はてさて、過去を変えれる力を持ったら、人はどうなるのでしょうか?
変えたい『昨日』があるんです―。
私の元には、時たまそんな依頼が舞い込んでくることがある。
そう、後悔を塗り替えたいと言う依頼人がやってくるのだ。
後悔先に立たず、という諺を根本的にひっくり返してしまう私の発明品。
それがタイムマシン、『イエスタデイ・リライター』だ。
ここで言っておきたいことがある。
そもそも私達の時代では、未来に飛ぶことは既に可能なのだ。
飛ぶだけであって、元の時代には帰って来れない片道切符なのだが。
そこで、私達発明家は「過去に戻れるタイムマシン」の開発を競っていた。
そして、私はついにそれの開発に成功したのだ。
完璧な時間旅行をついに成し遂げることができた、と思っていたが。
エネルギーが足りず、飛べるのは一日前程度。とんだ不良品である。
やれやれ、と思っていたのも束の間。
どこから噂が広まったのか、私の元にはその手の依頼が舞い込んでくることになる。
ほら、また依頼人の訪問を知らせるチャイムが鳴った。
今日の依頼人はどんな悩みを抱えているのだろうか。
◆◆◆
「テストが惨敗だったんです」
「……は?」
「いや、だからテストが……」
「悪いけどそれをしてしまうと、私は多分教育委員会から訴えられてしまうよ」
「ちゃんと話を聞いてくださいよ!」
うーむ、何かが惨敗だった、というのはよく聞く依頼だ。
特に競馬が馬鹿らしいほどに多い。
勿論全部お断りしているのだが……殴りかかられた事もあったなあ。
さて、そんな話は置いておいて。
目の前の少女はどうやら学生のようだ。
制服は見たことがある、すぐそこにある名門校だ。
私とて、部屋に篭りっきりな訳ではないのだ、それぐらい知っている。
私は少女に語りかける
「少女よ。私が想定しているケースというのはせいぜい食器が割れてしまった、とかそういう他愛もないことなのだ」
「は、はぁ……」
「その人自身の運命に関わるような書き換えは危険なことなんだ。分かるかい?」
「いやだからですねっ……」
「それにテストのひとつぐらい落としても―」
「話を聞いてくださいぃぃぃ!」
目の前の少女は涙目になっていた。
話を聞かない、私の悪いクセである。
自覚はあるが治さない。
◆◆◆
「と、いうわけなんです」
「……ふうむ、悪戯か。それはいただけないなぁ」
彼女は学生だったが、失敗したのは学校の試験ではなかった。
ジェットボード、飛行の試験だったのだ。
その時、クラスメートに細工をされ、試験に不合格になってしまったという。
なるほど、してやられたという意味も込めての惨敗といったところか。
「この型、博士が開発されたモノだと聞いて……」
「あぁ……そういうことね」
ジェットボード『air-drive』、巷では空中サーフィンとも言われているが。
板にジェットエンジンを取り付け、その上に乗って空を飛ぶと言うものだ。
衝突や悪い時には落下の危険性もあり、開発が難航したものの一つである。
「これ、何処が細工されてるのか全く分からないんです」
そう言って彼女は背中に抱えていたジェットボードを、私に差し出した。
「ふうむ、見た感じはどこに細工されているのか分からないな……一時間後にもう一度来てくれ」
「は、はい。よろしくお願いします」
彼女はペコリと頭を下げ、研究室から出ていった。
ああ、ついに断れなかったなぁ、外を駆けていく彼女を見て思った。
過去に私自ら戻ってこの件を断りたいぐらいである。
私の作品に細工をするとは、なかなか肝の座った奴もいるものだ。
よろしい、受けて立とうではないか。
◆◆◆
玄関のチャイムが鳴った。
「博士……?」
「開いている。入っていいよ」
「あのう、細工は分かったんでしょうか?」
「分からないわけがない、私は開発者だからね」
制御システムに悪戯とは、学生にしてはとんでもなくハイレベルな細工だったが。
誰かの恨みでも買ってるんじゃないだろうか、この少女……。
人の心配は基本しない私だが、気になってしまう。
「元通りに治しておいたよ」
「あ、ありがとうございます!」
ボードを手渡し、私は隣の部屋のドアを開ける。
そう、ここからが本題なのである。
私の発明、『イエスタデイ・リライター』を動かすのだ。