A 模擬戦
一日の休養を得て次ぐ日。
ナザリック大墳墓にある中会議室で、モモンガさんが重厚な声で言い放つ。
「さて、皆に聞いておきたい。つかさの処遇なのだが……忌憚の無い意見を聞きたい。」
「彼女は災いを呼び込みかねません。
口火を切ったのはアルベド。
「経緯はどうあれ、アレはわらわの所有物でありんす。今まで通り、わらわの配下にしんす。」
「コキュートスはどうか?」
「私ノ見タ彼女ノ人トナリハ好意的デスガ、忠誠心ト言ウ意味デハ懐疑的。ナラバ基本的ニアルベドノ意見ニ賛同致シマス。」
「アウラ、マーレ。」
「あたしですか?そうですね、どうでも良いかなー。面白そうではあるけれど、あの程度の力じゃ毒にも薬にもなりません。」
「ぼ、僕もおねえちゃんの意見と、同じです。」
「デミウルゴスはどうだ?」
「そうですね。利用価値はそれなりにあるかと思いますが、それは他の者でも十分こなせます。忠誠心の無い者は正直扱いづらいかと。モモンガ様の相談相手とするだけならば、メッセージで事足ります。ならばアルベドの言うとおりにするのが無難と考えます。」
「うーむ。セバスはどうだ?」
「私はモモンガ様のご意思に従うのみでございます。彼女を手元に置いておきたいのならばそれに向けて善処致します。」
この発言の時のアルベドの視線が色を帯びる。
まとめるとナザリックに置いておきたい派はシャルティア一人。放逐派はアルベド、コキュートス、デミウルゴスの三人。どちらでもない派はアウラ、マーレ、セバスの三人。
しばらく考えて再びモモンガさんが口を開く。
「思うのだが、皆、少しつかさの実力を過小評価していないか?」
「え?」
僕を含めて一同動揺する。
「そうだな、セバス、プレアデス全員を第六階層円形闘技場へ集めよ。」
「は。」
「つかさのことも伝えておくように。」
「承知いたしました。」
え?何?何を思いついたのこの人?
誰かと戦わせるつもり?今の状態ではぶくぶく茶釜さんと戦った以上に勝機はないですよ。
円形闘技場に到着すると、そこには6人のメイド達が頭を下げてモモンガさんの到着を待っていた。
「ご苦労。皆、面を上げよ。」
「は。」
「皆にはこれから2対5の変則模擬戦を行ってもらおう。」
「模擬戦~?」
アラクノイドの娘が無表情で首をかしげ、甘ったるい声を上げる。
「そうだ。つかさに一人パートナーを選んでもらい、他の5人と戦ってもらう。つかさのチームはつかさが戦闘不能にされた段階で負け。5人のチームは全滅まで戦ってもらう。」
「ほう。」
興味深そうに言うデミウルゴス。
「2対5、通常であれば9分9厘勝機は無い。それを互角に戦うようであれば確かに我々も認識を改める必要がある。ということですね?」
「そうだ。」
「ではモモンガ様、我々が納得いく成果を得られなかった場合、彼女は放逐ということでよろしいですね。」
「良いとも。ちなみにコキュートス。お前の試算ではつかさチームの勝算はいかほどだ?」
「選ブパートナーヲルプスレギナトシテモ、コンマ1パーセントノ勝機モアリマセン。」
「ウム。ではつかさ、君のパートナーを選んでくれ。」
「この娘です。」
僕は一目見たときからこの娘に決めていた。ていうか他の娘は考えられなかった。
「言っておくがCZ2128・Δはプレアデスの中では一番レベルが低いぞ。」
「それは大変ですね。」
無表情で僕のほうを見ているCZ2128・Δに僕は手を差し出す。
「よろしくお願いしますね、デルタさん。」
「シズで良い。……よろしく。」
一応は握手してくれたがあまり友好的ではない。
「貧乏くじっすねーシズちゃん。せいぜい壊されないよう自分の身はまもるっすよ。」
褐色の肌のワーウルフがはすっぱに言い放つ。
「うん。そうする。」
この時、モモンガさん以外の全員はどれだけ僕等のチームががんばれるかということだけを考えていたようだ。
模擬戦は審判をコキュートスに任せ、ほとんどの者はモモンガの隣の席を奪い合う事だけに気を取られている。
と、いつの間にかナザリックのいろいろなNPCが観戦に来ていた。
中には賭けを行っている者たちもいる。ちなみにオッズ一番人気は『1分もかけずに”僕”が負ける』、であった。
「両陣営、詳細ハ把握済ミデアルカ?」
全員が頷く。
簡単に武器はそれぞれ殺傷能力の低いもの。
それぞれの武器はペイントを付着する構造になっており、急所にペイントを当てた場合一撃で敗退離脱、ダメージの蓄積でも敗退離脱、降参表明で敗退離脱という形で僕等のチームは僕が戦線離脱するまで。5人のチームは全滅するまで戦うことになる。
「デハ両者、礼!」
全員が頭を下げる。
「始メ!」
あらかじめ打ち合わせていた通り、僕とシズは直ぐに闘技場後方まで撤退する。
「スキル・オートマトン・プライマルドミネート!」
「READY!」
「スキル・ポテンシャルアンプリフィケイション2ND!」
「READY!」
「ロック解除・ブースター起動!」
「ROGER、ブーストオン!プラズマ炉臨界へカウントスタート!」
「リアクター・フルダンパー!」
「READY!プラズマ炉・限界時間100秒加算。出力80%に低下。」
「スキル・フルカートリッジ・オートロード!」
「オートロード、ROGER!」
「スキル・エネルギーカートリッジ・リデュープリケイト!」
「READY!レイガン・エネルギーガン・残弾増加。」
全員が呆気に取られている内に僕らはそこまでのバフを済ませてしまった。
「いけない!あの子、
めがねのメイドがようやく気づいたようだ。
「えんちゃん?」
「急ぎなさい!今のシズは潜在されている能力を開放しているわ!」
「え~?」
タタタタタタタ…………!!
「あぅあぅ、いたた…。」
僕らが先ず狙ったのはアラクノイドの娘。彼女は符術師らしいので色々厄介だから。
アラクノイドは慌てて飛び退る。
アサルトライフルの弾丸50発くらいが腹に命中するがコキュートスは依然退場を命じない。そのくらい彼女のHPは高いということか。
「エントマ、ごめん。終わり。」
アラクノイド、エントマが後ろを見ればシズがゼロ距離でバズーカーをぶっ放すところだった。
「いったぁぁぁい!!」
ペイント弾だがゼロ距離で食らったのは相当に痛かったようだ。
「エントマ、戦闘不能。」
ここでコキュートスはエントマに退場を命じた。
「ライトニング!」
人間とほとんど変わらない容姿のポニーテールのメイドがライトニングの魔法を放つ。
シズが手のひらでそのライトニングを握りつぶした。
「なっ!?」
「中位人形召還・コピードールオートマトン!」
シズの後ろに二人のコピー人形シズが続く。これで人数の上で4対4になる。ただしコピーシズはオリジナルシズの真似しかしないが。
シズは
「うくっ!ドラゴンライトニング!」
「チッ!」
タタタタタ………!
「っくう!!」
30発程をシャワーの様に全身に浴びるポニテメイド。
「ナーベラル、チェックメイト!」
胸にシズのアーミーナイフを受けるポニテメイド、ナーベラル。
「ウソ。」
「ナーベラル、戦闘不能。」
そろそろ前線で暴れまわるシズより僕を先にしとめようと動く娘が出てくるはず。
僕は中位ゴーレム、ミラーゴーレムを3体呼び出した。
「終わりぃ!」
真後ろから声が響いた。
どうやら影の中から現れたようだ。
アサシン系の攻撃方法だろう。
正面から戦えば僕ごとき瞬殺なのだろうが………。
パシャーン!
「影か!?」
僕の背中にアサシンダガーが突き刺さった瞬間、ガラスが砕けるような音を発てて僕の影は粉々になった。その破片がアサシンに向かって飛んでいく。
その間に僕はアサシンから距離を取る。
今まで100m以上離れていたシズだがナーベラルをしとめて僕のほうへ援護に入る。
「速い!!」
そのスピードに慌てるアサシン。
「ちょっと、シズ、いくらなんでも卑怯じゃない?」
「卑怯じゃない。これは私に秘められている力。」
「いつも全力じゃ無かったって事?それは至高の方々に不敬だわ。」
「それも違う。私が望んでも全力は出せなかった。今、あの娘によってそのリミッターが一部解放されている。」
「一部?まだ全力があるってこと?」
「LV100
「あらあら、今日はえらく饒舌じゃない。」
二人は僕の目の前でナイフでの戦闘に入る。
「スキル・ドミネート・コピードール!」
僕はシズの後ろについていたコピードールを一体支配する。
タタタタタタ………。
「っく、おのれぇ!」
2方向からの攻撃に今度は劣勢に立たされるアサシンメイド。
「ソーちゃん、シズちゃん抑えとくっすよーー!ファイアーボール!」
褐色メイドが僕に向けてファイアーボールを放った。
ドオン!
そのファイアーボールが着弾する前にそちらを一瞥もしていないシズが
「なぁ!」
その間に僕はコピードールを使って褐色メイドとメガネメイドの二人を相手させる。
後数秒でシズがアサシンメイドを倒すことだろう。それまでの時間稼ぎをさせる。
「うう!」
突然シズの悲鳴に僕は少し慌てた。アサシンメイドの正体は
シズが
しかし動揺を見せないシズはあらぬ方向に向けて火炎放射器を放つ。するとコピーシズの一体が
「あちちぃ!だからシズ!卑怯だって!」
「だから何が!?」
粘体から這い出たシズは、止めとばかりに火炎放射器を
「ちょ、降参降参!!」
「シズ、止メヨ!」
「はい。」
「ソリュシャン、戦闘離脱。」
観覧席の戦線離脱席を指すコキュートス。
「承知しました。」
「ちょっとユリ姉!形勢やばくねっすか?」
「モモンガ様が見ていらっしゃるのよ!無様な戦いは見せられません。」
「何であいつあんな無防備にしてるのにあたし等の攻撃があたんないっすかね?」
「しゃべってる暇があるなら攻撃しなさい!」
振り向いたメガネメイドの目に映ったのはシズ。
「え?何で?」
「声まねっす。」
無表情なシズの口から出る褐色メイドの声。ピースサインにこめかみをひくつかせるメガネメイド。
本物の褐色メイドはドミネーテッドコピーシズと大立ち周りしていた。
「ユリ姉、終わり。」
シズはユリ姉の首を引っこ抜くと僕の方に投げてきた。
僕はユリ姉の目を塞ぐ。
「あ、前、ちょ、……あれ?あ痛ぁ!!」
シズはユリ姉の本体を簀巻きにして観覧席の他の三人のいる離脱席へ投げつけた。
「コラ、シズ!戦闘離脱した私ら攻撃してくんな!」
「うん、ごめん。」
「いたたた……。腰打った…。」
「ユリ、戦闘不能。」
コキュートスが宣言する。
「ちょ、これ、やばくね?」
タタタタタ……!
3体のシズはいっせいにアサルトライフルをフルバーストした。何十発も庇った手足に食らう褐色メイド。
「イタタタ………。ウォールオブストーン!」
大地系の防御魔法を唱える褐色メイド。
カカカカ……!
「あ、弾が…。」
「弾切れ!チャンスッす!」
今、とばかりに褐色メイドが岩の陰から飛び出す。
「なーんちゃって!オートロード。」
タタタタタ……!
「ひゃー、シズちゃんがはっちゃけたっすー!」
シズ3体がロケットランチャーを構えた。
「ちょ、降参!降参っす!」
「ルプスレギナ戦闘離脱。ユリチーム、全員戦闘不能ニヨリ戦闘終了!勝者、シズ、ツカサチーム。」
「シズ、クールダウン開始!」
「ROGER!」
「補助コンデンサ起動、ダンパーオープン、冷機LO投入。」
「補助コンデンサ起動、ダンパーオープン、冷機LO投入、……READY。」
シズの周りから高温の熱風が吹き出す。
「タービン冷機開始。」
「タービン温度段階降下開始。」
「バイパス弁オープン。補機起動。」
「バイパス弁オープン。補機起動。」
続々と続く指示にモモンガさんを除く全員が”?”と首を傾げている。
「モモンガ様、アレ、何してるんですか?」
無邪気に尋ねるのはアウラ。
「ああ、今までシズの身体に負担を掛けて潜在能力を引き出していたんだ。そのためああやってクールダウンしてやらないとシズの身体にダメージが蓄積してしまう。」
「へえ………。」
僕はシズの受けているダメージを確認して最後に魔法を唱える。
「
全ての修理を終えると、僕等はモモンガさんの前に行く。
「よくやった二人とも。」
「モモンガ様。」
上機嫌なモモンガさんにこれまた興奮したような状態のシズが話しかける。
「ん?どうしたシズ?」
「守護者の、皆様が捨てるなら、私がこの娘を飼う。」
シズが僕に抱きついてきた。吠え付いていた犬が懐いてきた様で何だか結構かわいい。
「は?」
「ちゃんと世話、する。ご飯も、散歩にも、毎日連れてく。だから…。」
はい、僕が犬扱いでした。
「いや、シズよ、犬ではないんだから……。」
「ちょいとまちなんし。コレはわらわのものでありんすよ。」
「シャルティア様には、宝の、持ち腐れ。」
結構辛らつなシズであった。
「ま、まあ先ずそれは置いておいて、どうだ、皆の者?少しは評価が変わったかな?」
「サスガハモモンガ様。ココマデ彼女ノ能力ヲ見抜イテオイデデシタトハ…。シズトノコンビデアレバ、有用ナ場面ハ必ズ在ルカト。」
「でもさぁ、つかさって結局終始シズに守られっぱなしだったよね。」
「…う、うん。それにシズさんじゃなければ、あんな戦果には、ならなかったと思います。」
「いや、これはなかなかに良い駒になりますよ。私に任せていただければ……。」
「いえ、やはりこやつは危険分子です。むしろここで殺処分したいくらいなのに……。」
わいのわいの言い出す守護者達に対して僕は手を上げる。
「あの、僕から一つ提案が…。」
「ん?何か妙案があるのかな?」
「僕をアルバイトで雇っていただけませんか?」
「ほう、アルバイト。」
「確かに僕にはこのギルドに対して忠誠心も愛着もありません。ですが給料が頂けるなら、それにみあった働きをします。」
「ふむ、なるほどな。」
「僕はこれからアルベド様の言うとおり、ナザリックの位置が分からないように外にでて、どこかに安住の地を探します。しかし外の世界はどうやらユグドラシルでもない様子、衣食住の目途がつくまでここでお金を稼いで、生活の基盤を作りたいと思うんです。通勤には入れ替え人形を作っておけば位置の特定もできませんし。」
「どうだ、アルベド?」
「…………それでしたら、許容範囲かと…。」
「一つ問題があります。」
と、デミウルゴス。
「以前ウルベルト様とブループラネット様の話を聞いていたことがあります。プレイヤーは星の位置で現在の場所を特定する能力があるとか。ですのでつかさ殿にはナザリック地下一角に特別地下通用門を作ってそこからの出入りを進言致します。」
「いいだろう。地下通用門の件はマーレに任せてよいか?」
「は、はい、直ちに。」
そんなこんなでようやく全員の意見の一致を導くことができた。
とりあえずナザリック内にいると、いつ寝首をかかれてもおかしくない状況。ならばこれが僕にとってよりよい選択であると思う。
翌日、僕は見渡す限りの平原に連れてこられた。
「それではメッセージドールを置いていきます。安住の地を探したら連絡を入れますね。」
僕は一緒に来ているセバスにそのメッセージドールを預ける。
「ああ。あまり無理はしないでくれ。これは餞別だ。何か困ったことがあったら遠慮せずに言うんだぞ。」
モモンガさんはこの世界で流通する金貨を調達し、10枚を皮袋に入れてくれた。
「これは君自身が稼いだものだ。」
「え?」
「あの模擬試合で賭けになっただろう。私は君達の勝利の一点買いをした。だから遠慮せず持って行くが良い。」
「はい、ありがとうございます。」
「外の世界がいやになったら迷わずわらわを頼りなんし。そなたはいつまでもわらわのシモベでありんすから。」
「何かあったら、私も、駆けつける。貴女とは、もう、同じ釜の飯を食った、戦友。」
見送りにはシャルティアとシズも駆けつけてくれた。なんと言うか少し涙が……。
「それでは皆様、ごきげんよう。」
「つかさ、安住の地が見つからなくても、ちゃんと3日に一回は連絡を入れるんだぞ。」
「はい。」
僕はもう一回モモンガさんに向けて手を振る。
「つかさ、今度、また私の身体を、好きに支配して。ちょっと、乱暴にしてくれても、良い。」
「シズちゃん、その表現、分かってて言ってる?」
無表情で首を傾げるシズに僕は手を振った。
「つかさ!」
「……はい?」
「ちょっと、呼んだだけでありんすよ!」
「シャルティア様、何か怒ってます?」
モモンガさんがシャルティアを抱き寄せると頭を撫でる。どうやら泣いている様だ。
…………何で?
もう一度シャルティアに手を振ると、モモンガさんに耳打ちされたシャルティアがこちらをチラッと見て、恥ずかしそうに手を振った。
4人は僕が見えなくなるまで手を振り続けてくれていたようだった。
さてと、どちらに向かおうかな。
続く