矛盾が起きていた具体的な年齢の変更
「えっと、よろしいですか?」
ビクッと身体が反応したのは少し大人びてきたナツメちゃんの隣に居る人からの声。
お上品な空気が漂う彼女はエリカと言うらしいが。
「もしかしなくとも……君がトウカ君でしょうか」
「え、はい…」
「ふーん……なるほど」
おそらくこの彼女は将来タマムシのジムリーダーになるお方。
聞かれて答えたのはいいけど……微妙な空気だ。
「……よし。ナツメ、私は先にポケモンセンターに行くから。ずっと待ってた人と話してきなさい」
「は?」
「ちょ、ちょっとまっ――エリカ!?」
スタリスタリとナツメちゃんから離れながら彼女は言う。
そして彼女はすれ違いざまに俺に言った。
「――ナツメはずっと待っていたんですよ。……言わずとも分かってますよね」
最後の底冷えするようなそんな声。
あ、あれ? この人ってこんな方だったっけ…?
泣かしたり悲しませたりしちゃいけないのは分かってはいるけど……タマムシジムリーダー怖い。
ただ話を聞く限り約束はちゃんと覚えてくれていたようで。
「ナツメちゃん」
「ひゃいっ!」
舌噛んでる。
それに顔真っ赤だ。
「んっ…ちょっとしか時間無いけど。……この後時間とれる?」
「う、うん…」
よし、少しあの人達と相談だ。
出港時間を延ばして貰おう。
「じゃ、後でポケモンセンターに行くから。……身体流しておいでよ」
「あ……そうだった……」
先程より凹むナツメちゃん。
髪はバサついて顔は土で汚れてる。
服も所々汚れてるし。
まぁ、誰かの前に出てくるような格好じゃない。
「それじゃ、また後で」
「うん……また後で」
終始顔を紅かったナツメちゃんと別れて、俺は乗船場に走って行った。
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船長さんに事情を説明し、なんとか遅らせてもらえる事に。
アイツ等とお父さんには訝しげな表情されたけど。
そしてクチバのポケモンセンター、エントランスのソファーで待つ事20分。
ナツメちゃんちょっぴり遅い。
「ん……」
時計を見ながら待っていると、エレベーターから一人降りて来る。
長い髪をポニーテールにしている女の子。
服装はハーフパンツからスカートに変わってる。
ナツメちゃんだ。
こっちに気づいて気恥ずかしそうに近づいてくる。
「えっと。ごめんね、待たせちゃった…」
「気にして無いよ。それにそれだけ身だしなみに気を使ってくれたって事じゃないの?」
「……うん」
俺は首を振って先程まで考えていた事を否定する。
待っていたのは確かだけど彼女を姿を見てそんな事一気に吹っ飛んだ。
「なら気にしなくても大丈夫だって、ね?」
「……ホント?」
「うん、ホントに」
「よかったぁ…」
さっきまでがクールな印象なら今は年頃の女の子って格好。
よく似合っている上に、表情豊かな彼女はとっても可愛らしい。
「時間もそんなに無いし……外に出て少し話そう?」
「うん、わかった」
そしてカタカタと腰のボールが揺れるのを無視して、ナツメちゃんを連れ立ってポケセンを出た。
ナツメちゃんに強請られ、今までして来た事を話しているとクチバ郊外の湖に着いた。
話した内容と言えば、ポケモンの復元に付き合った事だとかカツラさんと試合をした事とか。
他にはピカチュウを捕まえた話、ロコンとガーディを捕まえた話といったかなり前の話も。
そして今は湖の縁に座り、話していた。
「……それで俺は大学を卒業して一応トレーナーになれる歳になったんだけど…」
「え、そうなの!?」
「だって今ナツメちゃん13歳くらいでしょ?」
「うん、今年で13。そういえば二歳年下だったねトウカ君」
「忘れて貰っちゃ困るぜお嬢さん」
「ふふふ、似合ってないよー?」
「うん、自分でも思った。……あ、ナツメちゃんの話聞かせて貰っても良い?」
話しているうちに段々とナツメちゃんの緊張も解れてきたのか、笑顔が目立つようになった。
そして、そんな彼女が眩しいくらいに可愛いと思ってしまう。
彼女が話すのは俺がナツメちゃんと別れてからの話。
まず彼女は一年で超能力を制御出来るようになったらしい。
それから友達を作ろうとしたが、どうにも出来ず。
スクールの3年生からエリカというお嬢様の友達が出来た。
そのエリカさんとお泊り会した話、一緒にお昼ご飯を食べる時の話、と何処か寂しそうに話していた。
「それでね、私ちょっと前から旅を始めたんだ。エリカちゃんと一緒に」
「うん」
「それでヤマブキからシオンタウンに行って、そこからセキチクまで行って……」
「……」
「私、ポケモンセンターで、トウカ君が私の家に来たって、聞いて……約束を守りに来たって……」
「そうだよ。覚えてたから…」
段々と声が途切れ途切れになる。
「嬉しくて……覚えててくれたって。私、待ってた、から……」
「うん……会いにいけなくてごめん」
ナツメちゃんは泣いていた。
何故かは心を読まない限り分からないと思う。
でも確かな事は一つだけ分かっていた。
ただ漠然と会いたかった自分と、彼女は違う事。
彼女は本当に自分に会いたかったんだ……。
「私ね、トウカ君とね、一緒に、一緒に学校へ行きたかった」
「うん」
「……だからちゃんと、訓練、したん、だよ? ……トウカ君の事、好き……だから」
「うん…」
「それ、から……友達が出来たんだよ、って一番に、トウカ君に教え、たかった。一緒に勉強もした、かった」
「ごめん……」
ボロボロと嗚咽を鳴らし、ナツメちゃんは泣く。
……やはりこの感情は違うようだと改めて思った。
大人目線からみた父性からくるモノでなく。
ただただ彼女の事が好きだと言う事に気がついた。
阿保らしい。
一々理由付けて会いに行かなかった事が。
殴りたい。
言い訳して誤魔化していた、情けなくてどうしようも無い自分を。
だからせめて、今からでも筋を通さなければいけない。
――いや通したい。
「……ナツメちゃん」
「なに?」
ポツリポツリと涙を流す彼女の顔をこちらに向け言う。
「約束したこと覚えてる?」
「会えなかったら、遊べなかったら…言う事を、聞く? ……でもなんで…」
そう、あの指きり。
なんだか矛盾したあの約束。
「うん。だから……今日“会えなかった”し“遊べなかった”」
「え……」
「だから一つ言う事聞いて?」
「う、うん…?」
少し深呼吸。
トウカ11歳、これから男になるのだ。
顔は耳まで真っ赤になってるだろう。
「俺と――」
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「行ってきまーすっ!」
「気を付けろよーっ!」
船の手すりから身を乗り出し、離れていく陸地にいる我が父に手を振る。
「元気で――ッ! 私! 待ってるからぁッ!」
声のする方向は父の隣。
彼女、ナツメにも見えなくなるまで手を振り続ける。
俺の言った内容は二人の秘密。
彼女がした俺への要求は図らずとも俺と同じで。
ただ一つ。
また約束した。
今度は期限付きで、果たされるのは半年後――1996年の秋。
光陰は矢の如く。
過ぎるか否かは俺達次第と言っておこう。
凄いだろ。この二人、十一歳と十三歳なんだぜ(タッチ風に。
一章とも言うべきカントー地方・幼年期が終わりました。
次回からホウエン編。
図らずもゲームの出た順番(ホウエン→シンオウ→イッシュ)で話を進めていきます。
それでは。