そのおもちゃ屋が閉店すると知ったのは、まだ肌寒い1月末のころだった。
心の底から、しまった、と思った。
もう、彼女と会えないじゃないか。
とにかく時間を見つけて、あのおもちゃ屋に行くようにしようと決めた。
閉店準備をする店がこれほど寂しいとは思わなかった。
行くたびに棚の商品が減っていき、次第に赤札の値引き商品が増えていく。最初2割引だった商品が、やがて4割引、5割引となって、終いには9割引の捨て値になっていく。
空っぽになった床にはついたてが立てられ、商品整理用の段ボールが積まれていく。
僕は売れ残っていたらしいジェネシス仕様の緑のモルガを3つ買い、販促用の特典の残りらしい金色のパイルバンカー(ハヤテライガー用だったとか)を買った。
あの女の子は商品の片づけに忙しそうだった。よくゾイドの箱を見事に陳列するように、整理用の段ボールに隙間なく売れ残った商品を詰め込んでいた。けれど、僕が安売り品を持ってレジに向かうと、売り場から小走りで戻ってくれたんだ。
「お店、閉まっちゃうんですね」
「はい。いままでありがとうございました」
僕から自然に出た言葉。失っていく何かに気付いて、思わず出た言葉だった。
ビニール袋にモルガとパイルバンカーを入れる彼女の姿を眺めながら考えてしまった。
僕らはいつまでおもちゃと付き合えるんだろう。
大人になればなるほど、他に費やす時間が増えて行く。
無邪気にゾイドの活躍を妄想しながら過ごせた日常はもう戻らない。
ゾイドからスポーツへ、そして異性へと、関心は移って行く。
子ども時代は消え去って、記憶の底に埃にまみれて埋もれて行くんだ、僕の部屋のゾイド達の様に。
ああ、僕も成長してしまったんだな。
「あの、どうかされましたか」
彼女が困った顔をして僕を見ていた。
「す、すいません」
僕はあわててレジを後にした。
それから閉店するまで、何度もおもちゃ屋に行った。
幾つも細々としたものを買った。
売れ残りのゾイドも買った。
彼女にも会えた。
でも、心は満たされなかった。
いよいよ閉店の日。
彼女はいなかった。
だって、もう赤札のついた商品は残り少なく、店員を何人も使うほどではなかったからだろう。
ゾイドも無かった。
僕にとってのゾイドがある日常も、終わったと感じていた。
翌日、清掃業者がダンプカーの荷台だけみたいなものを持ってきて、中に残っていたおもちゃ屋の残り香を全て無造作に放り込んでいた。鮮やかで楽しげなパッケージ達が、無残に晒されているのは無性に悲しかった。
店が取り壊されることはなかった。建物は改装されて、マンガ喫茶になった。でも、僕には用がない店だ。
春の訪れとともにバレー部は廃部になった。僕は受験モードに突入するため、新しい部活に入部することもなかった。
まだ高校3年生に進級するというのに、いろいろな物から卒業してしまったような気分になっていた。