ザ・ウォーキング・デッド in Japan   作:永遠の二番煎じ

38 / 38
田舎の町工場の中で・・・
六つの車輪のついた個性のある椅子に座り、四角い作業机に手を置く。
向かいに青井は背もたれのない丸椅子で作業机に体重をかけるように座る。
上野「さあ、停戦協定だ。かつての同志。」
青井「・・・」


バッドエンド

コンピュータ室と書かれた教室。

二人の男が八つの監視カメラを通して安全を確保している。

プリンターに画像処理された写真がウイーンと出てくる。

黒い紙は次第に暗闇に写る何かを捉えた写真に変わって行く。

上野は写真を見て腹の中で誰にも悟られないように決める。

 

東堂「襲撃者?」

上野は顔を縦にゆっくりとふる。

東堂「彼らを受け入れるでしょ?」

上野「それは彼らの態度次第だ。」

 

東堂は上野が何人もの善人や悪人を受け入れるのを見てきた。

仲間とは常に一期一会の中で島津は唯一の学校以前の上野のことを知っている人物だ。

東堂「なぜ、島津さんじゃなくて佑一なの?」

上野「島津にはリーダーシップがない、俺自身が必要なくなる時が来ることを願ってるからだ。」

 

コンピュータ室を出て、東に足を向けるとピアノの音楽が聞こえてくる。

音楽室に入ると子ども達四人が英語で合唱している。

アメージング・グレースを島津が引いている。

指先が器用な蜘蛛の足みたいだ、右足は義足・・・

 

口々に、

「校長。」

「今日もかっけー。」

と無邪気に駆け寄る少年少女。

島津「はい!今日はこれで終わり。本郷先生のいる図書室に戻りなさい。」

子ども達は元気よく返事した後、音楽室を出て行く。

 

上野「ピアノ弾けるのか?」

島津「左足で出来るように必死に練習したんだ。」

島津は三十路であるが少女のように喜ぶ。

上野「そっか、ピアニストだったのか?」

島津「ええ、全国を周ったわ・・・結局オーストリアで弾く夢は叶わなかったけど。」

笑顔が散る。

 

上野「弾けばいいじゃないか・・・」

島津「え?」

上野「オーストリアでコンサートしろよ。」

島津の肩をポンポンと叩いてから音楽室を出て行く。

 

駐車場に行こうとするとビニールハウスに入る羽田が見えた。

 

上下グレーの作業着で、

羽田「俺しかいない、変わりはいないんだ。」

そう言い聞かせてビニールハウスで一人菜園で作物を育てる。

 

上野「何一人でぶつぶつ言ってる羽田少尉。」

羽田「僕がやらないと作物が駄目になる。」

上野「ああ・・・新鮮なの頼むぞ。」

羽田「もちろんです。」

虫に食われ、荒れ果てた菜園を羽田は手直しする。

 

上野「襲撃者の写真見るか?」

羽田「いえ、それよりやることが。僕にしかこの農園は直せないんだ・・・」

上野「そうか・・・」

羽田は仲間が大勢死んで参っているようだ。

 

武村は駐車場で車のバッテリーの充電部分をなんとか直そうとしている。

手にした白い軍手は黒色に変色し、顔もところどころ黒い。

上野「武村少尉、バッテリーは使えないか?」

バッテリーをいじりながら、

武村「・・・はい校長、全部やられてます。襲撃されて正門で対処班が集まっているときにやられたんですよ。」

バッテリーの壊れた充電部分を見せる。

 

悪魔のようにささやく、

上野「もし、壊されたバッテリー分調達できればお前を右腕に考えてもいい、かつての久保哲郎のようにな。」

一瞬笑みがこぼれそうになるが、

武村「分かりました、壊された分の同じ種類のバッテリーが手に入るかどうかは保証できませんが・・・」

上野「根性と努力があればすぐ見つけられる、武村少尉、君の事は高く評価してるんだ。」

 

一か月後・・・

 

廃車置き場と化している道路、青空の下でゾンビを倒す。

それを横転したバスの上から見る斉藤。

弓を絞り、青井の後ろから近付くゾンビの頭を狙っていると千里眼を持っているかのように、

青井「全部俺が殺すんだ、お前は見ていろ。」

らしくない言葉を挟んで斉藤をけん制。

振り向きざまに手製の竹槍を目玉に突き刺す。

 

斉藤「もう一か月経ちますよ。」

青井「時間なんてもう存在しない、明るいか暗いかだけさ。」

久保奪還から一か月間寺院に住む7人全員はなんとか暮らしている。

気持ちが離れて行き、いまや青井を気にかけるのは斉藤と空親だけである。

寺院を仕切っているのは敷地主の空親やここまで導いてきた青井でもなく森下である。

 

そこに一台のシルバーのRV車が死んだ車たちを避けてジグザグ走行で青井に向かう。

青井は竹槍を捨て、ホルスターの拳銃のグリップを握る。

中から上下森林迷彩の服を着た一人の男が車から降りる。

?「はじめまして、僕は怪しい者じゃないですよ。」

両手を見せて主張する。

 

青井はグリップから手を放す。

青井「何かようですか?」

?「ええ、この写真の人たち見たことあります。」

男は胸ポケットから写真を出して見せる。

 

写真を手に取り、

青井「まだ、上野責任者とは話せるのか?」

?「ええ、大丈夫ですよ。」

胡散臭そうな笑顔で答える。

 

「青井和成だ、この争いを終わらせたい。」

「武村茂です、私も同感です。」

 

青井と武村が話しているのを遠くから藪に隠れて見る斉藤。

少し話し込んだ後、武村はシルバーのRVに乗り来た道を走り戻った。

 

立って見送る青井の元に向かう。

斉藤「なんだったんですか?」

斉藤の質問を無視して、

青井「話は帰ってからだ、協力してくれるか?」

 

後日指定された場所に赤い軽自動車で向かう。

田園風景が広がる中にぽつぽつと家がまばらに建っている。

煙突のある建物に到着し、駐車場に車を停める。

 

大きな鉄の扉が開いていて中に上野が座っている。

鉄の扉の前には武村と三人の武装した男がいる。

その中には武村もいる。

 

武村「中に責任者がいます。」

青井「さしで話せるのか?」

武村「はい。」

斉藤に外で待つように指示する。

 

上野の向かいに青井は背もたれのない丸椅子で作業机に体重をかけるように座る。

上野「さあ、停戦協定だ。かつての同志。」

青井「・・・」

上野「その前にこの写真見たよな?」

青井「ああ、武村という男から見してもらったよ。」

その写真は深夜の駐車場で最言と久保が写っているものだ。

 

上野「彼らを引き渡せばもう君たちの事は放っておく・・・ことにしよう。」

青井「他に方法はないのか?」

上野「ない。当然連れてきたよな?」

上野は青井にプレッシャーをかける口調で問う。

 

青井「・・・君の部下に言われたが連れて来ていない。和解の道はないのか?」

上野「君たちから仕掛けてきたんだろ。」

憤慨する上野。

 

青井「いや俺たちは義足の仲間を救ったぞ。むしろそっちがこっちの好意を踏みにじったんだ。」

上野「だが家族同然の仲間は15人死んだ、君の仲間のせいでな。」

青井「俺は安全地帯がなくなったから家族じゃなくなったのか?」

上野「・・・」

 

その頃外でゾンビが寄ってくる。

武村は手鎌でゾンビの脳天を上から垂直に突き刺す。

そしてゾンビの体を蹴って、鎌を抜く。

武村の背後からゾンビが来るが斉藤は矢で突き刺す。

 

武村「さすが女戦士ですね。」

武村は不気味に笑う。

斉藤「・・・」

他の上野の部下は拳銃を斉藤に向けている。

 

すると上野と青井が外に出てくる。

部下は上野の目を見て拳銃を収める。

上野は部下を引き連れてジープで無言のまま去る。

 

ジープを見送りながら、

青井「襲撃に来るぞ。」

斉藤「そうですね・・・」

競馬場での光景を走馬灯のように思い出す二人。

 

青井「帰ってみんなに報告して話し合うぞ。」

斉藤「はい。」

 

二人は赤い軽自動車に乗って寺院に帰る。

 

ある日ある晩学校で会議室で上野とその幹部は話し合う。

上野・島津・羽田・武村・東堂・本郷は机を囲んで投票で決める。

 

上野は箱から小さく折りたたんだ紙を取り出す。

「戦う・・・いくさ・・・戦わない・・・」

と箱から投票紙を取り出し発表する。

 

結果は4対2で戦うに決定した。

上野「よーし、寺院を制圧だ。」

本郷「待て・・・」

異議を申し立てる本郷。

 

本郷「なぜ殺し合いになる、放っておけばいいじゃないか。」

羽田「・・・本郷さんの言う通り、それに人員が不足してここを守るのに精いっぱいですよ。」

武村「放っておけばまた襲撃される、俺達だけでなく50人の命がかかっているんだ。」

本郷「子ども達には武装したよそ者を排除しろと背中で教えるようなものだぞ。」

上野「もちろん、納得できなければ来なくていい、ここを守ってくれ。」

 

一方寺院では大広間に全員が集まる。

森下「いきなりどうしたんだ?この一か月孤立してたのに。」

真剣な顔つきで、

青井「率直に言おう、上野がここに来る。いまからでも逃げた方がいい。」

久保「え?死んだんじゃないの?」

 

生田は顔を下に向ける。

空親「私はこの寺院に残って祈ります。」

最言「そんなこと言ってる場合じゃないですよ。」

大広間は混乱する。

 

森下「だったらこの場所で始末してやるよ。」

青井「無理だ!相手はここの5倍いる。」

生田「とりあえず、避難できる準備はしておきましょ。」

 

さらに一週間後・・・

ゴゴゴと音を鳴らしながら鉄の巨体が寺院に目指す。

木をなぎ倒す機械音が森に響く。

オフロードのコンテナ付きトラック四台が木をなぎ倒す怪物の後ろを走る。

怪物の砲塔から弾丸が飛び出し、寺院の塀を突き破る。

トラックはそこから侵入し、東西南北の限られた空間にゾンビを放出する。

 

ゾンビは寺院中を徘徊し、一気に聖域から地獄に変わる。

上野は怪物の入口から顔を出して拡声器で降伏を呼びかける。

『こっちは30の戦力と発症者がいる、降伏しろ。』

森からはさらに20の兵力が徒歩で迫ってくる。

 

戦車内から武村が、

「逃げたかもしれませんね。」

30人の私兵は戦車を囲むように陣形を整えている。

 

上野「ああ、そうかもな・・・」

すると突然銃弾が上野の横を通る。

 

「敵だ!」

と誰かが声を上げた瞬間戦車を円陣で守るようにして森や寺院に銃撃する。

 

複数の金属音に集まってくるゾンビ。

そして寺院の塀がドミノ倒しのように爆音とともに崩れ去る。

「罠だ。」

と上野は拡声器で部下たちに伝える。

崩れ去った塀からは放ったゾンビが大量に戦車に向かって前進してくる。

戦車に備え付けたハッチ上の機銃でゾンビを粉砕していくが、弾が詰まる。

上野の兵士たちは応戦するが次々とゾンビに喰われていく。

 

そして追い打ちをかけるように鉄の横雨が襲う。

木の上から銃撃する青井たちを上野はようやく見つける。

上野「あの木だ。」

砲塔は特定の木を狙って砲弾を撃ち込む。

木は倒れて久保が地面に叩きつけられる。

 

木から落ちた久保を見つけてゾンビはゆらゆらと迫ってくる。

両手で拳銃を構えてゾンビを撃つが弾はなくなる。

立とうとしても足を挫いたのか立てない。

這いつくばって道路の方に逃げているとゾンビに足を掴まれる。

ゾンビはふくらはぎを噛もうとしているが、そこに空親が助けに入る。

 

空親は久保の肩を持って歩いていると久保は腹を撃たれる。

二人は倒れ込む。

久保「行ってください・・・」

空親「置いてはいけません。」

袈裟の長袖を引きちぎり、久保の腹を抑える。

 

最言と生田が助けに来る。

最言は久保を抱えて森から逃げる。

最言「文香・・・」

全力で走る最言、一生懸命走る空親、応戦しながら逃げる生田。

 

上野は顔を歪めながら、

「あいつらを追え。」

 

戦車は逃げる生田たちに向かって走り出した。

すると戦車の横からオフロードバイクで銃撃しながら青井が走ってくる。

上野はハッチから撃ち返す。

バイクが飛びあがり、青井は手榴弾を砲塔にダンクする。

武村「手榴弾!」

 

脱出を試みる武村を踏みつけて、上野は我先に飛び出る。

青井もダンクの瞬間上野に左肩を撃たれ、バイクから転倒する。

戦車は爆音とともに内部から火がつき、ゾンビが戦車の爆音と炎に寄ってくる。

 

それにも構わず青井は上野の眉間に銃を突きつける。

青井「お互い・・・こんなバッドエンディング望んでないだろ?」

上野「命乞いなどするものか。」

引き金を引く・・・

 

だが弾は出なかった。

すると上野は青井の顔に殴りかかる。

馬乗りになり顔を何発も殴る。

ときおり右手で上野は負傷した左肩を殴る。

青井は打たれっぱなしで意識が無くなっていく。

上野に噛みつこうとしたゾンビたちを部下たちが援護するがその部下たちも次々と・・・

 

後ろのポケットに違和感を感じ触ると中田のスイス製ナイフが。

上野「気は済んだ・・・」

上野は後ろ腰に装備してるサバイバルナイフに手をやると、青井が。

 

青井「だったら徘徊してろ。」

スイス製アーミーナイフを上野の胸に突き刺す。

上野は目を真ん丸にして口から血を垂らし、ゆっくり青井の横に倒れる。

 

左肩を抑えながら青井は命かながら立ち上がり、寺院から遠ざかって行く。

最後に上野を振り返るとゾンビたちが群がって新鮮な上野の肉を食らい尽くしている光景であった。

 




シーズン5へ続く

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。