アグラヴェインの苦労は終わらない。絶えない。むしろ増え続けるからこそ、その解消に奔走するのだが、今回ばかりは相手が悪かった。
「アグラヴェインー。まだ目的地には着かないのぉー」
間延びした声を上げる少女。彼女の名前はガウェイン。円卓の騎士の一角にして『太陽の騎士』と称される人物だ。
その名に恥じない実力を有するこの白銀の鎧を纏う騎士は、まだ幼さを残した顔だちをしている。身長の方も女性にしては小さい部類に入るだろう。なのに、鎧の上からでも彼女の胸の主張は激しい。
そんな彼女に呼ばれたアグラヴェインは、心底疲れたと言わんばかりに嘆息する。
アグラヴェインたちは外交のため、向こうの国へと向かう道中である。兵士たちも数人引き連れやってきた。彼らは自分たちの護衛ではなく、キャメロットの主――アーサー・ペンドラゴンの守衛に当たっている。
アーサーは言うまでもないことだが、アグラヴェインやその他の騎士たちも馬に乗って目的地へと赴いていた。
「どうしたのアグラヴェイン。もしかして疲れちゃった? だらしないなー、もうー」
「……はぁ」
長旅の疲れが溜まっているかと問われれば、溜まっていると答えるだろうが、それよりも隣にいるガウェインのせいで疲労が三倍増しだ。イライラも同じように溜まってくる。
「ガウェイン卿、もう少し緊張感を持って任に当たれ。この外交の重要性を理解しているのか」
この外交の目的は、近年、さらに苦しくなってきたブリテンの食料事情を改善するためのものだ。自然の恩恵があまり受けられず、作物が育たなくなってきた問題があり、国全体に食べ物が行き渡らなくなってしまった。
食糧事情の問題の解決には時間がかかるが故、先決される食糧の確保のため、こうして外交を行うために近隣の国に赴いているのだった。
だが、そんな事情をきちんと把握できていないであろうガウェインは、
「二人のときくらい、お姉ちゃんと呼んでくれたっていいのに……」
ぶっすぅー、といじけていた。
思わず、握りこぶしを作ったアグラヴェインは悪くないだろう。むしろ殴ってやればいい。
しかし、
「アグラヴェインは公の場以外でもこうなのかい、ガウェイン?」
先を進んでいたはずのアーサー・ペンドラゴンが、後ろについていたアグラヴェインたちの元までやってきていた。
アーサーが唐突にやって来たことでアグラヴェインは目を見開いて「アーサー王ッ!?」と言う。
「そうなんです王様。それはもうっ。いっつも、こうやって眉間に皺を寄せて、コラーって怒ってくるんです」
「それは貴女が緊張感の欠片も持たないから!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
アーサーは声を荒げてガウェインに反論する彼女を宥める。その表情は少しだけ困ったような顔だ。でも、アグラヴェインは止まらない。
「ガウェイン卿、貴女はいつもそうだ。蛮族との戦いにおいても、一人で勝手に突撃し、孤立し、絶対絶命に追い込まれた時も、尻拭いはいつも私がしてきた。そういった後先考えないところや普段だらけている所など私は!」
「そんなに怒らなくたっていいじゃない。可愛い顔が台無しだよ、アッちゃん。王様もそう思うでしょ?」
「うん。僕もアグラヴェインは笑っている方が素敵だと思うな。ねっ」
そうしてアーサーとガウェインは二人して同時に、
『ねー』
と楽しそうにハモっていた。
これでは怒っている自分だけがおかしいみたいではないか。その考えが頭を過ぎり、馬鹿らしくなってくる。
「分かった。これ以上は怒らない。だが、これからは普段からもっと色んなことに注意して生活すること。姉さんは私たちの円卓に必要な人なんですから」
怒りを収めたアグラヴェインは、姉であるガウェインに注意を促すために言葉を続けた。
「それに私生活を見直してですね……って聞いてますか」
「王様! あのアッちゃんが、あたしのことをお姉ちゃんって……あたしの妹、かわいすぎかよ」
「確かに、いつも厳格な彼女のこういった面を見ると、その……ギャップというのだろうか。うむ、いいね」
「あのですねっっ」
顔が果てしなく赤くなるアグラヴェイン。
やはり彼女は可愛いとかって褒められるのに弱い。
もう知らないですっ! そう叫んで、前方に馬を走らせていってしまったアグラヴェイン。そのことを考えると二人は少し沈んだ表情になっていた。
「少し、やりすぎてしまったかな」
「はい。あたしも反省しております……」
ガウェインの言葉のあとには『今は』という言葉が付け足されるのだが、それは彼女がほんのちょっぴりおバカさんだからである。少なくとも、今だけは本気で後悔し、反省している。しかし、忘れる。
では、アーサーは? あれは天然で女の子に対してやってしまう行為だ。治るはずがない。もう一種の病気である。
「アーサー王、一瞬でお姿が見えなくなってしまい、我々はどうしてよいか狼狽えましたぞ。いやはや、アグラヴェイン卿が、我ら守衛に伝えてくれなければ、もう大参事に……」
「あはは。すまないね、心配をかけた」
先ほどまで護衛に当たっていたであろう騎士たちが馬で駆け寄ってきた。安堵したように、その表情は穏やかだ。しかし、このアーサーの悪戯好きは誰の趣味が移ったものやら。
きっと、性質の悪い夢魔のせいに違いない。
「では、行きますぞ。王よ」
「ああ」
守衛たちの後を追うようにアーサーは馬を進めるが、行ってしまう前にガウェインの方に振り向く。
「ガウェイン、では今度、彼女のご機嫌を取るために何か甘味でも買いに行こう。これは僕と君との約束だ。アグラヴェインには内緒だよ」
そんな約束を残して行ってしまった。
数分後、アグラヴェインが前方から戻ってきて、ガウェインは愛しの妹の顔を見て約束を思い出す。
「あれって、もしかして、王様とデートの約束!?」
「え!?」
姉属性を持つ、ロリ巨乳でした。
書いていて意識はしなかったのですが、アッちゃんは委員長っぽいらしい。