契約詐欺おことわり! ~I Don't Need a Masic 作:皇緋那
『16時30分!16時30分!起きろウィン!』
「んー……あと24時間……」
『それは一日経ってるウィン!』
自室。叩き起こそうとしてくる妖精の声にややむかつきながら、私――深依夢は目を覚ました。16時30分なんかに起こされたのは、学校が終わり、真っ先に寝床についたからだった。帰ってきたときはいなかったのに、やはり玄関には鍵をかけておくべきだったか。
『重要な話があるウィン!起きろウィン!』
「うー……私を巻き込まないでほしいんだけど……」
『これは深依夢にも得なことだウィン!』
できれば、あの怪物のことにはもう関わりたくはない。NCだかなんだか知らないけれど、あんなのに遭遇すれば、相当運がなきゃ死んでいるところだ。
それに、色んなアニメの影響からだがウィンダーのような妖精ポジションに言われるといろいろとうさんくさい。が、得なことというのが本当かは聞いてみなければわからないのも確かだ。とりあえず、話は聞いてみることにする。
『最近、NCが活発化しているウィン。他の妖精の話だと、近頃編隊を組んでやってくる可能性もあるとのことだウィン』
「……それで?私が契約を?」
『してくれるなら嬉しいけど、今日は催促しないウィン。頼み事はほかにあるウィン』
「じゃあ何なの?」
それを聞いてみたところ、ウィンダーは鼻息をふんすと鳴らしてよくぞ聞いてくれたという顔になる。殴ったところで意味はないし、大人しくしておこう。
『魔法少女の招集……先輩魔法少女を新たに招き、備えるんだウィン!』
確かに、サクレだけで編隊を組んで銃器を手にしたNC相手だと難しそうだ。あの戦いっぷりならサクレは負けないだろうが、一般人への被害が大きくなってしまう。それなら、戦闘要因を増やせばいいと。そういうことのようだ。
「私たち一般人を守る魔法少女が増えて、お得ってこと?」
『そういうことになるウィン』
「でも、それが何で頼み事になるのさ」
その質問には、ウィンダーは目を下に向けた。何やら重い事情があるのだろうか。例えば、殉職とか――
『……はぐれたんだウィン』
「は?」
『だから!魔法少女とはぐれたんだウィン!!』
思わず声を漏らしてしまったらしい。わざわざ言い直した妖精が恥ずかしそうにしている。だが私はもう一回「は?」と言いたい。あの顔からそれだけなのか。
『うぅ……白のサクレのほかにも、黒い魔法少女といっしょにこの街に来たんだウィン。だけど、彼女はどっか行っちゃって……』
「どっかって、連絡手段とかないの?」
『妖精から魔法少女にはないウィン。魔法少女どうしはマジカル☆メールアドレスを交換していれば……』
「それで、サクレとその黒い魔法少女は交換してなかったんだ」
要するに、人探しか。知らない人に話しかけるなんて怖くて到底できないから、したくないんだけど。仮に人違いで、やくざだったりしたら何をされるかわからない。売り飛ばされるとか、あり得るのではないか。
『……頼めるか、ウィン?』
あまり受けたくはないのだが、ウィンダーにはいくつか借りがある気がするから受けてやってもいいかもしれない。ウィンダーのナビがあれば、なんとかなるだろうし。
「いいよ。で、その魔法少女って?」
『ほんと!?よかった!……といっても、変身前の彼女はアニメとかコスプレだとかが好きで、カラコンとかよくしてたから……』
「えっ」
『あ、地毛はプラチナブロンドだウィン。あとは……よろしくウィン!』
「あとは……って、あ、ちょっ、待って!」
ヒントどころか不安になることしか言わずに、ウィンダーは飛び去っていってしまう。頼み事しといてなんなんだあいつは。
気を取り直して、せっかく頼まれたのだから努力はしよう。アニメとかが好きなら、とりあえず可能性としてそういうお店にいる可能性はあるかもしれない。私自身買いそびれている新刊とかがあるかもしれないから、財布も持っていくことにしよう。地毛がプラチナブロンド、ということは、外国人かアルビノか。とにかく白い感じだと予想して、出掛ける仕度をする。
……私は鏡を見てやっと、自慢の黒セミロングにできたねぐせとお気に入りのパジャマを認識し、自分が寝起きだったことを思い出した。
◇
いちおう外行きのコートを着て身体を隠し、帽子を深くかぶって目元を隠し、マスクをして口元を隠す。これから暑くなるころだというのに、そんな暑そうな格好で私は外に出た。普通に暑いのは気にしてはいけない。
両親から恵まれた容姿だけを受け継いだ結果、下手に顔を出すと変なのに絡まれてしまうかもしれないことになっているのだ。いつも隠しているので、近所では『お忍びセレブ』とか言われているらしい。恥ずかしいあだ名だと、心から思う。
「……あの、この家の人ですか」
いざ行こうとしたところ、いきなり背後から声をかけられてしまった。びっくりして出そうになったすっとんきょうボイスをひっこめて、私はなんとか応対しようとする。
「そっ、そうです、が」
「よかった……じゃあ、深依夢さんと会えたりしますか?」
……私?わざわざ私に会いたい人なんているのか、と思う。声色はイナバよりもずっと他人行儀で、初対面の人用に繕っているような。恐る恐る後ろを振り向くと、見覚えのある姿で安心するのだった。
「私、あの子のクラスメイトで。蛇喰通華といいます」
「あ、いえ、あの、わかります、本人です、深依夢です」
固まる私に信用されていないと思ったのか、名乗りをあげる通華。私はマスクをはずして、通華の目当てがこのお忍びのセレブみたいな格好の自分であることをわかってもらおうとした。
「……あ。そうならそうと、はやめに」
「ごめんなさい……」
声色が繕っているものからふだんのけだるげな通華のものに変わる。さっきのは、電話に出るときとかの声なのだろう。
「ねぇ、ウィンダーは見た?」
「え?さっき、逃げていかれたんだけど」
「……ちっ。」
通華は舌打ちした。もしかしたら、あらかじめ私を起こす前に窓をひとつ開けていたのかも。
「え、蛇喰さんも、黒い魔法少女の話を?」
「そう。それで、説明が中途半端なのに逃げて行きやがって」
「私とおんなじだ……黒い魔法少女とは、知り合いじゃないんだ」
「私はまだ、新米だし。他の魔法少女には、ひとりしか会ったことない」
となると、通華も同じ状況だろう。なら、一緒に行っても二手に別れてもいっしょのような気がする。
「ぁ、あの。蛇喰さん」
「ん?」
「一緒に、行きませんか……?」
「熊根さんがいいなら」
「じゃあ、そうしませんか?」
万が一変なのに当たっても、通華といっしょなら大丈夫そうだ。いつもお店に行くのはひとりでの外出だが、人探しになれば他人に話しかける率も上がるし。
「了解、じゃあさっさと行こう」
「ありがとう、ございます」
「別に。私、引きこもりで土地勘ないし」
……そこの関しては、私も一緒なのだが。
◇
バスに揺られること、二十分ちょっと。深依夢と通華は、お目当てのバス停で降りていた。遠いというほど遠くなく、かといって自転車では脚が疲れるくらいだ。このあたりになると、オタ屋さんののぼりもいくつか見られる。
「……これに行くの?」
「とりあえず、ですけど」
「ふぅん……今はこういうのがやってるの?」
のぼりに書かれているのは、いま人気を博しているアニメ『世界中スーパーノヴァ』、略してせかノヴァだ。ちょっとどうかと思うタイトルだが、中身はというと丁寧にキャラクターを調理し、視聴者に愛着を持たせて脱落させるような脚本で、なかなか心に来るものがある。私は原作派なので追体験する形で見ているのだが、けっこうキツいアニメだ。
とは言っても、推したいポイントすべてを話すと通華には引かれるかもしれない。たぶんこれは非オタが社交辞令程度に聞いてくる質問だ。なので、回答はひかえめにしておこうと思う。
「そう、だよ。SNSとかで流行ってるの」
「あ、なんかちょっと見たことあるかも。感想が阿鼻叫喚だったの」
「だろうね……」
先週は、たしか人気キャラだったサブヒロインが退場したはず。それは阿鼻叫喚にもなるだろうと思う。
「面白いの?」
「う、うん。今やってる中じゃいちばん好きかな」
「へぇ。熊根さんが言うと、なんか説得力あるね」
それはオタクっぽいという嫌味だろうか。いや、通華に限ってそんな皮肉はないと思いたい。観察眼があると思われている?としても、素直に喜んでいいのかどうか。通華はもうのぼりに視線を戻して、まじまじと見つめていたが。
その布には、タイトルといっしょにキャラクターのひとりである氷雨ミレニアが描かれていた。私が一番好きというか、憧れのキャラだ。不屈の意思を持った、努力と根性の人。死亡フラグをへし折ってきた、少年漫画の主人公といった感じの少女だ。
ふと、のぼりを見ていた通華が声を出した。
「あ、これ。きのう発売って書いてある」
「……ぇ?ほんとだ、買わなきゃ」
こういうこともあろうかと、私はちゃんと財布も持ってきていた。今いる場所から店舗は近いので、私は道に出てからこっちだよ、と通華に声をかけようとした。
「蛇喰さ……きゃっ!」
しかし、後方確認を怠ったのが災いを呼んだ。すぐ後ろを歩いていた人にぶつかって、私は倒れてしまったのだ。すぐに立て直して謝ろうと思っても、腰を強く打ったようで立ち上がれなかった。
「あなた、大丈夫かしら?」
「あ、ぇと、おきになさらず、といいますか」
「そうはいかないわ。ほら、手出して」
ぶつかった相手は、幸いにも危ない人のようではなかった。私よりも小さな身長と綺麗なプラチナブロンドのショートカットがそう思わせる。そして、私に手を差し伸べる彼女は、端整な顔立ちもあって先程のアニメキャラクターを彷彿とさせた。
「ありがとっ、ございます……」
「どういたしまして。急に止まるのは危ないわ、気を付けなさい」
「うぅ、ごめんなさい」
「謝らなくていいのよ。ぶつかったくらいで」
私の手をとって立たせてくれたうえ、優しく笑いかけてくれる彼女に安心したところで、私の視線は高価そうなワンピースに止まった。もしすこしでも破いていたら、せかノヴァの新刊なんて言ってられなかったかもしれない。
「あー、でも、お詫びはいただこうかしら」
「ひっ、お詫び!?」
体躯と髪だけで判断するのはやはり早計だったようだ。もしかしてマフィアの娘とか、やばい人だった可能性もある。いったいなにをさせられるのだろう。土下座か。臓器か。カラダか。こんなことになるのなら、ウィンダーの話になんて乗らなければ――
「そうね……このへんにあるって聞いたアニメショップ。そこに案内して?」
「え……?」
「私、この街に来るのははじめてなのよ、だから」
そんなことでいいのか、と思った。今まで心配していたのはなんだったのか。というか、彼女が肩にかけている鞄にはせかノヴァの、それもミレニアの缶バッジがついているではないか。
「いいでしょう?案内するだけ――」
「その子から離れて」
女性の背後から、通華の声がした。
「あら、怖い怖い。彼氏かしら?」
「……女の子だから、彼女」
「どっちも彼女、なんて。素敵ね、薄い本が厚くなりそう」
「そういうのはいい。熊根さんと何を話してた」
にやける女性に迫る通華。ただ案内してと言われただけなのだが、通華の気迫に押されて私が何も言えなくなっていた。これに割って入れるほどの度胸はない。せめて、せっかくいい人みたいなのに揉め事に発展しないでほしい。
「ぶつかったお詫びに、お店まで連れていってほしいって話よ。別に土下座とか要求したわけじゃない」
「本当に?」
「ええ、本当。何もしないのは、同行させればわかるわ」
「……嘘はついてない、ね。ん、じゃあかまわない。疑って申し訳ない」
意外にも、あっさりと通華は引き下がった。揉めなくてよかった、というところか。確かにプラチナブロンドの女性のほうも、通華のほうも、揉めるほどではないと思うが、そんなくだらないし失礼なことを考えるのはやめておこう。
私の隣の位置に、通華は立ち止まる。女性は私たちふたりの姿を見てくすりと笑った。
「ごめんなさいね、デートの邪魔をしてしまって。私はキティ・タークォル。キティと呼んで頂戴」
「……蛇喰通華。彼女は、熊根深依夢」
「あ、はい!深依夢です!」
「つーかに、みーむね。覚えるわ。じゃ、行きましょうか?」
「ん、いくよ。熊根さん」
自己紹介を終えたキティが、ふわりと髪をかきあげる。おかげでいい香りの風が漂っていて、私たちはその中を歩き出すことにした。
「うん、行こうか――」
ふと、目の前に何かが見えた気がした。キティの背中に、コウモリの翼が見えたような。
「――あれ?今の……」
いくら目をこすってみても、もう一度翼は見えなかった。通華が不思議そうな目で、キティが不敵な笑みで私を見ているだけだった。
◇
結局のところ、私たちはキティに1時間30分は付き合わされた。外はもう暗くなりはじめ、キティの持っている袋にはグッズや薄い本がいっぱい入っている。
「ふぅ、こんなとこだわ」
「いっぱい買いましたね……」
「まぁね、ミレニアは私の憧れですもの」
確かに、買っているグッズはおもに彼女のものだ。それに、買い物をするキティは目を輝かせていた。きっと本当に好きなんだろう。たぶん、この口調も似せてるんだろうし。
「本当ごめんなさいね?ここまで付き合わせてしまって」
「あ、大丈夫、ですよ。ぶつかったの、私ですし」
「まぁそうね。でも出会いのきっかけってそんなもんじゃない?」
私との衝突については、もう事件だとかそういう意識はしていないらしい。私は胸を撫で下ろした。
ふと、視界の隅に通華の顔が映る。彼女はとくに何も言わないで付き合ってくれていたのだが、かなり険しい表情でいる。何かあるのかと聞きたくなるが、近づいたら危険な雰囲気でいっぱいだった。
「……熊根さん。私の顔を見つめても、意図はまだ汲めない」
「あ、えっと、ごめん。何かあるのかな、って」
「近い。来る」
「来るって、何が?」
「……敵が!」
その瞬間、背後へと空気が吸い込まれていくような風が吹く。驚いて振り返ると、なんと空間が歪み、トンネルが続いているような穴がぽっかりと口を開けていた。中から現れるのはあの時見た人外。人類の敵、NCだった。刃物を数本持っており、明らかにこちらを狙っている。まるで、蟻を潰そうとする子供のような目。
「深依夢、退がって!」
通華がばっと前に出て、私を護るように立ちはだかった。変身アイテムである羽根のナイフと宝石を取り出し、変身の構えをとった。
「マジカル――っ!?」
だが、通華は変身を中断してしまった。理由はすぐにわかる、NCの攻撃だ。一秒遅れていれば頸動脈に切れ目が入っていたというところで回避した。多くの刃物を振り回す今回の敵は、近接戦闘のサクレは苦手としているだろう。
「っち、深依夢!先に避難して!」
「え?わ、きゃぁっ!」
通華の足払いを食らい、態勢を崩す。その直後に頭上を刃物がかすめていき、私は血の気が引く思いで通華の真面目な顔を見つめていた。
しかし、固まっているからといって敵は待ってくれない。私と通華を両断してしまおうと、大型の肉切り包丁らしいものを振り上げている。通華どころか、私も殺されるだろう。死にたくない。嫌だ。それだけが頭の中を支配して、通華を盾にすることしか考えなくなってくる。どうにかして逃げないと。どうにかして!
だが、叶わない。包丁は振り下ろされ、哀れな少女ふたりは――
「『私がいないとなんにもできないんだから』……なんて、ミレニアじゃないけれど。あとは任せなさいな」
一度の金属音のあと、キティの声が聞こえてきた。周りが見えていなかったからわからなかったけれど、彼女は逃げていなかったのか。しかも、NCが刃物を振り下ろしたはずの場所に立っている。その手に握られたコウモリらしいデフォルメされたブーメランの翼には、先程通華と私を殺すはずだった刃がひっかけられている。まさか。あの包丁をへし折って、助けてくれたのか。
そんな芸当ができたなら、それはまるで、魔法じゃないか。
「――マジカル・セレクション。サヴァイヴ!」
ひっかけてあった刃を道端に投げ捨てたキティは、通華のときと同じ掛け声を放った。コウモリ型のアイテムに、夜闇を閉じ込めたような宝石が填め込まれる。すると闇は漏れだして、キティの持つそれに魔法のステッキらしい持ち手を与える。
彼女がその持ち手をしっかりと握り、夜空に掲げると、星屑のような煌めきがステッキからキティの身体に降り注ぐ。高価なワンピースやかけていた鞄が光に呑み込まれて、変わりに漆黒の衣装が形成されていく。
「セレクト・ヴァンプ!進化完了!」
ついにすべての衣装を魔法少女のものへと変化させた彼女は、高らかに名乗りをあげた。
プラチナブロンドの髪は大きく伸び、背中には可愛らしい悪魔の羽がある。さらさらとした質感の長手袋が優しげな闇を覗かせており、すとんとまっすぐに落ちていくドレスは彼女の小さな体躯をどこか蠱惑的に見せていた。
「さ、いくわよ、通り魔さん?」
くるくると回したステッキの先から、黒い光弾が打ち出される。相手は得物によって弾こうと試みるが、触れた場所から腐蝕されていくように溶けていくという予測できない事態に目を丸くする。しかも、黒に溶けた刃からは幾千もの小さなものが飛び出し、NCにまとわりつきはじめるのだ。
「私――セレクト・ヴァンプは、マルハナバチコウモリの魔法少女よ。世界最小の意地、見せてあげるわ」
ステッキの先、コウモリの頭部を撫で、魔力を走らせるヴァンプ。暗黒が現れて、夜の結晶と化していく。研ぎ澄まされた恐怖であり闇への嫌悪である刃が具現化し、NCの持つ凶器など玩具だと嘲るように宵の明星を映す。
「“Survival of the Fittest”」
背中の翼を広げ、ヴァンプは飛翔する。彼女のシルエットは、夜の王というにふさわしいものだった。
彼女の通った後には何も残らない。ただ、暗黒に葬られた死体から、魔法の卷属たるコウモリたちが湧き出すのみだった。
「――太陽の居ぬ間にさようなら」
一言、そう不敵な顔で言ったと思った途端、影が晴れていくように変身は解けていく。キティの姿に戻った彼女はこちらを見ると、にかっと笑ってブイサインをしてみせる。無傷で勝った、という報告か何かだろうか。
「……黒い魔法少女。ウィンダーの言っていたのは、貴女だったの」
「そうよ。オリジンとジュエリーを持っているんですもの、あなたもよね?」
やっと私の上から退けてくれた通華は聞かれて頷く。さっき変身を中断したとき適当に突っ込んでいた宝石を、ポケットから取り出して見せ、その証明とした。
「えぇ、わざわざありがとう」
「ん。用事は終わってるから、解散になる?」
「そう、一時のお別れよ!でもまたいつか、どこかで会ったなら……共闘といきましょうね!」
ちゃっかり戦利品の入った袋を持って、手を振る彼女。とっくに暗くなった道に照りつける照明の中を堂々と歩く小さな吸血鬼は、しだいに見えなくなっていく。
そういえば、キティが見えなくなるまで私は倒れたままだったのだが、起き上がるのには通華が手を貸してくれた。思えば、そのときの通華はどこか悔しそうだったかもしれない。
【第三話
「太陽の居ぬ間にさようなら」】