幸せになる番(ごちうさ×Charlotte) 作:森永文太郎
話はパン祭り前に戻る。
この日はココア一人でチラシ配りで、チノとリゼの二人と店にいた時のことだった。
「すみません」
客に呼ばれ有宇が接客に向かう。
「ご注文お決まりでしょうか」
「はい、カフェラテ下さい」
「畏まりました」
いつもはこれで終わるはずが、客は更に注文する。
「あ、あとこの店ラテアートやってるって聞いたんですけど?」
「……ラテアート?」
すると後ろのキッチンにいるリゼが有宇のフォローに入る。
「はい、大丈夫ですよ。何を描きましょうか?」
「じゃあ可愛い猫描いてください」
「畏まりました」
客の注文を聞くと、リゼは早速カフェラテを作り始めた。
客がいなくなった後、リゼが有宇に聞く。
「有宇、お前まさかラテアート知らないのか?」
「いや、それぐらい知ってるがこの店でそんなサービスやってるなんて聞いてないぞ」
誤魔化しているとかじゃなく実際そんなの初耳だし。
「父から聞いてませんか?」
有宇に店の仕事を教えたのはマスターなので、チノがそう聞いてくる。
「いや、マスターからもそんな事聞いた覚えは……」
するとチノがため息をする。
「はぁ、お父さん……。すみません父が……」
「いや、別にいいよ」
ていうか教えられる立場の僕がこういうのもあれだが、何でも完璧そうなマスターが教え忘れるなんて珍しいな。
「にしてもお前よくそれで今までやって来たな。ラテアート頼まれることなかったのか?」
「いや、別になかったけど」
「お兄さんのシフトは午前中で、お年寄の人が多い時間帯ですからそんなに頼まれないのかもしれませんね。私達の時間帯でもそんなに頼まれることはありませんし」
成る程、チノの考察は確かに合ってるかもしれない。
年寄りは見かけより味を重視してそうだしな。
それにここに通う年寄りの殆どが前のマスター
───チノの爺さんの頃から通っている人が多い。
チノの爺さんはコーヒーの味にこだわる人だったらしいから、本場イタリアではあまり好まれないアメリカ発祥のカフェラテとかはあまり好んで出さなかったかもしれないので、それもあるかもしれない。
「まぁ要はやり方とかはわからないんだろ?なら今お客もいないし、ちょうどいいから私達が教えるか」
「ああ、さっさと教えてくれ」
「お前……教えてもらう立場なのになんでそんな偉そうなんだ……。まぁいいけど」
まずはカフェラテを作る準備から入る。
マキネッタでエスプレッソを作り、ミルクパンで温めたミルクをミルクジャグに入れ、電動ミルクフローサーで軽く泡立ててフォームドミルクを作ったら準備完了だ。
「さて、じゃあラテアートを作るか…ってどうした?」
有宇を見ると何か言いたそうな顔をしていた。
「いや、前から思ってたんだけどこのラテ作るまでの準備作業面倒くせぇなって。エスプレッソマシン買えよマジで」
「お前な……」
単純にカフェラテ作りが面倒なだけだった。
それにチノも半分同意しながらもこう返す。
「確かにエスプレッソマシンがあれば便利ですね。エスプレッソマシンがあればエスプレッソもフォームドミルクも今よりすぐに出来ますし。ですがエスプレッソマシンはその……お値段がお高いので、取り敢えず今はこれで我慢してください」
エスプレッソマシンはとても高価だ。
今も客がいないようなこの店じゃ手が出せないのだろう。
「まぁそう返されるのはわかってたが。にしてもお前の爺さん、パン用のオーブンとか作るよりそっちに金使えよ」
「まぁお気持ちはわかりますが今それを言っても仕方ないので……。それにマキネッタはマキネッタでエスプレッソマシンとは違った味を楽しむことが出来ますし、これはこれでいいものだと思いますよ」
そういうものなのか?
まぁ今はそういうことにしておこう。
「じゃあ改めてラテアートの作り方を説明するぞ。まずは私がやるから見てろ」
リゼがそう言うので、ジーとピッチャーの注ぎ口を見る。
だがリゼはなかなか注がない。
「……おい」
「いやその……じっと見られると結構恥ずかしいな」
「教える気あんのかお前!?いいからさっさとやってくれよ!」
「すまん……よし、今度こそいくぞ!」
「あぁ」
そしてようやくミルクを注ぎ始める。
「まずはカップを45度、まぁ大体でいいがそれぐらいの角度で持つ。そしたら高いところから深いところへ注ぐ」
そしてある程度注ぐとリゼは注ぐのをやめた。
そしてカップをこちらに見せる。
「これぐらいの量になったら、今度はピッチャーをカップに近づける。そうすればミルクが表面に浮かぶから、これで大まかに描きたい形をつくる。今回は試しにさっき客が頼んだ猫を描くから丸を作るぞ」
そしてカップに白い丸が出来上がった。
「さて、キャンバスが出来たらいよいよ描くぞ。スピードよく終わらせないと表面が崩れるからここからは早くなるからちゃんと見とけよ」
そう言うとリゼはピックを構え、そして次の瞬間、リゼの腕が高速に動き、どんどん絵が完成されていく!
そのあまりのスピードに有宇は目で追うことが出来なかった。
「出来た!」
そして完成されたのは何故か猫ではなく戦車だった。
「いや猫どうした!?つかすげぇなこれ!?しかも早すぎて全然見えなかったぞ!ていうかこれじゃ参考にならねぇよ!?」
色々とツッコミどころが多すぎる。
ツッコミ疲れてゼイゼイと息切れを起こした。
「すまん……つい熱が入ってしまった。まぁ要はピックで周りのクレマをインク代わりに使って絵を描くんだ。もし猫だったら耳とか足りないパーツはピッチャーについてる泡を乗せて足したりも出来る。ほら、やって見ろ」
そう言われて有宇も教えられた通りやってみる。
「……出来た?」
「なんで疑問形なんだ?どれどれ……」
リゼの目の前に描かれていたのは角が生え、目はおどろおどろしい怪物だった。
正直それが元は何を描こうとして出来たのかまるで想像つかなかった。
「有宇……一応聞くがこれは何だ……?」
「……猫だ……おそらく」
「いや、描いてる本人がおそらくとか言っちゃだめだろ!?しかもこれ、ちょっと歪んでないか?」
「仕方ないだろ。描いてるうちに時間が立ったらそんな風になったんだよ。僕は悪くない」
何故か偉そうなくらいに言う有宇だった。
そんな有宇に呆れつつもリゼは言うべきことを言う。
「さっき時間かけたら崩れるって言ったろ!それとあとお前絵心なさすぎだろ!この耳なんか角みたいに尖ってるじゃないか。目も可愛くないしとにかく酷すぎる!よくこれで僕は悪くないとか言えたな!?」
「あぁもううっせぇな、絵なんて碌に描いたことねぇししょうがねぇだろ。こんなの絵心なきゃ無理だろ。他にやり方とかないのか他に」
有宇がそう言うとリゼがミルクのピッチャーを持って言う。
「あるにはあるが、これも難しいぞ。よっと」
そしてリゼはピッチャーを持つ手の動きだけで絵を描き始めた。
そして完成されたカップには、よくテレビとかで見るきれいな葉っぱが描かれていた。
「さっきお前に教えた方法がエッチングっていうんだが、これはフリーポアというやり方だ。今見た通り、手の動きだけで絵を描く。物は試しにやってみろ」
そう言われ早速有宇も挑戦してみる。
まずはハートを描けとリゼに言われたのでハートを描く。
描き方はさらっと教えられたので、それを実践してみる。
「……あっ」
手元がブレて形が崩れる。
「失敗だな」
「クソッ、思ったよりむずいな」
「でもこの方法なら絵心はいらないから練習を積めば何とかなる筈だ」
「じゃあこれを極めればクリアか?」
「いや、客に頼まれるのは猫とか熊とかだけじゃないからな。キャラクターの絵とかも頼まれたりするし、フリーポアはフリーポアで練習するべきだけど、エッチングもちゃんと出来るようにしろよ」
「んだよ面倒くせぇなぁ」
「お前な……」
リゼが有宇に呆れていると、有宇の目はチノの方に向く。
いつの間にかチノも何か描いていたようだ。
「チノはどんな絵を描くんだ?」
そしてカップを覗き込むと、そこにはなんとも形容し難い絵が描かれていた。
別に下手とかいうわけじゃないのだが、なんというかこれは……。
「……キュピズム?」
そう、まるでピカソが描くような、あのよくわからない絵みたいだ。
それが描けるって逆にすごいな…。
「チノのピカソアレンジは結構客にも評判いいぞ」
「まぁ……それはなんかわかる気がする」
こんな絵普通の人間じゃそうそう描けないだろうしな。
リゼと二人でそう言うと、チノが照れる。
「や、やめてください。そんなに褒めても画家にはなりませんよ!」
すごく嬉しそうだった。
別にそこまで褒めてはないのだが……。
チノってたまにこういう変なとこあるよな。
「ココアのやつはどうなんだ。あいつは描けるのか?」
「ココアも最初はそこまでじゃなかったけど、今は結構上達したぞ」
「はい、ココアさんよく練習してますしね。まぁそれか日向ぼっこしてるかって感じですが」
「仕事しろよ……」
ラテアートの練習は良いけど、日向ぼっこって……。
あいつ僕の前じゃそんな様子全然なかったけど、もし僕の目の前で日向ぼっこなんてしようものなら思いっ切りぶん殴ってやりたい。
「まぁ要は練習あるのみってことだ。頑張れ」
リゼにそう諭される。
「んなこと言われてもな……」
練習の度にエスプレッソとミルク作んのって結構めんどくさいしな……。
有宇がそう悩んでいると、チノが有宇にアドバイスする。
「お兄さん、まずはカップで作る前に紙に描いて練習したらいいと思います」
「紙?要はまずは絵心を上げろってことか?そんなすぐに上達できねぇだろ」
「いえ、絵といっても、猫やうさぎもそうですが単純なものが多いので。ですから紙で見本を見ながらでもいいので描いて形を覚えて、それからカップで練習した方がいいと思います」
成る程、本当に要は慣れろってことか。
ひとまずその後はフリーポアでの描き方を練習してこの日のラテアート練習は終わった。
その日の夜、有宇は早速紙で練習をしてみた。
リゼに見本を描いてもらい、それを見ながら描いていく。
そうやって机に向かっていると、ドアがトントンとノックされる。
「どうぞ」
チノかマスターだろうと思っていたのに、入ってきたのは意外にもココアだった。
「んだよお前かよ……」
「ちゃんとノックしたのにひどい!」
「それでなんの用だ」
そう聞くと、ココアは有宇の机をジロジロと見始めた。
「なんだよ」
「ううん、ちゃんと練習してたんだなって思って。えらいえらい」
そう言うとココアは有宇の頭を撫でてくる。
相変わらず姉ぶりたいようだ。
「ええいやめろ、髪が乱れる!つか用はそれだけか?見ての通り練習中だ。さっさと部屋に戻れ」
「あ、待って待って。あのね、手伝おうと思って」
「手伝う?何を?」
一人で紙に描いて覚えてるだけだというのに、何をどうやって手伝うというのか。
「まぁまぁ、ひとまずその紙持って下に行こ♪」
そう言われひとまず紙を持って下の二階に降りる。
そしてキッチンの方へ連れて行かれた。
「おい、結局手伝うってなんなんだよ。ってこれ……」
キッチンにおいて目にしたのは、テーブルの上のマキネッタとミルクが入ったピッチャーだった。
「さぁ、それじゃあ早速練習してみよう!」
成る程、手伝うってこういうことか。
まさかここまでやるとは……。
「付き合ってくれるっていうのか?多分すぐには成功しないと思うぞ」
有宇がそう聞くと笑顔で胸を張ってに答える。
「大丈夫!夜は長いんだしとことん付き合うよ!頑張る弟をサポートするのはお姉ちゃんの役目だからね!」
相変わらずこいつはお人好しというか単純というかなんというか……。
だけど今はその親切がすこしありがたかった。
「じゃあその……頼む」
「うん!」
こうして夜の間中、二人してラテアートをひたすら作っていた。
失敗したら二人で飲んで、また新しく作る。
それをひたすら繰り返した。
そしてたまにココアがココアなりにアドバイスしてくれたり、作ってみせたりしてくれた。
「えっへん!どう有宇くん、すごいでしょ!」
カップには見事にきれいな花みたいな奴をフリーポアとエッチングを上手く使って描かれていた。
リゼが上達したとか言ってたけど、ここまで上手いとは思わなかった。
「あぁ、お前にしてはすごいな」
「私にしてはってどういうこと!?もう、ほら有宇くんももう一度やってみて」
「はいはい」
そんなこんなで試行錯誤し夜中の1時を回った時だった。
「……出来た!」
ようやく我ながら可愛らしい猫が描けた。
これならリゼに見せても問題ない筈だ。
「見てくれココア、やっと出来たぞ!……って」
ココアの方を見ると、机にうつ伏せて寝ていた。
もう1時だし無理はないか。
まぁそれにしてもこいつ、本当良く寝るよな。
普段だって結構早くに寝てる筈なのに朝全然起きれないし、休みの日なんかは結構昼寝してる姿も見られる。
気疲れしやすいタイプなのだろうか?
ここで寝かすのもあれだし起こそうとも思ったけど、ここまで付き合ってくれたのに無理に起こすのもなぁ。
するとココアが何か寝言を言っているようなので有宇は耳を澄ます。
「有宇くん……上手に描けたね……zzz」
それを聞いて有宇も思わず微笑む。
どうやら夢の中でしっかり見ていてくれたようだ。
そして有宇はココアを起こさないようにゆっくりとココアを背中に抱えて階段を登り、ココアの部屋まで行く。
そしてベッドにココアを降ろし、布団をかける。
「お休み、姉さん」
そう一言残し、静かにココアの部屋を出た。
次の日、今日はチラシも配り終え、四人で仕事をしている。
そして今、有宇がチラシを渡した女の子がやって来ていた。
「ご注文はお決まりですか?」
「あの……カフェラテお願いします」
「畏まりました」
「あ、あの店員さん……// ラテアートってここやってますか?」
「ええ、やってますよ」
「じゃあその……お願いします」
「何か絵柄のリクエストはありますか?」
「その……ハートを……きゃっ……!」
僕に気があるのが丸分かりだな。
そう思ったが口にはせず、リゼとチノに注文を通す。
すると客が更にこう付け足す。
「あ、あの……できればラテアートはお兄さんに描いて欲しい……な……//」
まぁ、さっきの様子だと当然そうなるよな。
「畏まりました」
注文を受け、有宇もキッチンに入る。
するとリゼが小声で耳打ちする。
(おい有宇、大丈夫か?まだ一日しか経ってないし描けないだろ)
「大丈夫だ」
「けど……」
それでもと心配するリゼにココアが言う。
「まぁまぁリゼちゃん。有宇くんに任せて」
「え?うん……」
ココアに諭され、リゼも有宇を見守ることに。
そして有宇はラテアートを作り始める。
昨日の練習通りに……。
慎重に、だけど素早く……。
そして見事、ハートを作ることが出来た。
しかしハートはフリーポアで作れるので、せっかくエッチングも練習したのに物足りなかった。
そう思い少し付け足しもして、完成した。
「お待たせしました」
そうして出されたカップには、中央にフリーポアで描いたハートが描かれており、さらに左端の方に小さいハートが3つ付いていた。
これはエッチングの要領で、ミルクの泡を小さく3つ付け足し真ん中をピックで線引いて作った。
更にこのままだと、僕も客の女に好意を抱いていると勘違いされかねないので、中央のハートにも可愛く顔を描いて、悪魔で業務的に接してることをそれとなく示した。
しかし調子乗って色々アレンジしてしまったが大丈夫か?と思ったが、客の反応は良かった。
「わぁ可愛い……!ちっちゃくハートが3つ付いてる!ハートについてる顔も可愛い!」
「喜んでいただけたなら良かったです」
本心か営業スマイルか、そう答える有宇の顔は微笑んでいた。
そしてそんな様子を見て、ココア達三人も思わず微笑んだ。
客達が帰った後、ココア達が有宇に詰め寄る。
「有宇、なかなかやるじゃないか!一日であんなに上達するなんて」
「はい、なかなか良かったと思います」
「でしょでしょ!」
「……なんでココアさんが自慢げなんですか?」
チノのココアに向けてのツッコミに対して、有宇が事情を話す。
「えっとだな……実は昨日ココアにラテアートの練習に付き合ってもらってな。まぁその……ココアのおかげっていうのは間違いじゃない」
そう言うと、チノとリゼがぽかんと口を開ける。
いい加減この反応にも慣れてきた頃だ。
「お前ら……どうせ僕が素直に感謝を示すなんて珍しいとでも思ってるだろ」
「あぁ、その通りだ」
「はい。よくわかりましたね」
「……僕だって助けられたら礼ぐらい言うし感謝だってするぞ」
するとココアの方を見ると、見るからに両手を頬にあてて気持ち悪いぐらいにニンマリと微笑み喜んでいるようだ。
「えへへ〜。もう有宇くん、お姉ちゃんにそんなお礼だなんていいのに〜」
こいつ、本当すぐ調子に乗るな……なんか自然と感謝する気が失せる。
するとココアが思い出したかのように言う。
「あ、そういえば夜ベッドに運んでくれたの有宇くんだよね。昨日途中で机で寝ちゃったのに朝起きたらベッドにいたからビックリしたよ。朝は寝ぼけてて気づかなくて言えなかったけどありがとね」
「別に、まぁ手伝ってくれんのは助かるけど無理はすんなよ。そこまでして手伝って貰いたいわけじゃないし」
有宇がそう言うと、チノとリゼが二人してニヤニヤする。
「ツンデレだな」
「ツンデレですね」
「デレてなどない!」
するとココアが更に思い出したかのように聞く。
「デレといえばそういえば昨日、誰かにお姉ちゃんって呼ばれた気がするよ。もしかして有宇くん、私のことお姉ちゃんって呼んだりしてない?」
「呼んでない!気のせいだ!」
有宇が焦って即答すると、その様子を見てリゼが怪しむ。
「なんか焦ってないか?」
「焦ってなどいない!」
「怪しいです」
「チノまで!?」
ったく、聞こえてないと思ったのに……。
一応その場は何とかごまかした。
認めたら多分、これから面倒になるだろうからな。
それについ気分に押されてあんな世迷い言を呟いてしまったが、別に本心から行ったわけじゃない。
にしても寝てると思ったのに姉と呼ばれたことだけは覚えているとは……ココア恐るべし。
でもまぁ、僕に妹はいるけど兄や姉なんてのはいないから、こういうのはちょっと新鮮だったのは確かだった。
「そういえばお兄さん、さっきカフェ・ド・マンシーをしていましたが、そっちは出来るんですね」
さっき間での姉騒動が一段落すると、チノがそんなことを聞いてくる。
「カフェドマンシー?あぁ、コーヒー占いのことか」
カフェ・ド・マンシーとは、要はコーヒー占いだ。
カップの底に出来たコーヒーの模様で占うのだ。
さっきカフェラテを注文した客に頼まれ占ってやったのだ。
「お兄さん占いなんて出来たんですね」
「いや全然」
「え?」
有宇の反応にチノが驚く。
「カップの底見て占うっていうのは知ってるけど、占い方なんて知らん。けど適当に客が喜ぶ運勢言うとこれが結構うけるんだよな〜。特に若い女性客、ころっと騙されて喜んで気分よくしてくれるから本当便利だよな、カフェド……マンシー?」
有宇がそう言うと、ム〜とチノが頬を膨らませる。
「えっと……どうした?」
「乙坂さんにカフェ・ド・マンシーを語る資格はありません!」
そう言うとチノはプイッとそっぽ向いてしまった。
呼び方も乙坂さんに戻ってるし、相当ご立腹のようだ。
「なにキレてんだよチノ、別にたかが占いだろ?占いなんて実際本当に当たるわけでもないし、適当にいい事言って客を喜ばせて集客に繋げた方がいいじゃないか」
そう言うと有宇に再び向き直り、キッと睨みつける。
「カフェ・ド・マンシーを舐めないでください!本場トルコの占い師はかなり正確にその人の未来を占うことが出来ますし、お祖父ちゃんのカフェ・ド・マンシーも当たりすぎて怖いと有名でした」
チノがそう力説するが、有宇は信じようともしない。
「はっ、どうせただの性格診断みたいなやつだろ?バーナム効果に決まってる」
有宇がそう言うと、どこからともなくジジイの声が聞こえる。
『なんじゃと貴様!わしを舐めおって!』
「おおっ!チノちゃんの腹話術」
「なんか久しぶりに聞いたな」
あぁ、そういやそんなこと出来たんだっけか。
でもなんとなくだが、チノの背より高いところから聞こえた気がするのは気のせいだろうか?
すると今度は腹話術じゃなく、いつもの声で有宇に言う。
「いいでしょう、なら今ここで乙坂さんを占ってあげます」
「え?」
するとチノはそう言うと、サイフォンでコーヒーを作り出した。
そして出来上がったコーヒーを有宇に差し出す。
「本当にやるのかよ……」
するとココアとリゼが他人事のように言う。
「チノちゃんが熱くなってる!」
「あぁ、チノがこんなに燃えるなんて珍しいな」
「さぁ、乙坂さん!飲んでください!」
仕方ないので言われるがままにコーヒーを飲み干す。
そして飲み終えたカップをチノに渡すと、頭の上にいる毛玉うさぎに見えるようにカップを持った。
「おい、それで見えるのか?」
するとココアが口を挟む。
「フッフッフ、有宇くん甘く見ちゃいけないよ。ティッピーの占いはよく当たるんだから」
「いや、うさぎが占えるわけ無いだろ」
そんなことを言ってる間に結果が出たようで、チノが腹話術の声で占いの結果を言う。
『小僧、お前さんは近いうち……数日のうちに命を脅かせれる危険に会うじゃろう』
「命の危機ね……フッ」
バカらしい、命の危機なんてそんな事そうそう起りえないのに当たるわけないじゃないか。
あまりにもバカらしいと笑う有宇だったが、周りの三人はものすごい驚いた顔をしていた。
まるで占いが本当に当たるかのように。
「なに本気にしてんだよ。あれだろ、チノが躍起になって適当に言ったことだろ?てかなんでチノも驚いてんだよ。」
「有宇、お前とは短い付き合いだったな」
「有宇くん……私、有宇くんの事忘れないよ」
「お兄さん……その、さっきは怒ってすみません。お兄さんのこと……私、忘れません」
ハハッ……まさかな。
僕を驚かせようとしてるだけ……だよな?
だがその数日後、占い通りリゼ邸にてリゼの父親に殺されそうになることになろうとは、この時の有宇は知る由もなかった。