幸せになる番(ごちうさ×Charlotte)   作:森永文太郎

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第9話、Candy Color Days(サイダー味)

 ある日の午後───

 

「今日はよろしく有宇にぃ!」

 

「あぁ、きびきびと働けよ」

 

 この日のラビットハウスでは、マヤがチノの代わりに働きに来ていた。それというのも、何でも中学の職業体験とかで三日間、街にある店舗で働かなければいけないらしい。それでマヤはここで働くとのことだ。

 にしても中学三年のこの時期に職業体験って……普通そういうのって二年のときにやるもんだろ。なんで受験本番の年にやるんだよ。

 有宇の頭にはそんな疑問が浮かんだ。

 まぁ僕は午後にシフト入れているのは今週は今日だけだし、こいつと働くのも今日だけだから別に構わんがな。

 因みにチノは甘兎、メグはフルールにそれぞれ職業体に行ったらしい。リゼは今日はシフトが入ってないため休みである。

 

「で、いつもなら喜んでそうなお前が何でそんな浮かない顔してんだよ」

 

 いつもマヤとメグのチビ二人が来ると喜ぶココアが何故か浮かない顔をして、毛玉うさぎを手でモフモフしていた。

 

「うん……だってチノちゃんが……」

 

「チノ?別に甘兎なら千夜だっているし心配ないだろ。それともチノが居なくて寂しいのか?」

 

「確かに寂しいけどそうじゃなくて……千夜ちゃんに影響されてこんな風になってなきゃいいけど……」

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

『今日から抹茶派です。コーヒー派に宣戦布告です』

 

 そう言うチノの手には湯呑みが握られており、どことなく偉そうな雰囲気を漂わせてる。

 そしてそこに千夜が現れ、チノと共に決めポーズを決める。

 

『甘兎庵 看板姉妹 爆誕☆!!』

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「ヴェアアアア!!チノちゃんとられる!!」

 

 いきなり奇声を上げたかと思えば、ココアは勢い良くそのまま後ろに倒れ込んだ。

 

「……ただの中学の職業体験だろうが」

 

 何を思い浮かべたかは知らないが、どうせまたくだらない事だろう。大体たった三日間だけだし、泊まり込みってわけでもないっていうのになぁ……。

 すると、ココアの側に毛玉うさぎも泡を吹いて倒れているのを見つける。心なしか毛玉もショックを受けているような……。

 

「まぁ、ココアは無視して仕事に取り掛かるか」

 

 この女に一々付き合ってられるか。

 有宇は放っておくことにした。

 

「あ、無視するんだ」

 

「こいつにいちいち構ってたらきりがない」

 

 と言う訳で早速仕事に取り掛かろうと……

 

「無視しないでよ!!」

 

 すると、いきなりカバっとココアが起き上がった。

 

「あ、起きたか」

 

「ちょっとぐらいお姉ちゃんの心配してくれてもいいのに」

 

「お前に関しては、もう心配するの通り越して呆れてんだよ」

 

「もう、有宇くんの意地悪」

 

 冷たい態度をとる有宇に対して、ココアが頬を膨らませる。

 すると、二人のやり取りを横で見ていたマヤがくすくすと笑い出す。

 

「なんだよ」

 

「いや、有宇にぃとココアいいコンビだなって」

 

「え、そうかな!!」

 

 ココアが目を輝かせて食い付く。

 いいコンビと言われたことがそんなに嬉しかったのか?

 

「うんうん、二人ならきっとN1出れるよ!」

 

「コンビってそっちかよ!?」

 

 マヤの一言に思わず有宇がツッコみを入れる。

 するとそれを聞いて、ココアが顎に手をあて何かを考え始めた。

 

「どうした?」

 

「……有宇くん、コンビ組んだらN1取れるかな?」

 

「真面目に検討してんじゃねぇよ!!」

 

 やっぱりこいつを心配するだけ無駄だということか……。有宇はココアのアホみたいな純粋さに頭を悩ませる。

 

「大体、奇声あげる女とコンビとかゴメンだ」

 

「え〜でもその方がお客さんにウケたり……」

 

「するか!!」

 

 奇声上げるだけでトップ狙えるなら、芸人は苦労しねぇよ。てかさっきの声じゃ寧ろドン引かれるだろうが。

 

「大体お前よくあんな声出せるな……」

 

 確か前も出してたよな「ヴェアァァァ」って声。すげぇ声だけど喉痛めないのか?

 

「え?全然大丈夫だよ。なんなら何回でもヴェアアアアってできるよ」

 

「へーじゃあココア、もう一回やってみてよ」

 

 何回でもできると聞いて、マヤがココアにもう一度やって欲しいと懇願する。

 

「え〜でもなんかショックなこと言われないと気分的に出ないかな〜」

 

「そっか〜」

 

 それを聞いて有宇は考える。ショックなことか……。

 

「マヤ」

 

 有宇はマヤを呼ぶと、思いついたことをそっと耳打ちする。それを聞くと、マヤは指で丸を作りOKサインを返した。

 するとマヤは早速実行に移そうと、ココアにとびっきりの笑顔を向けながらココアに近づく。

 

「ココアお姉ちゃん♪」

 

「お、急にどうしたのマヤちゃん。お姉ちゃんに何の用かな?」

 

「お姉ちゃんなんて……」

 

「お姉ちゃんなんて?」

 

「大っ嫌い♪」

 

「ヴェアアアア!!」

 

 するとココアは再び奇声を上げてバタリと背中から倒れた。

 

「うわー本当に出たね」

 

「まぁ、こいつにとってのショックな出来事なんてこんなもんだろ。さ、仕事に戻るぞ」

 

 こいつがショック受けることなんて想像に難くない。親しい人間、特にお気に入りのチビ共に嫌いと言われるだけでこのザマだ。

 にしても、この豆腐メンタルでよく僕相手に説教できたよな本当……。

 そうして倒れるココアを残して、二人は仕事に戻っていった。

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 その後は普通に客もやって来て、有宇たちは業務を遂行した。そして今の客で取り敢えず店の中の客はいなくなり、有宇たちは一息つく。

 

「取り敢えず一息ってとこか。にしてもマヤ、意外にしっかりやってるな」

 

 有宇は普段のやんちゃそうなイメージもあってか、マヤがしっかり働いていたことを意外に思い、感嘆する。

 こういうのは不真面目にやりそうなイメージがあったのだが、仕事ぶりを見た感じ手慣れたようにこなしていたのが少し意外だったのだ。

 

「まぁね、何回かここのお手伝いしてるしね。そもそも慣れてて楽だからここ選んだんだもん」

 

 一瞬感心したが、ここを職業体験に選んだ理由を聞いてやっぱりそういう奴かと有宇は呆れた。

 まぁ同じ立場なら僕もそうしただろうし、ある意味納得がいく理由ではあるけどな。

 

「もうマヤちゃん、大切な授業の一環なんだからちゃんとやらなきゃダメだよ!」

 

 すると、マヤの職業体験の志望理由を聞いたココアが、チビ相手にも関わらず、マヤの不真面目さを諭した。

 チビ相手にココアが厳しく言うなんて珍しい。でもまぁこいつ、なんだかんだ真面目だよな。

 有宇は以前ココアと言い争ったときの事を思い出す。基本的に他人に甘いが、注意すべきところはしっかり意見を言う女だよ、こいつは。

 しかしそれを聞くとマヤはしゅんとした様子で毛玉うさぎを抱きかかえながら言う。

 

「……本当はね、ここでココア達と働いてるチノが羨ましくて、私が代わりをしたかったの……」

 

 しゅんとした様子でそれっぽいことを言ってるが、まぁただの言い訳……演技だろうな。

 流石にこれぐらいじゃ騙されな……

 

「マヤぢゃぁぁぁぁん!!」

 

 ええぇぇぇぇぇ!?

 ココアが泣きじゃくりながらマヤに抱きつく。

 

「厳しいこと言ってゴメンね〜」

 

 見事に騙されていた。そうだ、こいつは騙されやすく、なんだかんだ基本的に人に甘いから疑うということを知らん奴でもある。だからこそ、僕のあんな嘘まみれの経歴だって信じ込んでたんだもんな。

 そしてマヤの方はというと、ちょろいと言わんばかりに「へっ」と呟き悪い顔をしていた。

 ココア……お前絶対こいつに舐められてるだろ……。

 ココアの騙されやすさに呆れつつも心配になった有宇であった。

 

 

 

 ココアが一通り落ち着くと、有宇はマヤの話を聞いて、思ったことを口にする。

 

「にしてもそれだったらメグもここにすればよかったのにな」

 

 チノは流石に実家だと職業体験の意味を成さないから他へ行ったのはわかるが、メグは何故フルールに行ったんだ?シャロが働いてるとはいえ、わざわざ赤の他人の店で働くより、慣れたこっちの店でマヤと一緒に働いた方が楽な筈だが……。

 するとマヤが答える。

 

「なんか働いてるシャロがキラキラして見えたんだって」

 

「ふーん真面目な理由だな……どっかの誰かと違ってな」

 

 嫌味ったらしく、そのどっかの誰かさんそう呟く。

 

「あ、有宇にぃ!それって私のこと言ってんの!?」

 

「さてな、お前のその貧相な胸に聞いてみたらどうだ」

 

「う〜ココア!有宇にぃが苛めるよ〜」

 

 有宇が嫌味を言うものだから、マヤがココアに泣きついた。

 

「もう有宇くん、あんまりいじわる言っちゃダメだよ」

 

「僕は別にマヤのことだなんて一言も言ってないぞ」

 

 そんな有宇の返答に二人とも若干呆れていた。

 

(ねぇねぇ、有宇にぃっていつもこんな感じなの?)

 

(う〜ん、優しいときもあるけど普段はこんなかな)

 

(へぇ、ココア達も苦労してるんだね〜)

 

「何か言ったか」

 

 小声で話す二人に有宇が声をかける。

 

「何でもないよ。それはそうと暇だよね〜」

 

 咄嗟にマヤは話を変える。

 

「まぁ、そうだな……」

 

 客がみんな帰ってしまったせいで、今現在、店内には三人以外誰もいない。酷いときだと全く客が来ないときもあるからなこの店……。

 

「本当にマジでこの店盛り上げないとまずいんじゃないか……?」

 

 一応バータイムの時間はそれなりに人が来るようだが、それだけでやっていけるものでもないし、何かしらの対処はした方が絶対いいって。

 すると、マヤがこんな提案をする。

 

「あ、じゃあ音楽はどう?盛り上がるよ」

 

「いいね!タカヒロさんもジャズでお店を盛り上げたことがあるってチノちゃんも言ってたし、いいんじゃないかな!」

 

 ココアもマヤの提案に賛同する。

 ていうかマスターってそんなこともしてたのか!?

 有宇はマスターの知られざる過去に驚いていた。

 そして、マヤはそれを聞いて、更にこんなことを言い出す。

 

「じゃあ私DJやるよ!DJ兎猛者(うさもさ)としてラビットハウスを盛り上げるよ!!」

 

「兎猛者……なんかカッコイイ!!これはイケるんじゃないかな!!ね、有宇くん!!」

 

 ココアにそう聞かれた有宇の返答は勿論……

 

「いや駄目に決まってるだろ」

 

「「ええ!?」」

 

 有宇の答えに二人は驚く。

 

「どうして!?」

 

「そうだよ、DJカッコイイじゃん!」

 

「普通に近所迷惑だ」

 

 この店の壁はある程度は防音されてるとは思うが、DJとかそんなでかい音掛けたら流石に音が漏れて近所から顰蹙(ひんしゅく)買って店の評判ガタ落ち間違い無しだ。

 

「大体素人がちょっとかじったぐらいじゃ客は来ねぇよ」

 

 有宇にそう諭されると、二人は諦めたようだった。

 

「ちぇ〜、DJになって一躍有名人になろうと思ったのに」

 

 マヤがそう呟く。

 本物のDJが聞いたらブチ切れそうな発言だな……。

 

「じゃあ有宇くんはどうしたらこのお店が盛り上がると思う?」

 

 ココアがそう聞いてくる。

 どうしたらって、そんなこと急に聞かれてもな……。

 

「そうだな、ひとまず客を呼ぶということに絞れば何かしら話題性のあるような……普通に考えたら新商品とか、あと値下げだとか期間限定だとか客の目を引くサービスをするとかじゃないか?」

 

 なんとなくそう言ってみると、マヤが唖然としてる。

 

「なんだよ」

 

「いや、有宇にぃのくせに意外に真面目な答えだったから」

 

「くせにってなんだ!?」

 

 本当に生意気なクソガキだな……。

 そしてココアも同じような反応を示す。

 

「おお、有宇くんがそれっぽいことを言ってる……!」

 

「それっぽいってな……。そりゃ一般的な意見だがお前らのDJ案よりはマシだ」

 

 まぁ、実際に店を盛り上げるとしたらそう簡単にはいかないんだろうが僕には関係ない。

 僕はここで金を貯めるだけ貯めて、将来に備えるためにここにいるだけなのだから……。

 

 

 

 それからしばらくすると、また客足も出てきたので、三人はそれぞれ仕事をこなしていった。そして気が付けば空も暗くなり、その日の業務は終わった。

 

「二人ともお疲れ様〜」

 

 ココアが有宇とマヤの二人に労いの言葉をかける。

 

「全くだ。僕なんて午前中から入ってるから丸一日だ。普段より余計疲れたぞ」

 

「そういや有宇にぃって何で学校行かずにここで働いてるの?」

 

 マヤがそう疑問を投げかけた。

 ……もうココア達にも知られてるわけだし、今更隠すことでもないか。

 

「……有り体に言えば家出だ家出。地元で問題起こして親と喧嘩してここに逃げてきただけだ」

 

 以前の有宇なら自分の黒歴史共呼べるカンニング魔であった過去は隠したのだろう。しかし、ココア達には既にもう明かしているので、マヤと、そしてここにはいないメグにも隠す意味はもう無いと考えた。

 それにガキ相手に格好つける必要はないと考え、曖昧にだが本当のことを言ったのだった。

 

「おお、有宇にぃ意外とロックだったんだね!」

 

「ロックて……」

 

 実際はコソコソとカンニングして、それがバレておじさんと喧嘩して、それで家出しただけで、ロックとはかけ離れてると思うが……。

 するとココアがにんまりしてこちらを見ていた。

 

「……なんだよ」

 

「ううん、別に〜」

 

「んだよ気持ち悪いな」

 

「え、ひど!」

 

 有宇の言葉に地味にショックを受けるココアをおいて、有宇はマヤに話を振る。

 

「で、マヤは明日からもここで働くんだよな」

 

「うん、そうだよ。あ、有宇にぃと働けるのは今日だけだっけ」

 

「あぁ、そうなるな」

 

 明日明後日は午後にシフトはなく、代わりにリゼが入る筈だ。

 

「そっか〜。折角ならもっと一緒に働きたかったな」

 

 それを聞いて有宇は少し照れくさくなる。

 しかしそれを表には出さず、ぶっきらぼうに聞き返す。

 

「……別に僕と働いても面白いもんでもないだろ」

 

「え〜そんなことないよ!リゼとはまた違ったツッコミを経験できるし」

 

「僕のいる意味ツッコミだけかよ!」

 

 一瞬でも慕われてると思っていた自分がバカだった……。

 

「それより有宇にぃ、明日暇ならメグ達の様子見てきてよ。二人がどうなってるか気になるし」

 

 マヤがそう言うと、ココアもそれに乗っかる。

 

「あ、それ私も知りたい!特にチノちゃんが甘兎に染まってないか調べてきてよ有宇くん」

 

「なぜ僕がそんなことをしなきゃならないんだ。却下だ却下」

 

 僕はそんなに暇じゃない。

 今だって高校の卒業認定ぐらいは取ろうと勉強しているわけで、お前らのくだらん偵察に付き合うほど暇じゃな……。

 

「お小遣いあげるからお願い!」

 

「よしわかった」

 

「切り替えはや!!」

 

 ココアが金をくれるというので、つい乗ってしまった……。

 そしてマヤからは失望の視線が感じられる。

 

「有宇にぃ意外とがめつい……」

 

「失礼な、僕だって別にそこまで金に困ってるわけじゃないぞ。ただ世の中何事においても対価は必要で、そこで最も価値を発揮するのが金だってわけだ」

 

「うわ〜」

 

 マヤが失望を顕にするが、そんなことは気にせず有宇は廊下に出て行く。

 

「じゃあ僕は着替えて夕飯の準備するから。じゃあな」

 

 そう言うと有宇は廊下に出て自室へと戻って行ってしまった。

 

「行っちゃった」

 

「じゃあ私達も着替えよっかマヤちゃん」

 

「うん」

 

 そうして二人も着替えに更衣室へ向かった。

 

 

 

 更衣室に着くと、ココアとマヤの二人はお喋りと洒落こんだ。

 

「有宇にぃってなんだかんだ真面目だよね。仕事もちゃんとしてるし」

 

「そうだね。家のお手伝いもやってくれてるし、結構ちゃんとしてるよ。まあ、たま〜に面倒くさがりなところもあるけど……」

 

「ココアは有宇にぃのことどう思ってるの?」

 

 マヤがココアに尋ねる。

 

「私?そうだね〜意地悪なところもあるけど、優しいところもあって、ちょっぴり手のかかる弟って感じかな」

 

「へぇ〜。でも今日見た感じココアの方が有宇にぃに手かけさせてる気がするけど」

 

 マヤの率直な意見がココアの胸にぐさりと突き刺さる。

 

「そ、そんなことないよ!?私だってちゃんとお姉ちゃんやってるもん!」

 

「え〜本当かな〜」

 

「本当だよ!もう〜!!」

 

 マヤにおちょくられて躍起になるココアであった。

 

 

 

「じゃあお疲れココア」

 

「また明日ねマヤちゃん」

 

 着替え終わると、マヤはそのまま家に帰るので、ココアは店の外まで見送りをしていた。有宇は夕飯の支度をしているから、どうせ呼んでも来ないだろうからと呼ばなかった。

 しかし、階段を降りる音がしてココア達が店の方を見ると、有宇が店先までやって来たのであった。

 

「あれ?有宇くん夕飯の準備してたんじゃないの?」

 

「いや、渡し忘れてた物があったからさ、ほらマヤ」

 

 そう言うとマヤにポイッと小さな袋を放り投げる。袋には白と茶色のクッキーが数枚入っていた。しかもちゃんと赤いリボンでラッピングしてある。

 

「これって……」

 

「クッキーだ。今朝パンの焼き上げの時に一緒に焼いておいた。職業体験とはいえ労働の対価は必要だと思ってな。味の保証はしないが受け取れ」

 

「え、あ、ありがとう有宇にぃ……」

 

 マヤのお礼を聞くと、有宇は特に何か言葉を返すでもなく、そのまま店の中へと戻っていってしまった。

 

「ね、有宇くん優しいところもあるでしょ」

 

 ココアが笑みを浮かべながらマヤにそう言う。

 それに対しマヤも笑顔で返す。

 

「そんなの知ってるよ!じゃあね!」

 

 そしてマヤは元気に走り出して行った。

 

 

 

「にしても有宇くん素直じゃないな〜」

 

 マヤを見送った後、二人して夕飯を作っていた時、ココアがそう言った。

 

「何が?」

 

「もうとぼけちゃって。わざわざマヤちゃんにクッキー作ってあげてたなんて、いいとこあるね〜」

 

 すると有宇はそれに対しニヤリと笑みを浮かべながら答える。

 

「ああ、それか。うちって今バイト僕含めて四人だけだろ」

 

「え、うん。それがどうしたの?」

 

「こうバイトの人数が少ないと、お前らの誰かがシフトを休んだ場合、今日みたいに午前からそのまま僕が引きずり出されるわけだが、そういう時に僕の代わりに入ってくれる奴が居ればいいと思ってさ」

 

「有宇くん……まさか……」

 

 ココアにはその時、有宇の言いたいことが大方予想できていた。

 

「マヤ達の職業体験の話を聞いて思ったんだ。中学生は労基に違反するから給料を発生させる労働契約はできないけど、今回のように手伝いをする分には利用できる。つまり、無償で働かせることが出来る労働力ってことだ。だからしっかり確保しておかなきゃと思ってな。クッキーなんてあの袋の分だけでも原価百円にも満たないし、それで満足して代わりに働いてくれるなら安いもんだ」

 

 笑いながら楽しそうに有宇はそう答えた。要はマヤを誑し込んで、また店の手伝いをさせようという魂胆だったのだ。

 するとそれを聞いてココアの体がわなわなと震える。

 

「もう!!有宇くんはどうしていつもすぐそういう考えになるの!!もう!!もう!!」

 

 有宇のゲスい心の内を知って、憤慨して牛のようになるココアであった。




今回の話は原作4巻第10話の話が基になってます。ぶっちゃけDJナイトの時の兎猛者を出したくて書きました。
後編に続きます。
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