スパロボVで頑張る   作:白い人

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彼等の進む道

 如月千歳の表情は暗い。

 叢雲総司の表情も暗い。

 原因なんてとっくに知っている。

 彼等は既に疲れていたのだ。

 家族を殺され、仲間を殺された絶望的な世界に対して。

 今まではヤマトという希望に乗り、地球をどうにかしなければならないという気持ちのみで保っていた。

 だが、その糸が切れた。

 偶然、迷い込んだ平和な世界を見て、生活をしてしまった為だ。

 だからか。

 自分達を探してきたと言う高坂翔とヴァングレイを見ても、その心は深く沈んだままであった。

 総司は戦いを拒否した。

 千歳も同じ立場なら拒否しただろう。

 拒否してしまっただろう。

 そして拒否された時に見せた翔の表情を見て、更に二人の気持ちを沈めてしまっていた。

 分かっている。このままではいけない事を。

 だけど、だけどだ。

 どうしても戦う力が湧いてこないのだ。

 

「……」

 

 この世界にやってきてから世話になってる家の一室でぼおっと空を見上げる。

 天気の良い青空なのにも関わらず、二人の心はずっと黒く染まってしまっていた。

 そして……高坂翔がこの家を訪ねてきた。

 

「よく来たな」

「どうもこんにちは」

 

 数日ぶりぐらいかに見る翔を直視できないでいた。

 実はあの日、再会したあの日から一度も顔をあわせていないのだから。

 何を言われるのか怖かった。

 だから家主であるタツさんが去った後も、二人は顔をうつむいたままであった。

 

「ソウジさん、チトセ」

「……」

「……」

「俺はナデシコと一緒に行く事にします」

 

 その話は二人の耳にも入っていた。

 先日、表へと出てきた火星の後継者。そして日夜活動している複数のテロリスト達。

 それに対抗すべくナデシコBを中心にした部隊が結成される事。そして勇者特急隊がそれに協力する事。

 そして翔もまたそれに協力する事。

 

「なぁ……ショウ。お前が戦う必要があるのか……?」

 

 それは純粋な疑問であった。

 ここは自分達の世界ではない。

 だと言うのに命をかける必要があるのだろうかと。

 

「ヤマトが火星の後継者に捕まっている以上、どっちにしろ行く必要がありますよ」

「だけど……だけどヤマトを取り戻しても元の世界に戻れるか分からないわ……」

 

 翔の言葉を否定するように千歳がポツリと呟く。

 その通りだ。

 ヤマトを取り戻したとしても、元の世界に戻る事は難しいだろう。

 それならば……。

 

「ここで静かに暮らしたっていいじゃない……」

 

 疲れたんだ。

 あれだけ頑張っただから休んだっていいじゃないか。

 ここは自分達の世界じゃない。なら命を賭けるなんて……。

 

「ソウジさん、チトセ。俺はこの世界の人間じゃありません」

「……?ああ、そうだな」

「そしてあの世界の人間でもありません」

「……え?」

 

 翔はなんて事のない穏やかの表情で呟く。

 意味が……分からない。

 

「俺はあそこともこことも違う別世界からの転移者なんです」

「そ……んな……」

 

 それは、つまり……。

 

「お前は……ヤマトに乗る必要だってないじゃないか……!」

 

 ヤマトの旅は成功するかどうかも分からないものだ。

 自分の世界であろうと躊躇うものであるアレに別世界の住人である翔が命を賭けてまで参加する必要はない。

 そう思った総司と千歳の表情が驚愕に満ちる。

 しかし、それでも翔の表情は変わらず穏やかのものであった。

 

「ある人が言いました。感情のままに行動することは人間として正しい生き方、と」

「感情……」

「俺もそれを全て実践出来てる訳じゃないですけど、ヤマトに乗る時……いや、ゲシュペンストで出撃した時、俺は自分の感情に従って行動しただけです」

 

 そして今回もそうだ、と言う翔。

 そこに迷いはなく、後悔もない。

 

「だから今回もまた俺は俺の感情に従ってナデシコと一緒に行くつもりです」

「ショウ君……」

 

 軍人でない彼は強かった。

 少なくともここで、心を折りそうな自分達と違って。

 

「だから俺は二人に何も言いません」

「……」

「それじゃあ、お元気で」

 

 お土産という品を置いて、翔は去って行った。

 その後姿を見て、総司も千歳も無言のままであった。

 それはどうしていいか分からない迷子のようでもあった。

 

 

 

 どうしていいか分からず数日が経ったある日、再びヌーベルトキオシティにテロリストが複数現れていた。

 

「……数、多いな」

 

 遠目から見ても、その数は圧倒的だ。

 よくまぁ、これだけの数を集めたもんだと総司は呆れ返ってしまう。

 だが、それ以上に。

 

「どうして俺は逃げないのかね……」

 

 戦わない事を選んだのなら、逃げればいい。

 だと言うのに、こうして遠くの戦闘を見てしまっているのだから。

 

「ソウジさん……」

「チトセちゃんか、どうしたんだ?」

「逃げないんですか?」

「そりゃ、こっちのセリフだよ」

 

 千歳もどうやら同じらしい。

 どうしていいか分からず、こんな所にいる。

 そして視線の先では翔が、そして舞人達が戦っているのだろう。

 

「二人とも……」

「タツさん……」

「どうしてここに?」

 

 声をかけられて振り向くと、そこには自分達を助けてくれた人物がいた。

 どうして、ここにと声をかけると二人が心配だと答えてくれた。

 

「タツさん」

「なぁ、二人はどうしたいんだ?」

「えっ……?」

 

 そんな事を聞かれるとは思わなかった。

 どうしたいか、どうしたいか……。

 それは自分達が一番分からなかった。

 

「感情のままに行動することは人間として正しい、か。今のご時勢、しかもお前さん達の世界じゃそりゃあ難しいだろうな」

「なんだ、聞いてたんですかタツさん」

「すまんな。聞くつもりはなかったんだ」

 

 苦笑しながら答えた。

 勿論、二人は責めるつもりはない。あの家はそもそもこの人のものだし、信用できるという事も知っているからだ。

 

「あの子の事は知らんが、どんな状況になってもそれを貫こうとしている」

「……」

「お前さん達も彼みたいに素直になっていいんじゃないか?」

「素直に……?」

 

 彼の言葉にきょとんとなる千歳。

 素直になる。そんな考え思いもつかなかった。

 

「お前さん達の過去も知らん。だが若いんだ。時には素直になって、感情のままに行動してもいいんじゃないか」

「……」

「なぁ」

 

 タツの真剣な表情が総司と千歳をまっすぐ見つめる。

 

「二人は何がしたい?」

「俺は……」

「私は……」

 

 今までの旅を思い出す。

 ヤマトの事、チームを組んだ事、星の海で出会った事。復讐の道を辞めると決めた事。

 そして今も戦ってる翔と、正体に気づかない振りをしたあの少女の事。

 それを思いだし、心の奥底に封印しようとしていた思いを重ねて行く。

 そうだ、そうだった。

 復讐だけじゃない。

 地球の為、そして仲間の為に戦うのだと誓ったのだ。

 それは決して偽りのものではない。

 今もなお、心から望んでいる自分達の願いだ。

 ならば……それならば……。

 

「ありがとうタツさん」

「私達、行こうと思います」

「そうか。なら気をつけてな」

「はい!」

「今日まで……ありがとうございました!」

 

 それだけを言って飛び出す。

 まだ何をできるか分からない。

 だけど今は、翔に、あの少女に会いたかった。

 会って話がしたかった。

 そしてその願いを叶える為のものは既に用意されていた。

 舞人の執事である青木に連絡を取ると、工場に向かって欲しいとだけ伝えられた為、向かった二人が目にしたのは……。

 

「ゲシュペンスト……」

「ご丁寧に二機ともあるな」

 

 工場にて新品同様に修復されたゲシュペンスト・タイプSとタイプRであった。

 工場長によれば、ヴァングレイを持っていった翔が代わりに置いていったとか。

 もし、再び二人が立ち上がったら渡して欲しいという言葉と共に。

 

「修理は完璧だ。いつでも出せるよ」

「なら俺がタイプSを借りて行くか」

「ああ、叢雲君にはもう一つ伝言が」

「はい?」

 

 千歳がタイプRに乗り込んだのを見て、総司はタイプSに乗り込もうとすると工場長から再び声をかけられる。

 自分にだけまだ伝言があるらしい。

 

「返しに来てくれ、だそうだ」

「……了解です。その伝言、しっかり受け取りましたよ」

 

 そういう事ならば行かなければならない。

 シミュレーションで何度か乗った事があるが、やはりこれは自分の機体ではない。

 そう決意すると、まだテロリストと戦闘を繰り広げている戦場に向かって機体を発進させた。

 自分の感情を信じるままに。

 こうして再び、二人は戦場へと舞い戻った。

 

『ソウジさん……?』

「おう、待たせたな」

 

 ヴァングレイを囲んでいたテロリストの機体を蹴り飛ばし、ゲシュペンストを着陸させる。

 どうやら間に合ったようだ。

 

『随分な到着ですね』

「まぁな……。悪かったな、翔」

 

 頭を下げる。

 まずは謝りたかった。

 

「俺は一度逃げようとした。この平和な世界で戦いから逃げようとしたんだ」

『……』

「だけどな、やっぱり逃げたくなかった。失った仲間達のように、お前達を失いたくなかったんだ」

 

 総司には沢山の仲間がいた。

 でもみんな死んでしまった。

 残されたのは自分一人。

 ヤマトから離れようと思ったのは、再びこんな気持ちを味わいたくなかった為かもしれない。

 だけど。

 

「もう一度だけ立ち上がろうと思った。今度こそ失わないように……。だから……」

 

 だから……。

 

「そんな情けない俺を許してくれるか?」

『許しますよ、ソウジさん』

「ショウ……」

『だからまず降りてくれません?』

「……はい?」

 

 唐突に機体から降りろ宣言に呆気に取られる総司。

 真意を問う前に、翔の方が先にヴァングレイのコックピットから降りていた。

 それを見て、慌ててゲシュペンストから降りる総司。

 

「じゃっ、そういう事で」

「お、おいっ!?」

 

 軽く手を上げて、ヴァングレイからゲシュペンストに乗り換えようとする翔。

 慌てて止めようとするも、無視して乗り込んで行ってしまった。

 

「ゲシュペンストが俺の機体なんで。ヴァングレイはソウジさんに返します。ああ、ちゃんと謝っておいた方がいいですよ」

 

 それだけ言うと翔はゲシュペンストを発進させる。

 先に戦闘を開始していた千歳を援護しに行ったのだろう。

 

「あー……」

 

 謝った方がいい。

 その相手に察しがついた為、どうしたもんかと頭を抱えてしまう。

 だが何を考えようが、やるべき事は変わらない。

 ヴァングレイのコックピットに乗り込むと、そこは変わらない光景が目に写る。

 だが同時に総司を拒否しているようにも見えてしまった。

 

「……」

『……』

 

 そしてモニターに写る一人の少女。

 あの時、翔と再会するきっかけをくれた娘だ。

 そして、このヴァングレイのOSである。

 

「システム99……なんだよな」

『はい』

 

 気づいていた。

 だが気づかないフリをしていた。

 だって気づいたら、拒否できなくなってしまうから。

 

『……捨てられたのかと思いました』

「すまん」

 

 悲しい顔をされた。

 

『……貴方は私のマスターです』

「……すまん」

 

 悲しい顔をされた。

 

『私を……捨てないでください』

「ああ、もう勝手な真似はしない」

 

 そうだ。もうこんな顔をさせたくない。

 

『なら一つお願いが』

「おう」

『名前をください。貴方とチトセさんとショウさんと一緒に私の名前を考えてください』

 

 名前。

 それはとても大事なもの。

 

「ああ、ちゃんといい名前を考えてやるよ」

『なら行きましょう。戦いを終わらせないと名前が決まりません』

「ああ、そうだな」

 

 ヴァングレイは再び空へと飛翔した。

 二人の気持ちが一つになって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◎月$日

 ソウジさんとチトセが帰ってきた。

 二人と再び再会できて本当に嬉しい。

 システム99にもナインというちゃんと名前をつけれたし、これで心配事が一つなくなった。

 ソレスタルビーイングとも合流して、トビアやヴェルト、ロッティとも再会できた。

 こんなに嬉しい事はない。

 後はヤマトを奪還するだけだ。

 その為にもこれから頑張ろう。




おまけ

ゲーム的な話
12話クリア後、オリ主ソウジチトセが乗り換え可能になる。
乗り換え可能な機体はヴァングレイ及び、ゲシュペンスト2機及びヒュッケバインとグルンガストに搭乗可能。
ヴェルトとロッティもゲシュペンストへ乗り換え可能になる。ヴァングレイは不可。

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