イレギュラーは家族と共に 〜ハイスクールD×D'sバタフライエフェクト~ 作:シャルルヤ·ハプティズム
なんかミッドナイト・サンあと5話で終わる(131話のあとがき)とか言いながら終われなそう(空知感)。
クルルside
崩れていく。ガラガラと音を立てて、崩れていく。私の心が、ガラガラと音を立てて、崩れていく。
あの光景を、ただの幻術だと割り切れたらどんなに楽だったのか。割り切れなかった結果がこれなのだから考えても無駄な話だが、それでも、どこかで考えずにはいられない。
アジ・ダハーカが見せてきた幻術は、当の本人が可能性だと言った。辿ったかも、或いはこれから辿るかもしれない。そんな
怖い。あの人の笑顔を自分で踏み潰すと考えるなど。仮に、本当にああなるのだとしても、私は刃を向けるなんて絶対にしたくない。彼が、彼女が、彼らが、彼女達が、私の全てだから。こんなどうしようもないちんちくりんを受け入れてくれるあの人達が。
気付けば、あの世界は消えていて、私をアジ・ダハーカが見下ろしていた。
女には流石に無理だったか、とでも言いたそうな顔をしている。
クルル「はぁ、はぁ、」
動悸が早くなり、手足が震える。冷や汗が止まらない。視界はボヤけている。いつ気絶してもおかしくない。メンタルはこんなに肉体に影響を与えるものだったか。
アジ・ダハーカ「『鍵』とかいうのの持ち主だっつー話だったから、俺自身過度の期待をしていたみたいだな。単純なスペック的には俺以上なんだろうが、こうもメンタルが弱ぇんじゃ、話にならねぇ」
アジ・ダハーカが手刀にオーラを纏わせる。せめてもの手向けだ、俺の手で直接葬ってやるよ。まるでそう物語っているかに見える。
アジ・ダハーカが私の首を刎ねようとするが───その手刀を掴んで止める。力が出なくて腰が抜けそうになるのを、強引に立たせる。
クルル「······いい加減に、しろ」
アジ・ダハーカ「······ほぉ。ポッキリ逝って、もう戦えねぇのかと思ってたな」
あの光景は脳裏にこびり付いたまま離れてくれない。けど。
クルル「心が壊れても。お前に殺される理由にはならない······!!」
アジ・ダハーカ「───いいねぇ······!!」
今だけは。今だけは。恐怖を
どうすればこいつ
『クルル───愛してる』
······そうだ。心はズタボロで、壊れちゃったけど、まだ死んでない。
私の心は、まだ、生きている!!
クルル「私は、生きる。お前の生き血ぐらいいくらでも啜ってやる。お前なんかに、殺されるつもりはない!!」
クルルsideout
ギャスパーside
また夢を見た。何度も見た、夢を見たこと
『────初めましてギャスパー。私はヘル。主神オーディンより冥府の管理を命じられているわ』
その少女に、僕は魅せられた。
5年ほど前。当時10歳の僕は、無理言って、お父様の仕事に連れて行ってもらっていた。ヘルさんと会ったのはそんな時だった。
八幡『······仕事に連れて行って? お父さんの仕事にか? 急にどうした』
ギャスパー『ダメ、ですか?』
ただの好奇心。当時、不定期で長期間家を空けたりするお父様の仕事が気になっていた。長期間、と言っても子どもの感覚で、その頃にはもうサイラオーグさんがうちに預けられていたのもあって長くても一月ないくらいだったけど。
八幡『うーん······多分、ギャスパーには何にも面白くないぞ? お父さんも面白いからやってるわけじゃないし』
お父様は反対したけど、それっぽいこと言って甘えたらすぐに連れて行ってもらえることになった。当然条件付き。と言っても、言うこと聞いて大人しくしてるようにとかそんなレベルだ。
お母様はそんなお父様に呆れてたけど、たまたまその時うちに来ていた束さんに、どの口が言ってんのとか突っ込まれていたりする。
そして、早めの社会勉強と称して連れて行ってもらった先が、ヘルヘイムだった。
ヘルヘイム───死者の国と言われれば、三途の川渡った先にある地獄みたいなイメージが思い浮かぶが、実際はそんなことはない。
普通に死者の魂を裁き、鎮めるための場所だ。
······正直なこと言うと、なんもない。田舎にコンビニがないとかそういうレベルじゃなくて、本当になにもない。当時のヘルヘイムにあったのは、ヘルさんの住居であるエリュズニルの館、死者を鎮める儀式で使う祭壇と、館に隣接するその祭具を保管庫しかなかった。
死者に死後の安らぎを与えるのに、他所の喧騒は不要であったらしい。
ただ、ヘルさんもずっと死者が魂を鎮める儀式やら裁定やらを行っていたわけではない。色んな所から集めた書物を読み漁ったり、時たま主神の許可を得た神が顔を出したりしていたらしい。本人は、そんな神を見て物好きだと朗らかに笑っていた。
神話のイメージは、あくまでイメージだ。本人はラグナロクが起きても死者をロキ側の援軍に出したりする気もなかったとか。だいたいスノッリ・ストゥルルソンのせい。
ヘル『······ギャーちゃんは』
ギャスパー『?』
ヘル『どうして御父上のお仕事について行こうと思ったの? それが悪いわけではないけれども』
ギャスパー『うーん······好奇心かな? お父様は、あんまいい顔しなかったけど』
ヘル『······そう。偉いのね、ギャーは』
ギャスパー『そ、そうかな······』
ヘルヘイムがサングィネムとの窓口になっていたのは、そこに政治的な価値がなかったからだ。何か重要なものがあるわけではないし、北欧神話ではヘルさん以外に死者の蘇生は出来ない。だが、ヘルさんは狙われない。死者の蘇生はヘルさん一人では出来ない。主神の許可がなければその権能の解放が出来ないからだ。存外不便な話だ。
だから、『
侵入してきたのは4人。そいつらのリーダー格と思しき人物はお父様でも手こずり、その部下達はたった2人でロキと互角以上に戦えるほど。3人は倒したけど、残りの一人への対応が遅れたのがまずかった。
ヘル『ああぁぁぁぁおぉぎゃぃあぁぁぁあああ!!』
目を付けられていた。敵の狙いはヘルさんで、彼女は見たこともない術で操られ、2人から離れて、ヘルさんを探しに行った僕は操られたヘルさんの攻撃を受けた。その時はお兄様もいたけど、それでもヘルさんを助けることは出来なかった。
ヘルさん自身は戦う神ではない。幸か不幸か、僕もお兄様も死ななかった。だが────
ヘル『ギャーちゃん、あんまり自分を責めないで。悪いのは、思うがままに操られた私だから······泣かないで、ね? ヴァーリくんも、ありがとね。ヴァーリくんは今日初めて会ったのに······』
ギャスパー『ごめん、なさい······』
ヴァーリ『······すまない。貴女と弟だけでも、ここから逃せたら良かったんだが······』
彼女は、無機質に白い槍が自分を貫いているにもかかわらず微笑んで、僕の涙を拭った。
ヘル『······願わくば、2人の将来が希望で溢れていますように』
ギャスパー『ごめんなさい······!!』
泣いて、謝ることしか出来なかった。
この後、お父様とロキに回収されるまで、ずっとヘルさんの遺体を抱いて、泣き続けた。お兄様は、悔やみきれないままずっと俯いていた。
『────相変わらず、弱いな』
不意に、声が響く。聞き覚えのある声。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーとは別の意味で聞きたくない声。
ギャスパー「······何が言いたい。ロンゴミニアド」
真っ暗な闇、自分だけが切り離されたように佇むそこに、金髪で碧眼の女が現れる。
ギャスパー「槍如きが夢の中にまで干渉するな。お前に用はない」
人が一人でいたい時に限って、夢───というかそれに近い精神世界に引きずり込む
ロンゴミニアド『たかだか、女が一人死んだだけだろう? なぜそこまで思い詰める』
相変わらず、人の気持ちを汲もうともしない女だ。僕の記憶や感情を勝手に覗きまくるだけに、下手したらどこぞのゴミよりも質が悪い。
ギャスパー「それの何が悪い」
ロンゴミニアド『お前はいずれ神になる。神は余所者が一人死んだ程度では動じない。違うか?』
本当に破壊してやろうかこいつ。
ギャスパー「僕は神じゃない」
ロンゴミニアド『ではお前に宿りしバロールの神格はどうなる。誰かに押し付けるか?』
チッ······一々答えにくいことを突きたがる。
ギャスパー「誰がそんなことするか。それに、神格を得たぐらいで人が神になれるわけがない。
······お前を破壊しないのは、お前がヘルさんの神格の残滓を
ロンゴミニアド『フン······連れないな』
クソ女が口元を歪めると、サァッと塵のように消える。
そして、僕も引き上げられる感覚に身を委ねて、意識を一旦手放した。
ギャスパーsideout