スパロボVで頑張る   作:白い人

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貫く力の先に

 戦場にいる誰もが驚きの声を隠せないでいた。

 白いゲシュペンストから聞こえてきた声は、間違いようのないショウのものだ。

 

「ショウ!お前……生きてたのか!」

「ええ、死ぬかと思いましたけどね」

「でもどうやって……?」

 

 ソウジの声にちゃんと反応し、声を返してくれるショウ。

 それを聞くと彼が本当に生きていたのだと実感する。

 だが疑問も残る。

 

「そう!そうよ!どうして生きてるのよ!?あの時、プラズマで貫かれたじゃない!どうして!?」

 

 意味が分からないとジェイミーが錯乱したかのように叫び続ける。

 だがそれはナインとしても同感であった。

 あの時、確実にコックピットを貫かれていた。回収した機体だって確認したのだ間違いない。

 

「悪いがトリックを説明する気はないぜ」

「くっ……ならもう一度、殺してあげる!」

 

 ジェイミーの指揮の下、新たな白いゲシュペンストに襲い掛かるプラーマグの軍団。

 一機に対して多すぎる数ではあるが、一度殺したのにも関わらず蘇ってくる相手だ。量をぶつけなければならないと判断したのだろう。

 回りの機体に対しても援護に行かせないようにしっかりと攻撃を仕掛けておく。

 これならば、と思ったジェイミーであるが。

 

「は?」

 

 その次の瞬間にその思いは覆される事になる。

 攻撃を仕掛けたプラーマグを一瞥すると、白いゲシュペンストは飛び上がると共に、その左の爪であっと言う間に一機を貫いて破壊。

 すぐさまに破壊した残骸を投げつけると、更に跳躍。今度は大型化した右腕で撃ち貫いて行く。

 とどめとばかりに固まった相手に大しては胸部発射口が開き。

 

「落ちろ!メガ・ブラスター・キャノン!!」

 

 その光の一撃で破壊していってしまった。

 

「ヒュー!やるじゃないか!」

「見た目だけではなく出力や機動、運動能力が凄い向上しています……」

 

 その蹂躙劇を見たソウジとナインからは感嘆の声が上がる。

 どうやら見た目だけ、という訳ではないようだ。

 今も地を這うように突撃を繰り返して、文字通り千切っては投げを繰り返している。

 

「ええい!ならチトセ!今度こそあいつを殺しなさい!」

 

 業を煮やしたジェイミーがチトセに攻撃を仕掛けるように指示を送るが。

 動かない。

 チトセのゲシュペンストは一歩も動かないでいた。

 

「チトセ!?」

「い、いや……わ、私は……!」

「ええい!言う事を聞きなさい!」

「……っ!」

 

 壊した筈の心が戻ってきている。

 それに気がついたジェイミーはすぐさま、洗脳を強める。

 再び人形のように表情を消したチトセではあるが、ジェイミーの怒りは凄まじく燃え滾っていた。

 それも全てあの死に損ないのせいである。

 

「行きなさい!チトセ!」

「なら相手になるぜ!チトセ!」

「何っ!?」

 

 動き出したゲシュペンスト・RVに対して、すぐに白いゲシュペンストが突っ込んで行く。

 まるで待っていた、とばかりの動きである。

 あの様子、声色。

 そこには自信と覚悟の色がついていた。

 

「まさか……気づいた!?」

 

 それに気づいたからこそ、連鎖してある一点を思いつく。

 最初からこれを狙っていたのだとしたらまずい。チトセを取られてしまう。

 

「させない……!」

「それはこっちの台詞だ!」

「くっ……!」

 

 慌てて援護に向かおうとするも、立ち塞がる機体があった。

 真・ゲッター、マジンガーZERO、マジンエンペラーGの三機である。

 圧倒的な力を持つ三機。

 さすがのジェイミーもこの三機相手では無視する事は不可能だ。

 増援にマーダヴァを呼び出していく。

 

「ど・き・な・さ・い!」

「退くかぁ!」

 

 それと同時にショウとチトセも戦闘を繰り広げていた。

 機械的な動きで堅実に白いゲシュペンストに攻撃を繰り返すチトセ。

 逆に荒々しい動きで回避していくショウ。

 傍目から見れば押しているのはチトセで、押されているのはショウ。

 だがショウにはある狙いがあった。

 しかしその為の情報が足りず、それを調べる方法も持ち合わせていない。

 だからこそ。

 

「ナイン!力を貸してくれ!」

 

 仲間に力を借りる事にした。

 自分は一人で戦っている訳ではないのだから。

 

「キャップ!」

「おうよ!」

 

 ショウの声を聞いて、すぐに駆けつけるグランヴァング。

 何をしたいのかは分からないが、自分の力を頼りにしてくれる。それがナインにとってとても嬉しかった。

 

「チトセのゲシュペンスト、コックピット回りにエネルギー、電波、なんでもいい奇妙な流れはないか!?」

「サーチしてみます!」

 

 すぐにサーチを開始するナイン。

 ソウジは回りに集まってくる敵機を潰しながらショウに疑問の声をぶつけた。

 

「何をするつもりだ!」

「教授が言っていた。洗脳具合を変更できるなら、それは何かしらの方法で指示を送っていた筈だと!」

 

 先日の戦いでジェイミーはチトセの洗脳状態を好きに変更できていた。

 それは催眠、薬などの直接的な方法ではなく、パルスなどの外的方法で操っていた可能性が高い。

 前者ではなく後者であるならば。

 

「つまり受信装置がある……ですね!見つけました!」

「そこを破壊する!」

 

 ナインが見つけたのはコックピットの真上。

 そこに受信機がある。

 だが。

 

「狙いを外せばチトセちゃんが……!」

「それでもだ!」

 

 表示された部分を見て顔を顰めるソウジ。

 少しでも狙いを外せばチトセがどうなるか分からない上に、この乱戦でそこのみを貫くのは至難の技である。

 だがショウは吠えた。

 今度こそ目の前の人を助ける為に。

 

「一意専心!狙いは一つ!」

 

 白いゲシュペンストが左腕を構える。

 たった一点を貫くにはこれしかない。

 

「援護する!」

「行って下さい!」

 

 グランヴァングからミサイルと銃弾の嵐が降り注ぎ、回りの敵機に襲い掛かる。

 一瞬。

 この一瞬のみ、ショウとチトセは一騎打ちの状態になる。

 それを逃さす、白いゲシュペンストは一気に駆け抜けた。

 

「……!」

 

 それを黙って見逃す筈もなく、迎撃していく。

 だが地を滑るかの如く、回避し時には正面から突っ込んで行く白いゲシュペンストを止めるには至らない。

 そして。

 

「そこだ!」

 

 白い爪がゲシュペンスト・RVに突き刺さった。

 その結果は……。

 

「そんなチトセがやられた!しかも受信機のみ破壊されたっていうの!?」

 

 ジェイミーの悲鳴染みた声が全てであった。

 チトセは鎖から解き放たれ、元の場所へと戻って行くだろう。

 だがそれは認められない。認めてたまるものか。

 

「お前達!チトセを回収しなさい!」

「了解」

 

 量産型グーリーが乗ったマーダヴァがチトセのゲシュペンスト・RVを回収せんと動き出す。

 だがそれはすぐに無意味な行動となる。

 

「二人の邪魔は!」

「させないよ!」

「なんですって!?」

「ブラックホール・キャノン発射!」

 

 

 黒い衝撃。

 全てを飲み込む重力崩壊が襲い掛かったのだ。

 その武器に聞き覚えがあったショウは視線を向ければそこには一体のPTの姿があった。

 だが自分の知っている姿とは違っていた。

 

「赤いヒュッケバイン……」

「ああ。これが君と開発していた改良型……ヒュッケバインEX。レッドの姿だ」

 

 ショウの呟きにヴェルトが答える。

 あの時、破損したヒュッケバインが改造され、新たな力を得て新なる凶鳥に生まれ変わったのだ。

 それならば、と視線を動かせば巨大な影。

 

「天に二つの禍つ星……!その名も計都羅喉剣!暗剣殺!!」

「黒いグルンガスト!」

 

 敵を両断したのは黒いグルンガスト。

 ヒュッケバイン同様、改良された姿なのだろう。

 

「そう!これがグルンガスト改!ブラックだよ!」

 

 ロッティの嬉しそうな声が響く。

 それは生きてたショウに対して、そして助ける事に成功したチトセに対してのものに違いない。

 

「嘘……嘘よ!」

 

 ヒュッケバインEXとグルンガスト改が現れた事によりもはやチトセの回収は不可能だ。

 それだけではない。チトセばかりに視点を向けていた反動か、押していた筈の戦局がいつの間にか逆転しているのだ。

 

「くっ……!データは集まった。一度引いて」

「逃がすと!」

「思っているのか!」

「!」

 

 退こうとした瞬間、目の前に真・ゲッター1とマジンガーZERO、マジンエンペラーGが現れる。

 ジェイミーの護衛にと配置していた部隊も彼等によって殲滅させられていた。

 

「今日で終わりにしてやる!鉄也!甲児!あわせろ!」

「応っ!」

 

 最初に飛び込んだのは真・ゲッターとマジンエンペラーG。

 トマホークとソードによる剣戟の嵐がジェイミーのマーダヴァを切り刻んでいく。

 

「こ、この程度で……!」

「まだだぁ!」

「がっ、はっ!」

 

 剣戟の嵐が収まった瞬間、上から急降下してきたマジンガーZEROに体当たりされて地面に容赦なく叩き落される。

 その衝撃で、ジェイミーの意識が吹き飛ばされそうになるがまだ、である。

 

「……ひっ!」

 

 すぐに意識を戻したジェイミーであるが、マーダヴァの上空に佇む三体のロボットに思わず悲鳴を上げる。

 もはや逃げ場などない。

 

「これで!」

「終わりだ!」

 

 マジンガーZEROのブレストファイヤー。

 マジンエンペラーGのグレートブラスター。

 二つの炎が襲い掛かる。

 そして。

 

「ゲッタービィィィム!」

 

 真・ゲッター1から放たれるゲッター・ビーム。

 三つの力が容赦なく襲い掛かる。

 

「ファイナルダイナミックスペシャル!!」

 

 閃光。

 そして爆発。

 進化し、強化された機体の力は間違いなく絶大であった。

 

「は……は……!生きてるわよ!た、大した事なかったわね!」

 

 それでもジェイミーは生きていた。

 マーダヴァも半壊を通り越した状態ではあるが、まだ動ける。

 そんな少しだけ生まれた余裕から、軽口を叩く。

 

「は、手加減してやったに決まってるだろう」

「……え?」

 

 そこから帰ってきたのは容赦のない返しであった。

 手加減されていた。

 前回は手加減して遊んでやった相手に逆に手加減された。

 なんて屈辱。

 この借りはすぐに返さないと、頭が沸騰してしまいそうだ。

 しかしそんな思考は次の一言でかき消される事になる。

 

「お前にトドメを刺すのは俺達じゃない」

「……!」

 

 その一言で全てを察した。

 手加減された訳を。

 それを裏づけするように、こちらに急接近してくる反応が一つ。

 

「タカサカ……ショウ!」

 

 白いゲシュペンストである。

 止まる事など考えてないとばかりの全力疾走。

 それにあわせてその巨大な右腕を構えている。

 疑う余地もない。

 あの男こそがジェイミーにとっての死神になるつもりなのだと。

 

「ふざけないで!お前如きにこの私が!」

「撃槍起動……!」

 

 必死に離脱しようとするジェイミーだが、マーダヴァの損傷は限界を超えている。逃げるなど不可能だ。

 逆に軽快に動く白いゲシュペンストは巨大な右腕が変形していく。

 回転とパーツの組み換えにより、手の部分を覆うように現れた巨大な突起物。

 これこそがジェイミーを貫く必殺の一撃。

 

「トロニウムエンジン、フルドライブ……!」

 

 出力上昇を確認。

 その出力の数値を見てナイン達が目を見開く。

 単純な数字だけで見るならば真・ゲッターやマジンガーZEROクラスと言っていい膨大な出力なのだから。

 ジェイミーもまたその出力を見て、顔を引き攣らせる。

 

「来るな……来るな……!」

「リミッター解放、全開!」

 

 白いゲシュペンストがバーニアを全開で吹かす。

 止まりはしない。

 最速で最短でまっすぐに……突っ込むだけだ。

 

「響けぇ!ガングニール!!」

 

 閃光。

 繰り出された右腕から放たれた一撃は、迷わず、狂いなく、マーダヴァを撃ち貫いた。

 

「あ……ああ……」

 

 貫かれたコックピットでジェイミーが呻く。

 こんな結果は認められない。認めたくないと。

 そんな事を思いながら。

 

「こん……な……の……美しく……ない……。絶対に……何か間違って……」

 

 しかしどれだけ否定しようと、これが現実。

 ガーディム一等武官、ジェイミー・リータ・スラウシルは敗れたのだ。

 これ以上の否定は美しくない。

 

「……チトセ」

 

 それが最後の台詞であった。

 

「敵の全滅を確認」

「……うむ」

 

 沖田艦長が頷く。

 長い戦いであった。

 使徒達の戦い、マジンガーZEROの暴走、ガーディムの襲来。

 そして死んだと思っていたタカサカ・ショウの帰還。

 時間にすれば一時間も経っていない筈の戦いではったが、長い戦いと言ってもいいかもしれない。

 さぁ、帰ろう。

 そう思った時、それは現れた。

 次元境界線の歪曲の暴走。

 EVA初号機とマジンガーZEROを基点にした時空融合……いや、時空崩壊。

 これにより世界は新たなステージに進む事になる。

 だが。

 

「まだ終わりじゃない、これから始まるんだ」

 

 誰かが呟いた。


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