カける少女の生きる道   作:星村空理

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#07.はぐれ悪魔と、悪魔の駒と…

 

 

「二度と教会に近づいちゃダメよ」

 

家に一旦帰った後にイッセーと一緒にオカ研の部室へ行くと、案の定、イッセーはリアス先輩にそう注意される。

まぁ、仕方があるまい。

教会は悪魔にとっては敵地で、そこに踏み込むだけで問題になってしまう。

今回はアーシアがいい子過ぎただけで、本来なら光の槍が降り注ぐような状況になってもおかしくないのだ。

と言うか、教会関係者に接触してる時点で結構アウトだったりする。戦う力のない人だったら穏便に済ませられるだろうけど、神の祝福を受けて入る悪魔祓い(エクソシスト)だったらリアス先輩たちのような悪魔すら滅ぼせるほどの力をもっているのだから。それがさらに神器所有者だったりしたら目も当てられない。接触するなんてことは自殺するのと同じようなものだ。

そんな感じの説明をリアス先輩がしていて、イッセーは顔を青くしていた。

 

「人間としての生は悪魔への転生で免れるかもしれない。けれど、悪魔祓いを受けた悪魔は完全に消滅する。無に帰すの。何もなく、何も感じず、何も出来ない。それがどれだけのことかあなたはわかる?」

 

ううむ、できたらフォローしようと思ったんだけど、残念ながらシスターと知ってて接触したイッセーにも非があるし、部外者の私が出ても効果はないようだから全く出来そうにないなぁ……

そもそも、この説教私にはこれっぽっちも関係ないから話に入れないし。

 

「……ごめんなさい、少々熱くなりすぎたわ。とにかく、今後は気をつけてちょうだい」

 

「はい」

 

これで説教は終わりのようである。

リアス先輩も心配してのことなのはイッセーも重々承知のようだった。

目でごめんねと謝っておくと、気にするな、と返された。

 

「……まぁ、とは言ってもあそこに入ったところで、戦闘になっても戦争にはならないんだけどねぇ……」

 

「……どういうことかしら?」

 

ありゃ、口に出てたか。

たまにやらかすけど悪い癖だよなぁ……どうすれば治せるんだろ?

まぁしょうがない。適当に正論を言って誤魔化すとするか。

と、思ったけれど、どうやらその必要はなさそうだ。

 

「部長」

 

朱乃先輩が私たちの背後から声をかけてくる。

まぁ、要件は例のアレだろう。

イッセーのフォローも目的ではあったけど、コレに参加しておくのも目的としてあったから、要件は分かっている。

 

「朱乃、どうかしたの?」

 

「大公から、討伐の依頼が届きました」

 

さて、また仕込みの時間ですよっと。

 

 

+++

 

 

side:イッセー

 

 

『リアス・グレモリーの活動領域内にはぐれ悪魔が逃げ込んだため、始末してほしい』

 

それが、大公からの依頼だった。

はぐれ悪魔

主を裏切る、あるいは殺して主なしとなった悪魔を指す。

そいつらは、強大な悪魔の力を自分のために振るい、各地で大暴れしているらしい。

はぐれ悪魔は見つけ次第、主人か他の悪魔、場合によっては天使、堕天使によって殺される。制約を逃れ、野に放たれた悪魔ほど、怖いものはないからだそうだ。

実際、はぐれ悪魔による被害は、どの勢力であっても無視できないものらしい。

 

「でも、全部のはぐれ悪魔が悪で、滅ぶべきだとは思わない方がいいよ」

 

「……なんでだ?」

 

部長がはぐれ悪魔について説明すると、クゥが口を挟んで来た。

現在俺は、オカルト研究部の面々にクゥを加えた6人で、町外れの廃屋に向かっている。

そこで毎晩、はぐれ悪魔が人を攫い、喰らっているらしい。

それを討伐するよう、上級悪魔から依頼が届いたとのこと。これも、悪魔のお仕事の一つなんだそうで。

人を喰らう。そんな悪魔もいるのか……

いや、本来ならばそれこそが本当の姿なんだろう。制約が課せられてるからこそ、みんなおとなしくしているんだ。

それはともかくとして、クゥの言葉である。

 

「さっきの説明だと、はぐれ悪魔は絶対悪、とか思われるだろうけど、結局これは人間における犯罪者と同じようなもんなんだよ。人……いやさ悪魔によっては、主人を裏切らざるを得ない事情があったり、主人の方に問題があったりする時もあるんだよ。たしか最近……と言っても数年前だけど、はぐれ悪魔認定が解除された悪魔がいたはずだよ。しかも完全にはぐれ悪魔の方が被害者だったってオチまでついて」

 

「……まじか」

 

「うん。たしか家族に手を出さない代わりに眷属になるとかいう脅し紛いの契約を結んだ上に、契約違反してその家族に手を出そうとしたから殺したんだって。ま、当然だよね。悪魔にとって契約は絶対。契約を履行できない悪魔は死んで然るべきだよ」

 

「お、おう……」

 

クゥさんや、そろそろ勘弁してもらえませんかね?

俺も含めて悪魔全員、ちょっと青くなってるから。

 

「ちなみに、その主人だった悪魔の一族は断絶したらしいよ?原因はわかんないけど風の噂では誰かに殺されたとかなんとか……まぁ、他人の家族に手を出したんだし、当たり前だよね」

 

私も被害者ならそうしてるし。

抑えきれない少量の殺気を零しながら、クゥは満面の笑顔でそう言う。いやうん、分かってる、物凄い怒ってるのはわかるから、その話題はもうやめよう?みんな、凄い微妙な顔してるから。目の前で悪魔に対するシビアな意見されて、みんな居心地悪そうだから……

 

「まぁそんなわけで、イッセーもはぐれ悪魔だからってすぐ殺そうって短絡的なことは考えないように気をつけてね。それと、契約をしたなら必ずそれを履行するように。相手にも履行させるように頑張ってね」

 

「お、おう……」

 

「……一応、弁明させて貰えば、久遠の言ったようなことは極一部で、ほとんどの悪魔はきちんと説得をおこなった上で眷属化を行なっているし、はぐれ悪魔の大半は各地で害をなしていて、害があるからこそこうして討伐依頼が来ているのよ」

 

本当に一応、と言った感じでリアス先輩がそう弁明する。

それを見た久遠は、なにか考えるようにしてから、まぁいっか。と特に何も言わずに話を流した。

……たぶん、反論材料があったけど、悪魔との関係を悪化させるつもりもないし、これ以上なにか言うのはやめておこう、とか思ってるんだろうなぁ……

とりあえず、これ以上この話をしていてもいいことはない。別の話をするべきだ。

 

「そう言えば、はぐれ悪魔退治なんて危ないことについて来てるけど、クゥって戦えるのか?」

 

神器を持っているのは知ってるけど、イコール戦えるというわけではない。しかもクゥは現在、護衛として契約してるって言ってたあの赤い鷹のような鳥、御守を連れていない。

護衛を必要としているってことは、きっと戦えないはずだ。だったら、ほとんど役に立たないだろうけど、俺が守らないとな。

 

「んー、私自身そんなに戦うのは得意じゃないけど、護身程度はできるようにしてるよ。立場上他の勢力の手を借りるわけには行かないからね。それに、いざ戦闘になったら御守にお願いするし」

 

「って言っても、その御守がいないじゃねぇか」

 

「ん?いるよ?みんな気がついてないだけで」

 

「は?」

 

クゥの言葉に、俺は周囲を見渡してしまう。

他のみんなも、言われて御守を探す。

でも、周囲には一切御守の姿はない。

俺たちは悪魔だから、夜目は良く利く。

だから、見逃しはないはずなんだけど……

 

「まぁ、見つかんないのも仕方ないか。火を熾さない限りただの鷹だからねぇあの子」

 

そう零すと、クゥは上に向かっておいで!と言う。

 

「お母様/お呼びになられましたか?」

 

すると、いくらかもしないうちに、赤い鷹のような鳥……御守が空からやって来て、クゥの方に留まった。

 

「そんな……空も確認したのに……」

 

「落ち込むことはないよ。この子、基本的にみんなの知覚外にいようとするから」

 

「我のような鳥はそうはおりませぬ/その上魔力も持っていると言うなら裏の世界関係であると気がつかれるのは必定/お母様が関係者だとバレないよう身を隠すのは当然です」

 

「それはありがたいけど、他人の知覚範囲がわかるって凄いよねぇ……」

 

「予想でしかありませぬ」

 

降りてきた御守を見て、木場が驚いたり落ち込んだりしているが、それよりもまず驚くべきことがあるだろう。

 

「しゃ、喋ってる……!」

 

「まぁ、知能の高い種族だからね。裏の世界では人間以外に喋る種族なんていくらでもいるし、驚くようなことじゃないよ」

 

「それで/お母様/ご用件は」

 

「ん?まぁこの人たちに御守の紹介かな。とりあえず、この子は私の身内だから攻撃したりしないでねって」

 

「左様でございますか」

 

「……お母様?」

 

「ああ、うん。御守って名前は契約した時につけてあげた名前でね?それからお母様って呼んで慕ってくれてるんだ」

 

クゥは、俺や小猫ちゃんの疑問に答えながら、御守の撫でている。御守の方も、なにもすることがないからか、大人しく撫でられていて、気持ちよさそうにしていた。

 

「……みんな、そろそろ警戒してちょうだい」

 

部長がそう言うと、緩みかけた空気が引き締まる。

目の前には、ボロボロで人が住めるようには見えない廃屋。ここが、例の場所なのだろう。

 

「……血の臭い」

 

小猫ちゃんがそう呟き、制服の袖で鼻を覆う。

俺には血の臭いは感じないが、代わりに、周囲に満ちている敵意と殺意ははっきりと感じた。

めちゃくちゃ怖い。足がガクガクいって前に進みたがらない。仲間が居なければ逃げ出してたと思う。

俺がこんなだけど、クゥは大丈夫だろうか?と思って見てみるけど、クゥは敵意も殺意もないも同然といった風に、全く動じていなかった。

俺の視線に気がついたようで、クゥはちらりと俺を見てから、怖くないわけじゃないよ?と言ってきた。いや、そうは見えないんだけど……

 

「イッセー、いい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」

 

突然、部長が無茶振りをしてきた。

 

「マ、マジっすか?俺、戦力になりませんよ?」

 

「そうね、戦闘自体は無理だとわかってるわ。でも、戦闘を見て、空気を感じることはできる。今日は私たちの戦闘をよく見ておきなさい。ついでに、下僕の特性を説明してあげるわ」

 

まぁ、そういうことなら足を引っ張ることもないし大丈夫……かな?

というか

 

「下僕の特性……ですか?」

 

「主人となる悪魔は、下僕となる存在に特性を授けるの。悪魔の歴史については……少しは教えたわよね?」

 

「はい、少しだけですけど聞きました」

 

大昔、悪魔、堕天使、そして天使を率いる神が三つ巴で大きな戦争をしていた。

団軍勢を率い、永久とも思える期間戦争は続き、どの勢力も疲弊し、勝者のないまま数百年前にやっと終結した。

……まぁ、クゥから聞いた話だと、終結の前にドラゴンの喧嘩に巻き込まれ、甚大な被害にあったから三陣営で協力して戦ったりしたこともあったらしいけど。

その上でまだ冷戦状態が続いてるらしいけど。

ともかく、その戦争で悪魔は大きく数を減らし、純粋な悪魔の数はかなり数が亡くなっているらしい。

でも、さっきも言った通りまだ三つの勢力は冷戦状態であり、少しでも隙を見せてしまえば一気に攻撃され、種族が滅んでしまう危険がある。

そのため、上級悪魔が他の種族を悪魔に転生させることで悪魔の数を増やしているのだ。

とりあえず、知っているのはこのくらいだろうか?

 

「さて、他の種族を転生させることによって数を増やしていると説明したわけだけど、数を増やしたところで、強くなければあっさりと死んでしまって転生させた意味がないわ。そこで悪魔は、少数精鋭の制度を取ることにしたの。それが、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』」

 

「悪魔の駒……?」

 

強くなければあっさり死ぬから、意味がない……

俺は、どうなんだろうか……?

ふと、そう思ってしまうが、説明は終わってないから、部長の話に耳を傾ける。

 

「爵位を持った悪魔は、『チェス』の特性を下僕悪魔に取り入れたの。主人となる悪魔……この中では私がそうね……を、『(キング)』として、そこから『女王(クイーン)』、『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士(ポーン)』と5つの特性を作り出したわ。数が減り、軍団が持てなくなった代わりに少数の下僕に強大な力を分け与えることにしたのよ。この制度ができたのはここ数百年前のことだけど、意外にも爵位持ちに悪魔に好評なのよね」

 

「好評?チェスのルールが、ですか?」

 

「競うようになったのよ。『私の騎士は強い』、『いや私の戦車の方が使える』って。その結果、チェスのように実際のゲームを、上級悪魔が下僕を使って行うようになったのよ。『レーティングゲーム』って言う、駒が生きて動く大掛かりなチェスのような形でね。このゲームが悪魔の間で大流行。いまでは大会も行われていて、駒の強さ、ゲームの強さが悪魔の地位や爵位に影響するほどよ。優秀な下僕はステータスになるから、『駒集め』と称して優秀な人間を自分の手駒にするのも最近流行っているわ」

 

……ゲームが強いと悪魔としても立派で、自慢のもとになる、か……

そして、そのゲームの駒として機能してしまう下僕悪魔の元人間……それが、俺。

生き返らせてもらったし、出世すればうはうはな将来が待ってるけど、ちょっと複雑な気持ちになる。

ちらり、とクゥを見る。特になにか反応しているわけじゃない。と、言うより思ったことを顔に出さないと決めてるから、なんの反応も見れないんだろう。

俺は格闘技とかそういう競い合いみたいのは嫌いじゃないから問題ないし楽しめるだろうけど、クゥは向かないだろうなぁ……

こいつは基本的に争いを避けるし臆病だし……何より、()()()()()()()()()()()()。もしクゥが悪魔になったとしても、できる限りそのゲームに参加させない方がいいだろう。

 

「私はまだ成熟した悪魔じゃないから、公式な大会などには出場できないわ。ゲームをするとしてもいろいろな条件をクリアしないとプレイできないの。だから、当分はイッセーやここにいる私の下僕がゲームをすることはないわね」

 

「じゃあ、木場たちもそのゲームをしたことはないのか?」

 

「うん、そうだね」

 

人間の願いを叶えて物を貰って、ゲームで戦って出世したりして……

なんというか、若干複雑な気持ちになったりしたものの、悪魔に対して持っていた邪悪で怖い世界のイメージが崩れつつある。

まぁそれはともかくとして、話の中で気になったことがある。

 

「部長、俺の駒は、役割や特性ってなんですか?」

 

「そうね、イッセーは……」

 

疑問に思っていた俺の駒について質問し、部長が答えようとしたが、その言葉は途中で止まる。

理由は簡単。何かが、俺たちに近づいてきているからだ。

立ち込めていた敵意が、殺意が一段と濃くなっていき、全身に寒気が駆け巡った。

 

「不味そうな臭いがするぞ?でも美味そうな臭いもするぞ?甘いのかな?苦いのかな?」

 

地の底から聞こえるような低い声音。

その不気味さに、頭が恐怖で支配されそうになるが、それを我慢してまっすぐに前を見据える。

 

「はぐれ悪魔バイサー、あなたを消滅させにきたわ」

 

部長が、一切臆さずに言い渡す。

途端、ケタケタと、異様な笑い声が、あたりき響き渡る。その笑い声はおよそ人間の発するようなものではなく、獣……化け物と呼ばれる存在のそれであると直感した。

部長も、朱乃先輩も、木場も、小猫ちゃんも、こんな声で笑ったりしない。

完全に、化け物の笑い声だ。

その笑い声は徐々に大きくなっていき、そして、その化け物は姿を現した。

暗がりから姿を見せたのは、上半身裸の女性。しかしその体は、宙に浮いている。

……いや、浮いてるわけではなかった。

ずんっ、という重い足音と共に、巨大な獣の身体が姿を現れる。

4本の太い足に鋭い爪、自立する蛇の尾を持つ獣の下半身に、両手に槍らしき武器を一本ずつ持つ裸の女性の形をした上半身。

それが、はぐれ悪魔バイサーの姿であった。

端的に言って、化け物である。

これも、悪魔。

これが、はぐれ悪魔。

怖くて、何もできない。

今の俺では、絶対に戦うことができない。

 

「主の元から逃げ出し、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるその愚行、万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

「こざかしいぃぃいいい!」

 

「祐斗!」

 

「はい!」

 

しかし、そんな俺を置き去りにして、他のみんなは動じず動き出す。

口上が終わり、襲いかかって来た化け物に対して、部長は木場を呼び、木場はそれに答えた。

即座に部長の前に飛び出し、いつの間にか持っていた西洋剣で飛んで来た槍の一撃をいなした。

速い。全く認識できなかった。

 

「さて、そしたら駒の特性を説明するわね」

 

木場の戦いを見ながら、部長は言う。

 

「祐斗の役割は『騎士』。その特性はスピード。『騎士』となった者はその速度が大幅に強化されるわ」

 

……たしかに、見ていれば木場の戦闘スピードが徐々に上がっているのがわかる。

化け物の振るう槍を受けたのは部長が呼びかけた最初の一撃だけで、それ以外は全てその圧倒的なまでの速度で回避している。

途中から、俺は木場の動きを目で追えずにいた。

不意に、キンッと言う金属の高い音が聞こえたと思ったら、木場から小さな銀光が漏れ見えた。

瞬間、俺は木場の姿すら見失う。

 

「ぎゃぁぁぁぁああああ!?」

 

一拍おいて、怪物の悲鳴が木霊する。見てみれば、槍を持っていた両腕が切り落とされ、傷口から血が噴き出していた。

 

「そして、祐斗最大の武器は剣。目で捉えきれない速さと、達人級の剣さばき。この二つを持って、あの子は最速の『騎士』と成っているわ」

 

部長の説明が終わると、木場は仕事が終わったと言わんばかりに後ろに下がり、代わりに小柄な人影が化け物に突っ込んでいく。

 

「次は、小猫ね」

 

突っ込んで行ったのは、小猫ちゃん。バイサーはその姿を見て、唸り声をあげながら足を持ち上げ、小猫ちゃんを踏み潰す。

危ない!叫ぼうとしたけど、化け物の足は地面につくことがなく、空中で静止している。よく見てみれば、小猫ちゃんが化け物の足を受け止め、少しずつ持ち上げていた。

 

「小猫は『戦車』。その特性は、屈強。膂力と頑丈さに優れた駒特性よ。小猫なら、あんな悪魔の踏みつけ如きでは潰せないわ」

 

「……ふっとべ」

 

持ち上げた足を退かし、小猫ちゃんはガラ空きになった胴に思い切り拳を叩きつける。

ドン、というおおよそ殴ったとは思えないような大きな音を立てて、化け物は後ろへ吹き飛び、壁に叩きつけられる。

化け物がぶつかった壁は小猫ちゃんの膂力を示すかのように大きくひび割れ、ポロポロとあまり小さいとは言えない破片が床に落ちた。

小猫ちゃんを怒らせたら、あれを喰らうかもしれないのか……うん、小猫ちゃんを怒らせないようにしよう。下手したら死ねる。

 

「最後に、朱乃ね」

 

「はい、部長」

 

部長に言われ、朱乃さんがうふふと笑いながら化け物に近づいていく。

けど、不意にズリ、と何かが動く音が聞こえる。

なんだ?と思って振り返ると、木場が斬ったはずの腕が、部長に襲いかかって来た。

 

「部長!」

 

「なに……っ!」

 

咄嗟に、部長の前に出て腕を交差させ、攻撃を受け止められるようにする。弾いたり出来ればいいけど、出来るかがわからないからより堅実に防御だ。

衝撃が来る!そう思って身構えたけど、結局、その衝撃が来ることはない。

代わりに来たのは、白い光と、ボッ、という何かが燃えるような音。

 

「油断は禁物、ですよ?リアス先輩」

 

「……ええ、そうね。ありがとう久遠。イッセーも、咄嗟に動いてくれてありがとう」

 

「はっ、はい!」

 

腕の構えを解いて前を見てみれば、そこには白い炎に包まれた腕だったもの。

クゥとリアス先輩の言葉を聞いて、どうやらこれはクゥがやったんだということがわかった。

何が護身程度はできる、だ。十分戦えるじゃねぇか!と、叫びたかったけど、その言葉は言えずじまいとなった。

 

「さて、もう一本も、っと。ちなみに朱乃先輩の駒『女王』。それはリアス先輩に説明してもらうとして、残ったのは『僧侶』だね。この駒の人はこの場にいないけど、その特性は魔力の向上。私みたいに魔力の操作技術に高い適性を持つ人がよくなっているらしいよ」

 

「そ、そうか」

 

地面に転がったままのもう片方の腕をまた白い炎で焼きながら、クゥは『僧侶』の駒の説明をする。しかし、なんで白い炎なんだろうか?赤い炎、青い炎なら割と見るけど、白いのはあんまり見たことないよなぁ……

まぁともかく、朱乃さんである。

 

「朱乃、お願い」

 

「あらあら、部長に手をかけようなんておいたをする子には、お仕置きしないとですわね?」

 

そう言って、朱乃さんは天に向かって手をかざす。

刹那、屋内であるにも関わらず、カッ!と天空が光ったかと思うと、化け物に雷が降り注いだ。

ビクビクと痙攣しながら、化け物は激しく感電し、煙を上げて全身丸焦げとなる。

 

「グッ、ガッ……」

 

「あらあら?まだ元気そうね?」

 

カッ!

再び雷が降り注ぐ。

ギャア!という化け物の断末魔が聞こえるがしかし、朱乃さんは手を止めずに三発目の雷を繰り出して、ニッコリと怖く感じるほどの笑みを浮かべていた。

もしかして朱乃さん、楽しんでいらっしゃる?

 

「……朱乃の駒、『女王』は私の次に強い最強の駒。『兵士』、『騎士』、『僧侶』、『戦車』、すべての力を兼ね備えた無敵の副部長よ。朱乃は久遠と同じように魔力を使った攻撃が得意なの。久遠がやったような炎、朱乃がやったような雷、他には氷、水、風などの自然現象を魔力で引き起こす力ね。他にあの子に関しては……まぁ、多少Sっ気があるところね」

 

リアス先輩、あれは多少で済むのでしょうか?

正直、結構怖いです。

 

「怯える必要はないわ。朱乃は味方にはとても優しいのよ?貴方のことをとても可愛いと言っていたし、今度甘えてあげなさい。きっと優しく抱きしめてくれるわ」

 

「うふふふふ……まだ死んではダメよ?トドメは私の主のものなのですから」

 

うん、すごく魅力的な提案だと思うんですが、やっぱり目の前のニッコリと笑っているあのお方は怖いと思います。

一番常識を持ってる方だと思ってたんだけどなぁ……

まぁ、悪魔ですしね。そう言うところもありますよね。そう思うことにしようそうしよう。

それから数分間、朱乃さんの攻撃は続いたが、満足したのか一息ついた後、他の二人と同じように後ろに下がった。

それを確認した部長は頷き、完全に戦意を失った化け物に近づく。

 

「最後に言い残すことはあるかしら?」

 

「殺せ」

 

部長の問いに、答えるのはその短い一言。

 

「そう、わかったわ」

 

冷徹な一言。普段聞くことのない低い声音が、俺の全身を震え上がらせる。

そして部長は化け物に手をかざし、その手のひらから巨大でドス黒い魔力の塊を撃ち出した。

魔力の塊は、化け物の身体を容易く飲み込み、そしてすぐに収縮して小さな点となり、その点もバチッという音と共に消えていく。

魔力が消えた跡に、化け物の姿は無く、化け物がいたという痕跡は塵一つ残さずに消えていた。

部長の宣言通り、あの化け物は消し飛ばされてしまったようだ。

それを確認すると、部長は息をつく。

 

「終わりね。みんな、ご苦労様」

 

部長が終了宣言すると、部員のみんなはいつもの陽気な雰囲気に戻っていた。

これで、はぐれ悪魔討伐も終わりか。

無事終わったことに安堵しつつ、でも不安にも思った。

あれが、悪魔の戦い。凄まじいものだった。

相手の悪魔も含めて、俺の知らない、敵わない物が多い。その中で、俺は上を目指していくのか……

目標を達成するには、本当にたくさんの時間がかかりそうだ。それこそ、10年単位、もしかすると、数百年もかかるかもしれない。

……と、そう言えば。

疑問を思い出す。聞こうと質問したのはいいけど、タイミングを逃して答えてもらえてなかったな。

 

「あの、部長。聞きそびれてしまったんですけど……」

 

「何かしら?」

 

「俺の駒……下僕としての特性は、なんですか?」

 

予感は、あった。

木場が騎士。

小猫ちゃんが戦車。

朱乃さんが女王。

僧侶は、魔力の運用に適した奴。

そして、最後に残っているのが……

 

ニッコリと微笑みながら、部長は答えてくれる。

 

「『兵士』よ。イッセーは私の『兵士』なのよ」

 

兵士の駒。

最弱の駒。

俺は、一番下っ端だった。

 

 

+++

 

 

そしてその時、俺は気づいてなかった。

はぐれ悪魔が現れるまでクゥの肩にいたあの鷹のような炎の鳥が、姿を消していたことを。

部長が襲われた時には、すでにいなかったことを。

陽気な雰囲気になっていたのは、オカルト研究部の部員のみであったことを。

ただ一人、部活に所属していないあいつが、残念そうにポツリと呟いたことを。

呟いた言葉を、落ち込んでいた俺は聞くことが出来てなかった。

その、言葉は……

 

「ああ……もったいない」

 

 

sideout

 

 

+++

 

 

side:---

 

 

「……うん、目覚めたかな?気分はどうだい?」

 

「まぁ、そうなるか。さて、早速だけど本題だ。君に一つ、提案しよう」

 

「君は僕に情報を渡し、僕に関する情報を秘匿する。僕は君を治療して君に危害を与えることなく解放して逃す。この契約を承諾する気はあるかな?」

 

「うん、全くもってその通りだ。しかし僕は契約は確実に守る。守らせる。まぁ、そうは言っても信用できないだろうけど」

 

「別に契約を承諾しなくてもいい。その時は君を『処分』するだけだからね。むしろ契約してくれない方が助かる。僕は情報を得られることをとても恐れている。故に、不幸にも僕という存在を知った君にはいなくなってもらった方が情報が漏れないからとても嬉しい」

 

「そうか。とても残念だけど、仕方がない。では、これに血判を押してくれ。これが契約書類となる」

 

「うん、これで契約成立だ。じゃあ、先に治療してあげよう」

 

「よし、これでよし。では、教えてくれるね?」

 

 

 

「レイナーレと言う堕天使は、どこにいるかな?」

 

 

sideout




載せたいところまで載せたら、1万字まで……
ともかく、いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
今回ははぐれ悪魔戦でした。
戦闘はあまり深く描かずに駒の説明を優先してしまいましたが、以降の戦闘描写はもっと上手く描きたいですね。
久遠の意味深な忠告や台詞、最後のシーンは今後のヒントだったり伏線だったりでもしかしたら回収しきれないかもしれませんね。
もっとも、簡単な伏線なんで一部の方はすぐに台詞の意味や答えがわかってしまいそうですが。
さて、次回はついにあの男の登場ですね。
ハーメルンではいろいろと作品によって扱いの違う彼ですけど、さて、ここではどうしましょうか?
気が向きましたら感想を書いていただけると嬉しいです。
誤字脱字報告、アドバイスなどがありましたらお気軽にどうぞ。
また次回も読んでいただけたら幸いです。
それでは。
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