幸せになる番(ごちうさ×Charlotte)   作:森永文太郎

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第15話、傘を届けに

6月ももう終わりという時期に差し掛かる今日この頃。

6月は梅雨の時期なんて言われているが、特に雨が降ることなく、このまま終わるのかと思ったのだが……

 

 

 

 

 

「うわ〜すごい雨ですね」

 

乙坂有宇がラビットハウスでいつものようにアルバイトをしていると、突然物凄い勢いで雨が降りだした。

朝はあんなに晴れていたというのに、先程から空模様が変わり始め、そして一気に大雨へと変わったのだ。

そして一緒に働く店主のマスターは、学校に行った二人を心配していた。

 

「チノとココアくんが心配だな。二人とも傘を持っていなかったからね」

 

うちは一階にあるキッチンとは別にある二階のキッチンでいつも食事を取るのだが、そこにはテレビがおいていないので、朝に天気予報の確認をすることが出来ないのだ。

なので朝は晴れていたからと二人は傘を持っては行かなかった。

 

「若いんですし濡れても大丈夫ですよ。ま、帰ったら速攻風呂に入れますが」

 

有宇は特に二人の心配などはしていなかった。

それどころかバカは風引かないだろなどとすら思っていた。

するとマスターは時計を一瞥すると、有宇に言う。

 

「そろそろチノとココア君も学校が終わる頃だろう。有宇くん、もう上がっていいから二人に傘を届けに行ってくれないか」

 

それを聞いて有宇はギョッとした。

雨の中外に出るという行為だけでも面倒くさいのに、この大雨の中チノとココア、二人の学校までわざわざ行くとなると、少なからず濡れることになるだろうし、その疲労感も半端ないだろう。

それならまだあいつらが帰ってくるまでここで働いていたほうがずっとマシである。

だが……。

 

「えっと……わかりました」

 

ヘタレな有宇は、居候身分という立場上断ることが出来なかった。

でもある程度は譲歩してみようと努力してみる。

 

「でも今から歩いて行ったらせいぜいどっちかの学校に行くのが精一杯かと……」

 

「庭にココア君の自転車がある。私の合羽を貸すからそれを着て乗り給え」

 

「は、はぁ……」

 

結局マスターに押し切られ、両方の学校に傘を届けることになってしまった。

一応自転車という乗り物が手に入っただけ無駄ではなかったが……。

つか庭にあったピンクの自転車、いつも洗濯物干すときに誰のなんだと気にはなっていたがココアのだったとは。

あいつが自転車に乗ってるところ見たことないんだが……まぁいい、そうと分かればこれからは勝手に使わせてもらおう。

そして有宇はマスターから黒いレインコートを借りて、それを着ると、傘を五本傘立てから取り出し外へ出た。

 

 

 

 

 

『何を笑っているんじゃ息子よ』

 

有宇が去った後、フッと笑うタカヒロにティッピーが言った。

 

「わからないか親父、私は二人に傘を届けて欲しいと彼に頼んだんだ。だが彼は傘を五本持っていった。そしてチノの学校にはマヤくんとメグくんが、ココアくんの学校には千夜くんがいる」

 

『成る程、少しはあの小僧も他人に気が回せるようになった……ということじゃな』

 

ティッピーの言葉に対し、タカヒロは何も言わず、ただ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

一方有宇は、自転車の持ち手のところに傘を五本掛けながら必死にペダルを漕いでいた。

そしてまずは家から近いチノの学校に向かっていた。

椅子の位置を調整し忘れて、椅子がココアの座る高さになっているので、ただでさえ持ち手にかかってる傘が足にバンバン当たってくることもあり、とても漕ぎにくかった。

途中で椅子の位置をなおそうかとも思ったが、雨の中その作業をやるのは面倒くさいし、別に乗れないということもないのでそのまま自転車に乗り続けた。

 

 

 

 

 

チノの学校につくと警備員に事情を話し、校門の前でチノを待つ。

待ってる間、警備員のおっさんと話したり、学校をボーっと眺めていた。

にしても見てて思うんだが、いつ見てもあの某映画の魔法学校のようなところである。

城のような外観、でかい表門、そして後者の真ん中にはでかい鐘がかけられている。

ココア達の学校もまるで一流大学みたいに広く、陽野森高校にも劣らないぐらい立派な学校だ。

リゼ達の学校にいたっては、もうそれこそ比べ物にならないぐらい広い。

もしかしなくてもだが、この辺の学校って結構な優良校だったりするのか……?

そんなことを考えていると、生徒達が次々と門を通って帰っていく。

そろそろ来る頃合いかなと思い、校舎の方を見ると、チノの姿が見えた。

警備員に入っていいか許可を取り、門の中に入って、校舎の出入り口で雨を凌いでいるいつもの三人組に声をかける。

 

「お〜い、チノ、マヤ、メグ」

 

すると三人も有宇に気づき、口々に話しかける。

 

「お兄さん!?なんでここにいるんですか?」

 

「お、有宇にぃ!」

 

「オニイサンダ〜!」

 

「なんでって、マスターに言われてお前らに傘届けに来たんだよ。ほら、マヤとメグも」

 

有宇はそう言うと三人に傘を渡す。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「ありがと有宇にぃ!」

 

そしてメグにも傘を渡そうとするが、よく見るとメグは折りたたみ傘を手に持っていた。

 

「ごめんなさい、いつも入れてて……」

 

「いや、謝らなくていい!寧ろその方がいいんだから。偉いぞ、メグ」

 

有宇がそう言うと、メグは顔を赤らめながらエヘヘと笑みを見せる。

 

「それじゃあ僕は行くから」

 

「あれ?一緒に帰らないんですか?」

 

「まだココアに届けてないからな。じゃあな……あ、マヤ、傘は明日チノに返しておけよ。それじゃあ」

 

そう言うと有宇は門めがけて走っていった。

有宇が視界から消えると、マヤが言う。

 

「有宇にぃ頑張ってるね〜」

 

メグとチノもマヤの言葉に相槌をうつ。

 

「ウン、優しいよね〜お兄さん」

 

「そうですね、いつも助けて頂いてます」

 

するとマヤがチノに聞く。

 

「有宇にぃ来てからもう一ヶ月くらい経つんだっけ?」

 

「そうですね。6月に入ってからですので、そろそろ一ヶ月経ちますね」

 

「そっか〜。最初はなんかもう私達とココア達で全員って感じだったのに、なんかもう有宇にぃがいるのも当たり前になってきた気がするな〜」

 

マヤの言葉に、チノも笑みを浮かべながら答える。

 

「そうですね」

 

 

 

 

 

チノ達の学校を出てから数分後、ココア達の学校につく。

着くとちょうどよく、二人で一つの傘に入る千夜とココアが門から出てきた。

 

「あれ、有宇くん?なんでここにいるの?」

 

「こんにちは有宇くん」

 

こちらが声をかけるより先に、向こうから声をかけてくる。

 

「傘を届けに来たんだ。ほら」

 

ココアに傘を手渡す。

 

「おお、これはどうも」

 

「千夜は傘持ってきてたんだな」

 

有宇がそう聞くと、千夜はいつもみたく笑みを絶やさず答える。

 

「ええ、今朝天気予報で出てたから」

 

「ココア達も天気予報ぐらい自分で確認しておけよ。僕がこうやって苦労するんだから」

 

「エヘヘ、ごめんごめん」

 

そして有宇は再び自転車に(またが)る。

 

「じゃ、僕は行くから」

 

「え〜一緒に行こうよ〜」

 

「嫌だ、面倒くさい」

 

わざわざ自転車から降りて、何故こいつらと歩いて帰らなきゃならない。

すると千夜がココアに助け舟を出す。

 

「まぁまぁ有宇くん、一緒に帰ってあげたら?この後もう仕事もないんでしょ?」

 

「まぁ……そうだけど」

 

「それにこうやって一緒に帰ることなんて滅多にないじゃない?なら今日だけでも付き合ってあげたら?」

 

そこまで言われると、流石の有宇も断り辛くなってしまった。

 

「……わかった」

 

有宇がそう言うと、ココアの顔がパァッと笑顔になった。

 

 

 

 

 

「そういえばそろそろ夏だけど、ラビットハウスさんは夏のメニューとかもう決めたのかしら?」

 

三人で歩いていると、千夜がそんなことを聞いてくる。

 

「ううん、まだだよ。冷やしコーヒー(アイスコーヒー)は当然として、有宇くん他に何かある?」

 

「そうだな……カフェで夏っていったらアフォガードとかジェラートとかかな?」

 

「アホガード?」

 

「アフォガードな。それじゃ単にアホな奴が身を守ってるだけだろ」

 

ココアのアホな発言にツッコミを入れる。

 

「アフォガードっていうのは溺れるって意味だ。確かジェラートがエスプレッソに溺れているというところから名付けられた……みたいなはずだった気がする。塩をひとつまみ入れてやるとより美味しくなるんだよなぁ……。まぁ、うちにはジェラートを作るマシンとかないからちょっと厳しいかもしれないが。千夜のところは何かやるのか?」

 

「うちはかき氷とかいいかなって」

 

「かき氷か〜いいね、うちもやろうか有宇くん」

 

「まぁいいとは思うけど、メニューはやっぱり他の面子(メンツ)と話し合ってから決めないとな」

 

そんな風に三人で話していると、道がふた手に分かれるところに着き、そこで千夜が言う。

 

「あ、私はこっちだから。じゃあまたね、有宇くん、ココアちゃん」

 

「じゃあね〜千夜ちゃん。また明日〜」

 

「あぁ、じゃあな」

 

千夜に別れの挨拶をして別れた。

千夜と別れると、当然二人きりになる。するとココアが有宇の右手にしがみつく。

 

「おわっ!……いきなりなんだ」

 

「えへへ、弟と相合傘っていうのも悪くないかなって」

 

「わかったから離れろ。しがみつく必要はないだろ」

 

そう言うと有宇は掴まれた右手でココアを振り払う。

 

「もう、お姉ちゃんに恥ずかしがらなくてもいいのに」

 

「お前はもうちょっとそういうとこ気をつけたほうがいいぞ……」

 

「え、どういうこと?」

 

「何でもない……」

 

僕以外の男にこんなことやったら、気があると思われるぞほんと……。

それに僕だってこいつの過度なスキンシップに何も感じてないわけではないしな……。

ココアの無防備さに、流石に少し心配になる有宇だった。

 

 

 

 

 

有宇に振り払われた後もココアは相合傘を続けていた。

しかし有宇の方が圧倒的に背が高いので、ココアはつま先立ちになっていた。

どうせ辛くなってすぐやめるだろうと思って放っておいていたのだが、本人は意地でも続けるつもりらしい。

 

「はぁ……ったく、仕方ないな。ほら」

 

見兼ねた有宇はそう言うと、右手をココアに差し出す。

するとココアは差し出された有宇の手に自分の手をおいた。

 

「お手じゃねぇよ!傘貸せってことだよ!」

 

「ああ、そういうことね」

 

そしてココアから傘を受け取る。

 

「ありがとね有宇くん。頼りになる弟でお姉ちゃん嬉しいよ」

 

「は、勝手に言ってろ」

 

もはや弟だとか姉だとかを否定する気にはならない。

にしてもさっきからニコニコと随分と嬉しそうにしている。

何がそんなに嬉しいのだろうと思い聞いてみる。

 

「何をそんなに嬉しそうにしてるんだ、ココア」

 

「え〜だって有宇くんとこうやって一緒に歩くことってそんなにないじゃない?こうやって一緒にいられるなら雨も悪くないな〜って」

 

そう言われるとそうかもしれない。

普段ココアと会うのなんて朝と夕飯の時ぐらいだしな。

それ以外だとラパンのアニメを見るときぐらいか。

なんにせよココアとは家でしか一緒にいることがない。

別段僕としては一緒にいたいと思うことはないけど、確かにちょっと新鮮かもしれない。

すると突然こんなことを聞いてくる。

 

「そういえば雨乞いってどうやってやるんだろう?」

 

「なんだ唐突に……」

 

ほんと脈略を得ないな。

 

「雨が降れば有宇くんと一緒に帰れるなら、雨乞いをマスターすればいいのかなって。どうやればいいと思う?」

 

「……火でも起こせば?」

 

適当に答える。

するとココアは有宇の返事を真面目に受けたのか、「そうか……火か……」などと真面目に思案していた。

 

「頼むから火事だけは起こすなよ?」

 

一応注意しておく。

それに、別に火なんか起こさなくたってなぁ……。

 

「……別に散歩ぐらいなら付き合ってやるぞ」

 

「え、なんか言った?」

 

「……何でもない」

 

どうやら有宇の言葉は雨の音に呑まれてココアには届かなかったようだ。

でもまぁ……なんか嬉しそうだし別にいいか。

すると雨の音が止み、雲の間から光がさす。

 

「おお、晴れたね」

 

「あぁ、そうだな」

 

「あの光の差し込み方は天使の階段っていうんだって。前に千夜ちゃんが言ってたの」

 

「へぇ〜ロマンチックだな」

 

「でも私は、おてんとさんの鼻水って昔教わったんだけどね」

 

「……台無しだよ」

 

するとココアが遠くで何かを見つける。

 

「あ、駄菓子屋さんだ。有宇くん、晴れたことだしアイスキャンディーでも買ってこうよ!私、奢っちゃうよ〜」

 

確かにココアの目先には何かの店と思しき一軒家がある。

駄菓子屋といっても東京とかの下町にある古ぼけた駄菓子屋などではなく、洋装の木組みの建物である。

すると、ココアは有宇の差した傘から抜け出し走り出した。

 

「おい、地面はまだ濡れてるんだから走ると危ないぞ」

 

そう言って有宇も、走って遠くにあるココアの背を追っていった。

 

 

 

 

 

─────そんな出来事から数日後。

 

「ここが……ラビットハウスですか」

 

その日、ある少女がラビットハウスの前に立っていた。

携帯が鳴り、少女は携帯に出る。

 

『もしもし友利さん、高城です。木組みの街にはもう着きましたか?』

 

「はい、着きました。これからターゲット───乙坂有宇に接触します」

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