銀河英雄伝説 サンフォード炉辺談話   作:mosamosa

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心温まるほのぼのとした回です。
3話の後書きでの予告ではこの回で宇宙戦闘が始まる予定でしたが、ボリュームが増えてしまったので次話になりそうです。

繰り返しますがほのぼの回です。誰も死にません。まだ。


第5話 帝都と辺境

 フリカッセと言う料理がある。

 ありふれた家庭料理だ。家庭料理だけあって多様でもある。

 一説によれば古代地球のフランスと言う国が発祥とされる。

 また白一色に仕上がるように食材を含めて工夫するのが本来のフリカッセだとする説がある。

 たとえば今日の銀河帝国にも鶏肉や玉葱を焦がさないように炒めてホワイトソースで煮込み、生クリームで仕上げる「ヒューナーフリカッセ」と言う料理があるが、これこそが本来のフリカッセだと言う説である。

 家庭の数だけレシピがあるといわれるほど多様な料理であるフリカッセの中で「ヒューナーフリカッセ」のみが固有名を持っていることが、フリカッセの起源を示すのだと言う。

 

 しかしそれは料理史研究者の間の議論である。

 

 ともあれ銀河帝国で単にフリカッセと言えば古代地球の中部ヨーロッパ、ドイツやオーストリアと呼ばれる地域の史料に伝わるものと似た、多種多様なフリカッセを示す。

 盛り付け姿の白さには拘らないし、肉も鶏肉とは限らない。

 

 さてこの料理の原型が人類史のいつかどこかで作り出されてから少なくとも1500年以上を経ているが、今でも共通の原則がある。

 フリカッセに限らない。

 家庭料理を出すレストランとは、いつの時代のどんな国でも常に「なんらかの理由で家庭料理を自宅で食べられない」人々を主要顧客にしている。

 単身者である、料理人を雇う余裕がない、多忙である、自炊が苦手、など。

 そのような人々を顧客とする店、すなわち連日通える価格で連日食べても飽きずまた栄養の偏らない料理を供する店というものはかつてブリスベーンにもあったしルナシティにもマーズポートにもプロセルピナにもあったし、テオリアにもあった。

 もしかしたら古代地球の大都市、たとえばワシントンやモスクワ、ロンドンやトーキョーにもあったかもしれない。

 この類の店が人類社会から無くなることはないだろう。

 そしてもうひとつ言えることもある。

 いつの時代であれ、この類の店は国家の要職にある人物が有力者の子弟を伴って会食に行く店ではないことだ。

 たとえばレストラン「ポンメルン」は、銀河帝国元帥にして宇宙艦隊司令長官であるローエングラム侯爵家の若き当主がマリーンドルフ伯爵家の令嬢を伴って会食するにはあまりふさわしくない。

 騒々しいわけでも猥雑なわけでもなく、もちろん不潔なわけでもないが、格式という点では表記困難なほど欠けている。

 

 しかしラインハルトはここ数年来、この店の常連である。このところ毎年、「ポンメルン」を訪れた客の社会的地位を更新しつづけている。

 幸いなことにラインハルトの元帥府から昼休み時間中に往復できる距離にあり、また高層建築に厳しい制限があるこのオーディンと言う都市では警備上の障害も少ない。

 襲撃者が有線誘導ミサイルの類を持ち出さない限りは、視界の確保は安全圏の確保でもある。

 元帥府を開いて後、しばらくはラインハルトは元帥府に設けた食堂へ執務の適当な合間に赴いて食事を摂るか、多忙なときには執務室に軽食を運ばせるなどしていた。

 しかしこれに異議を唱え、元帥府においては勤務時間と休憩時間が厳守されるように計らったのが元帥府参謀長のオーベルシュタインであった。

 文章にすれば人間には規則正しい生活と執務の切り替えが必要であると言う常識論なのだが、オーベルシュタインが口頭でそれを述べたときには「機械類には定期点検と燃料補充が必要である」と全く同様に聞こえたとは多くの証言が残っている。

 その一方で、その昼休みに随伴者を相手に行う会話でさえも自らの仕事をいくらか片付けるために用いようとするのはラインハルトの苦労性と言うものだったろうか。

 

 

 さて年が改まって数日後、元帥府から差し回しの地上車を降りたヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ(以下、基本的にヒルダと記す)は大学の午後の講義に十分間に合う時間にレストラン「ポンメルン」に到着することが出来た。ヒルダの私服護衛は先に移動している。

 そして金髪の若者もほぼ同時に地上車から店先に降り立った。

 

 レストラン「ポンメルン」の料理長は多様なフリカッセを作ることが出来、どのようなフリカッセを作らせても宇宙で2番目の腕前である。とはラインハルトの説明である。

 宇宙一の腕前の持ち主は誰なのかはヒルダは問わなかった。

 

 確かに美味しい。マリーンドルフ家の料理長が作るものの次に美味しい。

 たぶん多くの人が「我が家のフリカッセの次に美味」と評するのではないだろうか。

 

 ヒルダは知らなかったが、それはまさに「ポンメルン」と言う店の評判そのものである。

 フリカッセに限らずメニューのどれをどのような人に供しても「我が家の料理の次くらいに美味い」と評されることが、この類の店の料理長にとっては最高の名誉である。

 

「そういえばご存知でしょうか侯爵閣下。銀河の向こう側では、単に『フリカッセ』と言えばヒューナーフリカッセを指すそうです」

「伯爵令嬢は博識であられる。マリーンドルフ伯爵の領地経営ともども見習いたいものだ」

「光栄です」

「マリーンドルフ伯爵の領地から優秀な帝国軍将兵を輩出しておられることに感謝申し上げる。また、その将兵の一部からマリーンドルフ領のフリカッセを食べる機会を奪っていることをお詫びせねばならない」

「……帝国を守るために戦地にある兵士たちは、マリーンドルフ領の誇りです。領地を預かる家の人間として、私は彼らを尊敬し感謝しております」

 ヒルダは若者の発言の意図を何通りか解釈してみたが、とりあえず型通りの受け答えを行った。

「時計の針は逆転せず、戦場に斃れた兵士が蘇ることはない。しかしフロイライン、近いうちに少なからぬ将兵がマリーンドルフ領のフリカッセを食べる機会が訪れるだろう」

 面倒な表現だが、要するにラインハルトは捕虜交換手続きを実行中であることを明かした。

「たいへん結構なことです。我が家としては、異なる星座の下から帰還するものを手厚く労うことにいたします」

 ヒルダは意味を理解したが、捕虜交換と言う言葉は避けた。悪意を持つものの耳に入ったとしても「兵役からの満期除隊者を厚遇する」と主張できる。

「さすがの見識であられる。ローエングラムの領地においても、また帝国軍宇宙艦隊としても帰還するものの苦闘を讃えようと考えている」

 オーディン標準時での昼過ぎ、店内にあってこの会話に耳をそばだてているものは何人かいた。その過半はラインハルトとヒルダの私服護衛だったが、もちろんそうでないものもあった。

 ラインハルトの発言の意味は容易に翻訳でき、また要約できる。

 すなわち、以下のとおりである。

 同盟との間で捕虜交換が近く実施される。

 帝国軍宇宙艦隊司令長官は帰還兵を厚遇して自陣営に取り込む意図を持っている。

 

 さすがにラインハルトと言えども会食中にこのような話ばかりするわけではない。

 ある程度は会食向きの話題も用意していたが、それらの会話は伝わっていない。

 

「さきほど『マリーンドルフ領のフリカッセ』と言ったばかりだが、現在のところ帝国には『その惑星ならではのフリカッセ』が無い惑星や『我が家のフリカッセ』を知らない人々と言ったものが多数ある」

 ラインハルトはスプーンを休めて、会話の内容を切り替えた。

「存じております」

 二人の会話が示すものは、領民に豊かな暮らしを与えようとしない領主への批判である。

 フリカッセは決して高級料理ではないが、それさえ食べる機会のない平民や奴隷は多数あるのだ。郷土料理と言えるものが無い有人惑星も多数ある。

「先日の宰相閣下の談話が示されるとおり、遠くない将来にこの状況は変わるだろう」

 これも周囲に聞かせるための言葉である。

「同時に、少なからぬ人々が財産を失うかもしれません」

「財産の適正配分と言うべきだと私は解釈している。宰相閣下によればエルウィン・ヨーゼフ2世陛下は晴眼帝の再来とのこと。帝政は大きく変わる」

「素晴らしいことです。マリーンドルフ家がそれに貢献できるならばたいへん名誉なことです」

 ここで二人はフリカッセを食べ終え、コーヒーに手を伸ばした。

 この二人の社会的地位を考えれば食事を終えるのに合わせて音もなくコーヒーセットがテーブル上に出現するのが自然と言うものだが、「ポンメルン」はそのような店ではない。

 コーヒーはさきほどから二人が食べていたフリカッセの深皿と一緒に、トレイの片隅にカップが載せられると言う、優雅さに欠けること著しい形で供されている。

 砂糖とクリームに至っては最初からテーブルに用意されているという、高位の貴族には全く相応しくない店である。

 二人は互いに譲り合ってから、結局どちらも好みどおりに砂糖とクリームをたっぷりと「自らの手で」コーヒーに注いだ。

 普段使わない無骨で大きなカップにヒルダが戸惑っているのを見て、ラインハルトは無造作にカップを持ち上げて見せた。

「この店のカップはこういうものだ。優雅さにはいささか欠けるが、保温性と強度に優れる。この店のコーヒーは銀河で3番目くらいに美味いと保障しよう」

 

 この会食での会話は日付の変わらぬうちにブラウンシュヴァイク公の側近にまで届いた。

 ブラウンシュヴァイク公は決して暗愚ではなく、この会話の意味するところを理解した。

「金髪の孺子は捕虜の身に甘んじた臆病者まで自陣に組み入れなくてはならないほど兵力に窮乏し、焦っている。我々の勝利は疑いない」と。

 これに異を唱え進言を行うものもあった。

 曰く、ローエングラム侯よりもさらに手厚い待遇を異郷で苦労してきた帰還兵に示すことで正義派諸侯軍の陣容をさらに分厚くでき、勝利をよりいっそう確実にできると。

 しかしアンスバッハ准将の進言は却下された。

 我が正義派諸侯軍には叛徒の捕虜になるような臆病者など必要ない。何よりも金髪の孺子の発言そのものが我が方の有利を示している。

 先日の宰相談話に追随するような威嚇的な言葉もあるが、これは金髪の孺子の余裕の無さを示す。

 これがブラウンシュバイク公の見解であり、他の有力貴族もこれに同意であった。

 

 数日後に彼らが呼ぶところの金髪の孺子、ローエングラム侯ラインハルトが帰還兵第一陣に向かって行った演説の内容も不平貴族たちの判断を後押しした。

 

 リップシュタット盟約が結ばれてから、直ちに不平貴族が挙兵したわけではない。

 

 彼らにも「兵站の整備、手持ち兵力の訓練や装備の充実が必要である」と言う家臣の進言を容れる程度の知性はあったのだ。

 もっとも史書のいくつかはより皮肉な解釈を採っている。

 

 軍事指揮官を誰にするかと言う問題がより早く解決され、また一連の「儀式」が省かれていたなら、不平貴族はより早く挙兵したであろうと言うものだ。

 

 アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト中将はブラウンシュヴァイク元帥府の将として上級大将となった。

 これを本人は一度は辞退した。

 軍事指揮官の座を辞退したのではない。

 

「私と公爵閣下は同志であって主従ではない。ブラウンシュバイク元帥府の一員としての昇進は辞退したい」と、わざわざ言ってのけたのである。

 これに対しブラウンシュヴァイク公は怒りを表に出さず、むしろ賛意を示した。

「まさに卿の言うとおり。軍事行動に関する限り、このオットー・フォン・ブラウンシュバイクも卿の命令に従う。戦場にあって艦隊を率いることに関しては卿が第一人者だ。君側の奸を討つ同志として卿を恃み上級大将の階級を与える手段であって、決して我が属僚となることを求めるものではない」と言う次第である。

 用済みになれば切り捨てる道具に過ぎず、かつ利用価値のある相手に不快感と不信感を与えない程度の配慮はするのだった。

 ブラウンシュヴァイク公オットー本人の主観では。

 

 ファーレンハイトの方からブラウンシュバイク公の下へ出向いたという状況での公爵のこの言葉は同時に、挙兵の先延ばしに繋がった。

 リップシュタット盟約に調印した貴族の多くはファーレンハイトよりも位階が高い。

 公爵となればさすがにブラウンシュバイク公ひとりだが、そのブラウンシュバイク公爵が「我々は同志であり、位階に関係なく戦場ではファーレンハイトの指揮に従う」と言明したことでリップシュタット盟約に名を連ねる貴族たちの多くが同じ決意をした。

 より正確には、同じ決意を表明する儀式が必要だと判断した。

 つまり「ファーレンハイトが自らの帝都別邸を訪れて軍事指揮官としての就任挨拶を行うこと、その挨拶を受けた貴族当主がそれに『我々は帝国への真の忠誠心によって立つ同志であり以下略』と答える」馬鹿馬鹿しい儀式を要求したのだ。

 

「自分は盟主の臣下ではなく同志である」

「ファーレンハイトはあくまで同志の一人として軍事指揮官に就任する」と言う言質と、軍事面での最高指揮官が挨拶に訪れると言う形式が必要だった。

 彼らにとってはこのような儀式や形式こそが重要であり、陣営の結束を意味するのだった。

 もっとも、この儀式にはある実利もあった。大貴族たちの有能な家臣が兵站その他の準備を整える時間を稼ぐと言う実利が。

 またファーレンハイトは挨拶に回ると共に約束を取り付けた。

 軍事指揮官である彼が諸侯私兵の訓練状況を視察する許可を得て回ったのだ。

 ファーレンハイトは浮上車に乗って秒刻みのスケジュールで帝都オーディンを走り回ることになった。

 浮上車は地上車より高速で移動できるが、騒々しく優雅さに欠ける。また、慣性制御システムがあるとは言え地上車に比して乗り心地は悪い。

 

 高速走行する車内でファーレンハイトはある事情でオーディンに居ない二人の大貴族に対して実施した、超光速通信(FTL)回線ごしの挨拶を思い出し、そして現状を再確認した。

 

 通信回線が確立されてから対話が開始されるまでにあれこれと儀式の代用めいたやりとりをせねばならなかったのは、貴族それぞれの帝都別宅を訪問しての「儀式」と同様の時間と手間を彼ら二人が要求したためである。

 その二人、ヒルデスハイム伯爵もフレーゲル男爵もリップシュタット盟約には参加している。

 彼らは新帝即位式典には参加したものの、その後は「赤髪の孺子」キルヒアイス大将とその指揮下の将帥たちがボーデン、フォルゲンに戻るのを追うようにして署名封書をオーディンに残し、当面の任地たるハーン星系、ヴィーレンシュテイン星系に戻ったのだ。

 この両者は貴族軍の主力よりも重要な任務を与えられている。

「来るべき内戦において、キルヒアイス大将率いるアムリッツァ方面軍はリップシュタット貴族連合軍の領地を脅かし我々の結束にヒビを入れようと図るでありましょう。ヒルデスハイム伯爵閣下と協力してこれを阻止することがフレーゲル男爵閣下の重大な使命であります」

 ファーレンハイトはこのように強調したのだが、フレーゲル男爵の反応は鈍かった。

「我々正義派諸侯はローエングラム侯を名乗る金髪の孺子と、その背後にある老廃の奸臣たちを倒し帝国を救うために一丸となって戦う。私のみならず、同志の方々のその決意と崇高な使命に自らの生命財産全てを捧げる覚悟と矜持を疑うのは無礼であろう」とフレーゲル男爵はすらすらと言ってのけ、要するに配置と任務の重要性を全く理解していないことを示した。

「お方々の決意と信念を疑うものではありません。しかし方々が率いる軍勢の多くはそれぞれの領民であり、それぞれの家族を領地に残しております。アムリッツァ方面軍によって領地が脅かされれば諸侯のご当主、御曹司の方々はともかく実際に艦を動かす領民たちが動揺することがありえます」

 そうファーレンハイトが補足すると、フレーゲルも全くの暗愚ではないことを示した。

「なるほど、金髪の孺子どもの卑劣な策動から領民を守り安寧を保障することもまた、貴族の神聖な義務であるな」と答えたのだ。

 

 ヒルデスハイム伯爵との問答も似たものであった。

 ファーレンハイトとしてはこの程度の状況認識には自力で到達するか、せめて最初の説明だけで理解する知性くらいはあるものを、出来れば艦隊指揮官として実績を併せ持つ将をアムリッツァ方面軍の背後に配置したい。

 しかし今のところ、まだ内戦は始まっていない。

 ファーレンハイトが動かしうる将の中でまともな能力を見込めるものはリップシュタット盟約に署名した6名の正規軍艦隊司令官だが、今のところは彼らをヴァルハラ星域から動かすことは出来ない。

 今のところ彼らは帝国軍宇宙艦隊の一員であって、宇宙艦隊司令長官ローエングラム侯の部下と言うことになっているのだ。

 ファーレンハイトがそこまで考えたところで浮上車が次の貴族の帝都別邸に到着した。

 

 ファーレンハイトが一通りの就任挨拶回りと言う儀式を終えるにはそれなりの日数を要した。

 もしリップシュタット盟約軍が盟主の一言で動き出せる組織であったなら、兵站も戦備も不十分なままでの挙兵となり一戦で敗滅したであろう。

 それをファーレンハイトも理解していた。

 そのために挨拶回りを実施しまた諸侯私兵の視察許可を得て回っているのだが、しかし高速移動する浮上車の座席で戦略構想を考えるというのは若い彼にとってもかなりの負担であった。

 

 食うために軍人になり、稼ぐ為にこの陣営に参じた。まさか軍事指揮官の座が回ってくるとまでは思わなかったが、これはやりようによっては稼げる立場だ。

 同時に、背中から刺される可能性の高い立場でもある。

 もし最後まで付き合うならば、まず戦場で「あの」ローエングラム侯を倒し、そして傷ついた軍を率いてメルカッツに勝利し、その後は分裂するこの陣営のどちらかを率いてもう片方を倒さねばならない。

 どこで離脱するかも含めて十分に検討せねばならないが、まずはローエングラム侯をいかに倒すかだ。

 上級大将の俸給を得ることになった今、最初の俸給を受け取ったら離脱することも考えたがこれは稼ぎがリスクに見合わない。

 

「時間は数的優位にあるものの味方である」これは正しい。その時間を指揮系統と兵站整備、そして各部隊の訓練に費やせるならば。

 もし「正義派諸侯軍」をまともな軍隊に出来るのであれば楽々と勝てる。

 なにしろ、ローエングラム侯の倍の兵力を動かせるのだ。

 が、それは難しい。

 オーディンの街路を走り回り挨拶を行い視察許可を取り付けるという苦行が終われば、彼アーダルベルトはこんどは巡航艦に乗って各貴族領地を巡察することになる。各家私兵の訓練状況を査察するのだ。

 ……とは言うものの、「正義派諸侯軍」をまともな軍隊にするだけの時間は与えられるまい。

 今すぐに決起するよりはマシ、その程度に考える。

 さてその上で勝ち、稼ぐにはどうするか。

 次の訪問先へと高速走行する浮上車の座席でファーレンハイトの思索は続いた。

 

 

 

 

 ここで視点を帝国辺境、アムリッツァ方面へと転じる。

 開始されたばかりの捕虜交換と言うあわただしい人の動きの中、アムリッツァ方面軍司令官キルヒアイス大将や副司令官ロイエンタール中将の下には連日訪問客が絶えなかった。

「近く帝国では大規模な内戦が起きる」

 これは銀河帝国の辺境諸侯にとっても共通認識であった。

 リップシュタット盟約に加わったものにとっては自明であったし、そのような軽挙を慎んだ諸侯の目から見てもやはり自明であった。

 

 領地持ちの諸侯と言っても皆が裕福と言うわけではない。

 帝国が内戦状態に陥ったときに自らの私兵、星系警備軍を用いて領地の安全を確保できるか?

 この問題は、イゼルローン回廊に近い場所に領地を持つ諸侯、いわゆるアムリッツァ方面諸侯にとって特に深刻であった。

 だからこそ帝国正規軍の中から4個艦隊が派出されアムリッツァ方面軍が昨年10月に発足したのだ。

 

 彼らアムリッツァ方面諸侯は今や二通りの敵を考えなくてはならない。

 ひとつはリップシュタット盟約に参加した「正義派諸侯軍」。

 ふたつは同盟を僭称する叛徒の軍である。

 リップシュタット盟約に参加すれば「正義派諸侯軍」が一昨年にクロプシュトック侯爵領で働いたような略奪からは逃れられる。

 ただし、リップシュタット盟約に参加することすなわち大逆罪の共犯者になる準備である。この場合には「正義派諸侯軍」は敵ではなくなる代わりに帝国正規軍が敵になる。

 敵の名前が変わるだけで勢力数は減らない。

 また、「正義派諸侯軍」は同盟を僭称する叛徒の軍相手には全く役に立たないだろう。

 だからこそ彼ら、アムリッツァ方面の諸侯の多くはリップシュタット盟約への参加と言う軽挙を思いとどまったのだ。彼らの領地はイゼルローン回廊に近過ぎる。

 弱小諸侯の多くは領主本人あるいは家臣団によってこの問題に真剣に取り組んだ。

 ほとんど全ての弱小諸侯は「自力で領地を守ることなど全く無理である」と正しく結論を出した。

 すでに却下したはずではあるが、それでも困窮した人間は藁をも掴む。

 アムリッツァ星系から6日の距離にあるハーン星系にブラウンシュバイク公の私兵艦隊の一部を率いて駐留しているフレーゲル男爵に面談を申し入れ、あるいは使者を送る諸侯があった。

 同じくアムリッツァ星系から6日の距離にあるヴィーレンシュテイン星系に使者を送るか自ら赴いて、リッテンハイム軍の一部と自らの私兵を率いて駐留しているヒルデスハイム伯爵に面談を申し入れた諸侯もあった。

 

 彼らはその場で「汝らの愛国心と帝室への忠誠はどこを向いているのか」を問われ、リップシュタット盟約への参加と私兵の供出を強い口調で迫られることになった。

 

「私が兵を率いて奸臣を討つべく前線へ赴くことは承知しよう。しかしその間、我が領地を叛徒の魔手からお守りくださるのか」

 そう答え、また尋ねた諸侯もあったと言う。

「卿の財産に過ぎぬ領地と帝室への忠誠、どちらが大事なのだ!」

 それらの諸侯にはヒルデスハイム伯爵あるいはフレーゲル男爵からこのような問いと罵声を浴びせられた。

 

 ハーン星系でも、ヴィーレンシュテイン星系でもこのような会話が複数回発生した。

 もしローエングラム侯ラインハルトやリヒテンラーデ公クラウスが聞けば失笑しただろう。

 そしてこの会話を伝え聞くことになった帝国騎士アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト上級大将は失笑さえできなかった。

 

 ヒルデスハイム伯爵やフレーゲル男爵が辺境貴族に対して浴びせた言葉はそのまま「正義派諸侯軍」を構成する有力諸侯に跳ね返る。

 仮にローエングラム侯の軍がリップシュタット盟約参加者の領地を平定しようとするとき、「正義派諸侯軍」は動揺することなく、あたかも国民国家の軍隊のように動くことが出来るだろうか。

 すなわち、「正義派諸侯軍」を構成する諸侯は自身の領地を脅かされたときに自領を守るために陣営を離脱することなく、一丸となってローエングラム侯との決戦に備えることが出来るだろうか。

 出来るわけがない。

 歴史を振り返れば強力な中央集権体制を持つ国民国家でさえも、たとえば一方面で領土を外敵に占領されたときに、より重要な戦線に戦力集中を続けることは難しい。

 まして、封建国家もどきの集団であるリップシュタット貴族連合の軍隊、すなわち「正義派諸侯軍」にそれが出来るはずもない。

 それを懸念したからこそ先だってファーレンハイトはヒルデスハイム伯爵とフレーゲル男爵に対して通信を行い注意を喚起したのだが、彼らの理解は表層的なものに留まっていることがこれで知れる。

 さて今、オーディンに留まっているリップシュタット連合貴族の帝都別宅をもう一度巡って似たような会話を行い注意喚起することはできる。だが返される言葉も容易に予想できる。

 結局のところ、有力な諸侯となって幾代を経ている大貴族たちには自分の頭脳で「困難」と言うものを分析する基礎的な能力が欠けている。

 彼らは当然のごとく、たとえばフレーゲル男爵やヒルデスハイム伯爵が先日返したのと同じような言葉を返すだろう。

 あるいは大略同じ内容を喚きたてながらグラスを床に叩きつけるものもあるだろう。

 ファーレンハイトは試してみることさえしなかった。

 この寄せ集めの軍隊に自らヒビを入れては、稼げなくなってしまう。

 

 しかしながら、ヒルデスハイム伯爵やフレーゲル男爵がアムリッツァ方面諸侯に浴びせた言葉は本人たちが意識していないであろう、ある示唆を含む。

 アムリッツァ辺境諸侯の誰かが発想を転換する可能性が生じた。

 何よりもファーレンハイト自身、それを耳にして新たな発想を得た。

 ただし「新発想」をアムリッツァ辺境諸侯に唆すことには、慎重を要する。

 

「……まだ内戦は始まっていない。今のところは同じ帝国軍人として、対話することになんら問題はない」

 そう呟いたファーレンハイトは自らの記憶から情報を探し、一人の将官の名前を拾い上げた。

 ウルリッヒ・ケスラー。いま現在はローエングラム元帥府の一員であるが、それまではあちらこちらの方面で辺境勤務をしていたはずだ。

 ヴィジホンを用いて短い会話を行い、アムリッツァ方面の辺境諸侯の幾人かについてケスラーによる評を得ることが出来た。

 ケスラーの答えは否定的だった。

 曰く、アムリッツァ方面の辺境諸侯の多くは領地と領民に対する愛着や責任感が強く、ブラウンシュバイク公が目論んでいるような軽挙に組するとは思われない。

 それはファーレンハイトが欲していた情報であった。

「卿、考え直さないか。卿の能力を軽んじるわけではないが、卿には勝ち目は無いぞ」

 通信を切ろうとしたファーレンハイトにケスラーはそう言葉を掛けた。

「何のことか判らんな。共に帝国軍の一員、皇帝陛下の武器ではないか」

 会話はそのように打ち切られた。

 次に両者が話を交わすのはかなり先のことである。

 

 さて、すでに述べたように辺境の弱小貴族たちはアムリッツァ方面軍が駐留している2つの星系、アムリッツァからわずか3日の距離にあるボーデン星系やフォルゲン星系にまで使者を送りあるいは自ら赴いた。

 アムリッツァ方面軍司令官たるジーグフリード・キルヒアイス大将や副司令官オスカー・フォン・ロイエンタール中将との面談を望んでのことである。

 彼らにしてみれば勝手知ったる航路である。

 また、別件も同時進行していた。

 先日決定された捕虜交換のために両星系には多くの輸送船が集っている。200万人をイゼルローンへ送り届け200万人をイゼルローンから連れ帰るという輸送はアムリッツァ方面軍の輸送能力だけでは足りず、辺境諸侯はその乏しい輸送力を提供することで臨時収入を得ている。

 使者を送ること、あるいは領主自らボーデン、フォルゲンに赴くことはこの場合さほど目を引くことでもなかったはずだが、その後の情勢への影響の大きさから多くの歴史家が個別の辺境諸侯の当主と使者の行動記録を仔細に調査している。

 

 これに対してキルヒアイス大将、ロイエンタール中将はフレーゲル男爵やヒルデスハイム伯爵のように粗雑な言葉で即答することはしなかった。

 

 純軍事的に合理的な行動方針はすでに明らかであったためである。

 同盟軍が動くよりも早くフォルゲンとボーデンから撤収してハーンとヴィーレンシュテインに配置されている貴族軍を打破し、さらに後退する。

 この後退は同時に、不平貴族(ラインハルト命名:賊軍)の領地への前進でもある。賊軍の富の源泉そのものを脅かす。

 これにより賊軍にヒビをいれる。

 

 もちろん辺境諸侯とその領民を見捨てるわけではない。

 アムリッツァ方面軍の輸送力、捕虜交換のために今イゼルローン回廊へと集っている船舶、そして辺境諸侯の保有する艦船を用いれば避難は十分に可能である。もちろんあまり時間的な猶予は無い。

 と、作戦構想の一部を明かすことになった。

 当然ながら、今フォルゲン星系やボーデン星系に陳情に来ている辺境諸侯やその使者たちに作戦構想を明かすことは、彼らや彼らを監視するものを通して賊軍へとこちらの作戦構想を明かすことになる。

 

 これについてはすでにラインハルトの元帥府で分析がなされ、伝達もなされていた。

 シンプルに要約できる。

 賊軍にこちらの作戦構想を明かしても実害は無い。

 賊軍がアムリッツァ方面軍の行動を阻むにはハーンとヴィーレンシュテインに配置されている私兵を使うしかないが、これはすでに仔細に観察しその能力を分析してある。

 軍事行動に「確実」と言う言葉が使える珍しい事例である。

 要するに勝てる。

 

 ただし、ラインハルトから伝達された作戦構想、アムリッツァに程近い諸侯領から領主領民を避難させるという方針にはアムリッツァ方面軍の主な将帥から批判的な意見も聞かれた。

 方面軍の主な将帥は辺境の民衆の暮らし向きをある程度知っていたからでもある。

 聞けば元帥府でもウルリッヒ・ケスラー少将が批判的な意見を示したと言う。

 入植や再入植から年数が浅いせいなのか、それとも単に弱小な領地であるためか、この方面の領主たちは領民や領地への愛着が強いものがかなり見られるのだ。

 彼らをして領地からの避難に踏み切らせるには「対処不能な脅威」が必要であろう。

 さて、このところの同盟軍の動向を伝え聞くに、仮に同盟軍がアムリッツァ方面軍の行動を妨害するとしてもその規模は決して対処不能なものではない。

 これに対して住民の避難を伴う撤退と言う対応を採るのは、賊軍への対応を優先するためである。

 

 だが、リップシュタット盟約への参加と言う軽挙を避けたアムリッツァ方面の弱小諸侯にとっては「何があろうとあなた方の領地は帝国軍が守ります」以外の回答は受け入れがたい。

 大きいものでも領地人口数百万でしかない弱小貴族といえども、その領地は自らの先祖が開拓者として乗り込みバクテリアと苔を蒔くことから始めて土と水を整えてきたまさに自ら開いた領地なのだ。

「いずれ確実に奪還する。それまで避難していただきたい」と言うキルヒアイスやロイエンタールの説得を受け入れる辺境諸侯はごく少数であった。

 リップシュタット盟約から勧誘されさえしないほどの弱小貴族であってもその領地、その領民はゲームの駒ではない。

 中央の都合に翻弄されて良いはずがない。

「そもそも、奪還したときに代々苦労してテラフォーミングしてきた惑星が焼かれていないと誰が保障するのか」

 この問いをキルヒアイス大将にぶつけた領主あるいは使者は複数あったとされるが、その名前は歴史書によって食い違う。

 後に生じた事実に基づいて歴史作家が作ったエピソードと言う説さえある。

 

 しかし、明瞭な事実もある。

 辺境諸侯とアムリッツァ方面軍の将帥との間でこのような問答が行われた事実は、帝国の為政者たちの長年の検討と懸念「辺境に防衛のための常備軍を配置することは、辺境に独立勢力の発生を招く」が正しいことを示す。

 また、ヒルデスハイム伯爵やフレーゲル男爵が辺境諸侯に浴びせた言葉は別の事実を言い当てていた。そのことにヒルデスハイムもフレーゲルも気づくことはなかったが。

 

 

 さて1月の半ば、このような会話が帝都オーディンとボーデン星系の間に設定された秘匿回線を通じて交わされたと史書の多くは記している。

「確かに諸侯の方々のおっしゃるとおりで、たとえ一時的であろうとも、またいかに小規模な領地といえども、同盟軍の手に帝国領を渡してよいはずがありません」

 そうキルヒアイスが作戦方針に異議を唱えたとされている。

「キルヒアイス、お前からリヒテンラーデ公と同じ言葉を聞く事になるとはな。……宰相閣下にも申し上げたが、現実問題として同盟軍に備えつつ内戦を早期終結させることは困難だ。不可能ではないが、繰り返しになるが内戦が長引く」

 ラインハルトらしくもない「くどい」表現は、彼も内心では辺境の弱小諸侯の心中に同意していたためかもしれない。

「たぶん宰相閣下も同じ結論は出されているのでしょう。その上でラインハルトさまやメルカッツ閣下に『辺境の一時放棄はやむを得ない』と文書に残る形で言わせたいのだろうと思います」

「まさにそのとおりだ。だからまだ、メルカッツ閣下も俺も、宰相閣下に対し正式な結論を告げていない」

 

 この時期の宰相府の記録は後に述べる理由で散逸したものが多く、ラインハルトが日記に記したとされるこの言葉が正しいのかどうかはいまだ明らかでない。

 そもそも記憶力に優れたラインハルトが日記をつける習慣を持っていたのかどうかさえ歴史家の間では疑問視する声がある。

 仮に本人の筆によるものだとしても、これは日記ではなく回顧録ではないかと言う声である。

 

 ともあれ史書の記述に戻ろう。

 

「告げるべきではありません。ラインハルトさま、諸侯とその領民が代々開拓してきた成果たる惑星の数々を、一時的といえども同盟の手に委ねて良いのですか?」

 静かにキルヒアイスは尋ねた。

「……いずれ取り戻して後……」

 いったん言葉を切ったラインハルトは画面を介して赤毛の親友と視線を用いて会話し、いくつかの言葉を省くことにした。

「辺境領地の統治に著しい困難を来すだろうな。『帝国政府は我々を守ってくれなかった』と言う不信感を多くの辺境諸侯とその領民に植え付けてしまうことになる」

 両者の間にはある合意事項があり、「内戦終結後にはラインハルトが帝国の統治者の座に就く」と言う言葉も、また「現在の有力諸侯のほとんどを滅ぼした後の統治を考えねばならない」と言う言葉も省くことが出来た。

 キルヒアイスはただ「はい」とだけ答えた。

「うむ、宰相閣下の主張が正しいな。軍隊は政治に従うべしと言うのは、いつの時代も正しい」

 続けて発せられたラインハルトの言葉にキルヒアイスはうなずいた。

「わかった、キルヒアイス。軍は政府に、宰相閣下の主張に従う。同盟軍を撃退して帝国領土を守りぬく。それによって消耗した方面軍を用いて、さらに賊軍の領地を平定する。たいへんな負担を掛けるが、やりとおしてもらう」

 ラインハルトの脳裏では一瞬のうちに答えが出ていた。

 同盟軍が介入してくるとして投入可能な兵力と、その運用方針。一方で彼と赤毛の親友が動かせる兵力。

 そしてアムリッツァ方面軍が被る損害。

 いずれも軍事的には不合理だが、内戦終結後のことを考えるならば許容されねばならないことだとラインハルトは結論した。

「困難は伴いますが、十分に可能と考えます」

 キルヒアイスは自らの主張には困難と犠牲が伴うことを認めた。

「判った、頼む。直接合流させるのは間に合わないかもしれないが、シュタインメッツを賊軍領地平定に充てる」

「ありがたい増援です」

「うむ、頼む」

 

 これが、両者の交わした最後の会話になった。日記あるいは回顧録のこのページにはそう記されている。

 

 ある歴史家の言葉を借りれば、短く要約することが出来る。

「ラインハルトの決断は、アムリッツァ方面軍を救うには数日だけ遅かった」

 

 実際には何日遅かったのかどうかは諸説あって明らかではない。

 ともあれこの決断によってキルヒアイスは詰め掛けていた弱小諸侯やその使者に対して「帝国軍は何があろうとも皆さんと皆さんの領地と領民を守ります」と断言することが出来た。

 だが、すでに弱小諸侯の一部は発想を転換し、取り返しの付かない行動を開始していた。

 この動きにキルヒアイス以下アムリッツァ方面軍の将帥も幕僚たちも、また捕虜交換のために中央から派遣されてきた軍官僚たちも気づかなかったのは無理もないだろう。

 アムリッツァ方面の弱小諸侯たちは前年5月にイゼルローン要塞が奪取されて以来、ずっとある問いについてひそかに考えてきた。

 年が明けてからはある方向へと唆すものもあったとされるが今のところ判然としない。

 さて同盟軍捕虜200万人をイゼルローン要塞に送り込み、帝国軍捕虜200万人をイゼルローン要塞から連れて帰るというのは一大事業である。

 膨大な航路管制業務の最中、大河の中の数滴の変色に気づかなかったのは彼らの責任ではあるが、人間の能力には限度がある。

 

 それはイゼルローン回廊を隔てた反対側でも同様であった。

 

 この人員輸送の最中に、何人かの弱小諸侯の家臣がイゼルローン要塞の中でそれぞれ数分だけ所在不明になった事実は歴史的に有名である。

 しかし、その誰が通信文をイゼルローン駐留艦隊(同盟軍宇宙艦隊第9艦隊)司令官たるアル=サレム中将に届かせたのかは未だに明らかになっていない。

 

 この件に帝国騎士アーダルベルト・フォン・ファーレンハイトがなんらかの形で関わっている説には根強い人気があるが、いまのところこの説は伝説から一歩も出ない。

 

 

 はっきりしていることは、その通信文は自由惑星同盟の首都星ハイネセンにまで届いたこと。

 そして同盟政府は異例とも言える早さで命令を出したことである。

 この時期は同盟にとって統一選挙期間であり、命令の遂行中に政権が交代することもありえたが、確かにその命令は出された。

 

 この有名な命令を以下に記す。暗号指定等のヘッダは省く。

 

----自由惑星同盟軍作戦命令----

発令者:最高評議会議長(ロイヤル・サンフォード)

受令者:同盟軍宇宙艦隊第5艦隊司令官(ビュコック中将)

    同盟軍宇宙艦隊第8艦隊司令官(アップルトン中将)

1.第5艦隊と第8艦隊はローテーションを繰上げ、前線へ進出。

2.詳細は封緘命令による。

3.開封要件は第10艦隊および第12艦隊との合流。




 原作でもリップシュタット盟約への署名がなされてから不平貴族が決起するまで少なくとも1ヶ月あったことが描かれています。
本作では原作とはいくらか事情が違うのですが、この第5話ではその間におきたあれこれを描いてみました。

 ラインハルトがヒルダに「いずれ食事でもご一緒しよう」と言う台詞は原作にもありますが、最初の会食がいつごろだったか、またどんなものだったかは原作でもOVAでも描かれていません。
 この二次創作はなんとなく殺伐とした感じがある気がしたので、作中の空気を和ませるために会食を描いてみました。

おまけ:6年前にプロットを書いた際の検討事項を一部紹介します

Q:フリカッセは宇宙暦8世紀末、帝国暦5世紀末にも家庭料理だろうか?
A:その時代まで伝わっていることは原作の記述に明らか。ラインハルトのお気に入り料理なのだから、高級料理に分類されてはいないだろう
Q:フリカッセはその時代でも多種多様だろうか?
A:明治時代の日本人が「日本で言えば雑煮みたいなもの」とか「洋風雑煮」と評したほどの多様性は、失わせることが困難だろう
Q:帝国と同盟ではフリカッセの多様性に違いがあるだろうか?
A:そういう噂はあってもおかしくない
Q:レストラン「ポンメルン」はどんな店だろうか?
A:フリカッセを客に供し、またラインハルトのお気に入りの店なのだから大衆食堂に類する店だろう
Q:宇宙暦8世紀末、帝国暦5世紀末の銀河帝国首都星オーディンに大衆食堂なんてものがあるだろうか?
A:たぶん大衆食堂は人類社会から不滅である
Q:そんな店を貴族令嬢との最初の会食に選ぶ人間が居るだろうか?
A:居ないと思うが、しかし「ヒルダとの会食のために高級料理店を予約するラインハルト」と言うものを描く能力がない


帝国政府(リヒテンラーデやラインハルト)のやりとりをいくらか描いてみたかったのですが、ここは話を進めることを優先しました。
それらについてはいずれ振り返る形で描くつもりです。

同盟政府の決断については次回更新で描きます。



数行おいてネタバレ








ネタバレ:第1章第7話 マネージャー (1)のラスト数行がこの回のラストへの伏線です。
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