仲間を失ってしまった彼等だが、それでも落ち込んでいる余裕などなかった。
ネオ・ジオンによるコロニー落としの情報が入ったからである。
それを止めるべく出撃したメンバー。
しかしそこで更なる悲報が待ち受けているとは思いもよらなかった。
「どうして……どうしてそちら側にいる!サリア!」
「私はエンブリヲ様に救われた……故にあの方の騎士となった!」
行方不明になっていたサリア、エルシャ、クリス、ターニャ、イルマの五人がエンブリヲへ降っていた。
かつての仲間達との敵対だけではない。
死んだと思われていたレナード・テスタロッサもまたエンブリヲの仲間になっていたのだ。
……攫われていた千鳥かなめと共に。
「かなめ!」
「うるさいわね、宗介。私はレナード達と一緒にコロニーを落とすの」
失っていく。
仲間が、大切な人が、どんどんと掌から滑り落ちて行く。
彼等の脳裏にチラつき始める闇。
しかしそれだけではなかった。
「オードリー……」
かつてオードリー・バーンとして共に行動していた少女。
彼女がミネバ・ラオ・ザビとして戦場へ舞い戻ったのだ。
戦争を止める為に。
「私達は止めなくてはならないのです。繰り返される憎しみの連鎖を」
「その為に俺達はここに来た」
「カミーユさん!」
カミーユ・ビタン、ファ・ユイリィ、マリーダ・クルス、スベロア・ジンネマン。
彼等もまた彼女の言葉と共にここにやってきた。
「行こう!まずはあのコロニーを止めるんだ!」
奮闘する戦士達。
だがそれを嘲笑うかのように、エンブリヲは次の一手を打っていた。
コロニーの落下速度が、こちらの想定、計算より遥かに上回っていたのだ。
「事態は刻一刻と変化している。こういうハプニングも想定していなくてはね」
そう。エンブリヲがコロニーの落下速度を速めていたのだ。
想定より地球へと近づいていたコロニーへの下手な攻撃は、破片を地球全土へと降らせるだけとなってしまう。
跡形もなく完全に砕くには時間が足りない。
だがまだ希望は残されていた。
「コロニーレーザーで落下するコロニーを狙撃します」
グリプス戦役で破壊されたコロニーレーザーが残されていたのだ。
しかしその為には一時でもコロニーの落下速度を減速させなくてはならない。
勿論、彼等ならばコロニーを支えて減速させるのは不可能ではない。
「ですが、コロニーを支える我々もそれに巻き込まれる事になります」
アルの一言が全てを物語っていた。
確かに支える事は出来る。
だが脱出する時間がない。
つまり逃げ場がないのだ。
「いえ、まだ手はあります」
ボソンジャンプが可能なナデシコCがコロニーを支える。
しかし脱出は出てきてもコロニーを支えきれない。
故に全員でコロニーを支え、時間ギリギリでナデシコCに着艦し、ボソンジャンプで離脱する方法が挙げられるが。
現実的な時間問題として、全員が着艦できる時間などない。
「それでも俺達は行きます」
バナージの決意の声。
確かに限りなく不可能に近いかもしれない。
だけど、それでも、だ。
彼等は地球を救う為に不可能を可能にするのだ。
だけど決意したのは彼だけではない。
彼女もまた最善の結末にする為にこの場にやってきていたのだ。
「ユニコーン!」
彼女からの提案と方法を聞いて、バナージは即座に行動する。
ユニコーンガンダムのサイコフレームを通じてこの場にいる命の輝きを一つへと纏めていく。
皆の意識を一つに繋ぐ事が出来れば、それは一つの生命、物質とみなされ着艦せずともナデシコCとボソンジャンプができる。
それを行う為にユニコーンガンダムは赤い光から、緑の光へと姿を変えこの空間を満たして行く。
シンカ。
そう呼ばれる力の片鱗が見えた時。
「これは……!」
「感じるぞ、みんなを……!」
確かに彼等は一つとなった。
そしてボソンジャンプ。
一つになった彼等は飛んだのだ。
その時……。
「え……?」
『――』
「貴方……いや、君は……まさか……!」
バナージは誰か、いや、見知った声を聞いた気がした。
まるで自分達を導くように。
彼等がやってきたのは、かつてアムロ・レイが押し返したとされるアクシズの片割れ。
そこでラプラスと呼ばれる組織と出会う事になる。
戦争をどちらかが倒れるまで続ける、とはまた違った形で戦争を終わらせる為に結成された組織。
憎しみに疲れた者や、アクシズで放たれた光から希望を見出した者達が集まったのだ。
そこで預けられたボソンジャンプの演算ユニットとコロニー・レーザー。
果てしなく重い物ではあったが、戦争を終わらせるべく受け取る。
だが戦いは繰り広げられるのであった。
ネオ・ジオンと手を組んだと思った連邦特殊部隊Gハウンドの強襲。
コロニー・レーザーを手中に収めるべくやってきたフル・フロンタル率いるネオ・ジオン。
なんとかこの二つを撃退したものの、彼等の戦いに終わりは見えなかった。
この戦争を左右するかもしれぬ存在、ラプラスの箱を狙うネオ・ジオン。
地上を制覇せんと動き出したDr.ヘル。
そして不気味な存在、エンブリヲ。
それらを止め、戦争を終わらせんと分担して戦いに挑む事となった。
その結果、ネオ・ジオンとの和解に成功。フル・フロンタルとも歩み寄る事が出来た。
千鳥かなめを始め、サリア達三人も戻ってきた。
だが事態はいい方向ばかりに転じた訳ではなかった。
エンブリヲ、Dr.ヘルは倒したものの、新たにミケーネと呼ばれる神々の到来。
そのミケーネすら打ち倒した程に強力な機体へとシンカしたマジンガーZの暴走。
そしてトドメとばかりに襲い掛かってきたEVA3号機を乗っ取った使徒。それに乱入するように現れた新たな使徒。
まだ終わりではないとばかりに現れるマジンガーZ。
否、マジンガーZERO!
まさに混戦。
大嵐の中と言っていいだろう。
しかし希望は決して途切れはしない。
グレートマジンガーを超える新たなマジンガー。マジンエンペラーG。
覚醒し、圧倒的な力を見せるEVA初号機。
そして真・ゲッターロボ。
これらの活躍により、マジンガーZEROは暴走が収まり再び甲児の力となった。
使徒二体は倒され、捕らわれていたレイとアスカは無事に救出された。
見事。見事と言っていい。
考える中でも最上の結果と言っていいだろう。
だがそれを嘲笑うかのように、奴等が再び現れた。
「ガーディム……!」
「ジェイミー、貴様か!」
ガーディム大型機、マーダヴァを駆る女指揮官。
そして大切な仲間の仇。
それが再び目の前にやってきたのだ。
「チトセちゃんもいるな……」
その横にゲシュペンスト・タイプRVの姿も見える。
しかしその姿はまた何処か変わっていた。
前回、持っていた手持ち式のライフルの姿はなく変わりに、両腕に大型キャノンが装備されている。
更に背中にも多数のパーツが追加されているのが確認できる。
「あの機体……!」
「ナイン、分かるか?」
「はい!あれは姉さん専用機として開発していたヴァングネクスのパーツです!ガーディムは奪った機体を使って強化したんです!」
前回の襲撃時に奪われた機体。
それを使われたのだ。
「ええ、そう。貴方が使うより私達が使う方がいいと思ってね。さすがドクター、いい仕事をしてくれるわ」
上機嫌そうに答えるジェイミー。
その言葉を聞いて、ソウジの怒りのゲージと言うべきものが上がっているのが分かった。
弟分を殺され、妹分は洗脳されたあげく心を壊された。挙句に相棒の大事な機体を無断で利用されたのだ。怒りで狂わない方がどうかしている。
そしてソウジだけではない。ロンド・ベルをはじめた全員がジェイミーに怒りの眼差しを向けている。
この外道を許す訳にはいかない、と。
「さぁ、今日こそそのAIとヤマトを頂きましょう。チトセ、始めなさい」
「……了解」
チトセが感情の篭らない声で返答すると、両腕のキャノンを向けてくる。
戦闘開始だ。
「待ってろよ、チトセちゃん!」
前回の襲撃時を上回る戦力で襲ってくるガーディム。
それを迎え撃うソウジ達。
しかしその数は圧倒的であった。
「くっ!奴等の戦力は底なしなのか!」
Ξガンダムを最大稼動、ファンネルミサイルも最大限に放出しながら悪態をつくハサウェイ。
前回の戦闘で、かなりの数の敵を撃破した筈だ。
それにも関わらず、前回以上の数を用意するとは恐ろしいと言うしかない。
「だけどこちらも!」
「負けられねぇんだよ!」
ダイターン3とザンボット3が密集していた敵に突っ込み陣形を崩すと同時に。
「邪魔だ……!」
「どきなさい!」
ブラックサレナとヴィルキスの突破力がある機体が敵を一網打尽にしてく。
こちらの狙いはこんな雑魚ではない。
「狙いは一点だ!ナイン!」
「了解です!」
防衛線として機能していた敵機を撃墜すると同時に、グランヴァングが突っ込んで行く。
狙いはただ一つ、ジェイミーの指揮官機である。
それに続くように真・ゲッターやマジンガーZERO、加えてクロスボーンガンダムなどの機体も突っ込んで行く。
チトセを救うには、まず洗脳しているだろうジェイミーを落とすしかない。
「狙いは私。だけどそう簡単には行かないわ。我等ガーディムの力はこんなものではないわよ」
指揮棒を振るうかの如くマーダヴァが手を振ると、敵機が何もない場所から出現する。
空間転移だ。
数は30近く。
この数に突っ込むのは自殺行為だろう。
しかし。
「舐めるなぁ!」
「っ!」
パワー任せに、敵機を破壊する二体の破壊神。
さすがにこれは予想外だったのか目を見開くジェイミー。
だが。
「それでもこちらの優位には変わらないわ!チトセ!」
ジェイミーの指令を受け取って、チトセのゲシュペンストが襲い掛かってくる。
分かっていたとは舌打ちをしたくなる。
ジェイミーの方はどうでもいいが、こちらはチトセは救うべき対象だ。
下手な攻撃をして傷つけたら、ショウに何を言われるか溜まったものではない。
それはガーディムも理解している。
つまりソウジ達はチトセを人質にされているも同然だ。
「くっ!チトセちゃん!」
「……」
声は届いている筈。
だと言うのになんら反応が帰ってこないのは、前回と違い洗脳の状態が高いレベルになっているのか。
それとも……。
「ええ、貴方の考え通りよ。ムラクモ・ソウジ」
「ジェイミー!ぐっうっ!」
いつの間にか目の前に現れたマーダヴァがグランヴァングを地に叩き落す。
なんとか体勢を整えながらもジェイミーの言葉に耳を向ける。一つでも情報を手に入れる為にだ。
「そう。今のチトセはそれ程、強い洗脳がかかってるとは言い難いわ」
「なら、どうして……!」
「簡単な話でしょう」
それはもう彼女には心がないから。
「姉……さん……!」
あの時、ショウを自らの手で殺したと思った瞬間、心が壊れたと刹那やバナージが言っていた。
その通りなのだろう。
チトセからは感情も何もかもが抜け落ちた機械人形のようになってしまった。
今の状態ならば、ナインやアルの方がよっぽど人らしい。
「いいわ、いいわよ!チトセ!」
「調子に乗りやがって!」
どれだけ悪態をついてもガーディムの有利は変わらない。
この一戦で全てにケリをつけるつもりなのか、増援が止まらない。
そんな惨状にさすがの彼等にも疲れが見え始める。
終わりの見えない戦いは人から余裕を奪っていくものなのだ。
「だが!」
「諦めるか!」
それでも吠える者達がいる。
どれだけの敵が襲い掛かってこようと関係ないと。
マジンガーが敵を潰す。
ゲッターが敵を切り刻む。
グランヴァングが敵を撃ち抜く。
まだだ、と。まだ終わらないと。彼等はまだ叫び続けていた。
そんな彼等に勇気付けられたのか、一時は弱まった攻勢が一気に巻き戻る。
そんな光景を見てジェイミーは舌打ちをする。
なんと美しくない光景か。
見苦しくて仕方がない。
さっさと諦めて楽になればいいのにと身勝手な事を考える。
「なら、希望の一つを奪うとしましょう。チトセ」
動きが変わった。
それを瞬時に理解したのはナインであった。
「拙いです!狙いがヤマトに変わりました!!」
「くそったれ!」
敵の動きを止めたいのは山々だが、次々に襲いかかってくる敵を倒すので精一杯だ。
「回避行動!」
「駄目です!敵の方が……!」
ヤマトが必死に回避運動を取ろうとするも、マーダヴァとゲシュペンストの方が早い。
「ブリッジを潰して終・わ・り」
「ヤマト!!」
マーダヴァのビーム砲がヤマトのブッリジに向けられる。
もはや逃げる術はない。
誰かの悲鳴が聞こえる。
こんな所で終わりなのかと。
戦場にいる全員の視線が一点に集中する。
「これで!」
その引き金を引こうとした、その瞬間。
世界に光が満ちた。
「な、何っ!?」
それだけではない。
マーダヴァが弾き飛ばされたのだ。
「一体何の光だって言うの……!?」
「……」
この異常事態の発生源。
それはいつの間に上空に舞い上がっていた機体、ユニコーンガンダムであった。
同時にバナージの声。
「聞こえる……」
「えっ?」
ユニコーンガンダムから発せられる光が強くなっていく。
ジオフロント全てを満たさんとしているようだ。
「聞こえる!」
「一体誰のだって言うのよ!」
ヒステリック気味に叫ぶジェイミー。
せっかくいい所だったというのに。
「いいわ!まずは貴方から破壊してあ・げ・る!」
「バナージ、逃げろ!」
マーダヴァの矛先がユニコーンガンダムに向けられるが、無防備のまま。逆に武器を全て手放し、両手を空へと掲げてしまっている。
思わずジュドー達の叫びが響き渡るが、バナージからの反応はない。
そんな様子を見ながら、ジェイミーがニタリと笑いを零す。
邪魔をする敵はこれで消せると、そんな表情だ。
「俺は……俺達は……ここにいるぞ!」
「錯乱でもしたのかしら。いいわ、消えなさい」
ようやく聞こえてきたバナージの声に、首を傾げながらも引き金を引く。
放たれるビームがユニコーンガンダムを貫かんと進む。
が。
「は?」
ユニコーンガンダムに触れる直前に消滅したのだ。
意味が分からないと、思わず間抜けな声を零すジェイミーではあるが、すぐに思い出した。
「サイコフィールドって奴ね……なんて面倒な!」
「いや、違う……!」
しかしそれを否定したのはバンシィに乗るリディであった。
同型機に乗っている彼だからこそすぐに気づいた。
今、ビームをかき消したのはユニコーンのサイコフィールドではない。
そしてその解はすぐにやってきた。
「ワープ反応!」
「ボソンジャンプでもシンギュラー反応でもありません!ガーディム、ガミラスのワープ反応とも異なります!」
「反応場所は……ユニコーンガンダムの更に上!?」
戦艦のオペレーターや観測班から上がってくる反応。
何者かがここにワープしてくるようだ。
それも今まで出会った事がない、まったく新しい存在。
敵か、味方か。
新たな敵が来たのかと、そんな事を思いながらも気づいた者達がいた。
「これは……!」
「この感覚は……!」
「そうか、これは!」
アムロを始めとするニュータイプと呼ばれる者達である。
「来る!」
閃光。
雷鳴が落ちた如く、光と共にそれはやってきた。
「あ、あれは……!?」
「ああ、間違いない……!」
白い装甲。特徴的な白い耳のようなパーツ。
丸みを帯びていたパーツは、何処かエッジのような鋭さになっているものの大きな変化は見られない。
特徴的な巨大になった右腕を始め、 鉤爪が装備されたような左腕など自分達が知っているものとは大分違いを見せるが、やはりその姿を見間違う事はあるまい。
「ゲシュ……ペンストですって……!?」
ジェイミーの言葉が全てを物語っていた。
姿も色も装備も変わったが、あの機体に違いない。
そう、あれこそが……。
「ああ、そうだ」
「っ!」
白い謎のゲシュペンストから聞こえてくる声。
その声を聞いて、誰もが驚愕の表情を浮かべる。
「え……」
心が壊れたとされるチトセすらもその表情に変化が見られる程だ。
「悪いなジェイミー。もう一度言うぜ」
「な……な……!」
今度こそジェイミーは言葉を失った。
それはありえない人物の声だったからだ。
もう、この世にいる筈のない存在。
「どうしてお前がここにいるタカサカ・ショウ!?」
「チトセを取り戻しに来た!それだけだ!」
タカサカ・ショウ。
今、戦場に帰還した。