アッ君(アッちゃん)。かわいい。
黒衣の鎧を纏う女性が一人、席を立っている。彼女は漆黒の鎧と同じく、黒い髪をしていた。短い髪は整えられ、かなりの美貌を持っている。鎧によって分かりづらいものの大きな胸のふくらみは、はっきりとしたものがあった。
「以上がこれからの政務だ。これにて会議を終える。解散!」
彼女の厳粛な声をもって円卓会議は終わりを告げた。三時間にも及ぶ会議を終えた各メンバーたちは、各々が緊張を解いた様子で部屋を後にする。
行なわれていた会議の内容は、この国の食料事情や、他国から侵攻してくる異民族の問題。それ以外にも多くの山積みにされた問題を先ほど開かれていた円卓会議にて誰が何を担当し、その具体的な解決策などを議論していた。
「ふぅ、これで少しは落ち着けるか」
この会議を取り仕切っていた彼女、名前をアグラヴェインという。
円卓の騎士の中でもこういった政務などを担当しており、王と円卓の騎士たちのまとめ役でもある。
「いや、まだ反乱分子の芽や異国の商人たちとの取引き、それに軍備についてまだまだやるべきことが残っている……か」
毎度のことながら山積みにされていく問題は留まることを知らない。いくら処理しようとも、新たな問題が起こり、それの対処に追われる日々だ。
文官の如き職務に嫌気が指す。だが、誰かがやらねばならぬなら、自ら進んでやるのが彼女の気質でもあった。
国のため、我が王のため。アグラヴェインはただ仕事をこなしていく。最近はその仕事によるストレスからか、肌は少し荒れ、眉間にも皺が寄ることが多くなったのことを気にしていたりする。
アグラヴェインはもう一つ溜息を吐いてから、手元にある書類に目を落とした。
「アグラヴェイン卿、さっきの会議では君がいなかったらガウェイン卿たちの意見を纏めることは難しかっただろう。助かった」
「あっ、アーサー王!? まだこちらにいらっしゃったのですか!」
気が抜けていたところに若き騎士王に声を掛けられて、アグラヴェインは自分の顔が熱くなるのを自覚する。そして、椅子から立ち上がり顔を伏せた。
「我が王。貴方様の御前でなんたる無礼を……」
「いやいや、そんなふうに思ったりしないからね。顔を上げてくれ、アグラヴェイン」
その言葉に「は!」と言い、顔を向ける。その姿を見てアーサーは苦笑する。
「ところでアグラヴェイン。君は何の仕事をこれから行おうとしていたんだい?」
「それは……いえ、アーサー王のお手を煩わせるようなことなどない故、というより王にできることはございませんので」
「そっちの方が無礼じゃないかな……」
アグラヴェインが行っている職務の内容には暗い面も確かに存在する。それを主君であるアーサーに言うのを憚った結果だったのだが、言い方が残念であった。
「察しているかもしれないが、これから君の仕事を私が手伝おうと思う。異論はないね」
「しかし――――」
「これは王命だ。いいね」
アグラヴェインは押し黙った数秒後に「御意」と頷いた。
それからアグラヴェインの自室にアーサーと共に行く。
「そうです。これに全てを目を通してもらいます」
書斎のようになっている彼女にあてがわれた部屋は、仕事をこなすだけの空間としてのみ成立していた。
アーサーがアグラヴェインの部屋に入ってまず感じただろうことは『汚い』だった。ゴミが散らかっているわけでも、生活による汚れが目立つというわけでもなく、ただ書類が所狭しと鎮座している。それらは左右にある棚にも並べられている。
しかし、それらの書類は全てこのキャメロットでの記録だ。民たちにおける法の記載されたものや、
「アーサー王をこの部屋に招くことになろうとは……」
一生の不覚かもしれない。そうアグラヴェインは考えるが、王の命令故、断ることなぞできるはずもなかった。
「女の子の部屋のわりには散らかっているね」
「そうでしょうか」
他の者の部屋はここより遥かに綺麗に整っているが、自分の寝るところさえ確保できればあとはどうでもいいと思っている。それが女として残念であることに彼女は気付いてはいないが。
「案外、これでも必要なものはすぐに手が届く位置に置いてあって考えられた配置なのですよ」
微笑をこぼす。その表情は彼女自身、気づかないうちにこぼれた自然の笑み。
「じゃあ、始めようか」
「王よ。では、こちらの書類から……」
「書類の前にやるべきことがあるだろう」
アーサーの言葉にアグラヴェインは、はて、と首を傾げる。
「この部屋の掃除だ!」
「いえ、これは散らかっているのではなく」
「僕も手伝うからさ!」
いつのまにやら、布を三角巾のように頭に装着したアーサーは楽しそうな面持ちである。加えて、どこから取り出したのか、モップに水を汲むための桶も手に握られている。
こうなっては断りきることは不可能だろう。
「ならば、これも王命ということにしよう。この部屋を綺麗にしてくれるよね、アグラヴェイン」
「承ります。承りますとも、アーサー王」
彼女の気苦労というのは絶えず続くようである。
掃除というよりは、片付けに近い大掃除は二時間ほどで終わった。
棚に敷き詰められるようにして並ぶ書物は、その用途によってアグラヴェインがきちんと分けていたので必要なものであるか、必要でないものであるかを見分けるのは、簡単な彼女の指示があれば判断がついた。
その書物のある程度の概要をアグラヴェインは頭に叩き込んでいる。重要な記録等は保管庫などに移動させるため、それは後に回し、部屋に住みにゴミとして捨てるものと判別のつくように分けて置いた。
大掃除の際に、アグラヴェインの下へと訪れた兵士たちがいた。彼らは、掃除を真剣にしている人物が王だと気づくことなく彼女への報告を済ませ引き上げていく。そんなアグラヴェインの後ろ姿を見てアーサーは微笑ましく思っていた。
「仕事をしている時の君は、まるで魚が水を得たようにとても生き生きしているね」
「そうでしょうか……」
「ああ、そうとも。やはり君がいなければ、このキャメロットの政治、ひいては円卓の関係のうまくいかないだろう。いつもありがとう。アグラヴェイン」
「自分には、王のそのようなお言葉は勿体のうございます」
照れ隠しに頭を下げた。
ここまで真正面から褒められると、厳格なアグラヴェインと言えど、顔が熱くなる。
「でも、これからはキャメロットのことだけでなく、自分のことにも気を配らないとね。君に倒れられでもしたら私は困る」
アーサーは「あとは」と言葉を置いて、
「自分の部屋の掃除も疎かにしないこと。いいかい?」
「……はい」
ここで断っては、王にまた王命だと言われかねない。そう判断したアグラヴェインは素直に受け入れた。
時刻を確認する。
それにしても、随分と時間をかけてしまった。掃除を行うことで、格段に作業効率は上がることだろう。しかし、それのために浪費した時間を考えると今日は眠れそうにない。長期的な視野で見るならば、今回の王の提案は良きものだったといえる。
「王よ。本日は、私のためにお手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした」
「なにかと時間があったからね。僕のやるべきことは既に終えている。だから、臣下である君に気をかけたくなっただけさ。だから、またこういった時は頼ってくれて構わないよ」
アーサーはニッコリと笑みをこぼした。それにドキリ、と感じたのは何故なのか。
「それに、アグラヴェインは偶には仕事の手を休めるほうがいいと思う。じゃないと、綺麗な顔に皺が増えてしまうよ。そうなると僕も悲しい」
「~〜~~っっ!」
顔が沸騰しているように熱い。否、事実、沸騰している。
今までアグラヴェインは自分の性格を恐れられたことはあれど、容姿を褒められたことなどない。しかも、その褒められた相手が忠を誓う王子様であれこうなってしまうのも仕方がない……のだろうか。
「アグラヴェインからそんな反応を見れるとは思いもよらなかったな。これはマリーンに感謝しなければならないかもしれない」
「マーリン。あの女魔術師が何かあったのですか」
思わずもれたアーサーの言葉に、つい問いかけてしまった。
「ああ。実はこの前、彼女に会ったときにね――――」
彼女は王との掃除のあとも、執務室に移動してから仕事に取り掛かっていた。ああいうふうにアーサーに言われた手前、今日くらいは仕事やめておこうと考えたが、これも性分だ。呆れられ、苦笑するアーサーの姿が目に浮かぶが手は止めない。
あと、あの女魔術師のこと。
時折、アーサーと二人で町の外れで会うらしい。それをあのあとの会話でアグラヴェインは知った。そこで女魔術師がアーサーを誑かしたのではなかったので、不問にするが。
「マーリン死すべき慈悲は無い」
こちら側に回される
「でも、あー――――」
アーサー王の伴侶という響きは代えがたい魅力がある。あの王子様の横にいるのが自分だと考えると……。
「偶には良いことやってくれるじゃないか」
彼女の悶々とした日々は数日続くことになるのは、また別の話。
綺麗とか言われちゃうだけで赤面しちゃうアッちゃん(かわいい)
なにかこんなキャラが見たい的なものがあれば嬉しかったりします。
ぶっちゃけ、ネタ切れだなんだぜ。というか、アッちゃんが書きたかっただけなんだ。
プロトアーサーは来ませ……っ。