全ての戦いが終わった、と誰もが思った。
木星帝国残党、いやクラックス・ドゥガチ共に現れた大ガミラス帝国の一党は地球艦隊・天駆の前に力尽きた。
そしてボソンジャンプ、イスカンダルの時空制御技術を手に入れ、過去より召喚されたガーディム本隊。
3つの地球を自らの母星にしようとした彼等もまた力尽きた。
本当に?
「終わった……のか……?」
動きが止まったガーディム旗艦を前にしてショウが首を捻る。
これが最期の敵、というならばもっとこう切り札的な存在がいるものだとずっと思っていた。
自分が知っているスパロボゲームなら当然の事であったし。
しかしここが現実ならば案外こんなものなのかもしれない。
だがまだ敵司令であるアールフォルツ・ローム・ハルハラスの様子が分かっていない。
先程の攻撃で死亡したのか、また身動きがとれなくなったのか。もしくは脱出しようとしているのか。
『各機、警戒続行。ヤマトの保安部で敵旗艦を制圧する』
ヤマトからの通信が入ってくる。
それならば、と機体を動かそうとして。
「っ!?みんな避けろ!」
敵意、殺意、それを感じ取りショウは叫び声を上げていた。
察しのようメンバーは言われるまでもなく回避行動を取り、気が付かなかったメンバーもあわせて動いていく。
閃光。
全てを滅ぼさんとする光が容赦なく降り注ぐ。
地球艦隊・天駆にではなくガーディム旗艦、バースカルに。
「な、何……!?」
「何だよ今の攻撃は……?」
ショウの呟きに近くにいたシンの言葉が重なる。
不可解な攻撃であった。
確かに殺意や敵意はこちらに向けられていたのにも関わらず狙いはガーディムの旗艦であったのだから。
どういう事だと、各種センサーを起動して攻撃されたバースカル、そして攻撃ポイントを探り出す。
その数秒後、センサーにあるものが捉えられていた。
「人がいる……!?」
ボロボロに朽ちたバースカルの残骸の上に人影が存在する事に気づいたのだ。
その情報が共有され、地球艦隊・天駆の目がそちらに向く。
視線が一点に集中した事に気づいたのか、はたまた最初からそうするつもりだったのかは不明だが人影が動き出す。
『やぁやぁ、皆様お集まり頂き光栄の極み』
「……えっ?」
スピーカーから聞こえてきた声はショウにとって見知った声であった。
『ようこそ最後の戦いの舞台に。ああ、これがよく云うラスボスのステージというヤツさ』
「ラスボス?ステージ?あいつは……あの女は何を言っている?」
続けて聞こえてきた声にリディが苛立ちを含んだ声を上げる。
まるでゲームかショーのような声色、内容を聞けば苛立つのも無理はない。
『おっと、そうカッカしないでくれよリディ・マーセナス。これから全部説明してあげる所さ』
「こいつ……!」
まるで全て知っていると言わんばかりの声。
全員が警戒を強める中、ショウが困惑の声を出す。
「な、なんであんたここにいる……!?」
「ショウ?」
そんなショウに疑問を持つアンジュ。
困惑しているのはショウだけではないチトセもソウジも、ナインもまた困惑していたのだから。
「あ、なたは……?」
「おいおい嘘だろ」
「これは……」
「ちょ、ちょっとみんな?」
ロッティがどうしたのか声を出すが、もう一人その正体を知る者がいた。ヴェルトである。
「代表して僕が聞きましょう。なぜあなたがここにいるのか?ついでにどうして宇宙空間で生身の姿で平気なのか聞きたいですね」
一息に疑問を言葉にして出す。
だが本番はこれから。
ショウ、チトセ、ソウジ、ナインも知っている彼女の正体を口に出す必要があるのだから。
「……ニコラ・ヴィルヘルム研究所日本支部代表、アイナ・クルセイド教授」
擬音なんて聞こえない彼らにもはっきりと聞こえた。
ニヤリという音と共に彼女の口が月のように裂けたのだから。
「ニコラ・ヴィルヘルム研究所日本支部だと……!?」
沖田が驚愕の声を上げる。
日本支部と言えば、ヤマトが世話になっていた基地の横にあった所でもある。
そんな場所の代表がどうしてここに?
『ふむ。まだ時間もあるようだし順番に答えて行こうか』
(……時間?)
違和感を覚えつつも耳を傾けるショウ。
しかしその違和感について考える前にアイナの口から流れるように音を出して行く。
『まずはそうだな。何故ここにいるのか。簡単さ。私はこれでもガーディムのドクター、ああ所謂、開発主任を兼任していてね』
「なっ!?」
驚きの声を上げたのは誰だったか。
だがその内容はここにいる全員に驚愕させるには十分すぎる内容であった。
「馬鹿な!?」
「嘘だろ、おい!?」
そうだとするとガーディムの手は随分と前から地球に入り込んでいた事になる。
しかしそうだとすれば疑問が次々と沸いてくる。
「ならば何故、今頃になって正体を現した……?」
これである。
今ここで正体を明かした事も勿論だが、あまりにも行動がチグハグすぎる。
ショウが一度地球支部に戻った時が特にそうだ。あの時の行動は全てガーディムを倒す為である。
それに嬉々として力を貸したのだから尚更だ。
『なんとなく分かってるんじゃないかな。僕はガーディムを滅ぼしてほしかったんだよ』
「なっ!?」
まさかの発言に誰もが絶句する。
『正確に言えば盤面に存在する君達以外の駒を排除して欲しかった、かな』
「それはどういう……っ!?」
更なる疑問を抱いた瞬間、閃光が走った。
強烈なエネルギーの奔流がアイナ・クルセイドが立つ残骸をなぎ払ったのだ。
「よ、よくもやってくれたな裏切り者がぁ!」
「こいつは……!?」
白を基調とした女性に似たボディを持ち、背中に巨大な輪を背負った20メートルクラスの人型機動兵器だ。
見覚えはない。
しかし感じられるのはアイナ・クルセイドに対する怒りである。
「姉さん!間違いありません、アレはシステム・ネバンリンナです!」
「ガーディムの文明再建システム……!?」
ガーディム達が狙っていたシステム、それがまさか人型機動兵器となって目の前に現れるとは思ってもいなかった。
しかも憤怒と言わんばかりの怒り。
ビームでなぎ払ったにも関わらず攻撃を続けている。
「お前が……!お前が……!超文明ガーディムの再建を闇に閉ざした!」
『ああ、その通りだ。君が必死に集めていたガーディム人の情報は全て破壊したからね』
「っ!?」
「さっきのを避けていただと!?」
ビームになぎ払われていたと思ったのにも関わらず聞こえてくる声に驚愕する一同。
視線を動かせば別の残骸に腰掛けているアイナ・クルセイドの姿が見えた。
「システム・ネバンリンナ。君はよい道化であったよ」
「ああああっ!?」
ネバンリンナは巨大な剣を生成するを衝動のままになぎ払う。
その一撃は今度こそと思わせる一撃であったが。
「冗談……だろ……」
トビアが絶句する。
いや、ここにいる誰もが同じ事を思ったに違いない。
視界から入ってきたのは、ネバンリンナの巨大な剣を指一本で止めるアイナ・クルセイドの姿があったからだ。
『そぉら、返すよ』
「そ、そんなあああ!?」
次には剣を叩き折られた上、攻撃ユニットを蹴り返され吹き飛ばされてしまう。
「……ガンダムファイターだってこんな事、できやしないぞ」
ショウがポツリと呟く。
断言する。
アイナ・クルセイドは人間ではない。人間であったたまるか。
『さて、次の質問に答えようか。私の目的でも答えよう。実はある情報を集めていてね。その為、このガーディムに所属していたのさ』
「情報だと……」
『ああ。ここだとかなり良い情報が手に入って好都合だったよ』
一体何の情報を集めていたのか気になる所ではある。
だがそれ以上にどうしてこんなにもベラベラと喋るのか、そちらの方も気になってしまった。
話しても何も問題ない情報なのか。
それとも、喋る事で時間を稼いでるのか。
『ふふ、そうだね。僕は時間が稼ぎたかった』
「なっ!?」
『全ては最後の鍵を動かす為さ』
「鍵……?」
『そう、最後の扉を開く鍵さ』
それは何だ、と声を上げる前に光が走った。
ショウのゲシュペンストを飲み込む光が。
「な、何っ!?」
「ショウ!?」
チトセが声を上げる。
その光が最初に放たれた一撃だと思ったが故に。
しかしショウは無事であった。
「だ、大丈夫だけどゲシュペンストが……!」
光の檻に捕らわれたように動かなくなる機体に焦りの声を上げるショウ。
「今、助けるわ!」
チトセがショウのゲシュペンストを助けようとアームを伸ばす。
だがそれは光の檻に阻まれてしまい、届く様子はない。
それならば、と真・ゲッターやマイトガインが光の檻を殴りつけるがまるでビクともしない。
今まで倒してきた相手のどれよりも強固な壁である。
「くそっ!なんだこれは!」
『それを壊されると困るんだよ。最後の情報を吸い出している最中だからね』
「最後の……情報?」
ショウのゲシュペンストから一体何の情報を吸い出しているのか。
ゾル・オリハルコニウムやトロニウムエンジンの稼働情報?
T-LINKシステム?もしくはウラヌス・システム?
だが、そんな情報をこんな大層な代物で直接吸い出す必要性はない。
これ程の事を仕出かせる相手だ。侵入してこっそり手に入れるなんて簡単にできる筈。
そもそもゲシュペンスト・タイプSBの開発主任を担当していたのだ。その気になればヤマトに乗艦する事も不可能ではなかった筈である。
『いいや、その情報は別にいらない。欲しかったのは君の記録さ。ショウ』
「な……に?」
『その記録こそが最後の扉を開くのだから』
ショウの記録、記憶。
それが一体何の扉を開くと言うのだ。
だがそれに気づいたモノがいた。
ショウではない。沖田やブライト達ではない。アムロや甲児、竜馬達ですらない。
「ッッッ!!」
マジンガーZERO。
原初の魔神である。
「ZERO!?」
甲児が動かすよりも先にマジンガーZEROは己の意志で光の檻を破壊しようとする。
いや、その勢いはショウのゲシュペンストも巻き込んで破壊しようとしているかのようだ。
「甲児!?」
「ZEROの奴が勝手に……!」
『さすがマジンガーZERO。君ならば最初に気づくのも当然か』
「何……!ZEROはお前の企みに気づいたっていうのか……!」
アイナ・クルセイドの言葉に驚愕の表情を浮かべる。
大したヒントもない状況で誰も気づいていない企みに気づいたのだから当然である。
『そう。私の企みはかつてマジンガーZEROが体験したモノと酷使しているのだからね』
「なんだと!?」
(ZEROがかつて体験したもの……。俺の記憶……?)
ピースが揃っていく。
だがそれは希望の扉を開く為のものではない事だと理解していく為の階段のようでもあった。
『だがZERO。君の体験したモノは2016年初頭までの記録にすぎない。私が起こそうとしているのはそれよりも先の話さ』
(……2016年?)
違和感が増大した。
その年号は3つの世界のどれにも当てはまらない物である。
マジンガーZEROが元いた世界でも違う筈だ。
ならばそれはどこの年号なのか。
その答えにすぐそこにあった。
「まさか……お前の企みとは……!」
『ああ、ここまで情報を出せば君も気づくよね、ショウ』
どこの世界にも使われていない年号、マジンガーZERO、そしてショウの記憶。
ここまで揃えばショウでも、いやショウならば気づけてしまう。
『時に旋風寺舞人。ブラックノワールの言葉を覚えているかな』
「ブラックノーワルの……?」
ブラックノワール。
舞人の父が言っていた世界を狙う巨悪の正体。
次元を越えてやって来た三次元人を自称して、この世界をゲームとした存在。
だが真田やルリの言葉により、三次元人などと言った存在などではなくこの世界で開発された社会管理システムの成れの果てであった。
『もしも君達の推論こそが全て間違いであり、ブラックノワールの言葉が全て正しいとしたら?』
「馬鹿な!そんなモノは存在しない!」
真田が再び否定の声を上げる。
ブラックノワールは神ではない。三次元人などと云った存在ですらない。
だというのにアイナ・クルセイドは何を言おうとしているのか。
『ああ、別にブラックノワールは神だった。なんて言う気はないよ。アレも結局は配置された駒にすぎなかったんだからね』
「な……に……?」
『私が言いたいのは三次元人の事さ。アレを配置した存在がこの世界の【外】にいるのだとしたら?』
「なっ!?」
ブラックノワールの言葉、全てが正しいとは言っていない。
だが間違いでもないのだ。
それこそが……。
『この世界こそが【外】にいる存在の手によって作られた代物だとしたら?君達という存在も全て彼らの手によって配置された駒にすぎないとしたら?』
「……そんな事が」
「信じられるかよ!」
勝平の叫び声が響き渡る。
敵の言葉など簡単に信じられる筈もない。
いや、それ以上に否定したかった。
自分達が何者かの都合のいいように配置された駒である事を。
『証拠が欲しいかい?ならばすぐそこにあるよ』
「え……?」
アイナ・クルセイドの指し示す先には光の檻に捕らわれたままのゲシュペンストがあった。
いや、ゲシュペンストではない。その指先にはパイロットであるショウに向けられているのだから。
『ショウ・タカサカ。君ならばこの世界を示す言葉を知っているだろう。そう、世界を渡り歩く【彼】の言葉を借りるならば』
「……実験室のフラスコ、か」
今度こそ地球艦隊・天駆の中に動揺が広がる。
敵だけの言葉ならどうにでも否定できた。
だが仲間であるショウからアイナ・クルセイドを肯定するような言葉が出た事にショックが隠せないでいた。
「だけどそれならば……!」
『残念だけど時間だよ』
「くっ!」
何かを言おうとするショウ。
しかしその前に光の檻が再び大きく輝いていく。
檻を破壊しようとしていたマジンガーZEROとゲシュペンスト・タイプRVが弾き飛ばされる。
『全てはこの局面の為。そして君という存在をこの世界に定着させる為』
「くっ……!」
「ショウ!」
『そして、君の記録から扉を開く為』
段々と光が強くなっていく。
それが大きな塊となり、複数に分裂していく。
『そう、マジンガーZERO。君はかつて知っただろう。あの戦いの再現さ』
分裂した光が弾け飛ぶ。
その中から影が現れる。
それを見てショウはああ、と完全に理解した。
マジンガーZEROはかつてある戦いでその光景を見た。
可能性という名の光のロボット達を。
マジンガーZから始まり、世界を守る者、時に世界と戦う者、人を救う者。そんなロボット達を。
『だけど私が呼ぶのは真逆。兜甲児が示した光の軍団などではない』
これはその真逆。
世界を破壊し暗黒の時代へと導こうとするロボット。
主人公に対する悪役。
『全てを無に帰す闇の軍団。さぁ、世界の終わりを始めようか』
こう、書いてて突っ込み場所が多いな、と思いつつ最後まで行きたいと思います。