終わり無き孤独な幻想   作:カモシカ

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閑話
第十一話 彼は、未だに決心が出来ない。


 僕は考えていた。どうやったら八幡を思い出させられるのだろう、と。

 あの日の金髪の女の人(?)から聞いた話によると、八幡は相当に追い込まれていたらしい。だったらせめて八幡と深く関わっていた人達の記憶は残しておいて欲しかった。

 

 あれから八幡が写っている写真を探してみたり、学校の友達にそれとなく八幡の話をしたりもしたがあの女の人が言っていたことは本当の事だった。八幡から送られてきたメールは全部文字化けしているし、日記に書いた八幡についての文も消えている。こんなにおかしな物が身の回りにあったなら気づきそうなものだけど……

 

 葉山くんたちも忘れている。材木座くんも川崎さんも平塚先生も忘れている。そして、小町ちゃんも奉仕部の二人も……

 自分が思い出させてあげられないことが悔しい。あの二人が忘れてしまっていたから、修学旅行で何があったのかは分からない。それを覚えているのは八幡だけだ。

 きっと八幡はまた誰かを助けようとしたのだろう。文化祭の時と同じように。それで自分を傷つけて解決──八幡が言うには解消だけど──をしてしまったんだろう。その結果が皆に忘れられる事だとしたら、あまりにも辛すぎる。必要なことだったのかもしれないが、これはいくらなんでも酷すぎる。あの女の人は八幡を助けてくれたのかもしれないけど、帰る場所を奪うっていうのはやってはいけないことだと思う。

 

 八幡に会えるまで、ぼくはぼくのやるべき事をやらなくちゃ。

 みんなに八幡の事を思い出させて、八幡の帰る場所を取り戻すんだ。それが、一度は裏切ってしまったぼくの義務。ただの自己満足かもしれない。女の人が言っていた通り、必要なことなのかもしれない。

 けど、静かに待っているだけじゃダメなんだ。自分から動かないと、今度こそ手遅れになりそうなんだ。もしそんなことになったら、ぼくは一生後悔する。そうしないためにも、八幡と会えるまでに必ず思い出させる。それが今の僕にできる、唯一で精一杯の償いだから。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「……よっこいせ……っと」

 

 時刻は午前六時。俺は結局宴会からさっさと抜け出し、酔っぱらいどもの襲撃をかわしながら家に帰りついた。そしてそのまま眠っていたのだが、朝起きたらすぐ八雲に宴会室に飛ばされた。そしてそこで目にしたのは散乱する酒瓶たち、元は焼き鳥かなんかに刺さっていたであろう竹串、大皿ほどもある酒を注ぐ器。片付けもしないで帰るとかやっぱ酔っぱらいって屑だわ。

 何て事を考えながら霊夢と一緒に片付けをする。八雲に問答無用で跳ばされた時点で何となく察したが俺の労働は決定らしい。強制労働いくない。

 

「……働きたくない……労働とか糞喰らえ……」

「……あんた」

 

 あまりにあんまりな独り言をこぼしていると、それを聞いた霊夢が突っ込んでくる。半眼でジト目をしているような気がするが、気にしたら負けだと思ってる。俺が悪いんじゃない社会が悪い。ついでに酔っぱらいと八雲が悪い。

 

「気が合うわね」

「は?」

「ほんと何で酔っぱらい達の代わりに掃除しなきゃなんないのよ……!」

「お、おう」

「今回は八幡を呼んでくれたから良いものの……!ていうか主役に片付けさせるとか何考えてんのよあいつら……!」

「お、おーい。帰ってこーい」

 

 静かに怒りながらも手を止めること無く器用に動かし続ける霊夢を見ていると、なぜかツンデ霊夢という単語が浮かび上がってきた。おー我ながら良いセンス。なんてことを考えていたらすごい形相で睨まれていたので自重する。命は大事。

 

「「はぁ……」」

 

 そんなやり取りをしながら黙々と片付けを続ける。マジで片付けがめんどい。つーか俺ほとんど飲み食いしてないんですけど。なのに片付けさせるとか八雲は一体どういう了見だ。これはマッカンを十年分ほど用意してもらわなければ割りに合わない。

 

「……ねぇ八幡」

「……何だ霊夢」

「つかれた」

「奇遇だな俺もつかれた」

「さぼっていいかな」

「お前の家だろ」

「「……はぁ」」

 

 そんなことを考えながら黙々と片付けを続ける。あーだるい。だるいだるい働きたくなーい!と俺が考えていると俺の中のデビル(笑)八幡が「じゃあ霊夢に全部押し付けて帰ろうぜ」なんて言い出し、それを聞いたエンジェル(爆)八幡が「お、いーなそれ。でも後でやり返されるんでねーの?」と返す。ダメだ、もう俺のエンジェル(死)八幡は堕ちている……

 ともあれほんとにめんどくさいので霊力でなんかできないかと力を込め、ミニ○ラえもんならぬミニ八幡的なものをイメージする。すると大分霊力を消費したが三体ほどミニ八幡を作ることができた。眼ぇ腐ってんな……

 

「ちょ、ちょっと八幡!あんたそれ一体何!?」

「何って……ミニ八幡?」

「あぁそう……ってそうじゃなくて!」

「あぁ?」

「あんたほんとに何者なのよ!?」

「どういうことだってばよ……」

 

 若干口調が崩壊しているが気にしない。そしてミニ八幡たちがぼーっと突っ立っているので取り敢えず片付けの指示を出す。しかしというかやはりというか小さくなっても俺は俺なので働くことを全力で拒否。その気持ちは俺も大いに理解できるのでそっかーじゃあ一緒にサボろっかーなどとぼっち同士で協定を結ぼうとしていると後ろから殺気を感じた。

 

「おい、働け」

「「「「ひゃ、ひゃい!」」」」

 

 そして貧弱なのも同じであった。

 

 約一メートルほどの身長のミニ八幡がのそのそてとてと片付けをする。その動きはそれなりに緩慢だが、俺がなんやかんやで集中させるとちゃんとやるらしいのでそれなりに効率は良い。あくまで小さいからそれなりに、だが。

 

 そして結局三時間ほどかけ、昨晩の宴会の片付けを終了する。霊夢がお礼にと俺とミニ八幡たちに縁側で緑茶と菓子を振る舞う。ミニ八幡たちは当然だと言わんばかりに無言でもっそもっそと茶菓子を食い始める。対して俺は一応お礼を言って緑茶を飲む。

 

「……うまい」

「当たり前でしょ。私がわざわざ淹れて上げたんだから」

「お礼じゃなかったんですかね」

「つかれた」

「ねむい」

「はたらきたくない」

 

 下三つはミニ八幡の言葉である。一応喋れるらしい。内容については俺だからとしか言いようがない。

 と、そんな風に静かにまったり過ごしていると、何やら上空から魔力が接近してくる。何かと思って空を見上げると、とんでもないスピードで白黒バナナが飛んできていた。スピード出しすぎ。

 

「おーーーい!れーいむー!」

「…………」

 

 魔理沙は速度を緩めること無く突っ込んでくるので霊夢が小さな光弾を魔理沙の箒目掛けて打つ。それは箒の先端に命中し、結果魔理沙は博霊神社後方の森に不時着した。すごい音がしていたが気にしない。魔理沙頑丈だし。

 

「……いっつー、なにすんだよ霊夢……」

 

 別に助けに行かなくてもいいかなーなんて考えながら煎餅をかじっていると、魔理沙が身体中に葉っぱと折れた木の棒をくっ付けながら出てくる。その姿を見てバナナの木を思い浮かべた俺は(センスが)悪くないと思う。

 

「あんたが速度考えないで突っ込んでくるからでしょ。あのまま激突して賽銭箱に被害が及んだらどうしてくれんのよ」

「別に参拝客なんてこないんだから良いだろ」

「来ないのかよ……」

 

 それは神社としてどうなのだろう。さっき光弾を撃ったのは賽銭箱を守るためなんですね……というか賽銭箱の前に俺の心配をして欲しかった。当たってたらたぶん死んでる。

 

「まぁ良いや、よっす霊夢!あと八幡!と……」

 

 魔理沙が俺と霊夢の間に座る三人のミニ八幡を見て固まる。そして俺と霊夢の顔を交互に何度も見比べ、

 

「えーっと、お、おめでとう?」

「おい待てどういう意味だこら」

「いやーだって二人のこど……」

「ハッ!」

 

 不穏なことを言い出した魔理沙の頭に、霊夢が手刀を叩き落とす。もちろん霊力で強化されている。

 

「いっっってー!!!」

 

 頭を押さえてごろごろ悶絶する魔理沙。それを霊夢は見てるこっちが凍りつきそうな形相で見下ろし、少しずつ霊力で圧力をかけている。ざまぁ魔理沙。自業自得だ。

 

 暫くあーとかうーとか唸っていたが何とか起き上がる。そして俺はこの三人のちっこいのは何なのかを魔理沙に説明をする。

 

「ほへー。まぁ二人の子供じゃないのはわかった」

「おう。そもそも俺とこいつがそういう関係になるわけねぇし、なったとしてもこんな短期間で三人もできるわけねぇだろ」

「次はこれじゃ済まないわよ」

「お、おう。すまんな霊夢」

 

 未だに眉をピクピクさせて怒っている霊夢に少しびびりながら、何故ここに来たのかを魔理沙に尋ねる。そういやこいつ二日酔いは大丈夫なのか?呂律が回らなくなる程飲んでたが。

 

「あーそうだそうだ。さっき外の人間を保護したんでな」

「あらそうなの。――紫、帰しちゃって良いわよね」

 

 霊夢がそう後ろに向かって言うと何もない空間が割け、目玉がうようよと蠢く”スキマ”が開く。そしてそこから出てきたのは、いわずもがな八雲である。

 

「……ええ。そうしてちょうだい」

「りょーかい。魔理沙、その人間は今どこに居るの?」

「あぁ、アリスを呼んで私の家で待機させてるぜ。妖怪に襲われてたからか、帰れると分かるまで安全なところに居たいんだと」

「そう。なら連れてきてもらえる」

「おう!ちょっと待ってろー」

 

 そう言って魔理沙は箒に跨がり、魔法の森に向かって飛んでいく。

 

「……外に帰るなんてことが出来るんだな」

「……帰りたいの?」

 

 何気なく呟いた言葉だったが、霊夢がそれを拾う。そして返された質問からは幾ばくかの不安が読み取れた。これは俺が帰ると寂しいとでもいうことだろうか。……いや、ただお手伝いが居なくなると困るというだけだろう。

 そう結論付け、次いで質問の答えを組み立てる。

 俺が戻ったところで居場所はあるのだろうか。まさか忘れられているなんてことは無いと良いが。

 そして俺は奉仕部の二人に、小町に謝りたいと思っている。だから必ず一度は戻らなければならない。

 だが、帰りたいかと言われればその答えは否、である。確かに救われはした。けれど俺が受けてきた理不尽というのは確実に存在する。確かに自殺しようとしたきっかけはあの二人に投げ掛けられた言葉だが、それがなくとも俺に対するいじめは段々とエスカレートしていっていたのだ。遅かれ早かれ俺は同じことをしようとしただろう。

 そんな中で俺は求めていたものを見つけられるのか。今回のことでさえ最早手遅れであるかもしれないのだ。というか今さらノコノコ出ていったところで許してもらえるとは思えないし、よしんば許してもらえても元通りとは行かないだろう。そしていつかは完全に瓦解し、今度こそ俺が耐えきれなくなる。そんなことさえ起こり得る。いや、むしろそうなる可能性の方が圧倒的に高いだろう。

 そんなところに帰って、俺は出来ることがあるのか。

 

「……いや、一度は戻らなきゃだが帰るつもりは無い、な」

「……そう」

 

 そして魔理沙が保護したという人間を連れてやってくる。思ったより長い間思考をしていたようだ。

 今度はさっきとは違いゆっくりとした速度で降りてくる。そして八雲はスキマを開き、霊夢の付き添いで外の世界へとその人間を帰す。幻想郷に迷い込んだのが俺の知り合いだとかそんな都合の良いことは起こらず、俺は未だに外に戻る決心が出来ずに居る。

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