:6月4日
私はシンオウ地方の神話を研究する変わり者。……そして恥ずかしながらシンオウリーグ現チャンピオン。
私は別にポケモンが好きなだけなのに……何故に。
研究の方が忙しくてリーグの方はお休み中。
……決してオーバの視線がいやらしいから嫌だとか、チャンピオンがいやだからって理由で逃げ出してるわけでは無い。これ本当。
うん、駄々捏ねてるわけじゃないのよ?
これ以上は墓穴を掘りそうなので書かないでおこう。
今日はナナカマド博士に呼び出された。
恩師であり私に考古学者としての道を勧めてくれた人。
あぁ、ポケモン図鑑を持たせて旅にだしてくれた人でもある。
その先生が言うには『こちらに向かっている少年を迎えに行ってくれ』との事。
どうやらキッサキからミオに行く途中の船から落ちたらしくて、それの捜索に私を駆りだそうとしたみたい。
……でも、私にリオルを渡してくれた波導使いのゲン師匠から、『新しく弟子を雇った。まだ年端の行かない少年』と波導で伝わってきたからきっと大丈夫と判断して待つ事にした。
その子と会ったのは師匠から聞いて二時間くらいしたあと。
研究員二人に手を引かれてやってきた。
彼等の方を向いていない私は、彼から私以上の『気』を感じた。
それなりに才能がある、と言われた私でも師匠には遠く及ばない。
だから私は師匠から教えて貰った通称『波紋呼吸法』も利用して使っているわけだけど。
……彼からは師匠に匹敵するほど感じた。
あぁ、これが天才なのか、と思ったくらい。
どうやら既に扱えているような節が見えるし。
コレは波導のスペシャリストのルカリオにも匹敵するんじゃ無いか、と思った。
現にゲン師匠に貰った波導を感知する髪飾りが震えていたし。
……現にゲン……うん。
それで、その彼の顔が気になって振り向いて見れば、本当に子供の男の子。
笑えばきっと花が綻んだように笑う顔が目に浮かぶ。
でも疲れた顔をしていた。
まぁ、それも当たり前か。
なんせ海に落ちるような事になって鋼鉄島まで行ったんだろうし。
……なんだか彼の顔を見てたらキュンと来てしまった。
なんで、と考えて顔が火照る前に挨拶をして誤魔化す。
あー、絶対この子気づいてるなぁ、と思いながらポーカーフェイスに勤めた。
途中、巧妙に隠しているだろう彼の感情が流れ込んできてビックリしたけど。
ナツメちゃん。
好きな人居るんだねぇ、と感心する自分とちょっと切なくなる自分が居た。
なんだかビクビクしてて可愛い。
ちょっと演技を交えつつ心配してみた。
……なんだか血を吐いたみたいにして倒れた。
どうしよう。私、そんな悪い事したかな。
演技なんてして心配したからいけなかったんだ、と二度と人を心配する時は演技なんてしない事を決めた。
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ナナカマド博士の研究所。その休憩室。
日記を書き、考え事をしつつトウカ君が心配で手を握っていた。
こんな風に誰かを心配して手を握ってるなんてちょっと考え付かない。
……なんだろう、これ。
なんだろう、この気持ちは。
安心して、なんだか胸が暖かくなって。
でもこの子に好きな人が居るって思ったら切なくなって。
恋……というのだっけ?
でも、こんな年端も行かない子に抱くようなもの?
違う、と頭を振ってありえない感情を振り払う。
寝息を立てて眠るトウカ君。
波導使いとしては、兄弟子だなんて名乗れ無いような才能の差。
研究者としてもおそらく先生には及ばないまでも、既に大成している。
……これで恐らくはトレーナーとしても上……かもしれない。
普通なら既に私は嫉妬してる。
彼の非凡な才能に。
でも……なんだろう。
凄く、頼りになるって思うのは。
安心して彼に甘えられそう……って…!
頭を掻き毟りそうになったのを、溜め息をついて荒れてきた心を落ち着かせる。
「……なにやってんだか」
誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「――っ!?」
トウカ君の身体がびくりと緊張する。
吃驚してどんな夢を見ているのだろう、と抵抗力の弱い寝ている今。彼の夢を覗いたのが間違いだった。
迫る変態の大群。
鳥肌がたち、彼の夢を見る事を止めた。
「ああ! ……窓に! 窓に!」
「ひぃっ!?」
うわ言に言う彼の悲鳴。
恐らく変態が窓に張り付いてて。
……あ、オーバを想像する私は悪い人だ。
私には手を握る事しか出来ない。
手を握って目が醒めるまでその手を握った。
深夜。
彼が目を覚ました。
悪夢の事など覚えて居ない様子。
……こっちは悲鳴で恐ろしい想像が頭にこびりついてて寝れて無いんだけども。
おはよう、と声をかけたら機械のように彼の頭がこちらを向く。
「えっと……なんで手を握って?」
「? 心配だったからだけど?」
いやいや。……誰でも心配する。あんな声上げてたら。
「あ、あの……手どけて貰えますか?」
「……うん?」
「いや、今握ってる俺の左手じゃなくてですね……その下腹部にあるその手を!」
「……」
顔を赤くして言う彼に言われて下腹部を見る。
確かに手を置いて……!
は、はわわわわわ!!
ど、どうしよう! も、もちろん彼も男の子な訳で! 起きたらそれはそれは……!
「シロナさん。いくつか質問に答えてください」
「う、うん……何かな?」
回らない頭で返事する。
「あんた、変態か?」
へ、変態扱い!?
い、いや。た、確かにそう思われても仕方無いけど!
その時天啓が降りた。
回らない頭で思い出すのは父の言葉。
それは私がフカマルにおもちゃをとられた時だった。
お父さんに言われた言葉。
『お父さん! フカマルが私のおもちゃをとって返さないの!』
『そうか。……なら逆に考えるんだ「あげちゃってもいいさ」と』
お父さんの姿が目に浮かんだ。
「――……たとえ変態だとしても、変態と言う名のしゅ「もういいです。警察呼びま」わー! まってぇ!」
思わず彼の口を塞ごうとして押し倒した形になった。
あぁ、この子の事が好きだと。
それから何処か、吹っ切れて認める事が出来るようになってた。
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(日記の続き)
私は今日好きな人が出来た。
それは弟弟子で。
博士号を持ってて。
多分きっと、私よりもポケモンへの愛情が深い子。
……でもその彼には好きな子が居るみたいで。
見しらぬ彼女さん。
私、結構我侭だから。
彼を取られないよう頑張ってね。
:追記
彼が仕事を終わらせれば一緒に神話の研究をする事が決まった。
誰にも分からないように喜んだのは秘密。
……ちょっと罵倒されて気持ち良くなってた私なんて居なかった。
ナツメちゃんかと思った?
残念! シロナさんでしたぁ!
なんだかヒロインよりヒロインしてる。
シンオウのチャンプは化け物か…!
ナツメ愛が枯渇し掛かってます。
誰か絵を描いてくれても良いのよ(チラッ