幸せになる番(ごちうさ×Charlotte)   作:森永文太郎

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第9話、Candy Color Days(いちご&すもも味)

「ここに来るのもなんか久しぶりな気がするな……」

 

 そう言う有宇は今、シャロのバイト先でもあるハーブディーの喫茶店、フルール・ド・ラパンの前に来ていた。

 有宇が何故ここにいるのかというと、この日の前日、職業体験で来ていたマヤと、ココアの二人とラビットハウスでいつものように働いていたのだが、二人から明日チノとメグの様子を見に行って欲しいと頼まれたのだ。

 ココアが金をくれるというので引き受けたのだが……。

 

「にしてもたった千円とか……しけてんなぁ」

 

 たった千円じゃフルールと甘兎、二つの店で飲み物を頼んだだけで殆どなくなってしまいそうな額である。

 有宇はココアからお駄賃として貰った千円札を指で挟んでヒラヒラさせながら愚痴をこぼした。

 まったく、午前のバイト上がりの僕のフリータイムをたった千円とは。安く見られたものだな。

 

「まぁいい、まずは一軒行ってみるか」

 

 そう言って有宇はフルールの店の扉を開ける。

 

「イラッシャイマセ〜!!」

 

 扉を開けるとすぐ目の前で、フルールの制服に見を包んだメグが元気な挨拶で有宇を早速出迎えてくれた。

 

「アッ、お兄さんだ!」

 

「よう、元気にやってるな」

 

「ハイ!あっ、一名様お席に案内します!」

 

 そう言うとメグは、有宇を席まで案内した。そして有宇が席につくと、メグはメニュー表を有宇に手渡した。

 

「ご注文をどうぞ!」

 

 有宇は渡されたメニュー表を開く。

 前回は適当になんかジャスミンティーを飲んだんだっけか? 店員にもリラックスさせる効能があるとか言われて飲んだんだよな確か。

 またジャスミンティーでもいいけど今回はそうだな……。

 

「ルイボスミントティーを頼む」

 

 ルイボスティーって確か健康にいいんだよな。確かノンカフェインらしいし、いつもコーヒーばっか飲んでるからたまにはいいだろう。

 

「カシコマリマシタ!」

 

 注文を受けるとメグは厨房の方へ行く。

 しばらく待つと、二人の店員が有宇のいる席にやって来る。1人は有宇の注文したルイボスミントティーをお盆に乗せたメグ、そしてもう一人が……。

 

「なんであんたがここにいるのよ」

 

 有宇に冷ややかな視線を送るシャロである。

 

「ココアとマヤにメグ達がどうしてるか見てこいって言われたんだよ。大体今の僕は客だぞ、もっと畏まった態度で接しろよ」

 

「相変わらずね、そういう偉そうなところは……」

 

 シャロがいつもと変わらない有宇を見て呆れていると、メグがトレーの上に乗せて運んできた、有宇の頼んだメニューを有宇の前に置く。

 

「お兄さん、お待たせしました〜。ルイボスミントティーです」

 

「ああ、ありがとう」

 

 有宇は早速お茶に口をつけると、メグが有宇に尋ねる。

 

「お兄さん、マヤちゃんとチノちゃんはどうしてました?」

 

「ん、あぁ、マヤは特に問題なさそうだぞ。チノはまだこれからだけど、まぁ大丈夫だろう。寧ろどっちかというとココアの方が心配なぐらいだ。メグも心配なさそうだな」

 

 フルールはラビットハウスや甘兎と違って、知り合いの店ではないからちゃんとやれてるか不安があったが、この様子なら問題なさそうだ。

 

「エヘヘ〜。ありがとうございます。シャロさんがちゃんと教えてくれるおかげです」

 

 メグがそう言うと、シャロは少し照れた様子で顔を赤らめていた。

 

「よかったな先輩。褒められて」

 

 有宇は揶揄い混じりにシャロに声をかける。

 

「な、べ、別にそんなんじゃないわよ。もう……」

 

 そう言いながらも少し嬉しそうだ。

 にしても……と有宇は辺りを見回す。フルールは中は綺麗な吹き抜けの洋装の作りで、リゼの家の物程ではないがシャンデリアが吊るされており、ラビットハウスの地味な内装とは違っておしゃれ感漂う内装である。

 そして辺りを見回した後に目の前の二人の店員を見る。

 ロップイヤーに短いスカートのメイド服……見事に不釣り合いだな。

 折角こんなおしゃれな内装なのだから、店員の服もそれなりの物を揃えればいいと思うんだが。

 こんな秋葉原とかのメイド喫茶のオタク向けのミニスカートのメイド服などではなく、もっとこう畏まったベストにするとかさぁ。ミドルエプロン&四角巾やショートエプロンなんかもいいかもしれないな。メイド服にするにしても、ロングスカートの畏まった物にするとか、もっと工夫すれば店の内装も合さって、店の内装ももっと映えることだろう。安っぽく、男の情欲を唆るだけのメイド服などこの店には合わない。

 そんなことを考えていると、シャロが有宇からの視線に気づき、若干引き気味で言う。

 

「さっきから何よ、ジロジロと」

 

「いや、店の内装と不釣り合いな服だなと思ってな。店長の趣味だっけか?」

 

「そうよ。この制服だと覗かれたりするし迷惑してるのよね」

 

「覗かれるのか!?そんな奴さっさと警察にでも突き出したらどうだ?」

 

 有宇がそう言うと、シャロは答え辛そうにいう。

 

「顔見知りだからそんなことできないのよ」

 

「んな奴が顔見知りなのかよ」

 

「あんたもその内会うと思うわ」

 

 マジかよ、そんな変な奴会いたくないんだが。

 にしてもとんだ不届き者がいたもんだな。まぁ、能力使って覗きしてた僕が言うのもあれだがな。勿論、今はもう見飽きたしやってないぞ。

 そういや制服といえば、さっき見てて気づいたんだが……。

 

「メグのスカートのところ(ほつ)れてないか?」

 

 有宇にそう言われ、シャロがメグのスカートのところを見ると確かに糸が少し解れていた。

 

「もしかしてさっきスピン見せてもらった時かしら?」

 

「スピン?」

 

「ええ、メグちゃんバレエやってるからスピンを見せてもらったんだけど、その時に引っ掛けちゃったからそれかも」

 

 バレエか、確かにやってそうなイメージあるな。なんかチビ他二人よりもどことなくお嬢様っぽいし、やってても違和感ないな。

 

「すみませんシャロさん、服引っ掛けちゃって」

 

 するとメグが申し訳なさそうにシャロに謝る。それに対し、シャロがフォローを入れる。

 

「気にしないでメグちゃん。元々頼んだ私が悪いわけだし。制服は明日直して持ってくるから。私今日早上がりだから、後で私が上がるときに更衣室に一緒に来てもらえる?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 すると有宇も何故か偉そうにメグにフォローを入れる。

 

「そうだぞ、下の奴がやったことは上の奴が責任取るもんだしな。そんなこといちいち気にしなくていいんだぞ」

 

「あんたねぇ……」

 

 シャロが「お前は言うな」と言わんばかりにジト目で有宇を睨む。

 

「なんだよ、フォローしてやったんだろうが」

 

「まぁいいけど、あんたチノちゃんとメグちゃんにだけ優しくない?やっぱロリコ……」

 

「おい、その先言ったら戦争だぞ」

 

 シャロの言葉を制し、有宇はそう言った。

 以前もリゼにロリコン疑惑を掛けられたが、またしても掛けられるとは心外にも程がある。

 

「チノとメグはたまに天然入るが、基本従順でまともだからであってだな……そもそもチノもメグも僕と一歳しか年離れてないだろうが」

 

 そうだ、そもそも僕らは1歳しか年が離れていないのだ。

 チビ共はみんな背が低くて小学生と見間違えそうになるが、れっきとした中学三年生だ。僕は本来であれば高一なので一つしか年は離れていない。

 つまり、仮に僕が二人にそういう感情を持っていたとしても、別段特に問題があるわけじゃない。まぁ、貧相な体には興味無いし、まずあり得ない話だがな。

 

「だとしても怖いじゃない。もしあんたにその気があったら、メグちゃんなんか純粋であんたに口で巧みに騙されて手込めにされちゃいそうだし……」

 

「するか!!」

 

 ったく、僕をなんだと思ってるんだ。

 いやまぁ、汚い手を使って白柳弓を堕とそうとした過去があるので一概にそうじゃないとは言えないが、少なくともガキ二人にそんなことしようとは微塵も思わない。

 

「まぁいいわ。それじゃあ私達は仕事戻るからゆっくりやってなさい」

 

「ジャアネ〜お兄さん」

 

 すると二人はそれぞれ仕事に戻っていった。

 有宇はやることもないので、席で二人を観察していた。メグはまだ少しぎこちないが、笑顔を忘れずしっかりとした接客が出来ていた。シャロの方はというと、あの女は僕と似て実に(したた)かな女だ。笑顔もそうだが、一つ一つの動きに無駄がなく、客への気遣いも忘れない。悔しいが僕より役者かもしれないな。

 そして二人に問題がないことを確認すると、有宇は飲み物一杯しか頼んでないこともあり、ここに来てから十分程度で席を立った。

 会計はメグがやってくれた。

 

「お兄さんもう行っちゃうんですね」

 

「あぁ、しっかりやってるようだし邪魔しちゃ悪いからな。それにあんまり長居してると貧乏お嬢様がうるさいし」

 

 どうせ聞こえてないだろうと、有宇がシャロを皮肉る。

 シャロはリゼと同じお嬢様学校に通っているらしいが、こうしてアルバイトをしている。お嬢様学校は金持ちの家の世間知らずのお嬢様ばかりいるらしいのだが、シャロはアルバイトもしてるし、そんな感じではない(リゼもそんな感じではないが、ココア達の話によれば、あいつん家は普通に金持ちらしい)。

 それでリゼ同様ココア達に聞いてみたところ、何でもシャロの家はそんな裕福ではないんだとか。しかしまぁ、どうせお嬢様と比べたら裕福じゃないってだけで、実際は一般家庭ぐらいの豊かさはあるんだろうな。まぁ、なんにせよお嬢様と比べたら貧乏だから、貧乏お嬢様ってわけだ。

 

「誰が貧乏お嬢様よ!!」

 

 すると、どうやら有宇の声が聞こえていたのか、遠くからシャロが客前にも関わらず喚いている。

 有宇はそれを平然と無視して店を出た。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 フルールを出た有宇が次に向かうのは、チノと千夜が働く甘兎庵だ。甘兎には実はココアと訪れた以降も何度か来てるし、店の雰囲気は抑えているつもりだ。

 ココアがチノのことを心配していたが、特に問題はないだろう。そしてフルールから歩いて十数分程で甘兎に着いた。ドアを開けるとカランと気持ちのいい音が鳴る。

 

「千夜、邪魔する……」

 

「いらっしゃい……」

 

「うわ!?」

 

 目の前に立っていた千夜があまりにも不気味な雰囲気を漂わせていたため、突然のことに有宇も思わずたじろぐ。目の前の千夜は前髪がダランとしていて少しぼさついており、まるでよくテレビとかから出てくる幽霊のようだった。

 

「どうしたんだよ千夜!?ていうかチノは?」

 

 辺りを見回してもチノの姿は見えなかった。

 

「チノちゃんは今奥で休憩してるわ……」

 

「そ、そうか……」

 

 取り敢えずチノがここにいることが確認できたことに安堵する。

 

「それで、お前はなんでそんな顔してるんだ?貞子かと思ったぞ。接客業なんだからしっかりしろよ」

 

「実はね……シャロちゃんが」

 

「シャロ?あいつがどうかしたのか?さっき会った時は特に変わった様子無く普通に働いてたぞ」

 

 有宇がそう言うと、何故か千夜は先程よりも落ち込んだ雰囲気を漂わせ始める。マジで不気味だからやめてくれ……。

 

「シャロちゃん……やっぱりフルールの方が楽しいのかしら」

 

 千夜がボソリと呟く。

 

「フルール?どういうことなんだよ一体」

 

 そして千夜は何があったかを話した───

 

 

 

「……成る程」

 

 千夜から聞いた話を要約すると、昨日チノにシャロはここで働かないのかと聞かれたので、それとなく誘ってみたはいいけど、シャロの方はフルールの方をエンジョイしているようだったのでショックだった……ということらしい。

 

「つか二人は幼馴染だったんだな」

 

「ええ、昔からの仲良しよ」

 

 あ、なんかちょっと機嫌が良くなった。こういうちょっとしたことですぐ機嫌良くしたり、悪くしたりするところはココアみたいだな。

 

「それで、千夜はどうしたいんだよ。あいつを甘兎で働かせたいのか?」

 

「働かせたいっていうか、一緒に働きたいなって……」

 

「だったら直球でそう言ってみたらいいんじゃないか?それが通るかどうかはあれにしても、あいつだって幼馴染の願いを無下にしたりはしないだろ。確かあいつ今日はシフト早めに終わるみたいだし、この後行ってみたらどうだ?」

 

 有宇がそう言うと、千夜は不気味な雰囲気から一転、握りこぶしを固めてやる気をみせた。

 

「わかったわ、私、やるわ!」

 

「お、おう、頑張れ……」

 

 千夜のやる気ある姿勢に有宇は引き気味でそう答える。

 

「それよりチノの様子見に行っていいか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 千夜はいつもの明るい調子でそう答えると、有宇は甘兎の奥へと入っていった。

 

 

 

 奥に進んでいくと台所が見え、そこにいた気難しそうな婆さんと目があう。

 千夜の婆さん、つまりはこの店の店主だ。なんか気難しそうな婆さんだよな。チヤの父親もここで働いてるそうだが、姿が見えないな。一度ぐらいはどんな人なのか見てみたい気もする。

 そして有宇は千夜の祖母に軽く会釈をして先に進むと、チノの休む客間の前まで来た。

 戸をノックしようとすると、中からチノの声の他に老人の声がする。なんだ、誰か他にいるのか……?

 入るのを躊躇したが、ここで突っ立ってるのもあれだしと思い、有宇は戸をノックした。

 

「チノ、入っていいか?」

 

「お、お兄さん!?ちょ、ちょっと待ってください!!……というわけですのでお爺ちゃん、こっちは大丈夫ですので……」

 

『あ、おいチノ、待たんか、チノ〜』

 

 ブツっと電話が切れる音がして、それから戸が開いた。

 

「すみませんお兄さん、お待たせしてしまって」

 

「いや、それは別にいいんだけど、誰と話してたんだ?」

 

 見たところ、中には誰もいないが……。それに聞き間違いかもしれないが、お爺ちゃんとか言ってたよな。チノの爺さんて確か二年前に亡くなったんだよな……?

 

「えっとその……ふ、腹話術の練習をしていたんです」

 

「そ、そうか……」

 

 なんか色々と怪しいが、まぁ深くは聞かないでおこう。それに前もうさぎで爺さんの真似してたし、深い意味はないだろ。

 

「それよりも随分といい思いしてるじゃないか」

 

 ちゃぶ台の上を見ると、お茶だけではなく最中や羊羹とかの和菓子も置いてあり、ちょっとしたティータイムのようだ。

 

「千夜さんのお婆さんが持ってきてくださったんです」

 

「千夜の婆さん?」

 

 千夜の婆さんってさっきの気難しそうな婆さんだよな……?あれで結構優しい人なのか?

 

「あの、お兄さんはどうしてここに?」

 

「ん?あぁ、ココア達にチノとメグがどんな様子か見てこいって言われてな。さっきフルールにも行ってきたところだ」

 

「そうでしたか、ココアさんがご迷惑を……」

 

「いや、別に気にしなくていい」

 

 そもそも金目当てで引き受けてるから、謝られると逆にこっちが申し訳なくなってくる。

 

「あ、お兄さんもお茶菓子食べますか?」

 

「いいのか?じゃ、遠慮なく」

 

 そして畳に座り込み、ちゃぶ台に置いてあるここのメニューの中でも有宇が特に気に入ってる『琥珀色の三宝珠(みたらし団子)』を手に取り咥える。これがまた実に美味い。毎日食っても飽きないぐらいだ。

 

「お兄さんって和菓子好きなんですか?」

 

 有宇の食べる様子を見てチノが聞いてくる。

 

「まぁな。自分でも甘い物は苦手だと思ってたから驚いている」

 

 実際ここに来るまで甘い物は口にしたくないとさえ思っていたのに、ココアに連れられてここに来てから、和菓子の魅力に取り憑かれてしまったようだ。特にこのみたらし団子は格別だ。……実は週に一回はここに顔を出しに来てたりもする。

 

「……うちより甘兎で働いた方がよかったですか?」

 

「え?」

 

 するとチノは少し頬を膨らませ、少し怒っているかのような様子をみせる。他の店に執着している様子が、チノのラビットハウスの後取りとしての矜持を傷つけてしまったのだろうか?

 

「いや、別にそういうわけじゃないぞ。店のコーヒーもそれなりに気に入ってるし、ラビットハウスにもそれなりに感謝してるつもりだ」

 

 有宇がそう言うと、チノはクスクスと笑い出す。

 

「ふふ、冗談です。言ってみただけです」

 

 この間の一件(詳しくは第八話)からチノとの距離も縮まったが、こんな風に冗談を言うようになるまで縮まるとは思っていなかったので、それが少しうれしくも感じる……が。

 

「年上は揶揄うもんじゃないぞ」

 

 チノの頬を軽く引っ張る。

 

「いひゃいです」

 

 フッと有宇は笑うと、すぐにチノの頬から手を離した。

 こんな風にチノと接していると、歩未と過ごした日々を少し思い出す。チノと歩未じゃ性格とかも色々違うけど、このチノとの距離感は歩未との距離感に通じるものがあると思う。

 それからは有宇は和菓子を口にしながら、チノの様子を見守っていた。チノはというと、ちゃぶ台の上のA4サイズの用紙に必死にむかっていた。

 

「なぁ、さっきから何書いてるんだ?」

 

「職業体験レポートです」

 

「レポートか」

 

 そっか、職業体験だもんな。やっぱそういうのも提出するのか。

 

「お兄さんはやりましたか?職業体験」

 

「そうだな、中学の時はそういうのはなかったような……。でも小学校の時はキッ○ニアとか行ったっけか」

 

「キッ○ニア?」

 

「職業体験が出来る子供用の施設だ。こっちには……ないか」

 

「はい。東京はそういうのもあるんですね」

 

「まぁな。でも実際の職場でしか得られないものだってあるだろうし、一概にそっちの方がいいとはいえないだろうけどな」

 

 チノとそんな風に話してると戸が開き、千夜が現れる。

 

「あら、二人とも仲良さそうね」

 

「あ、千夜さん、お仕事大丈夫そうですか?」

 

「ええ、チノちゃんはレポート進んでるかしら?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 すると有宇が千夜に尋ねる。

 

「そういやシャロのところには行ってきたのか?」

 

「ええ、でもやっぱり直接言うのは恥ずかしくて、手紙に書いて和菓子のお裾分けの中に入れておいたわ」

 

 直球とは言い難いが、それなら多分千夜の思いも伝わっただろう。

 するとそれから三人で部屋にいると、しばらくしてドドドドという足音が聞こえて来る。そして戸が思い切り開き、そこにはシャロが立っていた。

 

「シャロちゃん!」

 

「もーっ、素直に直球で言いなさいよ!そしたら私だって……」

 

 どうやらシャロは手紙の返答に来たようだな。なんだかんだ幼馴染なんだなと有宇は感心した。

 やっぱり話せば通じ……。

 

「直球で返すんだから!」

 

 そういうシャロが手に持っていたのはフルールの制服だった。

 

「変化球じゃねぇか!」

 

 思わずツッコんでしまう。それから有宇は千夜に耳打ちする。

 

(おい、ちゃんと伝えたんじゃないのかよ)

 

(ええ、だからシャロちゃんと同じ制服を着て一緒に働きたいって書いたわ)

 

 あぁ、だからシャロはフルールの制服を持ってきたのか。そりゃその言い方じゃ伝わらないよな。

 すると千夜はシャロから制服を受け取る。

 

「じゃ、ちょっと着替えてくるわ」

 

「って着るのかよ!?」

 

 有宇のツッコミに対し、特に返しもなく千夜は着替えに行った。

 

 

 

「おまたせ〜」

 

 しばらくしてフルールの制服を身に(まと)った千夜が出てきた。それも結構ノリノリの様子で。

 にしてもこうして改めて見ると、千夜は和風美人ではあるが、洋装も中々似合っている。それに着物の上からじゃわかりにくいが、結構スタイルがいいため、制服の如何わしさも増して見える。

 

「お兄さん」

 

「んんっ!」

 

 千夜の制服姿に見惚れていると、千夜をまじまじと見つめていたのをチノに気付かれたようだ。

 チノがジト目で睨んでくるので、取り敢えず咳をして茶を濁しておく。そして本来の目的を思い出し、有宇は再び千夜に耳打ちする。

 

(なぁいいのか?多分フルールで働きたいと勘違いされてるぞ)

 

 すると、そこにチノも加わる。

 

(それに私が着た制服も本当はシャロさんに用意した物だったんですよね?)

 

 そうだったのか?

 チノのここの制服姿をまだ見てないのでなんとも言えないが、もしそうなら尚更誤解を解かなきゃまずいんじゃないか?

 すると千夜はニコッと微笑み、チノと有宇の二人に言う。

 

(でもシャロちゃんを見て。とっても嬉しそう)

 

 千夜にそう言われてシャロの方を見ると、笑顔で嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「もう、うちには絶対興味ないって思ってたのに。しょうがないわね〜」

 

 何をそんなに嬉しそうにしているのだろうか?

 するとチノが僕の疑問を打ち消してくれる。

 

(きっと一緒に働きたいって考えは同じだったんですね)

 

 あぁ、そういうことか。

 僕にはわからない感情だが、思いはシャロにも通じていたってことでいいのだろうか。

 

(まぁ、その気持ちが分かっただけで今は十分だわ)

 

 千夜は笑顔で僕等二人にそっとそう答えた。

 どうやら本人は満足しているようなので、これでいいのだろう。

 

「ふふっ、本当にフルールで働いてみようかしら」

 

「本当にってどういうことよ」

 

「ふふっ、それは……あっ!」

 

 すると突然、千夜の胸のボタンが弾け飛んだ。

 

「……え?」

 

 そして有宇の目には、しっかりと千夜のたわわな胸元が目に入った。

 

「ぎゃー!!あんたは見ちゃダメ!!」

 

 そしてその直後、シャロに目を塞がれる。

 

「ち、千夜さん!早くボタンを!」

 

「それがどっか行っちゃって。ボタンや〜い」

 

 千夜の方は有宇に見られたことなど気にしていない様子だが、有宇の方は内心バクバクだった。

 別に女子の胸を見るのは初めてではないが、こう突然に来られると反応に困る。それに千夜は少なくとも外見は美人だし、僕好みだしな……。

 そして千夜とチノがボタンを探している間に、僕の目を手で覆っているシャロに尋ねる。

 

「なぁシャロ……あの制服のサイズって……」

 

「私と同じよ」

 

「……そうか」

 

 目を手で覆われているので、シャロがどんな表情を浮かべているかはわからないが、おそらく内心はそう穏やかなものではあるまい……。

 普段人の感情に対し鈍い有宇でもそれだけは察することができた。なので有宇はそれ以上深くは聞こうとは思わなかった……。

 

 

 

 しばらくしてボタンも見つかり、千夜は元の制服に着替えに行った。千夜が着替えから戻ってからはチノも仕事に戻り、シャロも千夜から制服を受け取って帰って行った。

 そしてそれからしばらく経つと、空も暗くなり、もういい頃合いだった。

 

「もうこんな時間か。チノ、そろそろ終わるか?」

 

「そうですね。千夜さん、もう上がってもよろしいでしょうか?」

 

「そうね、じゃあご苦労様。また明日もお願いね」

 

 そっか、チノは明日もあるのか。まぁ僕の役目はこれで終わりでいいだろう。特にメグもチノも問題なかったしな。

 ……どちらかというと二人を監督する側に問題があった気はするが、まぁいいだろう。

 

「それじゃあココアさんにも連絡を……」

 

 するとチノは今から帰ることをココアにメールを入れようとしていた。それを見て有宇はふと思いついたことがあった。

 

「ちょっと携帯貸してくれないか?」

 

「どうしてです?」

 

「写真撮ってやるからさ。ほら、千夜と並んだ並んだ」

 

 有宇に言われ、チノは携帯を有宇に手渡し、言われたように千夜の横に立つ。

 

「じゃあなんか適当にポーズ取ってくれ」

 

「ポーズですか!?そんな恥ずかしいこと……」

 

「あ、それじゃあチノちゃん、やって欲しいポーズがあるんだけど」

 

「え!?」

 

 チノの方は恥ずかしげだったが、千夜はノリノリだった。

 

「よし、じゃあハイチーズ」

 

 パシャッ

 

 ポーズをとった二人を写真に収める。

 千夜曰く甘兎庵☆看板姉妹だそうだが、これからすることを考えたら寧ろ好都合というもの。

 有宇は早速撮った写真をチノが送ろうとしていたメールに添付し、チノが打った『今から帰ります』という文章に付け加える形で、〈千夜さん曰く甘兎庵看板姉妹爆誕☆です〉と付け足してココアにメールを送った。

 するとすぐに返信が来る。

 

 〈ラビットハウス新3姉妹で対抗だよ!〉

 

 メールにはリゼとマヤと一緒に写っている写真が添付されていた。

 そんな様子を見てチノが言う。

 

「もう、あんまココアさんからかわないで下さい。後が面倒くさいんですから」

 

「悪い悪い」

 

 何となくココアの事をからかいたくなったのだ。昨日のヴェアアアが結構面白かったもんだからつい。それになんとなく誰かを揶揄いたいという気分だったのだ。

 するとその様子を見ていた千夜がクスクスと笑う。

 

「ふふっ、有宇くん、ラビットハウスにちゃんと馴染んでいるのね」

 

「えっ……?」

 

 僕が……ココア達と馴染んでるだと……?

 

「だって今、有宇くんすごく楽しそうだったから」

 

「そう……か……?」

 

 確かにラビットハウスでの生活にもそれなりに慣れてはきたと思う。それが僕にとっていいことか悪いことかは知らないが。

 でも僕は……楽しいのか?他人より上の存在に立つことでしか優越感を得ることができなかったこの僕が?わからない、だってその楽しいってやつが僕にはいまいち理解できない。僕は……楽しいだろうか?

 そして千夜はそんな僕の曖昧な返答を聞くと、嬉しそうに相も変わらずふふっと笑みを浮かべていた。

 

 

 

 それからチノが着替え終わるのを待ち、チノが着替え終わるとすぐに二人で甘兎を出た。甘兎を出てしばらく歩くと、見知った顔二人と出会った。

 

「アッ、お兄さん、チノちゃん!」

 

「お、チノ、それに有宇にぃも。やっと来た〜」

 

 二人とも職業体験を終えたばかりなのか、マヤとメグはすぐ近くのベンチに座っており、こちらに気付き声をかけてきたのだ。

 

「お前ら、なんでこんなとこにいるんだ?」

 

「チノのこと待ってたんだ〜。有宇にぃ一緒だったんだね」

 

「お前が様子見てこいって言ったんだろ」

 

「そうだったっけ。まぁいいや、途中までだけど一緒に帰ろ?」

 

 マヤがそう誘うと、チノが頷いた。

 

「はい、じゃあ皆さんで帰りましょう」

 

 そして僕等は途中まで四人で帰ることとなった。

 

 

 

 

 

 帰り道、三人はお互い今日それぞれが店で何があったかを話していた。ココアがまた発狂したとか、こういうお客さんがいたとか、そういう他愛のない話だ。

 するとマヤが有宇に言う。

 

「そういや有宇にぃ、ココアが今日も帰り際にヴェアァァァってやってたよ。あのメール書いたの有宇にぃでしょ。あんまココアのこと苛めてやんなよ」

 

「あいつは少し妹離れしたほうがいいんだよ。あれは僕なりの荒療治さ」

 

「え〜本当かな〜」

 

 マヤはニヤニヤしながらそう言う。この様子だと揶揄うのが楽しかったとは言えそうにないな。言ったらまたなんかおちょくられそうだ。

 するとマヤは急にカバンをゴソゴソし始めた。

 

「お、あったあった」

 

 取り出したのは小さい四角い缶だった。

 

「マヤちゃん、それなに?」

 

 メグがそれが何かをマヤに聞く。

 

「ドロップだよ。食べる?」

 

「タベル〜」

 

「じゃあいただきます」

 

 するとメグは赤色のリンゴ味のドロップを、チノは薄青色のスモモ味のドロップをマヤから受け取った。

 

「それじゃあ私も……げ、ハッカだ。有宇にぃあげる」

 

「おい!……まぁいいけど」

 

 別段ハッカ味が苦手というわけではないので、マヤから白色のハッカ味のドロップを受け取る。マヤはというと、有宇にハッカを渡した後、無事青色のサイダー味のドロップを缶から出せたようだ。

 そして四人でドロップを口に入れながら歩く。

 

「オイシイネ〜」

 

「はい、美味しいです」

 

「ランダムに味が楽しめるのがいいよね〜」

 

「お前はリセマラしただろうが」

 

 するとマヤがじーっと有宇を見つめる。

 

「なんだよ」

 

「いや、有宇にぃって大人だなって思ってさ」

 

「大人?」

 

「ハッカが食べれるなんて大人だなって思って。だってハッカとかみんな苦手じゃん。ねぇ」

 

 マヤに振られてメグとチノも答える。

 

「私も苦手かも〜」

 

「私も得意じゃないです……」

 

 二人の答えを聞くと、マヤが「ねっ」と言わんばかりに視線を有宇に向ける。

 それに対して有宇が答える。

 

「あのなぁ、大人だって好き嫌いなんかいくらでもあるぞ。それこそ僕にだってあるし。お前達みたいにそれは大人だ子供だとか決め付けて騒ぐのが子供なんだよ」

 

 有宇がそう言うと、有宇の言葉に三人は感心したようだった。

 

「おお、なんかかっけぇ!」

 

「ソウダネ〜」

 

「今のセリフ大人っぽかったです」

 

「そ、そうか……」

 

 特に意識して言ったわけじゃないんだが、まぁ褒められているようなので素直に受け取っておこう。

 しかしそれにしても僕が大人……ね。

 マヤに大人と言われたことが、何故か腑に落ちなかった。

 地位に拘り、自分勝手に他人を蹴落としたり卑怯な手を使うことも厭わなくて、自分勝手な都合に他人を巻き込んできた。そしてその挙句おじさんと口論して家出までした僕が、もしかしたら一番この中で子供なのかもしれない……。そんな風に有宇は内心考えていた。

 真に大人を名乗るなら、それこそ周りに気を配り、周りを導けるような人間でなければならないのだろう。自分のことしか考えられず、利益を独占しようとする僕にはあまりにも浅ましく、大人とは程遠い存在だ。

 それこそ周りに自分のドロップ缶に入ってるドロップを配れるマヤのような人間が大人だとも言えるだろう。自己の包容力によっていかに他人に奉仕できるか。そこに大人と子の差があるように思えるのだ。要は、僕のようなドロップ缶を独占し、一人で食べるしまうような僕は子供だということだ。

 目の前にいる彼女らは純粋無垢で、まるでカラフルなキャンディーのように個性豊かに輝いて見える。僕といえば無色透明、クセばかり強くて輝けるようなものが何もないこのハッカ飴のようだ。

 もしこいつらのような純水な人間が子供で、僕のような汚れきった考えしか持てない人間が大人だというのなら、大人になんかならない方がいいのかもしれない。

 そんなことを考えていると、マヤが声をかけてくる。

 

「有宇にぃ、どうしたの?」

 

 マヤの声で我に返り、ネガティブな思考を振り払う。

 この街に来たこと自体は、仕事先も見つかって住む場所も見つかって、家出人の僕にとっては良い事ずくめだが、余計なことをあれこれと考えるようになったのだけはいただけないな……。

 そして有宇はマヤの問いに対して、適当にはぐらかして答える。

 

「別に、お前らってキャンディーみたいだなって思っただけだ」

 

「え〜なにそれ〜」

 

「でも確かにそうかも〜」

 

「確かに皆さんイメージカラーがありますし、カラフルなところはそうかもしれませんね」

 

「じゃあ私サイダー」

 

「ワタシリンゴ〜」

 

「私は……色で言うとスモモになるんでしょうか?」

 

 三人は有宇が何となく適当に言った言葉を真剣に考え始めた。面白いと思い有宇もそれに乗っかる。

 

「それだとココアはピンクで苺味。リゼは紫だから葡萄か?千夜は緑だからメロン味、シャロは何となく黄色のイメージあるからレモンってなるな」

 

 有宇がそう言うと、マヤが更に付け加えて言う。

 

「じゃあ有宇にぃは……ハッカ?」

 

 それを聞いて有宇は先程考えていたことを思い出す。

 すると無意識にマヤに尋ね返していた。

 

「……それはクセが強いだけで色がないってことか?」

 

 しかしそれに対しマヤは特に動じることなく答える。

 

「ん?まぁクセは強いけど、でもハッカってスカッとする清涼感があるっていうかさ、スッキリさせてくれるってところあるよね。ほら、有宇にぃって誰に対してもツンツンしてるけど、今となってはなんだかんだいって有宇にぃがいないと寂しいなって思えるし、有宇にぃいないとスッキリしないなって」

 

 マヤの自分は考えなかった意外な答えを聞いて、有宇は愕然とした。

 そうか……そういう考えもあるのか……と。

 クククと有宇は笑いだした。

 

「本当どしたの有宇にぃ?」

 

「いや、何でもない。なんかツボった」

 

「なんだよそれ〜」

 

 フフフとチノとメグも笑い出す。

 僕らはドロップ缶に入ったキャンディーみたいな個性豊かな奴らばかりだけど、それはそれで味があっていいのかもなと有宇は思った。少なくとも、カラフルに彩られたバラバラな個性を持ったこいつらとの日常も悪くないと思えた。

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