契約詐欺おことわり! ~I Don't Need a Masic 作:皇緋那
休日の夜。いつもなら、学校の始まる憂鬱さに現実から逃げようとネットサーフィンを続け、気づけば眠っていたようなふうに過ごしているはずの夜。でも今日は珍しく、布団に入ってはやめに休んでいた。もちろん、腹部の痛みが悪化しないようにというのはひとつの理由なのだが。
私――深依夢は、不良に襲われて、真っ白なコスチュームの少女に助けられた。白に映える黒い髪は後ろでまとめあげられており、すらりと長く、ほどよく筋肉質な脚にぴっちりと張り付いたレギンスが印象的だった。
別にそっちの気はないつもりだったのだが、私を蹴り倒して調子に乗っていた不良を気絶させた時の白百合の騎士とも言える格好よさと、彼女の眠たげで面倒そうな瞳のギャップからかどうも頭から離れない。それで、ネットサーフィンしていても落ち着かなくて布団に入ったのだった。
『深依夢、あの子のことが気になるウィン?』
こいつは妖精、ウィンダー。あのあと、私についてくることになった鳥っぽい生き物だ。エサは必要ないとのことで、放っておくことにしたのだった。
そのウィンダーの問いに私はいちおう正直に頷く。頭から離れないことは確かだし。
「……彼女も、魔法少女なの?」
『もちろん。白い魔法少女、セレクト・サクレ。それが彼女の名前だウィン』
セレクト・サクレ。頭の中で復唱して、覚えようと試みる。人名を覚えるのは得意ではないのだけれど。
『実はあの子、深依夢と同い年なんだウィン。ばったり会ったら、仲良くしてあげてほしいウィン』
「そうする……よ……」
急に睡魔が押し寄せてきて、私は目蓋を支えていられなくなった。今日の意識を手放そうとした瞑目とは違って、ゆるやかに心地よさへと沈んでいくのがわかった。
◇
――真っ黒なロングヘアを靡かせて、キツい瞳で悪を見下ろす。その脚は邪悪を砕き、その美貌は誰にも触れられぬ孤高の花。人呼んで『白い通り魔』。
月曜日。深依夢が通う中学校では、そんな噂が流されているようだった。どうイメージしても、それはあのセレクト・サクレのことだろう。美化されているというか中2チックにされているが、ここは実際中2のクラス。それでおかしいことはない。
挨拶するような人もしてくるような人とも出会わずに、教室へとさっさと入っていく。みんな扉の空いた音で振り向きこそすれど、その音を立てたのが私であることに反応したのはひとりだけだった。
「お!おはよう、深依夢ちゃん!」
「……ぁ、い、イナバ。おはょう」
うまく声が出せなくて、この教室のざわざわの中ではちょっと聞こえにくかったかもしれない。けれどイナバはそんなことまったく気にしていない様子で、にこにこしながら次の話題に入る。
「深依夢ちゃん!昨日はお互い助かったね!?」
「……え?あ、うん」
「でしょ!ほら、嘘じゃないんだって!」
廊下で聞こえてきていた噂話の発端は、どうやらイナバのようだ。それもそうだろう、あの場で一番間近に目撃していて、深依夢よりもどんどん言いふらすのは彼女しかいない。
「それでさ、深依夢ちゃん!白い通り魔さんと何話してたの?」
「……いや、何も」
「そんなはずないよ!なんにもないのにわざわざあんな角度する?」
思い出されるのは、身体を向けず首だけで話しかけるサクレの姿。たしかに、普通に振り向けばいいのに、話してもいない相手をあんな見方で睨むだろうか。いや、睨まない。
「あの不思議な角度……かっこいいよね!こう、どっかのアニメ製作会社が好んでそう」
「シャ……んん、かな」
私の言葉にイナバは反応すること無く、ぷいっとそっぽを向いた。彼女はいつもこうだ。富田イナバという少女は、移り気で話題も跳んでいく。所属は陸上部なのだが、普段からそうして気分が跳ね回っているせいか部活内ではよくいじられているらしい。
イナバが見ている方向を、私も釣られて見る。教室の出入口、私が通ってきた扉。そこにひとりの少女が向かってきていたのだった。
「おっ、蛇喰さん!」
彼女は、いつも見ていたはずのクラスメイト。私がいままで恐れていて、目を合わせないようにしてきた者。綺麗なお人形と表現するしかないような容貌の彼女。名前は『
「おはよう!今日も綺麗な髪じゃない?」
クールでミステリアスな相手にも、こうして気さくに話しかけにいくのがイナバだった。通華はそれを無視してしまう。固まるイナバに戸惑う周囲をよそに、自分の席に鞄を降ろすと、ふと私の方を見た。
「……っ!」
その目には覚えがあった。眠たげで、面倒そうな瞳。まさか、彼女こそが――
「……熊根さん」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
いきなり声をかけられたので、私はびっくりして変な返事をしてしまった。
「な、なんでしょう……?」
「非常に不本意だけれど。貴女、気づいているでしょう」
「……!」
その言葉に息を呑む私に、彼女は確信したらしい。小さく頷いて、通華が次の言葉に移る。
「なら、放課後は私に着いてきて。あいつの説明だけでより、もっと真実を知って考えたいなら」
言いたいことが終わると、通華は何事もなかったかのようにいつも通りの生活に戻っていく。取り残された私と聞き耳をたてていたのに理解できなかったらしいイナバは、そのあとの時間をいつも通りでいるつもりでややぎこちなく過ごしていった。
◇
すべての授業が終わって、帰りのホームルームでさよならを言ったあと。通華はこちらにちらりとだけ視線をやると、他の誰にも構うことなく帰ろうとする生徒たちの波をすり抜けていった。当然私は彼女のようにはいかず、どんどん私と通華は離れていく。
「あっ、ちょ――!」
声が届くはずもない。元から小さいのに、周囲にこうもしゃべくる生徒がたくさんいればまず無理だ。聖徳太子にも難しいかもしれない。ついに通華を見失い、私は立ち止まってしまった。
「……どう、しよう」
着いてきて、と言われていたのに、着いていけなかった。責任は私10割だ。通華は友達と言えるほど親しくもないし、許されるはずもない。そう考えると、とたんに不安になってきた。
「あれ、深依夢?どしたの?」
「い、イナバ……!」
「蛇喰さんとなんかあったんじゃないの?」
「あ、それが、その……」
置いていかれたことを察したようで、イナバはにやりと笑った。
「じゃあさ。私の同行を認めるかわりに、案内してあげようか?」
「え、わ、わかるの?」
「ふふん、さっき見てたからね!」
……同行させてもあんまり変わらないような気がするけど、それでも私だけよりはマシだと思う。私はイナバの提案を受け入れて、彼女といっしょに行くことにする。
「じゃあしゅっぱーつ!たぶんこっち!」
「……たぶん?」
「だっていまどこにいるかなんてわかんないし……」
もしかしたら、私だけの方がマシかもしれない。
「大丈夫だって!学校内なら、さ!」
「学校内って言ってた訳じゃないんじゃ……」
「…………な、なんとかなるなる!」
「そんなアバウトな……」
イナバはわからないならローラー作戦だ!と私の手を引っ張っていく。イナバの場合は先に気づいて道を空けてくれる生徒が多く、私もすんなりと通っていくことができた。
「とりあえず屋上とか?」
「開放されてないんじゃあ……」
「あの子は特別とかとか、蛇喰さんありそうじゃない?」
「確かに……」
あの雰囲気からして、何かそういうものがありそうな気もする。感心しているあいだにまた手を引っ張られて、こんどは階段をかけ上がっていく。
イナバは全力で走ってはいないようで、陸上部でも私が運動音痴なことを知ってくれているのはありがたいことだ。
2階。3階。4階と上がってきて、ついに屋上に繋がる扉の前へとたどり着く。扉には『生徒立ち入り禁止』という貼り紙と、無理矢理壊された錠前がひっかかっているドアノブがついている他におかしな点はない。いや、錠前が壊されているというのは、明らかにおかしい事象だが。
「……行ってみる?」
「蛇喰さんが壊したとは思えないけど、行くしかないよ!」
私が覚悟を決める前に、イナバは扉を空けてしまう。先に待っているのは、特に何ら特別でもない屋上だった。景色こそ良いわけではないが、玄関のあたりに大勢いる生徒たちを見下ろすことができるのはちょっと新鮮だった。今日は、部活がない日だったらしい。帰宅部の深依夢は気にしたことがなかったため、気づいていなかったのだが。
「蛇喰さん、いないね?」
いくら屋上を見回しても、人影は見当たらない。もしかしたら、玄関で待っているかもしれないと、私とイナバはそっちに目をやった。この高さからひとりひとりの姿を見分けるのは困難だが、綺麗な髪は辛うじてわかるといいな……なんて、期待をこめて。
その時、だった。
「おや?こんなところにお嬢さんが、二人も」
可愛らしい声がした。高貴なお嬢様を思わせる響きを持っていた。けれど、背筋の凍るような気配を感じざるを得なかった。振り向くのを怖がらせるような、底知れぬ何かを孕む声。イナバも同じことを感じていたようで、彼女の頬を冷や汗が伝うのが視界の端に見えた。
「どうかいたしましたの?」
気配の主が、私たちの間に顔を出す。鮮やかな金色の髪が私の頬を撫で、悪寒を走らせる。
「怖がらなくていいんですのよ?ここは特等席。今からはじまる、えーと、すぺしゃるなしょう?というんですの?が、上から見られますのよ」
後ろに軽快なステップで数歩下がった彼女は、長い髪を振り大きく両手を広げて楽しげに言う。彼女はカタカナ語に慣れていないのか、ぎこちない発音だった。外国から来た人、なのだろうか?
「ほら、もう始まりますの。れでぃーす、えーん、じぇんとるめーん!と、いうやつですの!」
くるくると回る彼女。危険を感じて振り向けずにいたのだが、実はそれほど危ない人物ではないのかもしれない。首をそちらに向けると、成る程彼女は確かに美少女であった。しかし、私の視界は一瞬別のものであったような気がした。例えるなら、異常進化した頭足類のような――
「えーと、君は?私はイナバ、富田イナバだよ」
まだ警戒は解いていないものの、相手のことを知るために名乗るイナバ。少女は満面の笑みで、自らの名前を答える。
「ご丁寧のありがとうございますの。私は『リリアナ』……そう、お呼びくださいまし」
にっこりと笑うリリアナの姿は、素直に見れば可憐で。通華とはまた方向の違った美しさを持っていた。
そんなリリアナばかり見ていると、ふと背後から火薬の音がした。隣の友人は驚き飛び退いて、私は反射的に振り返る。目下の人々は何かから逃げ惑い、押し合い、喚いている。
「……あれは何!?」
柵のところまで駆け戻ったイナバが指を差す。その先には、廃墟のトンネルの入り口に似た真っ黒な穴が空いている。何も見えないその内より、まるで烏賊のような未知の生物――先程幻視したものとそっくりな――が現れ、彼らはそれから逃げているのだ。先の発砲音は何かというと、あの生物たちは銃火器を手にしているため、それが火を吹いた音だろう。
突然の出来事に状況が飲み込めないでいる私達に、背後からリリアナが歩み寄ってくる。そして、変わらぬ笑顔で。
「これがすぺしゃる・しょう。彼らによるニンゲン狩り。ご安心くださいませ、本番はここからですのよ」
視線を急いで地上に戻す。すると、ひとりの女生徒が頭足類の触腕に捕まっている。その質感がぬるぬるしたそれではなく、人間の肌のような質感であることがまた気色悪く、目を背けたくなってしまう光景だ。もがいても、触腕は嘲るように彼女を捕らえ続ける。お前の命は自分の手のひらの上だと言わんばかりに、触腕は揺れてみせるのだった。
しかし突然、校舎の影に隠れていたらしい人影が飛び出してくる。華麗な動きで触手の魔の手をかいくぐり、捕まっている生徒のところまですぐに到着する。彼女が通華であることは、その髪ですぐにわかった。そしてその手に握られている羽根ペンをモチーフにしたような道具が、刃物であることが触腕へと突き刺さる様でわかる。
羽根のナイフを刺され痛みに耐えかねたのか、生徒の拘束が解け、放り投げられた。通華がそれを受けとめ、自らをクッションにして衝撃から助ける。まるで王子様のような行いで女生徒を立たせると、さっさと逃げるように促していた。
が、その行為が仇となる。刺されたうえに、せっかく捕まえたものを奪われた向こう側からしてみれば、通華は邪魔者。捕まえようとする素振りは見せていたものの、もう我慢ならないのか彼女を捕まえて校舎、つまりこちらへ向けて放り投げてきた。
「……じゃ、蛇喰さん!?」
屋上のすぐ下の窓に突っ込んだらしく、窓ガラスの割れる大きな音がした。直後にはイナバが私の手を掴んで走り出しており、情報がついていけないほどに入ってくる。今度のイナバは私にお構いなしのスピードで階段を駆けおりていくため、私は半分引きずられているようだった。
4階廊下の壁に、蛇喰通華は寄りかかっていた。隣にはマスコット、ウィンダーが浮遊していて、床には通華が吐いたらしい血が多く飛び散っていた。それだけではなく、彼女の脚にはガラス片の突き刺さった傷がいくつもある。
「蛇喰さん!」
「……富田さんに、熊根さん。今になってついてくるのは、遅すぎる……くふっ!?」
「だ、大丈夫!?血が……!」
血を吐き続ける通華を心配して、そばにいるイナバ。引っ張られてきた私にそんな勇気はなくて、眺めているしかできなかった。
「変身すれば、問題ない……けど、今は立つので精一杯、かも」
「え?」
「変身アイテムが、吹っ飛んでった。まったくめんどくさい、こはぁっ!」
『魔法少女への変身には、いま通華の持っているオリジンに、ジュエリーをはめなければいけないウィン』
ウィンダーによる解説が入った。その、ジュエリーとやらを探せばいいのだろうか。イナバと私であたりを見回して、それらしいものを探す。が、ガラスの破片と鮮血が多くあるせいで見つけにくくそう簡単には探し出せないかもしれない。
そんな不安や諦めと、血を吐く通華を助けなければいけない使命感が混在し、私は息が荒くなっていた。
『深依夢!魔力の波動を感じるウィン!深依夢ならできるウィン!』
「魔力の波動?」
とにかく、やってみるしかない。ウィンダーの言うことに従って、落ち着こうと目を閉じ、いちど息を細く長く吐く。
ぴくり、と。一瞬私は肌に何かを感じた。何か、声のようなものが触れた気がする。それはあそこから来たものだだと思い、割れてしまった窓枠やガラスの破片の群れの中を見た。
「あった……!」
私が手に取ったのは、純白の宝石。冷たくも燦然と輝く珠だ。差し出された通華の手にそっと乗せて、私は彼女から数歩離れた。
「ん、ありがと。じゃ、よい……しょっと」
大きな痛みを抱えているだろう身体を持ち上げて、彼女は持っていた羽根のナイフと純白の宝石を構えた。口元の血を手で拭って、通華は大きく息を吸う。
「――マジカル・セレクション。サヴァイヴ!」
羽根に用意されている窪みに宝石がぴったりと填まりこんで、あるべき場所へ戻ったかのようにいっそう輝いた。光はただ反射しているだけでなく、宝石から一直線に伸びていく。その内より二段に分けて持ち手らしい部分が現れ、羽根のナイフは鎌へと変わる。
空気がきらめいて見える中、通華が鎌の柄を持ちくるくると回すとさらなるきらきらが舞い、彼女を包んでいく。腕、脚、腰、胸と身体の各部を包む衣装は魔法少女のものへと変化して、彼女を蛇喰通華から変えていく。
「セレクト・サクレ、進化完了。」
光が晴れたと思った瞬間にはもう、変身は済んでいた。あのとき見たものと同じ白いコスチュームを纏い、レギンスを張り付かせている。まとめられた黒髪はいくつか上に跳ねており、その姿には見覚えがあるような気がした。
「はぁ……面倒事、終わらせるよ」
窓のあった場所から、魔法の翼を広げていくサクレ。滑空して敵の元へと舞い戻るなり、蹴りをぶちこむのが見えた。強烈な一撃にその部位は大きくへこみ、臓器かなにか潰れでもしたのか体液が漏れている。
『サクレはヘビクイワシ科の力を与えられた魔法少女だウィン。飛行は苦手だけど、格闘は大の得意だウィン!』
ヘビクイワシ。確か、キックで獲物を仕留める猛禽だったか。彼女の勇姿は、まさに狩りをする猛禽。リリアナの言うニンゲン狩りという言葉は、大きく間違っていたのだろう。狩るはずの人間に、あの烏賊らしき生物は逆襲されているのだから。
こうなれば仕方がない、と敵は銃器を構えた。しかし、サクレは動じない。ただ鋭く見据えるだけだ。相手が引き金をひいたところで、彼女は回避する素振りを見せない。鎌を持つ手を前に出したと私が認識するとほぼ同時に、鎌はくるくると回り始めた。回る鎌の柄によって銃弾は弾かれ、勢いを失ってそこらに飛び散っていく。
やがて銃弾が切れたのか、鉛の吹雪は止んでしまった。それならと、サクレが大地を踏み飛び出していく。必死でリロードする烏賊たちに、鎌の刃が終わりを宣告する。
「……あれ、もういいの?ならこっちの番」
羽根に填められた宝石に触れて、疾走を止めないサクレは静かに告げる。刑の執行へと移るのだ。
「“Survival of the Fittest”」
純白の魔力に包まれて、白き刃は空気を裂いて走る。次の瞬間に起こるのは、刹那の出来事。
烏賊の胴体はすべて分断され、振り抜かれたことさえ認識させなかった刃が彼らの体液を散らす。更には魔力が炸裂し、すでに両断されている身体を徹底的に破壊していく。最後には烏賊の痕跡は何も残らず、静かに空間の穴が閉じていくのみだった。
「――すごい、すごいよあれ!見た?見た!?」
何も言えない私よりも早く、イナバが隣ではしゃぎ始める。窮地は去ったのだ。つられて私の頬もゆるんで、イナバに向かって頷いた。
「おーい、終わったからこっち来て。どうせ帰るんだし」
割れてなくなった窓の外から、通華が呼ぶ声がする。見てみると、彼女は変身を解いたようで制服姿に戻っていた。不思議と脚の傷はきれいさっぱり無くなっており、通華の素肌はすべすべの状態。ウィンダーが言っていた魔法少女の回復能力を実感せざるを得なかった。
◇
屋上からサクレの戦いっぷりを眺めていた謎の少女、リリアナ。彼女は無様に叩き斬られる烏賊たちを見て笑っていた。なんと滑稽で、なんと愚かなのか……と。
「くすっ、犯罪者らしい末路……いいですわぁ、さいっこーですの!」
沈み始めた夕日に照らされる金色の髪がゆれる。大きく広がったロリータファッションもまた同じく、風にゆられている。無邪気を装う彼女が立つステージとしては、夕日の屋上はあまり似合うようなものではないのだった。
◇
日が落ち始めた玄関。そこで、通華が私達を待っていた。銃弾の痕と、4階の窓ガラスが派手に割れてしまったものの、あの未知の生物相手に怪我人もなくこれだけの損害で済ませられたのはすごいことだと思った。私達に気づいた通華は、いつもの冷たい視線よりも目が泳いでいるようすだった。
「……おつかれ、さま」
「ん?戦ったのは、蛇喰さんでしょ?」
「だけど……ジュエリーを吹っ飛ばしたとき、助けてくれたのは貴女達だから。いちおう、ありがとう」
「そっか、どういたしまして!」
目線を合わせないようにしている彼女だったが、『ありがとう』の言葉を通華から聞くとは思いもしなかった。そのせいで私はイナバに先を越されてしまっていた。そのイナバは、私の背中を軽く叩いて「深依夢ちゃんも」と言ってくる。どうにか私も一歩前に出て、口を開こうとした。
「……ぁの、こっ、こちらこそっ!ありが、と、ございました」
たどたどしくなってしまったが、通華には伝わったらしい。ぺこりと軽いお辞儀で返してくれた。
「で。話、変えちゃうけど……いい?」
「大丈夫、何のこと?」
「さっきのあいつら……『NC』のこと」
NCとは、ウィンダーが言いかけていた魔法少女の敵の名前だったはずだ。あの烏賊がその敵なのだろうか。確かに、人を連れ去ろうとしているようだったが――
「……あいつらは、どっかから現れて、人をどうにかしようとする。殺したり、拐ったりの。出現位置はだいたい感覚でわかるけど……いつくるか、正体はなんなのかはわかんない」
「じゃあ、今日ついてこいって言ったのは?」
「今日はこのあたりに出てきそうだったから。私の側ならまだ助けられるし、この話もできる」
となると、申し訳なくなってくる。善意を踏みにじってしまったのではないだろうかと、不安になる。だが通華の方も自分が悪いと思っているようで、ばつが悪そうな顔だった。
「……今回はむしろよかったけど。次があったら、もうちょっと気を付ける」
彼女がまた頭を下げたあと、私たちはイナバの「よおし、今日はみんなで帰ろう!」に乗って一緒に帰ることにした。部活がない日も私はさっさと帰っているから、誰かと一緒に下校なんて久しぶりのことかもしれない。
蛇喰通華、セレクト・サクレ。魔法少女にもたらされた出会い。彼女とは、今後うまくやっていけるといいな……なんて。
【第二話
「面倒事、終わらせるよ」】
前回のまえがきで某P先輩について言及しましたが、定番のピンクではなく白黒の魔法少女が登場する予定です。というわけで次回の魔法少女もお楽しみに。