カルネ連邦共和国   作:夕叢霧香

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第9話

B レイナース・ロックブルズ

 

 

 目が覚めた。

 痛みは無い。手もある足もある。苦しさのかけらも無い。

「良かった。夢は続いてるみたい。」

「お、起きたか、嬢ちゃん。」

 昨日の安酒場(ホンキートンク)の主が陽気な声を上げた。

「嬢ちゃんのおかげで昨日はえらい盛り上がりだったよ。売り上げも上々、開店以来初めての売り尽くしだったぜ。」

「おばちゃんは?」

 私はあくびをしながらカウンターに座り、出してくれた水を一気に飲んだ。

「昨日全部の酒、食材、薪を使い尽くしちまってよ、その買出しだ。」

「そういえば嬢ちゃん名前、聞いてなかったな。俺はフェリペ。安酒場(ホンキートンク)バーデンの親父だ。かあちゃんがティッピてんだ。」

 安酒場なのに風呂(バーデン)とはこれ如何に?ココの言葉では別の意味なのかな?

「名前かー。」

 HNで良いかな?

「カ・ラ・ビンカ。ビンカでいいよ。」

「あまり多くは聞かねえが、嬢ちゃん家出か?」

 あ、嬢ちゃんで変わらないんだ?

 そういえば昨日も同じようなこと言われていたな。

「家出じゃないよー。何でそう思うの?」

「そんな綺麗なベベ着て艶やかな髪をセットできんのは貴族か大商人だけだ。」

 この程度で大商人が着る様な綺麗な着物ねえ………。髪も海から上がって乾燥(ブロー)の魔法を掛けただけなんだけどなぁ。

「容姿は王国のラナー王女もかくやって美形だし、肌つやも庶民のモノじゃねえ。」

 アバターの容姿を褒められても……あんまりうれしくないなぁ。

「それに昨日からみてたがしぐさ一つとっても妙に気品がありやがる。生まれついてのモノじゃなきゃ納得できねえ。」

 気品ってのはちょっと嬉しい。でも単なる貧乏庶民ですよー。

「しかも皮袋一杯の砂金を持って、ウチみたいな場末の酒場に来るなんてな、世間知らずのお嬢様だけだよ。」

「そっかー。」

 まんま世間知らずだもんね。てかぜんぜん分からない。

「帝国だからまだ良かったものの、王国だったら多分明日にゃ拉致監禁の上、親父さんのところへ身代金請求だ。しかも身代金は奪われた挙句に嬢ちゃんは運がよければ娼館で見つかるってところだな。嬢ちゃんにはひとかたならねえ恩義を受けたからよ、そうはならないよう忠告しておくぜ。」

 なるほど。確かに私、エライ無用心だったかも。

「ありがとう、おじさん。でも王国って治安悪いの?」

「昔は法国以外どこの国も似たり寄ったりだったが、ココはよ、新しい皇帝様が即位して以来、激変したよ。吸血鬼みてえな貴族どもは駆逐され、戦争も無駄死にさせるようなことも無く、物価も安定し始めた。」

「へぇ、名君なんだ。」

「ああ。しかしな、人の本質ってのはそう簡単に変わるもんじゃねえ。ここにもまだ泥棒も、人攫いも、詐欺師もいないってわけじゃねえ。嬢ちゃんみたく隙だらけにしてたらよ、あっけなく海に浮かんでるって事も不思議じゃねえんだ。気をつけな。」

「うん。気をつけるよ。」

 

 私はこの世界についてもっと知るために色々聞いた。それこそ常識の範囲から聞いてくるので色々訝しがられたが、途中で帰ってきたおばちゃんと一緒になって私に色々教えてくれた。

 途中お腹を鳴らした私に店で出す料理をタダで出してくれた。

 うん、ここの夫婦は良い人達だ。

 

 

 今日起きたのは既に昼が過ぎていた頃だったので、ある程度の時間になると夕食を食べに客がちらほらと現れ始める。

「お、嬢ちゃん、今日も来てたか!なあ、今日も歌ってくれよ!今日の訓練はよ、昨日アレだけ朝方までどんちゃんやってたってのに、羽が生えたように身軽に動き回れたほどだぜ!」

「訓練?」

「ああ、忘れちまったか?俺等三人全員ロックブルズ閣下の配下だぜ。」

「ああ、例の怖い将軍?」

「将軍とはちょっと違うがな、まあ、怖いって形容詞は普段から付けてない方がいいぜ。本人の前でポロッと出ちまったら首がスパッとな……。」

「しかしホント、昨日の歌は魔法がかかってたみたいだったぜ!昨日ココに来てた連中、全員が訓練ですげえ成績出してよ。」

 はい、魔法、かけてました。

 でもただの応援(チア)系と癒し(キュア)系で、初期レベルの祝福魔法だけだったけど。

「もしかしてだけど、嬢ちゃん吟遊詩人(バード)か?あの歌、言葉もわかんなかったけど、妙に意味が伝わってきてよ……。」

「ああ、お前もそう思ってたか?」

「お前らもか。アイだとかコイだとかラブだとかアーモだとかリーベだとか、全部愛情とか恋愛にかかわる言葉だろ?」

「おお、正解。」

 すっげー!私がこの世界の言葉が分からないのに意味が分かるのと、やっぱ関係があるんだろうな。

「南の国って一杯愛に関わる言葉があるんだなー。」

「そうだねー。」

 そんな話をしているといつの間にか10人以上の客が私を取り囲み始めていた。

 おっちゃんに助けを求めたがウィンクを返されただけだった。強面男にウィンクは似合わないよ、うん。

「ねえ、私普通に普通の吟遊詩人(バード)だけど、この辺に吟遊詩人(バード)はいないの?」

「何で普通を強調するのかわかんねえが、吟遊詩人(バード)は何人かいるぜ。でも嬢ちゃんは異色中の異色だ。」

「ああ、言葉や歌詞、あんな音楽も聴いたことがねえし、あの4人編成の演奏家を召還してみたり、それに何てったってあんな最高な歌、多分皇帝陛下も聞いたことがねえんじゃねえか?」

 やばい!超うれしい!!

「そ、そんなに良かった?」

 やばい!要求しちゃった!!

「良かったどこの騒ぎじゃねえ!」

「ああ!なんていうか、ああ、すげかった!!」

 やばい!うずうずしてきた!!

「俺ぁ明日死んでも後悔しねえってくらい最高だった!」

「いや、俺はこの歌を聴くためになら戦場で這いずってでもココに戻ってくるぜ!」

 やばい、やばい、やばい……………!!!

「私の歌を聴きたいかー!!?」

「おおおーーーーーー!!」

「聴いて後悔しないかーーー!!?」

「うおおおおーーーーー!!」

 いつの間にか後ろには30人程が集まっていた。

 そしていつの間にかおっちゃんが小さいながらもステージを用意してくれていた。

 外はまだ明るい。隣近所に迷惑かもしれない。

 でも知らない!

 歌う!!

 

 

 狂乱の嵐だった。

 昨日以上に熱狂した。

 通りを歩く人々が立ち止まって店内をみる。

 小さな店内が揺れる揺れる。慌てて私は柱と壁に補強の魔法を掛ける。

 店の外では窓からのぞく人、屋根に上ってのぞき込んでくる者、者、者、人、人、人…。

 遠くで歌声を聞いた人達が集まってくる。仕事の手を止めて集まってくる。

 バラードでは300人を超える人間が一斉に声を潜め、分からない歌詞に涙を流す。

 

 もう最高だ!

 アイドルの気持ちが少し分かった気がした。

 私の歌が認められた。小さい頃歌ってたってこんな人は集まらなかった。

 外にいる人達は私の顔、姿はほとんど見えていない。にもかかわらず、熱狂してくれている。

 歌に魔法は乗せない。それでも聞き惚れてくれている。

 

 ああ、最高だ!!

 誰か言ってたけど、明日死んでも後悔しない!

 ああ、こんな風に思ったらきっと明日は来ない。でも、でも後悔しない!

 神様がこんな最期を用意してくれた。なんと慈悲深き神様だ。その神様の居られる世界なら、私にはどこでだって極楽だ。

 

 もう何十曲歌ったろうか?でもぜんぜん疲れない。

 聴衆達は曲間に肉や酒をかっこみ、歌が始まると手の肉やジョッキを振り回して熱狂する。

 

 午前様を回り、丑三つ時を過ぎて徐々に疲れきって倒れる人が増えてきた。

 明日に疲れを残してはいけない。

 だから最後に私は別れの歌を歌う。

 明日からまた、”がんばろう”と。

 昨日と同じように癒し(キュア)、と応援(チア)の魔法を乗せて。

 その歌を聴いてほぼ全員が眠りについた。

 歌の届かないところで見る人がいたなら、まるで魔女が狂信者を取り込んでいる姿に見えたことだろう。

 

 

「はい?魔女?」

 あれから1週間が過ぎ、いつものように昼頃起きていくと渋い顔のおっちゃんからそんな事を言われた。

「そうなんだよ。でも違うのさ!」

 おばちゃんも渋い顔で手を振り振りいう。

「結局ウチばっかり儲けてずるいって他の店からのクレームなんだよ。」

「まあ、こうなるとはうすうす思っていたけどな。俺がやつらの立場だってそうするからな。」

「ああー、ううーん。」

 まさかこんな事になるとは……。

「それにウチで飲んだ連中、皆が皆、ほとんど休んだり寝たりしてないのにエライ絶好調でね、神殿でももしかしたら何らかの魔法がかかった料理とか出されてるんじゃないかって…。」

 うん、それは無いよね。だって原因、私の歌だもんね。

「多分、職にあぶれた他の吟遊詩人(バード)連中も絡んでんだぜ。普段もったいぶってるくせによ………。」

「そうだよ、払わされるお金だって一曲につきいくらって、結構いい値取るんだよ。ビンカちゃんの足元にも及ばないくせに。」

 へー、そうなのかー、へえーー。

「普通に怒鳴り込んでくるぐらいだったらこちらもそんな事は慣れっこだ。ぶん殴って追い返してやるんだが……。」

「そうなんだよ。相手が悪すぎるんだよ。」

「相手?」

「騎士様に陳情に行った連中がいたみたいでよ、今晩視察に来るって……。」

「視察?」

「だからさ、今日は歌わないでいたほうが良いよ。」

「えーー?!」

「そんな顔しないでおくれよ。こっちだって苦汁の決断なんだからさ。」

 私の頭を抱きしめながら言うおばちゃん。

「うん、分かったよ。今日は大人しく給仕でもしてるよ。」

「いや、そんなことさせられねえ。今日くらい嬢ちゃんは休んどけ。たまには喉を休ませることも必要なんだろ?」

 あー……、考えたこと無かった。

「大体嬢ちゃん歌ってるときまったく飲み食いしてねえじゃねえか。それだけでも驚きなんだぜ。」

「うん、時折心配になるよ。あんな高音出したり、ビリビリ来るような声量だってのに…。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

「いや、俺達の方だからよ、嬢ちゃんの好意に甘えてるのはよ。」

「ホントだよ。どこの世界にこんな特上の吟遊詩人(バード)様をタダで歌わせられる店があるってんだい?!」

 そんなこんなでおっちゃん達は店前に今日は”ライブ中止”の張り紙を掲げ、私は1日オフという形になった。

 

 まあ、毎日楽しかったけど、たまには街の中を見回っても良いか。

 そういえばココについてからほとんど歌いっぱなしの毎日だったし、もう、そろそろ夢の中って事も忘れそうだ。

 

 目立つからという理由で私はおばちゃんのお古をもらって町娘の格好をしている。

 しかし私は一躍有名人になったようで、道行く人々に目をむかれる。

「ビンカちゃん、今日も歌ってくれるのか!?」

 そんな声が掛かった。

「あー、ごめんねー、今日はオフなんだー。明日からまた歌うからー。」

 気軽に返事をするといきなり遠巻きに見ていた人達が集まり始めた。

「やっぱりあれか、騎士様が視察に来るからか?」

「まあねー。って、アレ?コレ、言っちゃいけないんだっけ?ごめん皆、さっきの忘れて。」

 ドッと笑いが広がった。さらに人が集まってくる。

「ビンカちゃんのお国ってどこなんだい?」

「ニホンって国だよー。」

「やっぱそこじゃ有名人だったのかね?」

「全然、全然!むしろ醜いアヒルの子だったねー。」

 ココでは成長して白鳥になりましたが、なんちゃって。

 

 そんな世間話を繰り広げながら私達一行は街をねり歩き、安酒場(バーデン)へ戻ってきた。

「よう、お帰り。って、こりゃまたえらい客一杯連れて来てくれたな。」

「うん、街で遊んでたら付いて来られちゃって…。」

「なあ、お前さんら、今日はウチの娘は歌わせられねえんだが…。」

「ああ、聞いてるよ。」

「でもよ、俺等だって新しい街の有名人にゃ興味あるからよ。」

「お前ら仕事はどうした?」

「1時間ぐらい良いだろ。今日は店じまいだ。」

「カミさんにどやされっぞ。」

「大丈夫だよ。かかあもビンカちゃんのファンだからな。」

「ホント!?」

「ホントホント!ってかよ、今や街の半分はビンカちゃんのファンさ。」

 やっべーー!超嬉しいんですけど!

「それじゃ今日はファンの集いにしようか!おっちゃん、おばちゃん、今日は私が皆に奢るから、じゃんじゃん持ってきちゃって!!」

 私は今まで貰ったおひねり全部をおっちゃんに差し出した。

「よっしゃ!今日も仕入れ、全部使っちまうぞ、かあちゃん!」

「あいよぉ!!」

 今日もどんちゃん騒ぎが始まった。

 

 歌えないのは寂しいが、今日は初めて酒を飲んだ。

 喉に悪いから、酒は飲んだことが無かった。

「うまーーーー!!」

 お酒っておいしい!ワインもビールも美味しい!

 魚にワインが美味しい、豆にビールが美味しい!!

 私は今までこんな極楽を知らないでいたのか?!

「神様!ありがとう。」

 思わず手を組んで天に祈りを奉げる。

「おいおい、大げさだな、嬢ちゃん。」

「いーや、これでこそ俺達のビンカちゃんだぜ!」

「本当にな。いつもの親父の料理なのにビンカちゃんがいるだけで数倍美味くなるぜ!!」

 ドッと笑いにあふれる。

 楽しい。歌も楽しいけど、こんな人とのふれあいも楽しい。

 歌は無い。

 それでも今日も安酒場(バーデン)の客足は凄まじかった。

 定員50人が関の山な酒場に満員電車のような人数が入ってきた。

 頭の上を酒や料理が通過していく。

 今までステージの上から見てたけど、中に入るとまた違った感覚だ。

 悪くない。

 

 夜9時頃を過ぎると、私はもうその日の記憶が飛ぶくらい酔っていた。

 皆が酔っ払ってるのに一人でしらふなのが寂しかったので、状態異常無効のアクセサリーを外すと、面白いくらいに周りがくるくる回り始めた。

 今思うとこれは良くなかった。と思う……。

 夜10頃、兵士を数名引き連れた女騎士が現れた。

 それまでのどんちゃん騒ぎがうそのように静まり返り、一人、また一人その場からいなくなって行った。

「あー、誰ですかー?」

 全員が顔を青ざめさせる。

「帝国四騎士が一人、重爆と言う。」

「重爆ー?何それ?」

「お、おい、嬢ちゃん嬢ちゃん!!」

 おっちゃんはしかし女騎士に連れ添ってきた兵士に押し戻される。

「重爆ねえ、呑龍、じゅうたん爆撃!なんちゃって。」

 おばちゃんが気絶した。

「お前がカ・ラ・ビンカとか言う南からの来訪者だな。」

「そっだよー。」

「楽しそうだな。」

「はい。はい、それはもう、毎日毎日楽しいです!」

「そうか、それは良かった。」

「あれーー?お姉さん……。」

「…………。」

 私は初日に彼女の配下から前髪に触れるのは止めておけと言う警告がすっぱり抜けてしまっていた。

「おい、嬢ちゃん!それは止めるんだ!!」

「呪いだねえ。何かを退治したときとかのカウンター・カースってやつ?」

 彼女の前髪に隠されていた顔は醜く爛れて膿んでいた。

「分かるのか!!!??」

「うーん。……えーと、あ、あった。」

 私は無限の背負い袋(インフィニティハヴァザック)の中から巫女の神楽鈴を取り出す。

 シャン、シャン、……。

「飲んで。」

 お神酒が無かったので私は白ワインに祝福をあげ女騎士に飲ませる。

 女騎士を座らせ、私はその頭の上で神楽鈴を振って舞う。

「このもの♪世界を穢し者を祓い♪神世を護りたまいし者♪」

「うぅっ、くぅっ!!!」

 女騎士は顔を抑えてうめき始める。そんなに痛いのかな?じゃあもう少し信仰系パワーをあげて…。ああ、少し落ち着いたみたいだ…。

「………願わくばその身に受けし穢れを♪祓いたまえ、清めたもうこと♪かしこみかしこみ申すー♪」

 シャン、シャン!

 謡い終えると、私は再び席についてワインを飲む。

「誰か!鏡を!!」

 おっちゃんが奥から手鏡を持ってきた。

「濡れタオルはあるか?!」

 おっちゃんがタオルを渡すと、女騎士はそっと顔を拭って行く。

「あ、あああ……ぁぁぁ……………。」

 愕然と固まってそううめく美女。

「あ、アレ?もしかして、呪い解いたの、まずかった?何か重要な意味があったとか……あ、ご、ごめんね?!」

「ち、違う、いえ、違います!!違うんです!!!」

 女騎士は涙を流していた。

 前髪を上げると間違いなく私が見てきた中で最高の美顔が現れた。

「貴女様は女神様ですか?」

「ああ、余計なことしたわけじゃないんだ。良かったびっくりした。」

 ちょっと酔いがさめちゃったじゃん。改めて少し飲み直す。

「私、レイナース・ロックブルズは終生変わらぬ忠誠を貴女に奉げましょう。」

「忠誠ー?いらないいらない。」

「しかしこの様な大恩を受け、私にできる事など……。」

「誰かが困っていたら、助けるのは当たり前っ!!!」

 あ、スベッた。

 やっぱたっち・みーさんじゃないとこの言動はスベるよね。

 ほとんど誰もいなくなった店内にただ私が頭を掻く音だけが響く。

「そんじゃーさ、どうしてそんな呪いを受けるハメになったか教えてよ。」

 レイナースは涙ながらに語ってくれた。

「始まりは領内で暴れているドラゴンの幼生でした……。」

 ようやく店内は落ち着きを取り戻してきた。逃げ遅れていた何人かがちびちびやりながら話を聞いている。

「呪いを受けてから家も、婚約者も、全ての人が私を忌避しました。やっとの思いで災厄を排除した私を人々は棄てたのです。」

「それでも私は何とか呪いを解こうとがんばってきました。帝国内のほとんどの薬師、神殿を回りました。持っていた金品は全て役にも立たなかった薬や祈祷や旅費に消えていきました。そんな日々が5年。何の進展も成果も無く過ぎていきました。私の心は荒みきって、部下達にもきつく当たってきました。私はもう一人きりに………。」

 ポト、ポト………。

 …………。

「………真珠?これは、一体?」

「分かる、分かるよ、レイナース!」

 酔って判断力を失っていた私は事もあろうに騎士様のファーストネームを呼びすてていた。

「がんばってるのに認められないって寂しいよね。自分のせいじゃないのに正しく判断されないって。ましてや貴女は皆の為を思っていたのに…。」

 自分の過去と重なって私はレイナースを抱きしめていた。

「ああ、…神よ。」

「よし、そんながんばってきた貴女に私がご褒美を贈りましょう!」

「クリエイト・グレーターアイテム・アンチエイジングリング!」

「これは………。」

 何の宝石も付いていない小さな指輪を不思議そうに見つめるレイナース。

 レイナースが以前捨ててしまった婚約指輪の位置にその指輪をはめると、指輪は光を放ち、彼女の指にピッタリのサイズに変わった。

「マジックアイテム?」

「女の身に、若いみそらの不遇の5年は長すぎたでしょう。これで失った5年を取り戻すのよ。」

 そのまま私は仰向けに倒れ、寝息を立て始めてしまった。

 

 

 

続く

 

 

 

補話

 

「全員、今日ここで見聞きした事を口外する事を厳重に禁ずる!!」

 レイナースは突然立ち上がると全員を見回して言う。

「全員の顔を覚えたぞ。もし、どこかでうわさでも立とうものならここにいた全員を皆殺しにする!よいな!!」

 兵士を含めた全員がコクコク頷く。

「親父!この方はとりあえず預け置く。しかし、この方は私の大恩人でもある。粗相の無いように。」

「わ、わかってまさあ。」

「訴えられていたことは却下する。しかし親父よ、この方に無理やり歌わせるような無礼を働いた場合………。」

 幽鬼のような剣幕にコクコク頷く親父。

「そもそも嬢ちゃ…、カ・ラ・ビンカ様は歌うのが何より好、お好きな方でして……。」

「なんとなく分かる。この方は権力も金にもまったく執着を持っていない、ただ人の幸せを望むような、まさに女神のような方。私が保護したいところではあるのだが…。この方はそれを望まぬだろう。望まぬ事を私の判断でしてしまってはそれこそ不敬。明日、また来る。そのとき、今後の方針を皆で話すことにしよう。」

「へ、はい!」

 レイナースは頷くと兵士を伴って去って行った。

 

 レイナースは閉店している魔導師協会の門を乱暴にたたいて残っていた魔法詠唱者(マジックキャスター)に指輪の鑑定をさせた。

 外套を頭からかぶり、どこの誰であるかを悟らせないように。

「う、あ、……こ、これは一体……?!これをどこで手に?」

「良いから話せ!このマジックアイテムの効果は?」

 レイナースは剣を魔法詠唱者(マジックキャスター)の首筋に突きつける。

「効果は老化防止。不老のアイテムです。人によっては金貨一万枚を積んででも欲しがる、国宝級アイテムです。」

 ごくりとレイナースは喉を鳴らした。

「良いか?!このことは絶対誰にも話すな。もしこの話が外に漏れたら、分かっているな。」

 レイナースは白金貨5枚を魔法詠唱者(マジックキャスター)に渡すと、外套を頭から深くかぶって闇に消えて行った。

「誰もがさじを投げるような呪いをいとも簡単に解く。涙が真珠に変わる。こんな大それたものを一瞬で作ってしまう。あの方、やはり女神か…。それ以外考えられん。神殿がお題目のように言っている奇麗事を真顔で実行する。神殿があんな調子だから天から降臨し、自ら実践しに来たのだろうか?」

「守らねば…。皇帝にも、あのジジイにも、誰にもあの方を汚い手で触らせるものか!!」

「困った事に、あの方は目立つ事を平気で行う。誰であろうと平等に接する。どうやってもひと月の内に皇帝の耳には届いてしまうだろう…。」

「どうすれば良い?」

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