せて貰ったのだ。あの後もすごく楽しかった。」

 モモンガさんは当時を思い出して少し笑うとふっと我に返ったように言う。

「しかしあれは何年も前の話だが、その間君はずっとナザリックをさまよっていたのかな?」

「いえ、安全地帯に避難していました。」

 その後の事を包み隠さずモモンガさんに打ち明ける。

「……なるほどな。それでシャルティアの件は自分のせいだと…。フッフッフ……。」

 モモンガさんはしばし楽しそうに笑うのだが、ある契機を境に我に返ったように言う。

「で、そろそろその憑依を解いたらどうかね?私の名において君の身の安全は保障しよう。」

「ありがとうございます。でも、それが、なぜか憑依が解けないんです。」

「ん?どういうことだ?」

「この身体に憑依して以降、半分近いスキルと魔法が使えなくなって…。完全憑依(パーフェクトポゼッション)も選択できなくなってしまいました。」

「フム。……取得レベル以下になってしまうと使用したスキルに対して解除も機能しなくなることもあるということか。覚えておこう。」

「モモンガ様。」

 発言の機会を探っていたアルベドが静かに声を発する。

「何だ?」

「この者のためにも、彼女はこのままにしておいてはいけないと思います。」

「と、言うと?」

「モモンガ様がこの者の身の安全を保障しても憎しみは消えません。それが苦しめられたもの、殺された事のあるものならなおさら。」

「我が友人としてもか?」

「モモンガ様!」

 悲鳴のような声を上げるアルベド。

「こやつは敵です!しかもさっき出会ったばかりで…………。それなのにこの者の言葉にうれしそうに笑ったりそんな弾んだ声でおしゃべりになったり、私達に対してそんなご対応をとられることはありませんでした。私は悔しゅうございます!!」

「む、……泣くなアルベド。分かった分かった、とりあえず客人対応とする。」

 アルベドがモモンガさんのひざの上に頭を乗せて泣き出すと、モモンガさんはあわててアルベドの頭を撫で、そう答える。

「それから、そうだな、ヴィクティム、ガルガンチュア以外の階層守護者全員をまずここに呼ぶように。」

「はい。」

「そして、ここに来る前に全ての者に説明を済ませておけ。」

「はい。ではモモンガ様の護衛にセバスを置いて参ります。」

「まあ、好きにせよ。」

 出て行くときアルベドは僕に向けて冷笑する。

 何を意味するのか、この時の僕には分からなかった。

 

「皆集まったな。さて、アルベド、彼等につかさの説明は済んだかな?」

「はい。」

 ちょちょちょっと、モモンガさん?全員の目に殺気が浮かんでいるんですけど。

 ホントに僕の身の安全を保障してくれる気あるんですか?!

「では、私から言おう。彼女はあの時攻め込んできた千五百人の一人だ。その時、苦渋を受けた者も多かろう。復讐したいか?」

 全員が頷く。

「ではその機会を与えてやろう。」

 ちょっと、ちょっと!死にます。死にますって!

「ただし、だ!!」

 今にも殺到しそうだった守護者達に指を立てて言うモモンガさん。

「千五百人への恨みを一人にかぶせて鬱憤を晴らすのはいかがなものだろうか?なあ、デミウルゴス。」

「うぅ………。」

「お前とアルベドは全てを察したようだな。」

「しかし……、それでは…。」

「それはその者の入れ知恵ですか?!」

 え?僕の?

「順番に報復の機会を与える。まずはシャルティア。」

「はい。」

「良いか?お前が受けたダメージの千五百分の一だ。それ以上のダメージを与えることは許さん。」

「わかりんした。では、デコピンで。」

 ああ、そういうことか。さすがモモンガさん。ただ自分の命令だから許せというのはいかにも暴君。双方が納得する落としどころをこういう風に…。支配者の鑑だ。

 シャルティアが中指にググッと力を込める。

 パン!!

 

 

 気づけばモモンガさんのどアップがあった。

「あの……。」

「うん、痛くなかったようだね。良かった良かった。では次、コキュートス。」

「あの、モモンガ様。辺りに血の飛び散った後と脳しょうのようなものがぶちまけられているのですけど………。」

「うん、初めから在ったよ。…きっと。」

「あの、シャルティア様はなぜ頭を抱えてうずくまっているのでしょう?」

「うん、残念な子だからね、算数を教えていたらね、ほら、知恵熱で……。」

 うん、考えないことにしよ。

 

 

続く

 

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