『そこにゾイドがある日常』   作:城元太

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 ところで彼女は、なんでこんな店(ごめんなさい)でバイトしているんだろうと前から思っていた。

 時給はそんなに高くないし、いつ来ても働いているのも不思議だ。でもそんな疑問はすぐ解けた。

 ある日、彼女が僕の母親と同じくらいの年齢の店員と並んで品出しをしていた。二人はよく似ていて、一目で親子だとわかった。どうやら、この店のオーナーの娘さんだったらしい。いまにしてみれば人件費削減のために、店で働かされていたのだろう。でも、「働かされていた」というのは言い方が悪い。彼女は店頭に出るのが嬉しそうだった。子どもと接する時はもちろん、孫にプレゼントを買って帰るらしいお爺さんや、紙おむつを抱えてレジを通過するお母さん、そして何度もゾイドを持って並んだ僕にも、陽だまりの様な笑顔を見せてくれた。

 それをみるたび、僕も優しい気持ちになって行くような気がしていた。

 

「いつもありがとうございます」

 次の春。アニメでは『ゾイドジェネシス』の放映が始まっていて、再販されたカノンフォートを買った時だ。彼女の方から声をかけてくれた。そのひとことだけで嬉しかった。

 僕のことを覚えてくれた。

 その時から半日強の約13時間、僕は天(ソラ)にも昇る気持ちだった。

 

 天にも昇る気持ちに、水を差したのは例の悪友だ。

「お前なあ、大の高校生、それも汗臭いバレー部のウィンドブレーカーを着た図体のでかい野郎が、毎度毎度おもちゃを買いに来ていれば、そりゃまあ覚えられるさ。相手は店員だぜ、客に愛敬を振りまくのはあたりまえだろう。

 いいか、女はその気がなくても笑顔になれるんだ。それを勘違いして、恥をかいたやつが何人いるか、忘れるなよ」

 こいつ(フラれた)経験があるな、とわかった。それだけに言葉に重みがあった。

 確かに悪友の言う通りだ。

 僕はうぬぼれていた自分の目を覚まされた気分だった。

 そうさ、こんな自分なんか、あの爽やかな笑顔の彼女に吊り合うはずなんてない。

 もしかすると、いい年をして未だにゾイドなんか買い続けている高校生を、心の中でせせら笑っているかもしれないじゃないか。

 そう思うと、急に悲しくなってきて、昨日あった彼女との会話の喜びも、あっというまに消え去っていった。

 偶然その日から、またインターハイに向けての猛練習が始まり、それから僕は1ケ月、またあのおもちゃ屋に行けなくなっていった。

 男子バレー部の活動でも、大きな変化があった。本年度での廃部が決定してしまったのだ。

 僕の通っている高校でも、募集人数の減少は毎年で、来年度にはまた1年生の募集を1クラス減らすことに決まった。だからそのため、幾つかある部活も統合削減されることになった。

 ガイロス帝国に併合されるゼネバス帝国兵士の気持ちって、こんなのだろうな、なんてぼんやり考えてしまったっけ。

 うちの男子バレー部が毎年県大会に出場できたのは、実は他校の男子バレー部が次々と廃部になっていて、簡単に中央まで勝ち上がれたからでもある。顧問の先生は廃部に反対してくれたそうだが、職員会議と校長先生の決定は絶対で、生徒会も押し切られる形で、廃部が決定してしまった。

 2年生になっていた自分は、今年の夏が最後のバレー部での活動になり、3年に進級すると、自動的に退部することになったんだ。

 最初はいいかげんな気持ちで始めた部活だったけど、なくなってしまうとなるとやっぱり悲しい。だから僕は、残り少ないバレー部のために今までにも増して練習し、あわよくば結果を残して部活存続をアピールできるように勝ち進もうと決める。

 そうなればもう、ゾイドなんかにかかわっている暇もない。アニメも見なくなり、ゾイドを眺めることもなくなり、僕は部活と学校の授業と定期試験と、そして進学を考えた上での予備校と塾に通うようになっていた。

 あのおもちゃ屋には行きたかったさ。でも、インハイが終わるまでって割り切ってがんばった。寂しかったけど、がんばった。

 そしてインターハイの開始。

 夏の真っ盛り、バレーボールの試合は暗幕カーテンを閉め切って行う。風も通らない熱気の中、僕らは汗だくになって試合をし、順当に地区大会を勝ち抜いていく。

 決勝で負けてしまったが、県大会出場枠は順当に確保した。夢中になって全力を出してしまっては身体に響くから、決勝戦は正直手を抜いた。優勝は譲ったが、充分過ぎる余裕を持っていた。

 県大会前々日。僕は女の子たちと一緒にカラオケに行った。悔しいけど、悪友の言った通り、女子バレー部の女の子たちだったりする。

 うらやましいと思う人もいるかもしれないけど、女の子たちということは、どの女の子たちとも友達止まりであったということ。

 一緒に騒ぐのは楽しい、でもそれで終わり。ごくごく浅い人間関係のまま、僕は生ぬるい青春のページを無駄にめくっていった。

 

 県大会の結果。

 地区大会準優勝のツケが、シード校との対戦カードとなって現れた。

 レッドホーンにやられるゴジュラスみたいに、格下と思っていた相手に敗退。

 愕然とした。

 力みすぎたのかもしれない。油断したのかもしれない。でも現実を突きつけられた。これが実力だったのかと。

 泣くほどではなかったけれど、心の中に大きな穴があいたような気持ちだった。

 秋には新人戦が、そして年明けに春の高校バレー予選もあるけれど、廃部が決定しているのに「新人」という言葉は虚しいだけだ。

 試合に負けたその夜。僕はボンヤリと、コアボックスの段ボールの上に乗った薄汚れたバッシュを眺めていた。

 部活が終わったからといって、暇になるわけではない。前々から悩んでいた英数の学習の遅れを取り戻すため、僕は勉強を始める。部活で鍛えたから、体力には自信があった。だから結構長時間、集中して学習ができるようになっていた。

 その成果もあったのか、優秀とはいえないものの、平均点より少し高い成績がとれるようになる。

 季節は秋になっていた。高校二年の二学期になると、今度は本格的に進路について考えなければならない。うちの高校では、今度はインターンシップという職場体験の行事が入った。

 そして一度離れると、あのおもちゃ屋に行かなくても平気になってしまっていた。

 

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