『そこにゾイドがある日常』   作:城元太

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 新人戦は、廃部が決定しているからとても本気になれなかった。市内で開催された地区大会では優勝したものの、またも県大会での初戦敗退。実質的に公式戦はこれで終了した。同時進行でインターンシップの計画をさせられ、面倒くさい資料を読まされていた。

 僕は進学志望だから職場体験なんて興味はなかった。でもうちの高校の必修単位になっていたので、しぶしぶ参加しなければならない。やっぱり楽な仕事がいいな、将来の仕事なんて、大学生になってから考えればいいや、と、適当な気持ちで体験先リストを捜していた。

 僕はリストに見慣れた店の名前を見つけた。

 販売系の受け入れ先に、例の牛丼屋と、そしてあのおもちゃ屋があったんだ。

 彼女とお近づきになれるかもしれない。僕は迷わずあのおもちゃ屋を第一希望に、そして牛丼屋を第二希望に書いた(第三希望まで書いたはずだけど、全然思い出せない。結構適当に選んだわけだ)。

 でもここの結果も、第一希望は通らなかった。そんなわけで牛丼屋決定。あのおもちゃ屋にインターンシップに行ったのは、就職希望の女子だった。

 仕方ない、僕の希望動機なんて不純なものなんだから。でもやっぱり悔しかった。ここでも彼女との会話を弾ませる機会を失ったんだから。

 それからの学生生活は、特に言うこともない。

 ゾイドは組んでいたけど、途中で投げやりになった物も多い。あの時買ったアロザウラーは、最近ゼンマイの調子がおかしくて、スムーズに歩かなくなっていた。

「お前は僕と同じか」

 二三度頭を叩くと、アロザウラー治安局版は動き出すのだった。

 

 秋を過ぎると冬なんてすぐだ。高校生活の消化試合のような部活を早く引き上げ、自分の部屋で寝転んでいると、小学生のころ組み上げたほこりをかぶったデススティンガーが目に入った。久しぶりに動かそうと、ゾイドコントローラーを探し出して接続した。だって電池ボックスに単三電池入れるためには、いちいちドライバーでネジを開けなければならないからだ。

 コネクターを接続してスイッチを入れたが、動かない。コントローラーを開けて、しまった、と思った。長らくほったらかしで、単二電池が液漏れを起こしかけていた。幸い、金具は腐食していなかったけれど、電池は完全にダメになっていた。

「電池、買って来るか」

 その日は何も無い日だった。午後1時をまわって、手持無沙汰で家族も誰もいない。

 動かないデススティンガーが、何か物悲しかった。僕は無性に電池が欲しくなって、ついでに腹も減ったから外へ出て食事をしようと自転車にまたがった。

 牛丼屋には行きづらい。なにせ職業体験をしたばかりだったし。だから近所のマクドナルドで100円バーガーとポテトを食って、本屋で立ち読み。そして久しぶりにおもちゃ屋に行くことにした。

 彼女は元気かな。また会えるかな。

 あの青いエプロンと笑顔を思い描きながら、僕はペダルを踏み込んだ。

 ジェネシスも終わり、ゾイドの商品展開もあっちこっちしていたみたいな時期だった。

 「いらっ……いらっしゃいませ」

 いた。前と同じように、陽だまりのような笑顔で。

 不思議と、彼女の笑顔が前よりもっと素敵に見える。僕がなにもせずに過ごしている間、彼女は着実に社会経験を積み重ねていたんだろうな、と思うと、なんだか情けなくなっていた。

 ゾイドの棚は縮小されていた。それに陳列されている商品の数も減っているような気がした。

 これも少子高齢化社会の影響なんだろうな、と<現代社会>の授業で先生が語っていた用語を思い出していた。

「これからどうなっちゃうんだろうな」

 ネオブロックス、と書かれた、なんだか不思議なゾイドを手に取り、そして僕はそのまま棚に戻していた。

 もう興味は湧かなかった。ぼくはもう、卒業してしまったんだなあと、実感していた。

 手ぶらでレジの前を通り過ぎる僕を見て、気のせいか、彼女は寂しそうだった。

「ありがとうございます」

 何も買わないのに、挨拶されるのは何か気恥ずかしい。僕は少しうつむきながら、レジ前を後にしていた。

 レジを過ぎてから思い出した。

「あ、電池」

 恥ずかしかったけれど、せっかく彼女とあえるチャンスだから、僕は迷わず店へ戻ったんだ。

 もう一度入った店のレジで、彼女は少し驚いたようだった。あまり長くいるのも変なので、レジに並んだ単二電池を手に取ると、すぐに会計に並んだ。

「最近はゾイド、減っちゃいましたね」

 最初僕は自分の耳を疑った。彼女から先に話しかけてきたんだから。とても嬉しかった。やっぱり僕を覚えていてくれたこと。でも、よっぽど僕をゾイドマニアと思っていたのかと考えると複雑だ。

「部活が忙しくて。それに作ってる暇も置き場所もないし」

「そうですか」

 バーコードを読み込み、会計を済ますと会話は終わる。

「ありがとうございました」

 またいつものように彼女はあいさつをした。ただ、向こうは意識していないかもしれないし、ただの営業トークかもしれないけど、それでもやっぱり嬉しかった。

 欲しいゾイドが売り場から姿を消し、僕はもうあのおもちゃ屋に行く機会を失っていた。

 秋風がやがて木枯らしになり、積らない雪が何度かちらついた間、僕はもう、あのおもちゃ屋に足を運ぼうとはしなくなっていた。

 

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