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地球艦隊・天駆がイスカンダルから旅立ってから数週間が経った。
道中、エンブリヲなどの敵対者の襲撃もなく穏やかな日々が続いていた。
勿論、沖田艦長から気を抜かないでしっかり警戒するようにというお達しもあった為、気を抜いているという事は少なかった。
ただ無事にイスカンダルに到着し目的の物を手に入れたという事もありささやかなお祝いを行ったりもした。
最近、日記を書いてなかったので道中にあった事を今日はまとめておこうと思う。
・エースパイロット
「メリー・エースパイロット。おめでとうございます、ショウさん」
「ああ、ありがとうナイン」
イスカンダルから旅立って数日。
何故かナインに呼び出されたショウにかけられたのはそんなお祝いの言葉であった。
「しかし俺もついにエースパイロットになったのか……」
「偶然でも奇跡でもありません。これはショウさんの努力の結果です」
何かの間違いじゃないかな、みたいな雰囲気を出すショウの思考をナインが遮断する。
これは今までの努力の積み重ねがあった結果だと。
「ありがとう、ナイン」
「ですので今日はお祝いを、と思いまして色々とご用意させて頂きました」
「用意って何を……これって音楽ディスク?」
ナインが取り出したのは一枚の音楽ディスク。
「はい。ショウさんが音楽を聞くのが好きという事は聞いていましたので、歌手であるラクスさんは勿論、アンジュさんなど歌が得意な人達の曲を詰め込んだ一品になっています」
「なんと」
「勿論、姉さんが歌った曲も入っています」
「なんと」
「え、えっと……そのわ、私も頑張って歌ってみました……」
「……ありがとうナイン」
ナインが本気で用意してくれた事に感謝する。
上手とか下手とかそんなの関係なかった。
彼女達が自分の為に色々してくれた事がショウにとって本当に嬉しかったのだ。
「後でゆっくり聴かせてもらうよ」
「あの、ショウさんはどうして歌が好きなんですか?」
「歌を聴いてると落ち着くし、嫌な事があっても頑張ろうって気持ちになれるからな」
「なるほど」
ショウの答えにナインが頷く。
それに、とショウが付け加える。
「遥か彼方で星が音楽となった、からとかかな?」
「……なんですかそれは?」
「それはきっと愛なのさ」
「え、どうしてそこで愛が!?こ、答えてくださいショウさん!」
慌ててショウに問い詰めようとするが、既にショウの姿はそこにはなく姿を消していた。
追いかけようとせず呆然とナインが佇んでいたが一つの答えに辿り着く。
「なるほど。つまり歌は……愛という事なんですね。え、でもそれはつまりショウさんの為に歌ったという事は愛を歌ったという事に……?」
が、そこから導き出した答えから派生していく、考えに混乱していくナイン。
ソウジがこの場にやってくるまで、顔を赤くしたり変な顔をしたりして呆然と立ち尽くすナインなのであった。
・機体開発
「うーん、どうだヴェルト」
「数値は悪くないが、実戦で使える物ではないな」
「そっか……」
ヤマトの格納庫。
ゲシュペンスト・タイプSBの前でショウとヴェルトがモニター画面を見ながら話し合っていた。
「やっぱり念動兵器の使用は不可能か……」
「使用前提を考えていないんだ、仕方ないさ」
二人が行っていたのはゲシュペンストに搭載されているT-LINKシステムを使って、念動力を応用した兵器の使用が出来ないかの確認をしていたのだ。
しかし先ほどの言葉通り、本来は使用の想定をされてない代物だ。簡単に使う事は出来ないだろう。
「まぁ、このゲシュペンストならば使えなくてもそれ程、問題はないだろう」
「そうなんだけどな……」
ゲシュペンスト・タイプSBの性能ならば中途半端な念動兵器などなくても問題はないだろう。
だがショウ個人としては何かしらの手札が欲しかったと思っていたのだ。
その一つが今の念動兵器であったのだが、どうやらお蔵入りとなりそうである。
「それよりそっちのヒュッケバインはどうなんだ?」
「ああ。こっちは問題ない。一つあるとすれば、結局グラビコン・システムの開発が間に合わなかった事か」
「いや、それこそ無茶だろ。ヴィルヘルム研究所でもまだ開発が終わってなかった代物をここで作るとか」
「……いや、僕も分かってはいるんだがな」
改造されたヒュッケバインEX、そしてグルンガスト改の初期構想では、開発中であったグラビコン・システムを搭載する予定だったのだが急な改造により未搭載なのである。
とは言え、元々出来てなかった物を急に作れと言われても無理だろう。
「構想通りグラビコン・システムが出来ていれば、重力の壁を盾のように使える。それがあれば僕のヒュッケバインはともかくロッティのグルンガストにはかなり役に立つ筈だったんだがな……」
その機動力を生かして戦うヒュッケバインと違い、その装甲の強固を生かして戦うグルンガストにバリア系統の装備がつけばかなり役に立つのは間違いない。
「……つまりロッティの為か」
「……待て、どうしてそうなる」
いかにも理解したと言わんばかりの様子を見せるショウに、思わずヴェルトが突っ込む。
「だってグルンガストに装備できれば役に立つって言ったじゃないか」
「だからどうしてそれがロッティの為だと……」
「ロッティが無事に帰ってこれる、だろう」
「……」
グルンガストは機敏な動きは出来ない為、どうしても被弾が多くなってしまう。
そしてその被弾が万が一コックピットに直撃しようものなら……。
それを防ぐには確かにグラビコン・システムはこれ以上にないぐらい役に立つだろう。
「ヴェルトも少しは素直になったらどうだ?」
「……考えておくさ」
・特訓
「はぁ、疲れた」
「お疲れ様」
ヤマトの食堂にて二人の人影があった。
一人はショウ。もう一人は珍しい事に勇者特急隊の一員である浜田満彦であった。
ショウはそんな満彦の前にドリンクを渡すと席につく。同じように持ってきたドリンクで喉を潤していく。
「すいません、ショウさん。色々と手伝ってもらって」
「気にするなよ。俺なんかでよければ幾らでも手伝うさ」
満彦の言葉にそう答える。
「それに俺も勇者特急隊の一員だしな」
そう答えると、今度は真面目な表情を作り問いかける。
「で、間に合いそうなのか?」
「システムやパーツはなんとか。後は僕……僕達次第でしょうか」
「この短期間でよく組み上げれたな。他にもやる事は一杯あっただろうに」
感心した表情を見せるショウ。
だが逆に満彦の表情は不満気、いや悔しそうな表情で一杯だ。
「でも肝心の僕の準備が出来ていないんです。他の人達やショウさん達にも手伝ってもらったのに……」
「仕方ないさ。簡単にやれる程、柔なもんじゃないしな」
満彦がやろうとしている事は生半可な事では達成できない事だ。
本人もかなり努力しているが、正直な話し時間が足りてない状態と言っていいだろう。
だからこそショウには一つ気になる事があった。
「……正直な話、俺よりも舞人本人に手伝ってもらった方がいいんじゃないか?」
勇者特急隊の事、更に満彦がやっている事を考えればショウよりも隊長である舞人の方がよっぽど適任である。
だからこそこの話しをこちらに持ってきた時、かなり驚いたものだ。
最初は何も考えずに頷いたが、冷静に考えれば舞人に話しを持っていかない事がおかしい。
「それは最初に考えたんだけど、舞人にこれ以上負担をかけたくなくって……」
「確かに最近の舞人は忙しいからな」
DG同盟は投降し、エグゼブ達は倒したがまだ何か思う所があるのか色々と動いているようだ。
それを見ていると手伝いを頼むのを躊躇ってしまうのは仕方ないかもしれない。舞人本人はきっと笑顔で手伝ってくれるだろうけど。
「ですから今は自分で頑張りたいんです」
「そういう事ならOKだ。俺も出来るだけ手伝うよ」
・呼び方
「ショウさん、一つお願いが」
「ど、どうしたナイン?」
自室にて、音楽を聴きながら本を読んでいたショウの元にナインが現れる。
並々ならぬ気迫の様子にたじろいでしまう。
「……」
「……」
しかし最初の気迫とは裏腹にナインの動き固まってしまう。
暫く待っていたが、何一つ動きを見せない様子に心配になって声をかけようとした時、ようやく再起動が終わったらしいナインが口を開きだす。
「お、お願いというのは……」
「というのは……?」
「に……」
「に?」
「義兄さん……と呼んでいいですか?」
「……え?」
ナインから出た単語に驚きを覚醒ないショウ。
まさかそんな呼び方をされるとは思ってもいなかったからだ。
「姉さんと恋人になったなら……こう呼ぶのが適切、かなと」
「あー……」
「本当はもっと早く聞きたかったんですけど……」
「そんな余裕なかったしな」
ショウが帰還し、チトセの奪還した後はイスカンダルに向けての準備で忙しかった。
加えて航海中も敵の襲撃を始め、そんな話しをする余裕は皆無だったからだ。
「今なら多少の余裕があるから今の内に……と思いまして」
「そっか……」
それを聞いてショウは目を閉じ、一息つくと頷く。
「ああ、ナインの好きに呼んでくれていいよ」
「……はい!」
そこから出た答えを聞くとナインの表情にも笑顔が浮かび上がる。
それを見ながらショウはほんのちょっと前の事を思い出す。
彼女がまだ体を手に入れたばかりの頃は、こんなに表情が変わるとは思わなかったからだ。
「それでは義兄さん、改めてよろしくお願いしますね」
「ああ、こちらこそ」
なお、後日様々な人にからかわれた事だけ記載しておく。
・二人
「んー……」
「チトセ、ちょっと……」
ヤマトにあるショウの自室にて、チトセはベッドの上でゴロゴロしていた。
イスカンダルから地球へと帰還中であるが、地球艦隊・天駆の総司令である沖田艦長より警戒を怠らないようにと命じられている為、中々休める時間は少ないのだ。
ショウは勿論、チトセも色々と手伝いなどを行っている為、こうして二人でのんびり出来る時間は少ないのであった。
「えー、いいじゃない。こうして二人でいられるのって少ない訳だし」
「まぁ、そうなんだけどなぁ」
だからこそこうした時間を楽しみたいと思うショウであったが、チトセとしてはゆっくり出来るだけで十分らしい。
ショウも諦めたらしく、チトセがゴロゴロしている横目に電子書籍に目を通し始める。
「そういえばショウ」
「んーどうした?」
暫く静かな時間が流れていたが、ふと思い出したかのようにチトセが声をかける。
「これが終わったら、ショウはどうするの?」
「……」
それを聞いたショウの動きが止まる。
何を、と聞き返すまでもない。
地球艦隊・天駆として地球を救った後の話をしているのだ、チトセは。
そしてその質問に即答できないショウであった。
「……何も考えてなかった」
「……そっか」
ショウは3つの世界、何処の住人でもないエトランゼだ。
今の今までは考える余裕はなかったが、元の世界の事も考えなければならない。
そうだ。帰るか、残るかだ。
「……」
書籍から目を離して、天井を見上げる。
そうだ、いつか訪れる日がもう近づいている。
だからこそ覚悟、そして選択しなければならない。
それ故に思うのだ。
選択肢は自分が思ってるよりも多いのだという事を。
「うん、俺は帰るよ」
「……っ!」
チトセの表情が歪む。
だが気にする事もなくショウは言葉を続ける。
「だけどここに戻ってくるよ」
「え……?」
「まずは家族にただいま、って言った後、今度はちゃんと行ってきますって伝えてくるよ。戻ってきたらそうだなぁ、舞人の所で本格的に就職するのもありかなぁ」
雇ってくれるかねぇ、とぼやきを聞きながら呆然とするチトセ。
「だから……一緒にいてくれよ」
「……もう!」
それなら最初からそう言いなさいよ。
悪い悪い。
じゃれ合う二人。
「……もう少しで地球だな」
「ええ」
そんな静かな時間も、もう少しで終わり。
ショウも、チトセも、地球艦隊・天駆の誰もが漠然と思っていた。
地球に戻った時、全てに決着がつくのだと。
お待たせしました(小声)
1年以上放置しておりましたが、なんとか更新です。
終わりまではしっかり考えており、後は執筆だけだったのですが中々時間を作れずこんなにも時間だけが流れておりました。
エタでしたが、それでも更新の続きを待っていてくれたり感想を書いてくれた方々には感謝を。感想返信は出来ておりませんが、大事に読ませて頂いております。
残り話数はプロット通りならば5話+外伝2話ぐらいだと思います。
まぁ、大体自分が作ると話が増えて思った話数で収まらない事ばかりですが。
次回もいつになるか分かりませんが、よろしくお願いします。