幸せになる番(ごちうさ×Charlotte)   作:森永文太郎

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第30話、対決!リトルバスターズ!(後編)

 あれから試合は進み9回表。

 有宇達は泥酔シャロの活躍などもあり、なんとかこれ以上の失点をすることなくここまで持ち堪えてきたが、未だにリトルバスターズから一点すら取ることが出来ていなかった。もうこの回でなんとしてでも最低3点はもぎ取らなければ有宇達の敗北が決定する。

 奥の手である僕の能力も何故か連中には効かないし、このままじゃまずい!なんとかしないと……!

 この回で巻き返さなければならないことに、有宇は焦りを感じていた。

 

 

 

 そして迎える9回表、こちらのバッターは5番メグだ。

 メグ含むチノ、マヤ、メグのチビ3人(三人曰くチマメ隊?)は年下ハンデとして、相手ピッチャー(この場合恭介)は下投げで投げるという特別ルールが敷かれている。おまけに三人ともチビのおかげでストライクゾーンが狭く、恭介からしたらとても投げ辛い相手なのだ。それらのおかげで、三人は恭介の豪速球を前にしても三振するようなこともなく、比較的打率が高かったりする。実際ここまでの試合では、3人のおかげで結構いいとこまでいけるにはいけていた。一番の不安要素であるかと思われたこの三人が、意外にも僕らの頼りの綱なのだ。

 そして見事、期待通りメグがヒットを打ち一塁へ歩を進めた。

 

「ナイスメグ!」

 

「エヘヘ〜」

 

 マヤの声援にメグは笑顔を浮かべる。取り敢えず一安心ではあるが、点を取れなければ意味がない。なんとかこのままの勢いが続いて欲しいところだ。

 そしてメグの次のバッターは6番ココア。ココアは打率低めなので、死ぬ気で送りバントするよう指示した。

 

「うん、大丈夫!お姉ちゃんに任せなさ〜い!」

 

 などとココアはいつものようにほざいていたが、特に目立った活躍をしていたわけでもないので、信頼など微塵もしていない。塁に進めたらラッキー程度にしか考えていない。

 ココアは決して運動神経が悪い訳じゃないと思うが、腕の力が弱いというか何というか、とにかく振る力が弱い。だからボールが来ると判断してから振っても、いまいち勢いがないので、結果的に振り遅れてストライクになってしまう。

 それでさっきから早めに振るよう意識しろと言ったのだが、まぁ、そう言われてすぐ上手く実行することもできず三振したわけだ。

 そしてココアがバッターボックスに立つ。それから有宇に言われた通り送りバントの姿勢になる。

 一球目、恭介が大きく振りかぶって投げる。ココアは頑張ってバットに当てようとする。しかし、ボールがバットに当たる前に急速に曲がりストライクゾーンに収まる。

 

「うぇっ!?なに今の!?」

 

 突然の変化球にココアが驚きの声を上げる。

 

「ふっスライニャーさ」

 

「いや、スライダーだろ」

 

 恭介のボケに有宇がツッコむ。

 

「いや、スライニャーでいいのさ」

 

「?」

 

 よくわからん……。いや、それよりもまたしてもやられたな。

 さっきまでストレートしか投げていなかったから大丈夫かと思っていたのだが、やはり変化球も投げられたのか……。

 ココアがダメというより、やはり相手ピッチャーの恭介がかなり上手いのだ。単に速い球を投げるだけでなく、状況に応じた変化球を投げれる。相当厄介だ。

 

(やはりだめか……)

 

 有宇がそう思った時だった。

 

「よ〜し、まだまだ!」

 

 ココアは笑いながらそう言って自らを鼓舞する。まだココアは諦めてはいないようで、その目にはまだ闘志が残っている。

 

「あいつ……よくもまぁあんな見事にしてやられたってのに、平気でいられるよな……」

 

 バカなのか?いや、そんなの元々わかってることだが。

 それから二球目、ココアは再びバントの姿勢を取る。そして恭介が振りかぶって投げる。すると……!

 

「当たれぇぇぇ!!」

 

 ココアがバッターボックスギリギリのところまで勢い良く飛び出し、バットにボールを無理やり当てにいった。

 

「なに!?」

 

 これには恭介も驚きの声を上げる。

 そしてボールが曲がる前に見事、バットにボールを当てた。

 ココアはその勢いで地べたに突っ伏してしまうものの、その間にメグが二塁へと歩を進めた。結果的にココアはアウトだが、メグを二塁に出すことに成功した。

 

「エヘヘ、上手くいったかな?」

 

 そう言いながら、服に土と雑草をつけたココアがベンチに戻ってくる。

 

「ナイスだココア」

 

「やるじゃんココア」

 

「ココアちゃん凄いわ」

 

「ココアさん、やりましたね」

 

 ベンチの他の面々が次々にココアを褒める。

 

「ココアちゃーん、アリガトー!」

 

 そして遠くの二塁にいるメグもココアに賛辞を送る。ココアの方は皆に褒められ嬉しそうに「エヘヘ」といつものようにニヤけていた。

 それからココアは有宇の方を見る。

 

「どうだったかな有宇くん」

 

「えっ……?あ、えっと……まぁ、よくやった」

 

 ココアに突然尋ねられたせいか、少しキョドりながら有宇はそう答えた。

 

「やったー!有宇くんに褒められた!」

 

 するとココアは有宇にほめられたのが嬉しかったのか、その場で飛び跳ねながら喜んだ。

 

「楽しそうだな……」

 

 喜ぶココアを傍目につい心の声が漏れる。

 

「うん、だってやっと活躍できたんだもん!嬉しいし楽しいに決まってるよ!」

 

 まぁそりゃそうかもしれないが、お前自身はアウトなんだけどな。それに、メグが二塁に進んだところで不利な状況は未だ変わってないしな。

 

「有宇くんはなんかさっきからつまらなそうにしてるね。楽しくない?」

 

 ココアのその質問でふと、さっき恭介の質問を思い出す。

 

『なぁ乙坂、お前楽しんでるか?』

 

 ったく、どいつもこいつもおんなじようなこと言いやがって……。

 そして有宇はさっき恭介に答えたように素っ気なく答えた。

 

「別に。今負けてるし」

 

 すると予想通りの反応がココアから返ってくる。

 

「え〜楽しまなきゃだめだよ〜」

 

 しかし有宇は依然態度を変えずこう返す。

 

「あのなぁ、スポーツなんて勝負だぞ。勝たなきゃ意味ない。そして今僕らは負けている。楽しむヒマなんぞどこにある?」

 

 楽しむなんてのは余裕のある奴がやることだ。負けてる奴に楽しむ余裕などないし、負けてる奴がヘラヘラ楽しむところなど見ていて滑稽で格好悪い。

 有宇がそう自分の考えを述べると、ココアがいつもの軽い調子で答える。

 

「そりゃ危機感を持つことは大事だけど、でも勝ち負けしか考えないのはつまらないよ」

 

「つまらないって、これは勝負だぞ」

 

「だからこそだよ。勝てば嬉しいし負ければ悔しい、どっちに転ぶかわからないそのドキドキを楽しまなきゃ。勝ち負けはっきり別れるスポーツだからこその醍醐味だと思うんだ」

 

「醍醐味……」

 

「うん、だから有宇くんももっと純粋に楽しもうよ。負けることを怖がってたって勝てるわけじゃないんだし、それだったら楽しんだ方がお得でしょ?」

 

 楽しんだ方が得……そんなものなのか?

 自分とは違うココアの考えに有宇は戸惑った。

 僕は勝てるかどうかもわからない……まして、この今の不利な状況を楽しむなんて……。けどまぁ確かにココアの考えも納得がいく。負けを怖れていたところで勝てるわけではないのだから、楽観的に考えた方が良いということなのだろう。けど、僕にはその楽しむというのがよくわからない。

 勝つという結果を得ること以外に、何をどう楽しめばいいのか、僕にはそれがわからない……。

 

「それにさ、有宇くん、私達だってまだ……」

 

 カキーン

 

 ココアが何か言いかけたその時、7番チノがボールを打ち返していた。

 しかし、チノの打ったボールはサードの三枝葉留佳の方へ真っ直ぐ飛んでいった。

 

「へへ〜ん、貰った!」

 

 これは流石にアウトか……。有宇がそう思った時だった。

 

「あれ?」

 

 三枝が捕れる筈だったその打球を捕逸した。

 

「うわ〜!ごめ〜ん!」

 

 すぐに三枝はボールを拾い上げるものの、既にチノもメグもそれぞれ1塁、3塁に進塁していた。

 

「おおっ!チノちゃんやった〜!すご〜い!」

 

 ココアがまるで自分のことのように喜んだ。他のメンバーもチノに賛辞を送る。

 

「なんとかなったな……」

 

 有宇は一瞬ヒヤッとしたものの、無事二人とも進塁できたことに安堵する。そして今のこの状況に若干の勝利への期待のようなものも見えてきた。

 すると隣に立つココアが僕に向け、さっき言いかけた言葉の続きを言う。

 

「ほら、有宇くん。私達だってもしかしたらまだ勝てるかもしれないよ」

 

 一塁にチノ、そして三塁にはメグがいる。対してまだこの回はワンアウトしか取っていない。次余程のミスが無ければ取り敢えずようやく1点取ることが出来る。確かにココアの言うことも一理あるかもしれない。

 そして次のバッターは……!

 

「メグちゃんもココアちゃんもチノちゃんも頑張ったわけだし、私も負けていられないわ!」

 

 ……そうだった、次は千夜だった……。

 次のバッター、8番千夜が息巻いた様子でそう言いながらバットを構える姿を見て、有宇の勝利への期待が一気に失せていった。

 千夜は正直今回の試合において役立たずもいいところだ。全てにおいてストレート空振り三振、守備もボロボロでメンバーの中でも特に酷い。運動神経が悪いというのは聞いていたのであれだがこれじゃあな……。おそらくまた三振取ってツーアウトだろうな……。

 そして千夜がバッターボックスに立ちバッドを構える。やる気は満ちあふれてる様子だがしかし……。

 

 一球目───ストライク!

 二球目───ツーストライク!

 

 ……見事に空振りしていた。おそらく次もストライクでツーアウトになるだろうな……。

 それから三球目、恭介が振りかぶって投げた……のだが。

 

 ツルッ

 

「ヤバッ!」

 

 ずっと投げ続けて疲れがきたのか、はたまた汗でボールを滑らせたのか、恭介の投げたボールの軌道はストライクゾーンを大きくずれて、千夜の顔目掛けて飛んでいった。

 

「危な……!」

 

 千夜に当たる!有宇がそう思ったその時だった。

 

「きゃっ!」

 

 カキーン

 

 なんと、千夜がボールを避けようと勢いよく振ったバッドが、偶然ボールに見事ヒットした。更に驚くことに、千夜が打ったボールはそのまま天高く遠くへと飛んでいった。つまりこれは……。

 

「ホームラン……」

 

 有宇は呆然とその場で立ち尽くした。まさかの千夜がホームランを打つなんて全く予想だにしていなかったのだ。

 そして当の本人はというと……。

 

「あら〜飛んだわね〜」

 

 飛んでいったボールを眺めて一人ほんわかと和んでいた。

 

「いや走れよ!」

 

 この試合ではとくにどこまで行けばホームランとかは決めていないため、急いて行かないと相手外野手の来ヶ谷がすぐにボールを拾って戻って来てしまう。

 有宇に指摘されると千夜は「そうだったわね」と言いながら走っていった。

 これによりメグ、チノ、千夜の三人がホームインし、有宇達は一気に3点取ることに成功した。

 

「まさかほんとに巻き返せるとはな……」

 

 有宇は驚いていた。いや、一気に同点まで並べたこともそうだが、何よりもその結果を千夜が出したということに驚いた。

 

「千夜って実は運動神経良かったりするのか……?」

 

 たまたまバッドを振って当たったにしろ、ホームランなんてそうそう出せるもんでもないだろう……。

 

「千夜ちゃん、自分の危険を回避するのは得意だから……」

 

 そう言いながらココアは何故か遠い目をしながら自分の額を擦っていた。

 

「? なんかあったのか……?」

 

「色々……ね……」

 

 それからココアは顔面レシーブがどうとかぼやいていたが、二人の間に一体何があったんだ……。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 それからリゼがヒットを出し一塁へ。続くシャロもヒットを出し一塁へ……と行くはずだったのだが。

 

「もうらめ〜」

 

 どうしたのかシャロは一塁へ向かう途中、バタリと倒れてしまったのだ。

 

「シャロちゃん!」

 

 倒れたシャロを見て千夜が駆け寄る。千夜が駆け寄るとシャロはエヘヘとニヤけ顔を浮かべながら幸せそうに寝ていた。

 

「あらら……酔いつぶれちゃったみたい」

 

 どうやら単にコーヒーで酔いつぶれて眠ってしまったらしい。

 そういやあれからも酔いの状態を保つために何度かコーヒーを飲ませたりしたが、逆効果だったか?

 これによりシャロがアウトを取りこちらはツーアウト+シャロが継続不能のため退場。そうなると次のバッターは……。

 

「……僕か」

 

 次は3番バッターである有宇の番だった。

 実際のところ、有宇も偉そうなことは言っているが特別打率が良いわけではない。有宇自身、まさか最後の大勝負に自分が立たされるとは思ってもみなかった。

 既に三点は取ってるからここで負けても負けにはならない……が、ここに来るまで1点も取れなかった僕らが延長戦に入ったところで勝機はない。それ以前に9回裏で点を取られないとも限らないし、やはりここで更に点を取って点差を離して、次の回ではここまで来たように全力で守備を固めて一点も取らせないようにする必要があるわけだが、しかし僕にそれができるかというとそうじゃないし……。

 有宇が点を取らなくてはならないというプレッシャーに頭を悩ませ、ベンチから中々立てずにいると、ココアが有宇の前に来てバットを差し出す。

 

「はい有宇くん、頑張ってね!」

 

 有宇はバットを受け取るものの、立ち上がらずにその場でため息を吐く。

 

「言っとくが、僕が打てる保証はないからな」

 

「まぁ、それはそうかもだけど期待してるよ」

 

 それはそうかもなのかよ……まぁそれはいいとして、今は変に期待されることの方が辛い。

 そんな思いからか有宇はココアに愚痴を言う。

 

「本気で僕にあれが打てるとでも思ってんのか?正直かなり無理ゲーなんだが……」

 

 恭介は強敵だ。さっき変化球を使っていたところを見ると、この回以前のあいつは本気じゃなかったということだろう。そう考えると、本気のあいつの球を僕が打てるかとなると確率はかなり低いだろうな。

 

「まぁ、難しいかもだけど、本気になって挑めばきっと勝てるよ」

 

 ココアはニコニコといつもの調子でそう答える。

 

「んな精神論で勝てたら苦労しねぇよ……」

 

 自信の無さから、ココアの前向きな言葉にそうボヤきながら返す。すると……。

 

「でも、だからといって本気じゃない人が勝てる訳ないじゃん」

 

 いきなりガチトーンで返されたものだから有宇は思わずビビった。しかしすぐにまたココアは先程までのようにニコッと笑みを浮かべ、いつもの調子で続ける。

 

「まぁ、要は何事も本気でやらなきゃダメってこと。時には色々壁にぶつかるかもだけど、諦めちゃったらそこで試合終了だよ」

 

 なんかそれ何処かで聞いた覚えがあるような……。ていうか、怒っていたように見えたが気のせいか?こいつは時々マジになるから分からん。

 ココアは更に続ける。

 

「それにさ、有宇くんさっき野球楽しくないって言ってたけど、それって本気でやってないからじゃないかな?」

 

「えっ……?」

 

「どんなに楽しいことやってても本気でやんなきゃつまらないよ。楽しむにしたって、勉強にしたって、勝負に勝つにしたって、なんだってそうだと思うよ。ねぇ有宇くん、喫茶店盛り上げようとした時みたいにさ、たまには本気で挑んでみたら?」

 

 確かに、今まで本気で物事に挑んだことがあるかと問われたらないかもしれない。僕なりに必死だったかもしれないが、いつも楽をしたり、周りを陥れることしか考えていなかったかもしれない。正々堂々本気になったことなんて、あっただろうか……。

 

「おーい、もういいか?」

 

 するとマウンドの方から恭介が有宇達に呼びかける。

 そして有宇は何も言わずマウンドの方へ向かう。

 バッターボックスに立つと、再びため息を吐く。

 

「……はぁ、こんな場面でガチかよ……」

 

 そしてバットを構える。すると恭介が声を掛けてくる。

 

「良い目になったな。さっきまでとは大違いだ。本気の男の目だ」

 

「ふん、さっきまで手抜いてた奴が偉そうに」

 

 先程まで変化球を使わなかったことを有宇は指摘した。

 

「本気じゃない奴相手に本気にはなれないからな。さて、じゃあいくぞ」

 

 恭介の目も先程までと打って変わり鋭くなる。向こうも本気ってことか……。

 そして恭介が振りかぶって投げる。

 

「ストライク」

 

 西園審判の声がかかる。

 速い……さっきより断然スピードが上がっている……!

 

「これこそが魔球───ライジングニャットボールだ!」

 

「だせぇ!!」

 

 なんてダサい名前だ!もっとこうカッコイイ名前付けられなかったのか!?ていうかさっきからなんで投げる球の名前がニャーとか猫っぽい名前なんだよ!

 それから続く二球目、こちらも空振りに終わる。

 

「ストライクツー」

 

「ちっ……!」

 

 名前はダサいが馬鹿にできない速さの魔球だ。一体何km出てんだよ……。しかし次打たないと攻守交代になってしまう。

 そして三球目、また恭介のライジングニャットボールが炸裂する。すると……。

 

 カッ!

 

 バットに微かにボールが触れた。

 

「!? 当たった!?」

 

 結果的にファール。しかし有宇は何やらコツを掴んできた。

 

 カキーン!

 

「ファール」

 

 カキーン!

 

「ファール」

 

 恭介の魔球、ライジングニャットボールを相手に、有宇は必死に食いついていく。

 

「有宇くん、食いつくね……」

 

「そうね……」

 

 ベンチにいるココア達も、恭介と有宇の攻防を静かに見守った。

 

 

 

 それからも有宇はファールを出しながらなんとか食いついていった。

 向こうも考えて何度か変化球を出してきたりもするが、有宇も負けじとなんとかバットにボールを当てていく。

 そして丁度10球目、投げる前に再び恭介が声を掛けてきた。

 

「中々食いつくじゃないか。正直驚いたぞ」

 

「そりゃどうも……」

 

 疲労から有宇は息絶え絶えに言葉を返す。

 

「正直俺も体力的に限界が来てるからな。次で終わらせてやる」

 

 そう言うと、恭介は大きく振りかぶる。有宇もバットをしっかりと構える。

 

「見るがいい、これぞライジングニャットボールを超える魔球───真ライジングニャットボールだ!」

 

 恭介がそう言った次の瞬間、恭介から凄まじい速さの魔球が繰り出された。ライジングニャットボールの比にならない程速かった。

 有宇もバットを振った。しかし、バットにボールが当たることはなかった。

 

「くそっ……ダメか……」

 

 有宇が敗北を察したその時だった。

 

「まだおわってない!!」

 

 ベンチからココアが叫ぶ。

 

「振り逃げだよ!走って!」

 

 ココアにそう言われ後ろを振り返ると、キャッチャーの真人がボールを捕球できずに落としていた。それを確認すると有宇はすぐさま一塁へ向け走り出した。

 

「真人!何やってんだ!」

 

 恭介がボールを捕球できなかった真人を怒鳴りつける。

 

「仕方ねえだろ!ただでさえお前があんな豪速球投げられるなんて聞いてねぇのに、いきなりサインも無しに投げられて捕れるか!」

 

「兄より勝る妹などいるわけないだろ!いいからさっさとホームにボールを送れ!」

 

 そう、この時二塁にいたリゼが既に三塁を超えホームベースへとすごい速さで向かっていた。

 真人は急いで転がるボールを拾い、ホームベースに移動した恭介に向け送球。しかし……。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 リゼがそのタイミングでホームベースに思いっきりヘッドスライディング。そして……。

 

「……セーフ」

 

 西園審判の静かなコールがかかる。タッチアウト前にリゼの手がホームベースに触れていたためセーフ。これにより無事+1点加算しこちらは合計4点。ここにきてリトルバスターズより1点リードすることができた。

 ベンチではリゼがココア達に抱きつかれたりと皆から賛辞を贈られていた。

 

「やはり理樹じゃないとあれは受け止められないか。これは俺のミスだな……」

 

 そして相手チームの恭介はというと、何やら自己反省していた。

 

(理樹……誰だそれ?この中にそんな奴いたか……?)

 

 聞き覚えのない名前に有宇は疑問を浮かべる。さっきも妹がどうとか言っていたし、ここに来ていないメンバーでもいるのだろうか?

 少し気になったが、大したことではないと思い、すぐ試合のことに頭を切り替える。

 

(とにかく、これで僕達の1点リード!それで確か次はマヤだったな。その後もチビ二人が続くから、もしかしたらこの調子で5点目もイケるかもしれない!)

 

 有宇は諦め掛けていた勝利への兆しが見えてきたことで、すっかり期待に満ちあふれていた。

 そして次のバッター、マヤがバッターボックスに立つ。

 

「へっへ〜ん、このままリゼと有宇にぃに続くよ!」

 

 そして恭介がボールを投げる。事前に決めた特別ルールによりチビ共相手には下投げをしなくてはならない。

 これなら打てる!マヤ!思いっきりぶちかませ!

 

「とりゃー!」

 

 カキーン

 

 マヤがボールを思いっきり打つ。そして打った球は真っ直ぐ恭介の方へ飛んでいく。恭介はそれを軽々キャッチ。

 

「アウト。チェンジ」

 

 そして西園審判のコール。これにより3アウトで攻守交代。マヤの奴、見事にやらかしてくれた。

 

「マヤァァァァァ!!」

 

「ごめんごめん、次は頑張るからさ」

 

「次はねぇんだよ次は!!」

 

 マウンドに有宇の怒声が鳴り響いた。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 そして迎える9回裏、最後の最後でマヤがやらかしてくれたが、今のところ4対3で僕達がリードしている。この回を全力で守りきれば僕達の勝ちだ。

 だが守りきれる自信はある。ピッチャーである、コーヒーでハイテンションになったシャロは、恭介にも負けず劣らずのピッチャーだ。ここまで来たんだ。ラストもシャロに頑張ってもらうか。

 

「よしシャロ、最後も頼んだ」

 

 そう言って有宇は、ベンチにいるシャロの方を振り返る。しかし……。

 

「zzz……リジェせんぱ……い……」

 

 千夜に膝枕されながら、ものの見事に爆睡していた。

 

(しまったぁぁぁぁ!!さっき酔いつぶれたの忘れてたぁぁぁぁ!!)

 

 どうする!?他にまともにピッチャーやれるのなんてリゼか僕ぐらいしかいないわけだが、リゼはいい球投げるがコントロールひでぇし、僕は特に秀でて上手いわけでもない。どうするべきか……!?

 

「シャロ……」

 

 すると、リゼが酔いつぶれたシャロを見つめる。それから何を思ったか立ち上がり、有宇に向けて言う。

 

「私が投げる」

 

「私が投げるって、お前……」

 

「安心しろ、今度は外さない。シャロが頑張ってくれたんだ。先輩として、シャロの頑張りを無駄にはできない」

 

 正直最初の一回表の時の失敗もあるため、リゼを出すのは少し躊躇われたが、リゼから滲み出る熱意とやる気に気圧され、有宇は何も言えなかった。それにどの道投げるとしたら自分かリゼしかいないし、ここは任せてもいいかもしれない。

 そう思った有宇は、リゼに賭けることにした。

 

 

 

 そして9回裏が始まる。相手バッターは6番、三枝葉留佳。

 

「はるちん参上……ってあれ?酔っ払いの子じゃないじゃん。ラッキー♪これなら余裕余裕♪」

 

 相変わらず調子乗ってやがんなあの女ぁ……。

 そしてリゼが振りかぶる。すると……!

 

「ストライク」

 

「……あれ?」

 

 西園審判のコール。

 ボールは真っ直ぐストライクゾーンへと入っていった。それも恭介の投げたライジングニャットボールにも劣らないような豪速球で。

 

「うそー!?だって最初投げたときめっちゃコントロール悪かったじゃん!さては、はるちんを騙したな!?」

 

 別に騙してねぇよ……というか僕も正直驚いている。

 さっきまであんなにストライクゾーンに入らなかったのに、スピードを落とさず見事ど真ん中に入れてきてる。なんでいきなり上手くなったかはわからんが、これなら本当にイケるかもしれない!

 

 

 

 それから三枝は三振、続く能美クドリャフカも三振。これでツーアウト。勝利までもう目前だ。

 だが次のバッターは……。

 

「驚いたな。一回の時に投げたときとはえらい違いじゃないか。お姉さん感心だ」

 

 来ヶ谷唯湖……ここに来てこの女か。だが一回表ではリゼの球の速さに驚いていた様子を見せていた。今のリゼなら、あのときのようにはいかない筈だ。

 そして一球目、見事にキャッチャーミットにボールが収まる。ストライクだ。

 

「うぅ……痛い」

 

 因みにキャッチャーはシャロがぶっ倒れたため、ココアがやっている。キャッチャーができそうなのは、僕かココアかどちらかという話になり、じゃんけんで負けた方がやることになり、結果ココアとなった。

 ココアは当然キャッチャーの経験などないが、真ん中で構えているだけでいいというリゼの指示のもと、取り敢えず真ん中に構えてなんとかリゼのボールをキャッチしている。

 しかし続く二球目、来ヶ谷はもうリゼの球を見切ったのかヒットを打ち、来ヶ谷の一塁への出塁を許してしまった。

 そう上手くはいかないか……あと一回アウトを取ればそれで終わるというのに……。

 

 

 

 そして来ヶ谷に続くバッターは2番、棗恭介だ。来ヶ谷と同じくらい油断ならない男だ。

 恭介はバッターボックスに立つと、僕達にバットを向け高らかに言い放つ。

 

「お前達のここまでの逆転劇、実に見事だった。だが俺達もこのまま黙って負けるわけにはいかないんでな。俺達リトルバスターズの維持と誇りを見せてやる」

 

 そう言い終わると恭介はバットを構えた。リゼもそれに合わせて大きく振りかぶる。

 一球目、見事ストライク!そして続く二球目もストライクを取った。

 

(あともう1ストライク……1ストライクで勝てる!)

 

 そして勝利への期待が高まる中、三球目が投げられる。だが……。

 

 カキーン

 

「……え」

 

 恭介はリゼの三球目を見事天高く打ち上げた。それは、先程の千夜のホームランのような長い飛距離ではなかったものの、中々の打球だった。

 すると、センターで捕手をしていた有宇は、恭介が天高く上げたそのボールを見てすぐに打球を追って走り出した────

 

 

 

 なにを必死になってるんだ僕は。確かにココアにああは言われたが、そもそもこんな試合、今更だが別に負けたっていいじゃないか。こんなところで本気になる必要なんてないだろ。負けて恭介に平謝りして終わりでいいじゃないか。

 何も考えないのはバカのやることだ。必死になるのなんて見ていて格好悪い……そう思っていたはずなのに、それならどうして、今僕は……!

 

 そして有宇は打球に追いつくと、ゲガすることも考えず、落下する打球に向け思いっきり飛び込んで、グローブをはめた左手をボールへと伸ばした。飛び込んだ勢いで地面と体が激しく擦れて、その摩擦で体に痛みが伴い、有宇はそのまま地面に突っ伏した。

 それから有宇は痛みを堪えながらなんとか顔を上げる。───そこにはボールがしっかりと収まっていた。

 

「アウト、ゲームセット」

 

 西園審判のゲームセットのコール。

 有宇はそれを聞いてもまだ呆然としていた。

 

「勝った……のか……?」

 

 するとマウンドの方からココア達が駆け寄ってきた。

 そしてココアが僕の手を取り、大はしゃぎしながら僕の疑問に答える。

 

「やったよ有宇くん!!勝ったんだよ私たち!!」

 

「そうか……」

 

 依然、呆然とした様子でそう答える。

 

「あぁ、お前のおかけだな」

 

 とリゼ。

 

「そうね、みんな頑張ったけど、最後は有宇くんの粘り強さのおかげね」

 

 と千夜。

 いや、それに関してはお前のホームランが一番でかかった気がするんだが……。

 

「さっすが有宇にぃ!最後も一気に持ってくね〜!」

 

「お兄さんカッコよかった〜」

 

「はい、凄かったです」

 

 とマヤ、メグ、チノ。

 すると、ココアが手を平を見せるように差し出す。

 

「ほら有宇くん、ハイタッチだよ!」

 

「あ、あぁ……」

 

 ココアに言われるがまま手のひらを差し出す。そしてパーンと音を鳴らしながら互いの手のひらを叩いた。

 

「おっ、じゃあ私も」

 

「じゃあ私も」

 

 と、それから他の皆ともハイタッチを交した。

 皆とハイタッチを交わすと、有宇は自分の両手を確認する。そこには豆ができており、ダイビングキャッチのときの擦り傷もついていた。

 

「痛てぇ……」

 

 普段なら、こんな風に豆作ったり怪我したりなんて、まっぴらゴメンなんだが、今は不思議とそう悪いようには思えなかった。

 

 バシャッ

 

 すると何やら近くでシャッター音が鳴った。するとすぐ横にカメラを構えたココアがいた。

 

「……何してる」

 

「なんか珍しい表情してるなって」

 

「……消せ」

 

「さらばっ」

 

 するとココアが駆け出す。

 

「待てこの野郎!!」

 

 すぐにココアの後を追おうとするが「おっほん」といういつの間にか近くにいた恭介の咳払いで、リトルバスターズの連中がいた事を思い出す。

 そして恭介が僕達に言う。

 

「見事だ、木組みの街の諸君。俺達の完敗だ」

 

「別に完敗じゃないだろ。最後までかなりギリギリだったし……」

 

「だがな」

 

「聞いてねぇし……」

 

 サラッと無視しやがって……。

 そして恭介は続ける。

 

「俺達はまだ本気じゃない。何故ならそう!実は俺達リトルバスターズのメンバーはまだ全員揃っていないからな!」

 

 恭介がそう言うと、ココア達が驚いたように「えーっ!?」と声を上げる。有宇はさっきからそうじゃないかと思い、特に驚きはしなかった。

 

「俺達にはあと二人仲間がいる。そしてその二人はここにいる誰よりも強いぞ。元々ライジングニャットボールもその内の一人が編み出したものだしな」

 

 あぁ、もしかしてそれがさっき言ってた妹って奴か。この男の妹というぐらいだから、おそらく来ヶ谷のような完璧な感じの女だろうな。

 

「というわけで、今回は負けたが次はこうはいかない。今度戦うときはお互い全力で戦おう」

 

 すると恭介は、僕の方に手を差し出す。握手を求めているようだった。そして求められるがまま、僕も素直に手を差し出した。

 

「次も毛頭負けるつもりはない」

 

「ふっ、やっぱり試合の前よりいい顔をするようになったなお前」

 

「余計なお世話だ」

 

 あ、そういえば……。有宇はあることを思い出した。

 有宇がそれを口にするより先に、来ヶ谷がそれを口にした。

 

「そういえば試合の賭はそちらが勝ったら、恭介氏がお縄につくという話だったが……」

 

 それを聞くと恭介の顔がサッと青ざめる。

 

「……冗談だよな?」

 

 すると真人と謙吾が恭介に告げる。

 

「短い付き合いだったな」

 

「面会ぐらいは行ってやる」

 

「いや、だからやってねえからな!?」

 

 すると周りの連中から笑いが湧き上がる。ココア達も笑い声を上げた。そして有宇もその場の空気に流されてか、それとも本心からかはわからないが、笑みを浮かべた。

 こうして、僕達とリトルバスターとの試合は幕を閉じた。




今回のお話(前後編含めて)は、Charlotteの野球回が元になったお話です。それもあって、リトバスキャラにはあまり焦点が当てられていませんが、ご容赦いただけたらと思います。
それではこれからもよろしくお願いします。
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