――光陰矢の如し。
既にマサキとの会話から六日。……約束の日まで残す所後一日になった。
現在俺は自室にて、持って行く荷物の整理をしている。
念には念をである。
……半年間で三地方を巡る、今回の研究遠征と見せかけたポケモン預かりシステムの配達。
そのため、配達という仕事を任されていながらも、旅での最大の楽しみは、まだ直接見た事の無いポケモンに会えるという事。
出来れば何匹か捕まえたいと思う。
ただ心残りが一つ。
ナツメちゃんとの約束。
残念な事に彼女の旅は結構掛かるようで。
行く前に顔を合わせたかったのが本当に心残りだった。
なんだか、また会おうってだけの約束を五年も覚えているのが恥ずかしいと少々思うが、彼女との約束は守る。
ロリコンと言った変態的な趣味は持ち合わせていないが……あの頃のエスパー少女ナツメは可愛かった。
なんだかあんな小さい子相手にこんな事を思うのはどうにもおかしな話だけど……ちょっとだけ惹かれたのだ。
超能力に悩み周りの評価を気にするも、泣くまで頑張っていた彼女に。
慰めるためとはいえ、ナツメちゃんに家に上げてもらい“トキワの能力”を見せて、凄い凄い、と笑ってくれた時の笑顔。
他には、うっかりしていらない事を考えていたのが彼女に伝わった時の彼女の照れた顔とか。
そんな様子が可愛らしいとあの時は感じていた。
子供の時の記憶は長期記憶として残るとも聞くが、どうにもそんな感じでは無い。
そう、最近までは大人心の子供心と言う奴かと思っていた所だが……どうにも違うような気がしてきたのだ。
それは彼女に会えなくて気分が沈んだ日から。
あの時から、何か自分の中で違うなと感じた。
精神年齢が身体に引きずられる……とは良く言ったものだが、確かにそうかも知れない。
そう考えないと自分の気持ちに説明がつかない。
……恥ずかしくなってきたのでこの事を考えるのは止めにしよう。
ミュウ辺りに気取られそうだから。
〈呼んだ?〉
呼んでないよ。
ミュウ、心読まないで。お願い。
〈分かったー〉
……ふぅ。
思考を止め、作業を続ける。
明日から数日船の上。
此処へ帰ってくるのは半年後。
幼い……四歳頃の普通の子供だった自分が残した壁の落書きを見てほんの少し。
……ほんの少しだけ寂しくなった。
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翌日。
玄関でお母さんと妹に別れを言い、お父さんのピジョットに乗ってクチバの乗船場に来た。
既に行く人間の何人かは来ていてお父さんと研究室のバカ共が顔合わせ。
あいつら父さんの前で良い顔しやがって……絶対また着せ替え人形にされる。
現にあそこで頭下げてる女研究員。アイツ二日は同じ服着てるような奴なのになんでそんなに鞄沢山持ってんのさ。
……絶対あの中身俺に着させようと持ってきた服だ。
あーやだやだ。行きたくなくなってきた。
でもホウエンやシンオウのポケモンに会いに行きたいので我慢する。
「息子の事、よろしくお願いします…」
「いえいえ、そんなこちらこそ。室長のおかげで研究はかどってますから」
うまい事言ってるけど。
……絶対「おかげ」の所に何か含みを入れてるだろ。
しかし、気にしても仕方が無い。
もうちょっと時間掛かりそうなのでボール買いに行く。
フレンドリィショップに入ってボールを十個買ってプレミアボール一個オマケで貰う。
ちなみにトレーナーカードは十歳になったので、一応発行して貰えゲームでの価格になっている。
で、おじいちゃんが作ってくれた銀行口座に入るお金を下ろして、現在の所持金は14000円。
今の所手持ちのバックには30個くらいモンスターボールあるので6000円は消費した。
よくよく考えると、お嬢様やジェントルマンと言ったお金持ちの方とバトルする機会なんて、ゲームみたく無いからかなりの出費だ。
お小遣いが湯水のように消えていく……。
内心泣きながら、小石サイズののモンスターボールを鞄に流し込んで貰って店を出た。
「うぅ……入るんじゃなかった」
「まったく……――はおバカです。気になったから入ってみようだなんて…」
「だってホントにクチバまで繋がってるか気になったんだもん……」
ディグダの洞窟から誰か出てきたようだ。
遠目ではどんな人物なのかは良く分からないが、どっちとも女性。
こちらの方に近づいて来る一人は動きやすいハーフパンツ姿。一人は少々動き辛そうなロングスカート姿だ。
ロングスカートの短い女の子には見覚えが無い。
だけどもハーフパンツの長い髪の女の子に少しだけ見覚えがあった。
「……いやいや、まさか」
だけども有りえないと判断して思考を止める。
「……ごめんねエリカ。ニビの博物館行けなくて…」
「まったくです。早くポケセン行ってシャワー浴びに行きましょう」
「……わかった」
二人組はこっちに向かって来ている。
どうやら髪の短いほうがエリカというらしく。
二人共服も髪も土で汚れている。
エリカと言う方と揉めている髪の長い彼女。……凹む姿はどうにも記憶に残る彼女で。
「……ナツメちゃん?」
「……?」
「……え…」
頬を土で汚し、あまりにも似ていたその彼女にナツメちゃんを重ねてしまい、つい呼んでしまった。
違う違う。
幾ら彼女が旅をしているからって……会うわけがない。
「あ、いや……ごめんなさい、人違いだったみた「トウカ君!?」……い…」
さっさと謝って船に戻ろう…………そう思っていた。
しかし呼ばれたのは初対面では知らぬはずの我が名前。
兎にも角にも、喜ぶべきは彼女か俺か。
長年の約束は思わぬ形で相成った。
不出来な……そんな気が。
もうちょっと感動的な再会にしてあげたかった。
技量不足が恨めしい。
ご不満の場合は脳内補完でお願いします。