終わり無き孤独な幻想   作:カモシカ

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第十話 そうして彼は、宴会に参加する。

 俺がロリコンの烙印を押された次の日、つまり宴会の当日である。これから異変解決記念兼比企谷八幡歓迎の宴会をするらしい。いやそれって騒ぎたいだけじゃないのん?何か知らない人が結構来るらしいし。普通そういうのって関係者だけじゃ……いやまあめんどくさいからこんなこと言ってるだけなんだけどね。

 

「おーい、八幡。そろそろ入っていーぞー」

 

 魔理沙がお呼びだ。そういうわけで俺は博霊神社の宴会室というおよそ神社には必要ない部屋に向かう。襖の前で立ち止まって深呼吸。すーはーすーはー空気がおいしい。いいや酒臭い。何でもう飲んでんだよ。お前らホントは異変とか歓迎とかどうでも良くてただ酒飲んで騒ぎたいだけだろ。

 

「…………」

 

 そんなことを考えながら最近ついてきた糞度胸を武器に、一人宴会室の襖を開き中に入る。自然、中に居る人たちの視線が集まり一瞬たじろぐ。だがその中に知った顔を幾つか見つけ、何とか正気を保つ。……糞度胸何処行った。

 

「ん、じゃあ自己紹介でもしときなさい」

 

 霊夢の一見素っ気ないともとれる指示に従い、その大半が知らない顔の皆さんに自己紹介をする。

 

「え、えーっと、ひ、比企谷八幡でひゅっ……です。よろしくお願いします」

 

 一回噛んだことで一周回って冷静になる何とも下らない俺の特技が炸裂する。しかし何故か会場の皆々様方は静まり、一様に呆けて俺を見つめる。やめろ、見るな!見るなぁぁぁ!!!

 視線の圧で居たたまれなくなった俺は、しかし動くことも出来ずその場に立ち尽くす。

 と、

 

「ぷっくっははははは!」

 

 魔理沙が大爆笑している。よし、後で絞める。

 

「でひゅ、でひゅって、く、ははははは」

 

 するとそれを皮切りに会場が大爆笑で包まれる。楽しそうで何よりです。

 俺があーもう何か帰ろっかなーただ笑われただけだし。酒なんて飲めないし。等と思っていると

 

「おにーさん!!」

「うおっと」

 

 俺がちょっぴり傷ついていると、昨日からやたら俺になついているフラン(フランって呼んでと上目遣いでお願いされた。断れる訳がない)が抱き付いてくる。

 おいおいここでそんなことしたらまたロリコン呼ばわりされるだろうが。

 

「あなたが八幡ね」

 

 しかしえへへーとはにかむフランを見てもうロリコンでも良いかなーなんて思い始めた頃、フランと同じように背中から翼を生やした女の子、というか幼女が現れる。……幼女率高いな幻想郷。

 

「どうも。比企谷八幡です」

 

 うん。今度は噛まずに言えた。そう言うと、その幼女は鷹揚に頷き

 

「ええ。フランから聞いているわ。私はレミリア・スカーレット。あなたが救ったフランの姉よ」

「ああ、あなたが。フランが仲直りできたとか言ってましたね。良かったです」

 

 どうやら血の繋がった家族はこの二人だけのようだし、いつまでも家族と仲違いしたままというのも悲しいだろう。ずっと離れていた二人の距離を埋めるのは簡単では無いだろうが、お互いが歩み寄ろうとすれば案外簡単なことなのかも知れない。そんな努力すらしなかった昔の俺は相当に愚かだったのかもしれない。今更どうにもならない事だが、これからはそんな事が起きない様に気をつけなければならないだろう。

 

「あなたがフランを狂気から救いだしてくれたようね。紅魔館の主として、そして何よりフランの姉として、感謝するわ。本当に、本当にありがとう」

「……頭を上げてください。俺が助けたいから助けただけですし」

「ふふっ、本当に優しいのね。フランに聞いた通りだわ」

「……んなことないっす」

「そう。ならそういうことにしておきましょう。ああ後その敬語止めてちょうだい。それに私のことはレミリアと呼びなさい」

 

 おうおうこいつもか。これはやっぱり幻想郷では名前呼びが普通ってことか。

 

「……分かったよ」

「ええ。それと……」

 

 そしてレミリアは俺の耳に顔を近づける。何だ何だと思って放れようとするも、肩をがっしりと掴まれて動けない。流石吸血鬼。

 

「……フランに変なことしたら、消すから」

「はっ、はいっ……!」

 

 やべーちびるかと思った。どんだけ妹のこと好きなんだよ。さてはこいつもシスコンか。だからと言って殺気を滲ませながら言うことは無いんじゃ……いや、小町が俺みたいな男になついたらその男をボコす自信がある。というか殺す。

 

「よろしい」

 

 それだけ言うとレミリアはフランを連れて咲夜さんたちのいるところに戻っていく。シスコン吸血鬼か……幻想郷、おっそろしいところに来ちまった……まあ俺も人にシスコンとか言ってられないが。というかまさかロリコン疑惑が伝わったんじゃ無かろうな。もし広まったら俺泣くぞ。

 

「お姉さま、お兄さんと何の話してたの?」

 

 レミリアが俺に言ったことは幸いにもフランには聞こえなかったらしく、フランがこてんと首を傾げながらレミリアに尋ねる。かわいい。

 

「ちょっと忠告をしただけよ」

「忠告?」

「いえ、なんでもないわ」

 

 そう、何でもない。俺はシスコンだがロリコンではないのでフランには手を出さない。シスコンとしてレミリアの気持ちは良く分かるし。だからそんな睨まないで下さい。

 

「おーいはちまーん!お前もー飲めー!」

「どわっ!?」

 

 俺が心の中でレミリアに共感していると、黄色いバナナ、もとい魔理沙が突進してくる。ちなみに泥酔している。

 

「うわっ!お前酒臭っ!何杯飲んでんだよ!」

「あー?知らーん!いーからー飲めー!」

「だあっ!やめろ!引っ付くな……!つーか俺酒飲めねぇっての!」

 

 そんな風に魔理沙と騒いでいると、突然霊夢に引っ張られる。

 

「ちょっと魔理沙!八幡は病み上がりなんだから酒は飲ませるなって言ったでしょ!」

「えー?そんな固いこと言うなよー」

「あーもうこれだから酔っぱらいは……」

 

 どうやら霊夢は苦労人らしい。まあそんな雰囲気は感じていたが。

 

「なんかすまんな……」

「いいのよ別に。宴会ってのは結構楽しいもんだしね」

「そうか」

 

 魔理沙に酒を渡すことで何とか襲撃をかわし、霊夢と共にしばしの静寂に浸る。

 

「ねぇ、八幡」

「ん?」

「あなたは、どうしてそんな簡単に人のために危険に身を晒せるの?それにフランは初対面だったでしょう。なのにそんなふうに自分から傷つきに行くなんてどうかしてるわ」

「けっ、辛辣なこって」

「いいから答えなさい」

 

 そう俺に尋ねる霊夢には有無を言わさぬ迫力があって、俺は誤魔化しなど効かないししてはならないことを覚る。

 

「……むかーしむかし、ある所に、不器用な男の子が居ました」

「…………」

「その男の子は、小さい頃から悪意を集めやすく、よくいじめられていました。ですがその男の子はなぜ虐められるのか分かりませんでした。何で俺はいじめられるんだろう。俺は何か悪いことをしたのかな。そんなことを考えながら生きていました」

「…………」

「その男の子が十二才ごろのことです。男の子は聞いてしまいました。その男の子の両親が、その男の子の事について悪口を言っていたところを。何と言っていたのかは良く分かりません。けれどまだまだ幼い男の子には、大きすぎる衝撃でした」

「…………」

「そうして心に傷を負ったまま四年が過ぎ、男の子は遂に救われました。男の子にとっての『本物』を、ようやく見つけたのです。捻くれていた男の子は、不器用ながらもそれを守ろうと頑張りました」

「…………」

「それこそ、自分を犠牲にしてでも守り通そうとしたのです。けれど結果的に、男の子はそれを裏切ってしまいました」

「…………」

「そうして逃げた先に、自分と似た女の子を見つけました。男の子は思いました。今度こそ自分が救うんだ、と。結果的に女の子は救われ、女の子の姉と一緒に笑うようになりました。男の子のことも慕ってくれます。男の子は救えたのです」

 

 そこで話を切る。どう考えても答えになっていないが、どうしてあんなことをしたのか俺自身にも分からない。

 

「……その男の子は、それからどうしたの?」

「……さあな」

「……そう」

 

 それきりお互いに口を開きはしない。けれどその沈黙が、どこか心地よかった。

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